ティール組織図鑑|組織を生命へ ― フレデリック・ラルー×文化身体論【全42章・世界最大規模】

TEAL ORGANIZATION  /  FREDERIC LALOUX  ·  REINVENTING ORGANIZATIONS
組織は、機械ではない。一つの生命体である。

ティール組織図鑑
― 組織を、生命へ ―

上司も、階層も、詳細な予算もない。それでいて、従来型をはるかに上回る成果と、働く人の充実を両立する。フレデリック・ラルーが世界に見出したティール組織を、発達段階・三つのブレイクスルー・実例・系譜、そして文化身体論の交点まで掘り下げた、世界最大規模の知の地図。

42 SECTIONS  |  TEAL ORGANIZATION × 文化身体論  |  GETTA THEORY ARCHIVE
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KEY TAKEAWAYS / 要点

3分でわかるティール組織

この図鑑の全42章を貫く核心を、8つの要点に凝縮する。

ティール組織とは
フレデリック・ラルーが提唱した、組織の新しい発達段階。上司も階層も詳細な予算もなく、組織を機械でなく一つの生命体として捉え、自ら進化していく。従来型を上回る成果と、働く人の充実を両立する。
組織の発達段階(色)
人類の組織は意識の発達とともに進化してきた。力のRed(衝動型)、規則のAmber(順応型)、成果のOrange(達成型)、価値のGreen(多元型)、そして生命体のTeal(進化型)。後の段階は前を含んで超える。
三つのブレイクスルー
ティールを定義する三つの突破。自主経営(上司なしの自己組織化)、全体性(仮面を脱ぎ丸ごとの自分で働く)、存在目的(組織自身の進化の方向に耳を澄ます)。三つは分かちがたく支え合う。
自主経営と助言プロセス
上司や階層でなく、仲間との関係性で組織を動かす。鍵は助言プロセス――誰もがどんな決定も下せるが、影響を受ける人と専門家に助言を求めてから。中央の制御なしに全体が調和する。
全体性(Wholeness)
職業上の仮面を脱ぎ、感情も直感も弱さも含めた自分の全体を職場に持ち込む。恐れの組織を信頼の組織へ。仮面の維持に使われていたエネルギーが、創造性と生命力に変わる。
存在目的(Evolutionary Purpose)
組織を、経営者が目的を与える機械でなく、それ自身が進化の方向を持つ生命体と捉える。未来を予測・制御するのでなく、組織が何になろうとしているかを感知し応答する。戦略は創発する。
ブラインドスポットと系譜
ティールはケン・ウィルバーのインテグラル理論に根ざす。一方、創業者=ソースの役割という盲点があり、ソース原理がこれを埋める。学習する組織・U理論とも深く響き合う。
文化身体論からの読解
ティールは組織における脱近代(器を壊さず生命を取り戻す)。自主経営は中動態、全体性は身の回復、存在目的は組織の衝動を聴くこと、生命体は複数の身体のカオス共鳴。組織を機械から生命へ。
PARADIGM EVOLUTION / 発達段階

組織は、色を変えて
進化してきた。

人類の組織は、意識の発達とともに進化してきた。力のRedから、規則のAmber、成果のOrange、価値のGreen、そして生命体のTealへ。後の段階は、前の段階を否定するのではなく、含んで超える。下から上へ、進化の梯子を辿ってみよう。

TEAL進化型隠喩:生命体

自主経営・全体性・存在目的。中央の制御なしに自ら組織化し、自ら進化の方向を持つ、一つの生命体としての組織。

GREEN多元型隠喩:家族

価値観と文化。ピラミッドは残しつつ権限を委譲し、ステークホルダーと一人ひとりを大切にする。人間性の回復。

ORANGE達成型隠喩:機械

成果・競争・イノベーション。実力主義で近代文明を築く。だが人を部品として扱い、生命を数字に変換する。

AMBER順応型隠喩:軍隊・教会

厳格な階層と規則。権威は個人でなく役職に宿る。役割の固定により、個人を超えて組織が長期に存続する。

RED衝動型隠喩:狼の群れ

力による支配。恐怖で統率し、強い者が全てを握る。分業と指揮権を発明した、最も古い組織の形。

最下段の Red から、最上段の Teal へ。各段階は、より複雑な状況に対応する、より複雑な世界の捉え方だ。これは優劣ではなく、含んで超えるという発達の論理。Tealは、これまでの全段階を内包しつつ、組織を機械から生命へと甦らせる。
PROLOGUE / この図鑑について

