矢田部英正とは|たたずまいの身体技法
体操競技と整体の経験から、日本人の立ち居振る舞い=たたずまいを身体文化として探究し、坐・歩・呼吸の作法を問い直す身体技法研究家。椅子作家でもある。足元から姿勢を組み直すその仕事は、GETTAの身体観と深く重なる。
人物と経歴
1967年生まれ。筑波大学大学院体育研究科修了。大学では体操競技を専門とし全日本選手権・インカレに出場、選手時代の姿勢訓練が高じて日本の修行・芸道の身体技法研究へ向かった。整体協会で研鑽の後に独立し、日本身体文化研究所を主宰。武蔵野美術大学・放送大学講師、椅子作家としても知られる。
たたずまいの美学──日常動作に宿る型
立つ・坐る・歩く
矢田部は、立ち居振る舞いという何気ない日常動作に、文化が育んだ精緻な身体技法が宿ることを示した。美しいたたずまいは、無駄なく重力と調和した身体の在り方である。
坐の文明
正座・あぐら・端座――日本の坐の文化は、独自の身体感覚と精神性を育んできた。矢田部は『坐の文明』で、坐ることの身体技法史を描いた。
椅子と日本人のからだ
椅子作家でもある矢田部は、『日本人の坐り方』などで、洋式の椅子座が日本人の身体に与えた影響を問うた。道具(椅子)が身体技法を規定するという視点は、モースの身体技法論を日本の生活へと具体化したものである。
主要著作ガイド
主著に『たたずまいの美学』『美しい日本の身体』『日本人の坐り方』『坐の文明』『からだのメソッド――立居振舞いの技術』『椅子と日本人のからだ』がある。いずれも日本の身体文化を主題とする。
誤解と正しい理解
誤解「たたずまいは生まれつきの美しさ」──正しくない。たたずまいは後天的に習得される身体技法であり、坐・歩・呼吸の作法を通じて誰もが組み直せる。だからこそ身体文化として伝承・更新できる。
GETTA思想体系との接続──足元から姿勢を組み直す
矢田部の「日常動作に宿る身体技法」は、GETTAの実践そのものである。椅子座と既製の靴で痩せた現代の身体技法を、足元から組み直す――一本歯下駄は、立つ・歩くという日常動作のたたずまいを更新する装置である。重力と調和し、無駄なく釣り合う身体は、矢田部が説く美しいたたずまいと、GETTAが目指す腱優位の身体が出会う地点である。
日本の身体技法の詳説
重心と垂直軸
美しいたたずまいは、重心が骨格に乗り、無駄な力みのない垂直の軸をもつ。
呼吸と姿勢
坐や立ちの作法は、深い呼吸と分かちがたく結びつく。
履物と歩き
草履・下駄といった履物は、足裏で地を捉える歩きを育ててきた。
道具がからだをつくる
椅子・机・畳――生活の道具系が、日本人の身体技法を形づくってきた。
近代化と喪失
洋式生活への移行は、坐の文化と日常の身体技法を痩せ細らせた。
たたずまいの射程と関連
健康と姿勢
重心の据わった姿勢は、無理のない身体の使い方と結びつく。
デザインと身体
椅子・家具のデザインは、身体技法を規定する道具系として捉えられる。
関連概念
本図鑑の 身体技法・ナンバ・型 とあわせて読みたい。
姿勢の文化史と日本のからだ
矢田部は、立つ・坐る・歩くといった基本動作の様式が、歴史と文化のなかで形づくられてきたことを丹念に描いた。畳に坐る生活が育てた重心の低い身体、草履や下駄が促した足裏で地を捉える歩き――日本のからだは、独自の道具系と環境のなかで培われてきた。
近代の洋式生活は、椅子座と革靴を標準とし、こうした身体技法を急速に痩せ細らせた。矢田部の仕事は、失われつつある身体の文化を記録し、その合理を現代に活かす道を探るものである。
椅子という思想──道具とからだ
椅子作家でもある矢田部にとって、椅子は単なる家具ではなく、身体技法を規定する思想の結晶である。どのような椅子に坐るかは、どのように身体を使うかを決める。彼は、日本人の身体に合った坐の在り方を、職人的な制作と理論的な探究の両面から追求している。
道具が身体をつくるというこの視座は、モースや川田順造の身体技法論を、現代の生活デザインへと具体化したものといえる。
日本のからだと姿勢の文化史
矢田部は、立つ・坐る・歩くという基本動作の様式が、歴史と文化のなかで形づくられてきたことを丹念に描いた。畳に坐る生活が育てた重心の低い身体、帯が支えた胴の安定、草履や下駄が促した足裏で地を捉える歩き――日本のからだは、独自の道具系と環境のなかで培われてきた身体技法の総体である。美しいたたずまいとは、重力と調和し、無駄な力みのない、釣り合った身体の在り方を指す。
近代の洋式生活は、椅子座と革靴を標準とし、こうした身体技法を急速に痩せ細らせた。重心は浮き、呼吸は浅くなり、足裏は地の感覚を失っていく。矢田部の仕事は、失われつつある身体の文化を記録し、その合理を現代に活かす道を探るものである。椅子作家としての制作も、日本人の身体に合った坐の在り方を追求する実践である。
道具が身体をつくるというこの視座は、モースや川田順造の身体技法論を、現代の生活デザインへと具体化したものといえる。どのような椅子に坐り、どのような履物で歩くかは、どのように身体を使うかを決める。たたずまいの美学は、日々の道具と動作のなかに、身体文化の再生の鍵があることを教えている。
一次文献・学術ソース
本ページの記述は以下の一次文献・権威データベースで裏取りしている。
- 矢田部英正『からだのメソッド――立居振舞いの技術』(筑摩書房)主著の出版社公式ページ。
- 矢田部英正『日本人の坐り方』(紀伊國屋書店)坐の身体技法を論じた著作の書誌。
- CiNii Research「矢田部英正 たたずまい」関連文献の学術DB。
- NDLサーチ「矢田部英正」国立国会図書館の書誌。
- CiNii Research「矢田部英正 坐」坐の文明に関する学術文献。
よくある質問
立つこと、坐ることに、文化が宿る。
何気ない立ち居振る舞いに、文化が育んだ精緻な身体技法が宿る。美しいたたずまいは、重力と調和した無駄のない身体だ。
椅子座と既製の靴で痩せた身体を、足元から組み直す。一本歯下駄は、たたずまいを更新する。