伝承を纏い、
型を生きる。
文化身体論とは、能楽のように身体文化が伝承的保存されている伝統芸能、足半や一本歯下駄のように身体文化が機能的保存されている道具に着目し、これらに保存されている身体性との相互作用によって表象される身体を、新たな枠組みで構築していく理論体系である。
TRADITION
600年
PRESERVATION
2形態
CORE CONCEPT
間と型
MA AND KATA
OVERVIEW
身体文化論から
文化身体論へ
「型」が叡智の表現と伝達の方法であるとすれば、身体運動の個人差は素質ではなく、「型」によって証明できる。
元来、日本の文化にはさまざまな「型」があった。日本における古武道では、ほぼすべての流派に独自の型とその組み合わせである型体系が存在し、修行者は型を通じて稽古を重ねてきた。「型」は武道では決められた一連の動作から構成され、それぞれの武道の核心となる技・業を伝える教範であり、伝統的な芸能や医学にも見られる叡智の表現と伝達の方法である。
しかし、評論家であり伝統文化における技術の伝承研究家でもあった安田武が指摘したように、日本の日常に存在した「間」と「型」は薄れつつある。身体文化、身体技法への取り組みは、この「間」と「型」への取り組みとも言えよう。
「型」が叡智の表現と伝達の方法であるとすれば、身体運動におけるトレーニングで生じる個人差、固有性の差は、素質や才能と考えられてきたものとは別に、「型」によって証明できるのではないだろうか。
教育哲学者の生田久美子は、伝統芸能の学習者の動きの習得度合いにおいて、一見同じような動きにおいても「形」と「型」の違いがあることを論じている。さらに「型」には「間」が存在しているとも論じ、身体運動を解剖学的、生理学的な観点を超えて、心理学的、社会学的考察の必要性があることを指摘している。
PARADIGM SHIFT
KATA VS KATACHI
「形」と「型」の本質的差異
同じトレーニングの反復であっても、「形真似でしかない型なしのハビトスの傾向性」と「型と間のあるハビトスの傾向性」の違いが、大きな差を生んでいる。
形
外見上の模倣
EXTERNAL FORM
外見上の動きの模倣に留まる状態。動作の形式は再現できても、その動作に内在する意味や価値、「間」を捉えることができていない。
型
叡智の身体化
EMBODIED PATTERN
叡智を内包させながら規範を身体化したもの。「間」が存在し、予備動作を必要とせず、動作を同時に行い、身体は一体化されたつながりを持つ。
LIMITATION
身体文化論の限界
なぜ身体文化、身体技法は再現性あるものとして社会化されないのか。その構造的問題を明らかにする。
01
西洋化によるハビトゥス
WESTERNIZED HABITUS
昭和初期以降の社会的環境の中で長い時間をかけて日本人が習慣的に獲得してきた西洋化によるハビトゥスが、実践時に関わってくる。私達は正しい姿勢、正しい動きについての無意識的な判断を西洋的な正しさで行っている。
02
界(Champ)の不在
ABSENCE OF FIELD
身体文化を実践する上での界が不在なため、身体・動作に対しての価値判断は、無意識的に西洋的価値判断を上位として包摂され、身体化されてしまう。価値判断の形成を組み替えるための界が必要とされる。
03
ハビトゥスの再生産
REPRODUCTION OF HABITUS
界が不在である限りは、そのための構造も存在せず、実践の内容は次第に西洋化によるハビトゥスが再生産されていく。いくら身体技法を反復し習慣化しても、西洋化によるハビトゥスを超えることができない。
04
定着論的分析の限界
LIMITATIONS OF STATIC ANALYSIS
近代以前の日本人の姿勢や身体、道具との関連性がどれだけ明らかになろうとも、当時の分析に留まった定着論的理論では、生成が存在せず、再現性あるものにならなかった。
PRESERVATION
文化身体の二つの保存形態
西洋化によるハビトゥスの再生産に歯止めをかける、伝承と機能という二つのアプローチ。
PRESERVATION 01
伝承的保存
TRADITIONAL PRESERVATION
能楽は600年以上前の中世からの身体文化、身体技法を型によって脈々と受け継ぐ界である。能役者の身体は、何世代にも渡る能にまつわる身体の記憶を伝承し、構造化している。型に何百年も前から閉じ込められたものが舞台上で解凍され、観客に感動を与える。
PRESERVATION 02
機能的保存
FUNCTIONAL PRESERVATION
日本の伝統的な道具は「人間依存性」があり、使い手の身体性や動作に依存している。足半や一本歯下駄、尺八のような道具には、過去の身体文化、身体技法が機能的に保存されている。道具を使いこなすためには、その時代の身体文化を要する状況が生まれる。
TRADITIONAL BODY CULTURE
失われた身体文化
身体文化論で論じられてきた近代以前の日本人の姿勢・動作・道具との関連性。
POSTURE
姿勢と体つき
100年以上前の日本人の多くは、なで肩の猫背で「みぞおち」部分はへこみ、顎は少し上向きに突き出されていた。この姿勢により眼球を素早く動かすことができ、反射的に身体を動かしやすい状態となる。