なぜ、成功した組織ほど、
内側から生命を失うのか。

目標を立て、計画し、実行し、成果で評価する。この機械のような組織のあり方――ラルーの言うOrange(達成型)――は、人類に空前の繁栄をもたらした。だが今、その限界が、あらゆる場所で露わになっている。燃え尽き、意味の喪失、際限のない成長への強迫。成功の頂点で、組織はその内側から、生命を失っていく。

ベルギーの元マッキンゼー、フレデリック・ラルーは、この行き詰まりへの応答を、世界中の先進的な組織に探した。そして、まったく新しい原理で運営されながら卓越した成果をあげる組織――オランダの在宅ケア組織ビュートゾルフ、アメリカのモーニングスターなど――に、組織の次の発達段階を見出した。それが ティール組織だ。上司も、階層も、詳細な予算もない。組織を、制御すべき機械ではなく、一つの生命体として捉え直す。それを支えるのが、自主経営・全体性・存在目的という、三つのブレイクスルーだ。

本図鑑は、このティール組織を三つの層で掘り下げる。第一に、五つの発達段階(Red・Amber・Orange・Green・Teal)と、三つのブレイクスルー、そして実在の事例。第二に、インテグラル理論、成人発達理論、ソース原理、学習する組織、U理論、ホラクラシーまで、ティールの系譜と関連理論。そして第三に――ここが核心だが――宮崎要輔の文化身体論との接続。ティール組織とは、組織における 脱近代(器を壊さず生命を取り戻すこと)であり、自主経営は中動態、全体性は身の回復、存在目的は組織の衝動を聴くことだ。組織を身体の水準まで降ろしたとき、ティールは経営の流行語ではなく、組織を生命へと甦らせる深い実践になる。全42章、世界最大規模の知の地図。

READING GUIDE
第1部はティール組織の全体像、第2部は五つの発達段階、第3部は三つのブレイクスルーと実例、第4部は系譜と関連理論、第5部は文化身体論との接続(独自核心)、第6部は実装と批判、終章は統合。第5部に本図鑑の固有の貢献がある。
CONTENTS — 全42章の地図
第1部 ティール組織とは何か
  1. 01ティール組織とは何か
  2. 02フレデリック・ラルーと『ティール組織』
  3. 03組織の発達段階 ― 色で見る進化
  4. 04なぜ今、ティールなのか
  5. 05生命体としての組織
第2部 組織の発達段階
  1. 06Red(衝動型)― 力による支配
  2. 07Amber(順応型)― 規則と階層
  3. 08Orange(達成型)― 成果と競争
  4. 09Green(多元型)― 価値と文化
  5. 10Teal(進化型)― 生命体への飛躍
  6. 11段階は積み重なる ― 発達のロジック
第3部 三つのブレイクスルー
  1. 12三つのブレイクスルー ― ティールを定義するもの
  2. 13自主経営(Self-management)とは
  3. 14自主経営の仕組み ― 助言プロセス
  4. 15全体性(Wholeness)とは
  5. 16全体性の実践 ― 仮面を外す
  6. 17存在目的(Evolutionary Purpose)とは
  7. 18組織が「聴く」ということ
  8. 19三つのブレイクスルーの相互関係
  9. 20ティールの実例 ― ビュートゾルフ、モーニングスター
第4部 系譜と関連理論
  1. 21インテグラル理論 ― ケン・ウィルバー
  2. 22成人発達理論 ― キーガンとクック=グロイター
  3. 23ソース原理とティールのブラインドスポット
  4. 24学習する組織とティール
  5. 25U理論とティール ― 意識の変容
  6. 26ホラクラシー ― ティールの一実装
第5部 文化身体論との接続 ― 独自核心
  1. 27進化型組織と脱近代
  2. 28自主経営と中動態
  3. 29全体性と身 ― 仮面を外す身体
  4. 30存在目的と衝動 ― 組織が湧く
  5. 31生命体としての組織とカオス共鳴
  6. 32Orange段階と秀才の構造的欠陥
  7. 33ティールと転移する文化資本
  8. 34発達段階と大脳/小脳
  9. 35自己組織化と生命論
  10. 36ティールと天才七文
第6部 実装と批判
  1. 37ティール組織のつくり方
  2. 38ティールとGETTA ― 身体から始める組織変革
  3. 39ティール組織への批判 ― 理想論という指摘
  4. 40ブラインドスポット再訪 ― 創業者とソース
  5. 41測定と評価の問題
終章
  1. 42ティールという思想 ― 組織を生命へ
1
DEFINITION / 定義

ティール組織とは何か

ティール組織とは、指揮命令を手放し、一つの生命体のように自ら進化していく組織である。人類の組織モデルの、次の段階だ。

ティール組織(Teal Organization)とは、フレデリック・ラルーが『ティール組織(Reinventing Organizations)』で提唱した、組織の新しい発達段階である。上司も、階層も、詳細な予算も、業績目標も持たない。それでいて、従来型の組織をはるかに上回る成果と、働く人の充実を実現する。ティール組織は、機械ではなく、一つの生命体として組織を捉え直す。

ラルーは、人類の組織の歴史を、意識の発達段階に対応する色で描いた。力による支配のRed(衝動型)、規則と階層のAmber(順応型)、成果と競争のOrange(達成型)、価値と文化のGreen(多元型)。そして、その次に現れつつある段階が、Teal(進化型)だ。ティールは、これまでの段階を否定するのではなく、それらを含んで超える、組織の次の進化形である。

ティール組織とは、機械ではなく一つの生命体として組織を捉え直す、人類の組織の次の発達段階だ。

三つのブレイクスルー

ティール組織を、これまでの組織から分けるのは、三つの根本的な ブレイクスルー(突破)だ。第一に 自主経営(Self-management)――上司による指揮命令ではなく、仲間との関係性の中で組織を動かす。第二に 全体性(Wholeness)――職業上の仮面を脱ぎ、自分の全体を職場に持ち込む。第三に 存在目的(Evolutionary Purpose)――組織自身が持つ、進化していこうとする目的に耳を澄ます。

この三つは、単なる新しいマネジメント手法ではない。それは、組織を、制御すべき機械から、自ら生きる生命体へと捉え直す、世界観の転換だ。本図鑑は、このティール組織を、その理論的背景、五つの発達段階、三つのブレイクスルー、実在の事例、そして――ここが本図鑑の核心だが――宮崎要輔の文化身体論との接点まで、全42章にわたり掘り下げる。ティール組織を身体の水準まで降ろしたとき、それは経営の流行語ではなく、組織を生命へと甦らせる、深い実践になる。

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ORIGIN / 系譜

フレデリック・ラルーと『ティール組織』

一人の元コンサルタントが、世界中の先進的な組織を訪ね歩いた。そこで彼が見出したのは、組織の未来の姿だった。

フレデリック・ラルー(Frederic Laloux)は、ベルギー出身の元マッキンゼーのアソシエイト・パートナーだ。彼は、既存の組織のあり方に深い違和感を抱いていた。なぜ、これほど多くの人が、仕事に意味を見出せず、消耗しているのか。なぜ、組織はこれほど官僚的で、生気を失っているのか。この問いを胸に、ラルーは、まったく新しい原理で運営される組織を、世界中に探し歩いた。

その探究の成果が、2014年に出版された『Reinventing Organizations』(邦題『ティール組織』)だ。ラルーは、既存の常識を覆す原理で運営されながら、卓越した成果をあげている12の組織を、詳細に調査した。オランダの在宅ケア組織ビュートゾルフ、アメリカのトマト加工会社モーニングスター、フランスの自動車部品メーカーFAVI――業種も規模も国も異なるこれらの組織が、驚くほど共通した原理で動いていた。ラルーは、そこに、組織の次の発達段階=ティールを見出した。

ラルーは、既存の常識を覆す原理で卓越した成果をあげる組織を世界に探し、そこにティールを見出した。

記述であって、処方箋ではない

ラルーのアプローチで重要なのは、彼が「こうすべきだ」という 処方箋を提示したのではない、という点だ。彼は、すでに存在している先進的な組織を、注意深く 観察し、記述した。ティール組織は、机上で設計された理想論ではなく、現実に機能している組織から抽出された、生きたパターンなのだ。