FOOTWEAR
足半と下駄
足半は台部が足の長さの半分ぐらいの草履で、戦国武将の織田信長も好んだ。つま先にも踵にも充分に荷重をかけた足裏全体の動きを誘発する。下駄は地面を蹴らない歩行を可能にする。
MOVEMENT
なんば歩き
体幹をほとんどねじらず、着地した足が前に出るとき同じ側の肩・腕が同時に前に出る歩行法。予備動作がなく、全身を一つにつなげた動作である。
PERSPECTIVE
曖昧な身体観
「膝」と言えば太ももの前側全体を指し、「腰」と言えば股関節や骨盤、仙骨、丹田までをも含む。身体を細分化せず曖昧化することで身体全体を捉えていた。
PRACTICE METHOD
文化身体論の実践
ハビトゥスを変容させ、「間」と「型」を身体化するための三つの要素。
仮想的界
能楽のように身体文化が伝承的保存されている界を、価値判断を委ねる仮想的界として頭の中に置く
機能的保存道具
一本歯下駄や足半など、身体文化が機能的保存された道具を直接的な導き手として実践する
からだメタ認知
道具と身体との関係を「ことば」やオノマトペで紐付け、身体知を高める行為を積み重ねる
MA AND KATA
「間」と「型」の獲得
身体感覚の二重構造から、伝統的道具に内在する「間」に気づき、「無心」の領域である「型」への入り口を開く。
身体感覚には二重構造がある。「自分の身体のうちに起きている身体感覚」と「身体から先の道具で起きている身体感覚」が同時に存在する。心と身体は身体感覚として一体化した上で拡張し、身体の先にある道具を拠点としながら、さらに道具より先へと拡張していく。
この二重の身体感覚から、伝統的道具の中にある機能的保存されていた身体文化、身体技法に内在していた「間」の感覚に気づき、「間」を会得していく。この「間」への気づきが、「無心」の領域である「型」の入り口となる。
「型」とはただの再現、反復される形式ではなく、二重の身体感覚から自己と自己以外のものとの生成活動や動きを生み出すことができる状態をつくるものである。
「型」のある身体は、オノマトペやイメージ、比喩までも含んだ身体となることで、次の動き、どう動くべきかと頭や心で考える必要がなくなる。すなわち「無心」となり、環境に応対し、生成し続けられる状態が発生するのである。
DUAL STRUCTURE OF BODY SENSATION
APPLICATION
一本歯下駄GETTAと
文化身体論
機能的保存道具としてのGETTAが、日本の伝統的身体文化を身体化するための直接的な導き手となる。
一本歯下駄GETTAは、文化身体論における「機能的保存道具」として、日本の伝統的身体文化を身体化するための直接的な導き手となる。不安定な一本歯の上でバランスを取ることで、西洋化によるハビトゥスでは対応できない状況が生まれ、道具側からの働きかけによって身体文化が表象される。
道具を対等・敬意あるものとして道具側から働きかけ、オノマトペやイメージを用いる中で、道具と身体の接続の中に「身」を潜入させていく。その積み重ねの中で、ある瞬間にコツを掴んだような感覚、すなわち身体と心が一体となる身体感覚の二重構造が発生する。
FUNCTIONAL PRESERVATION TOOL
一本歯下駄 GETTA
文化身体論の実践を可能にする
機能的保存道具
“
通常は無意識に行なってしまっている効率のよくない動きを
いったん意識化し修正する。
そして、型を通して合理的な動きが習慣とされることによって、
その動きは意識的にしなくとも出るようになり、
無意識の領域に帰っていく。
CONCLUSION
文化身体論の意義
「形」から「型」へ。西洋化によるハビトゥスを超え、文化資本としての身体技法を獲得する。
文化身体論の実践とは、「間」と「型」を文化資本の到達点として獲得し、これを各々の界における闘争やゲームを有利に進めるものとして応用することができる。
例えば、文化身体論の実践者である陸上界に所属する陸上選手は、文化資本の到達点である「間」や「型」を陸上界の競技の中に持ち込むことが可能となる。多くの人々が西洋化によるハビトゥスを暗黙のうちに身体化したままであり、伝統的な身体文化、身体技法の文化資本を所有していない中、文化身体論の実践者は、文化身体によるハビトゥスと文化資本を所有する差異によって、界における位置関係をも変容させられる可能性を持つのである。
西洋化によるハビトゥスによって「形」へと向かう傾向性を持っていた実践が、自ら「型」をつくる行為の領域へと変容していく実践の中に、文化身体論は存在する。
REFERENCE
参考文献
本ページは宮崎要輔「文化身体論の構築に向けて一考察 – 伝承的身体の再現性に着目して」に基づいて作成されています。市川浩、生田久美子、齋藤孝、矢田部英正、ピエール・ブルデュー等の研究を参照しています。
START YOUR PRACTICE
文化身体論を、
実践する。
一本歯下駄GETTAで、日本の伝統的身体文化を身体化し、「間」と「型」を獲得する実践を始めましょう。西洋化によるハビトゥスを超え、文化資本としての身体技法を手に入れる。