この本は、静かに、しかし世界的な現象を引き起こした。硬直した官僚制に疲れ、より人間的で生命力に満ちた組織を求めていた無数の経営者、起業家、働く人々が、ラルーの描く組織像に、未来の可能性を見た。ティール組織は、単なる経営書を超えて、組織を捉え直す運動になった。ただし、ラルー自身が後に認めるように、この理論には見落としもあった――創業者やソースの役割という、重大なブラインドスポットだ(第23章、第40章)。本図鑑は、その光と影の両方を、誠実に描いていく。

書誌
Frederic Laloux『Reinventing Organizations』(2014)。邦訳『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018)。序文はケン・ウィルバー。
3
PARADIGMS / 発達段階

組織の発達段階 ― 色で見る進化

人類の組織は、意識の発達とともに進化してきた。その歴史は、五つの色で描くことができる。Red、Amber、Orange、Green、そしてTeal。

ラルーの理論の骨格は、組織を 発達段階として捉えることにある。人類の意識が段階的に発達してきたのと並行して、組織のあり方も進化してきた。ラルーは、ケン・ウィルバーのインテグラル理論やスパイラル・ダイナミクスの系譜を踏まえ、それぞれの段階を で表現した。色は、単なるラベルではない。それぞれが、世界の捉え方、権力の構造、組織の隠喩を、丸ごと表している。

段階隠喩特徴
衝動型Red狼の群れ力による支配。恐怖で統率。短期的・その場しのぎ。
順応型Amber軍隊・教会厳格な階層と規則。役割の固定。長期の安定と再現性。
達成型Orange機械目標・成果・競争。実力主義とイノベーション。近代企業。
多元型Green家族価値観と文化。権限委譲。ステークホルダー重視。
進化型Teal生命体自主経営・全体性・存在目的。自ら進化する有機体。

段階は、優劣ではなく複雑性

誤解を避けたい。発達段階は、人間の 優劣を示すものではない。後の段階が「偉い」わけではない。それぞれの段階は、より複雑な状況に対応する、より複雑な世界の捉え方だ。Red が必要な状況もあれば、Amber の安定が生きる場面もある。重要なのは、その組織が置かれた状況の複雑さに、組織の段階が対応しているかどうかだ。

そして、各段階は積み重なる(第11章)。より後の段階は、前の段階を 否定するのではなく、含んで超える。ティール組織も、Orange の効率性や Green の人間性を捨てるのではなく、それらを土台としつつ、その先へ進む。この「含んで超える」という発達のロジックは、ウィルバーのインテグラル理論から受け継がれた、ティール理論の核心的な骨格だ。次章から、なぜ今この Teal への飛躍が求められているのか、そして各段階が具体的にどのようなものかを、順に見ていく。

4
WHY NOW / なぜ今

なぜ今、ティールなのか

Orange(達成型)は、人類に空前の繁栄をもたらした。だが今、その限界が、あらゆる場所で露わになっている。だからこそ、Tealが求められる。

現代の主流は Orange(達成型)だ。目標を立て、計画し、実行し、成果で評価する。実力主義、イノベーション、効率。Orange は、人類に空前の物質的繁栄をもたらした。近代の企業、資本主義、科学技術――これらはすべて Orange の輝かしい成果だ。だが今、その Orange の 限界が、あらゆる場所で露わになっている。

Orange の組織を、ラルーは 機械の隠喩で捉える。機械は、外から設計され、制御され、最適化される。人は、その機械の部品(リソース)として扱われる。この機械のパラダイムが生む問題は深刻だ。際限のない成長への強迫、燃え尽き、意味の喪失、そして地球環境の破壊。数字が全てになり、生命が数字に変換される。Orange は、成功すればするほど、その内側にいる人間から、生命を奪っていく。

Orangeは空前の繁栄をもたらしたが、成功するほど、その内側の人間から生命を奪っていく。

なぜ、今なのか

なぜ、今、Teal が求められているのか。それは、私たちが直面する課題が、Orange の機械的なパラダイムでは、もはや解けなくなっているからだ。複雑で、予測不可能で、答えのない課題。環境危機、格差、分断、意味の喪失。これらは、より精密に制御し、より効率的に最適化するという Orange の発想では、むしろ悪化する。機械をもっと速く回しても、機械が生み出す問題は解けない。

ティール組織は、この行き詰まりへの応答だ。組織を、制御すべき機械としてではなく、自ら進化する生命体として捉え直す。予測と制御を手放し、組織自身が持つ進化の方向性に耳を澄ます。この転換は、単なる新しい経営手法ではなく、Orange という近代のパラダイムそのものを超えていく試みだ。本図鑑が後に論じるように、これは文化身体論が言う 脱近代――器(文明)を壊さずに、中身(生命)を取り戻すこと――と、深く重なっている。Teal が求められるのは、時代が、機械の限界に突き当たったからなのだ。

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LIVING SYSTEM / 生命体

生命体としての組織

ティールの核心にあるのは、一つの隠喩の転換だ。組織は、機械ではない。一つの生命体である。この転換が、すべてを変える。

ティール組織を理解する鍵は、たった一つの 隠喩の転換にある。Orange は、組織を 機械として捉える。設計図があり、部品があり、外から制御し、最適化する。だが Teal は、組織を 生命体として捉える。生命体は、外から設計されるのではなく、内から自ら組織化する。制御されるのではなく、自ら進化する。この隠喩の転換が、ティールのすべての実践の土台になっている。

生命体としての組織は、機械とは根本的に異なる原理で動く。機械には中央の制御装置が要るが、生命体は 自己組織化する。無数の細胞が、中央の指令なしに、全体として調和して働く。人体には「CEO細胞」はいない。それでも、驚くべき秩序が保たれている。ティール組織の 自主経営は、この生命体の自己組織化を、組織に適用したものだ。中央の指揮命令なしに、メンバーが自律的に、しかし全体として調和して動く。

組織は機械ではなく生命体である。この一つの隠喩の転換が、ティールのすべての実践を生む。

生命体は、目的を持つ

生命体としての組織のもう一つの含意は、組織が それ自身の目的を持つ、ということだ。機械には、外から与えられた目的しかない。だが生命体は、自ら生き、成長し、進化しようとする方向性を、内に持っている。ティールの 存在目的(Evolutionary Purpose)とは、組織を、経営者が目的を与える機械としてではなく、それ自身が進化の方向を持つ生命体として捉えることだ。メンバーの仕事は、目的を決めることではなく、組織がどこへ向かおうとしているかに 耳を澄ますことになる。

この「組織が自ら向かおうとする」という捉え方は、能動でも受動でもない。組織が、メンバーを通して、自ら方向を見出していく。本図鑑が後に詳しく論じるように、これは文化身体論の言う 中動態――するでも、されるでもなく、内側から立ち上がる態――そのものだ。生命体としての組織という隠喩は、単なる比喩ではない。それは、組織を、大脳的な制御の対象から、自ら生きる中動態の主体へと、捉え直す転換なのだ。この転換こそ、ティールという思想の、最も深い核心である。

MACHINE TO LIVING SYSTEM

組織は、機械ではない。
一つの生命体である。

Orangeは、組織を機械として捉える。設計し、制御し、最適化する。人を、部品として扱う。

Tealは、組織を生命体として捉える。外から制御されるのではなく、自ら組織化し、自ら進化する。この一つの隠喩の転換が、すべてを変える。

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RED / 衝動型

Red(衝動型)― 力による支配

最初の組織は、で結ばれていた。Red(衝動型)― 恐怖が人を従わせ、強い者が全てを握る。狼の群れのような組織。

組織の最も古い形が Red(衝動型)だ。約一万年前、人類が小さな部族を超えて、より大きな集団を組織し始めたときに現れた。Red の組織を束ねるのは、たった一つの力――恐怖だ。最も強い者がボスとなり、暴力と恐怖によって、集団を支配する。ラルーはこれを、狼の群れの隠喩で捉える。

Red の組織における画期的な発明は、分業指揮権だった。ボスが命じ、部下が従う。この単純な構造によって、Red の組織は、それ以前の集団より大きな力を発揮できた。今日でも、Red の組織は存在する。ストリートギャング、マフィア、一部の独裁的な組織。混沌とした環境、敵対的な状況では、Red の即断即決の力が生きる。

Redを束ねるのは、恐怖という一つの力。強い者が全てを握り、暴力で集団を支配する。狼の群れ。

Redの強さと限界

Red の強さは、その 即応性にある。ボスの一声で、組織はすぐに動く。混乱した環境で、素早く力を行使できる。危機的な状況、無秩序な環境では、この力が生存を可能にする。だが Red には、致命的な限界がある。それは、ボスの力に完全に依存していることだ。ボスが倒れれば、組織は崩壊する。恐怖でしか統率できないため、安定した長期の運営ができない。

Red の限界を超えるために、次の段階 Amber(順応型)が現れた。恐怖という不安定な力に代えて、役割規則という安定した構造を導入する。ボス個人の力ではなく、地位そのものに権威が宿るようになる。これによって、組織は、特定の個人を超えて存続できるようになった。発達段階は、こうして、前の段階の限界を克服しながら、より複雑な構造へと進化していく。文化身体論の視点では、Red は、鳩尾の衝動が剥き出しの力として現れた段階――まだ型(制度)を持たない、生の衝動の段階として捉えることもできる。

7
AMBER / 順応型

Amber(順応型)― 規則と階層

恐怖に代わって、規則と階層が組織を安定させた。Amber(順応型)― 役割が固定され、個人を超えて組織が存続する。軍隊と教会の秩序。

Amber(順応型)は、農業革命とともに、大規模な定住社会が生まれたときに現れた。Amber の組織を束ねるのは、恐怖ではなく、役割規則だ。誰が何をするかが、地位によって固定される。権威は、個人の力ではなく、役職に宿る。ラルーはこれを、軍隊教会の隠喩で捉える。カトリック教会、正規軍、官僚制――これらは Amber の組織の典型だ。

Amber の画期的な発明は、二つある。第一に 安定した組織構造――ピラミッド型の階層と、明確に定義された役割。第二に プロセスの再現性――同じことを、長期にわたって、繰り返し実行できる。Red が「今」しか見られなかったのに対し、Amber は、長期の計画と、世代を超えた継続を可能にした。数百年続く教会や、巨大な建造物を作る組織は、Amber の秩序なしにはありえなかった。

Amberの権威は、個人でなく役職に宿る。役割が固定され、組織は個人を超えて存続する。

Amberの安定と硬直

Amber の強さは、その 安定性にある。役割と規則が固定されているため、組織は予測可能で、再現可能だ。混乱の中でも、秩序を保てる。だが Amber の弱点は、その 硬直性だ。「これが正しいやり方だ」という一つの秩序に固執し、変化に対応できない。ルールが目的化し、なぜそのルールがあるのかを問えなくなる。世界は一つの正しい秩序でできている、という信念が、Amber を変化に対して脆くする。

Amber の硬直を超えるために、Orange(達成型)が現れた。「一つの正しいやり方」という固定観念を捨て、「もっと良いやり方があるかもしれない」という問いを解き放つ。ルールに従うことより、成果をあげることを重んじる。この転換が、イノベーションと成長の時代を開いた。ただし、Amber の秩序への欲求は、今も私たちの中に深く残っている。安定と所属を求める心は、Amber 的な意識の名残なのだ。次章では、現代の主流である Orange を詳しく見ていく。

8
ORANGE / 達成型

Orange(達成型)― 成果と競争

「もっと良いやり方があるはずだ」― この問いが、Orange(達成型)を生んだ。成果、競争、イノベーション。近代文明を築いた、機械のパラダイム。

Orange(達成型)は、科学革命と啓蒙主義とともに花開き、今日の世界の主流となった段階だ。Orange を突き動かすのは、たった一つの問い――「もっと良いやり方があるはずだ」。Amber が「一つの正しいやり方」に固執したのに対し、Orange は、あらゆるものを、より効率的に、より効果的に改善しようとする。目標、成果、競争、イノベーション。近代の企業、資本主義、科学技術は、すべて Orange の産物だ。

ラルーは、Orange の組織を 機械の隠喩で捉える。組織は、目標を達成するために設計され、制御され、最適化される精密な機械だ。Orange の画期的な発明は三つある。第一に イノベーション――たえず新しいものを生み出す。第二に 説明責任(アカウンタビリティ)――目標と成果で管理する。第三に 実力主義(メリトクラシー)――生まれや地位ではなく、能力と成果で人を評価する。これらが、空前の物質的繁栄を生んだ。

Orangeを突き動かすのは「もっと良いやり方があるはずだ」。機械のように、全てを最適化しようとする。

Orangeの光と、その影

Orange の光は、まぶしい。実力さえあれば、誰でも上を目指せる。イノベーションが、生活を豊かにする。目標管理が、大規模な協働を可能にする。私たちが享受する物質的な豊かさの、ほとんどは Orange の贈り物だ。だが、その影も深い。組織を機械として捉える Orange は、人を機械の部品として扱う。「人的資源(ヒューマン・リソース)」という言葉が、それを象徴する。

Orange の影は、際限のない成長への強迫、燃え尽き、意味の空洞化、そして地球環境の破壊として現れる。すべてが数字に変換され、数字が全てを支配する。成功の頂点で、多くの人が「これは本当に自分の求めていたものなのか」という空虚に襲われる。本図鑑が後に論じるように、Orange は、文化身体論が言う 近代そのものだ――大脳が世界を支配し、生命を数字に変換し、鳩尾の衝動を沈黙させる段階。そして、この Orange の限界への応答として現れたのが、次の段階 Green であり、その先の Teal なのだ。

9
GREEN / 多元型

Green(多元型)― 価値と文化

成果だけでは、人は満たされない。Green(多元型)は、価値観と人間性を組織の中心に据えた。家族のように、一人ひとりを大切にする組織。

Green(多元型)は、Orange の成功が生んだ空虚さと、その非人間性への反発から現れた。Green を突き動かすのは、関係性価値観への希求だ。成果や競争より、人と人とのつながり、共有された価値観、一人ひとりの尊重を重んじる。ラルーは、Green の組織を 家族の隠喩で捉える。組織は、目標を達成する機械ではなく、価値観を共有し、互いを大切にする、一つの家族だ。

Green の画期的な発明は三つある。第一に 権限委譲(エンパワーメント)――ピラミッド構造は残しつつ、決定権をできるだけ現場に委ねる。第二に 価値観を軸にした文化――数字ではなく、共有された価値観が、組織を導く。第三に ステークホルダーの視点――株主だけでなく、従業員、顧客、地域、環境、すべての関係者の利益を考える。多くの先進的な企業――サウスウエスト航空、ベン&ジェリーズなど――が、Green の実践で知られる。

Greenは、成果より関係性と価値観を重んじる。組織を、互いを大切にする一つの家族として捉える。

Greenの温かさと、その葛藤

Green の温かさは、多くの人を惹きつける。数字ではなく人が大切にされ、多様な声が尊重される。だが Green には、固有の 葛藤がある。すべての声を平等に扱おうとするあまり、決定が遅くなり、時に立ち行かなくなる。合意形成に時間がかかりすぎる。また、ピラミッド構造は残したまま権限委譲をしようとするため、「フラットであるべきだ」という理想と、実際には残る階層との間で、矛盾が生じる。

Green は、Orange の非人間性を癒そうとするが、Orange のピラミッド構造そのものは手放さない。ここに Green の限界がある。そして、この限界を超えて、構造そのものを組み替えるのが、次の段階 Tealだ。Teal は、Green の人間性への希求を受け継ぎながら、ピラミッド構造そのものを手放し、真の自主経営へと進む。Green が「ピラミッドの中で人を大切にする」なら、Teal は「ピラミッドそのものを、生命体の自己組織化へと組み替える」。次章では、いよいよ Teal そのものを見ていく。

10
TEAL / 進化型

Teal(進化型)― 生命体への飛躍

そして、Teal(進化型)が現れる。ピラミッドを手放し、組織が一つの生命体として、自ら進化しはじめる。組織の、次の段階。

Teal(進化型)は、これまでのすべての段階を含んで超える、組織の次の発達段階だ。Teal を特徴づけるのは、根本的な世界観の転換――組織を、制御すべき機械(Orange)でも、人を大切にするピラミッド(Green)でもなく、一つの生命体として捉えることだ。生命体は、外から制御されるのではなく、自ら組織化し、自ら進化する。Teal 組織は、この生命の原理を、組織に体現する。

Teal への飛躍を可能にするのは、意識の深い変容だ。ラルーによれば、Teal 段階の人は、自我(エゴ)との関係が変わる。恐れに駆られて、自我を守り、コントロールしようとするのをやめる。人生を、コントロールすべき対象としてではなく、展開していく旅として信頼するようになる。この内面の変容――コントロールを手放し、生命の展開を信頼すること――が、Teal 組織の三つのブレイクスルーを可能にする。

Tealは、組織を一つの生命体として捉える。コントロールを手放し、生命の展開を信頼する。

三つのブレイクスルーの予告

Teal 組織を、それ以前の組織から分けるのは、三つのブレイクスルーだ。自主経営――上司や階層なしに、仲間との関係性で組織を動かす。全体性――職業上の仮面を脱ぎ、自分の全体を職場に持ち込む。存在目的――組織自身が持つ進化の方向に耳を澄ます。この三つは、第3部で詳しく掘り下げる。

ここで強調したいのは、Teal が、これまでの段階を 否定しないことだ。Teal は、Red の力強さ、Amber の安定、Orange の効率とイノベーション、Green の人間性――これらすべてを含みつつ、その先へ進む。Teal 組織も、必要なときには明確な決断をし(Red)、一定の構造を持ち(Amber)、成果を出し(Orange)、人を大切にする(Green)。ただ、それらを、ピラミッド型の指揮命令ではなく、生命体の自己組織化として実現する。Teal とは、これまでの人類の組織の知恵を、生命の原理のもとに統合し直す、次の段階なのだ。次章では、この発達段階の論理そのものを、より深く見ていく。

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DEVELOPMENT / 発達の論理

段階は積み重なる ― 発達のロジック

発達段階は、梯子を上るように、前を捨てて進むのではない。前の段階を含んで超える。この「発達のロジック」が、ティール理論の骨格だ。

発達段階を理解する上で、最も重要な原理が 「含んで超える(transcend and include)」だ。より後の段階は、前の段階を否定して置き換えるのではない。前の段階を 含みながら、その上により複雑な能力を加える。ちょうど、原子が分子を、分子が細胞を、細胞が生命体を含んで超えるように。Teal は、Red・Amber・Orange・Green を捨てるのではなく、それらすべてを内包しつつ、その先へ進む。

この原理は、ケン・ウィルバーの インテグラル理論から受け継がれたものだ(第21章)。各段階は、より広い視野、より深い複雑性、より大きな包容力を持つ。だが、後の段階が「善」で前が「悪」なのではない。それぞれの段階は、それに適した状況で、真価を発揮する。緊急時には Red の即断が、大規模な協働には Amber の構造が、イノベーションには Orange の推進力が、コミュニティには Green の包容力が、それぞれ生きる。

後の段階は、前を否定するのではなく、含んで超える。Tealは、これまでの全段階を内包している。

組織は、重心を持つ

現実の組織は、単一の段階だけでできているわけではない。組織は、複数の段階の要素を併せ持ちながら、全体としての 重心を持つ。ある組織は Orange に重心があり、別の組織は Green に重心がある。そして、組織の重心は、その組織を率いるリーダーの意識段階を、超えることは難しい。Teal 組織を築くには、そのソースやリーダー自身が、Teal 段階の意識に達している必要がある。組織は、リーダーの意識という天井を、超えられないのだ。

この洞察は、ティール組織の実践において、決定的に重要だ。「ティールの仕組みを導入すれば、組織がティールになる」わけではない。仕組みは、意識の器にすぎない。リーダーやソースの意識が Orange のままで、ティールの仕組みだけを導入すれば、組織は混乱する。ティールへの移行は、まず、リーダー自身の意識の変容から始まる。本図鑑が後に論じるように、この「意識の変容」を、頭の理解ではなく身体の水準で起こすことに、文化身体論と一本歯下駄GETTAの独自の貢献がある(第38章)。次章からは、いよいよ Teal を定義する三つのブレイクスルーを、一つずつ深く掘り下げていく。

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THREE BREAKTHROUGHS / 三つの突破

三つのブレイクスルー ― ティールを定義するもの

ティール組織を、これまでの組織から分けるのは、三つのブレイクスルーだ。自主経営、全体性、存在目的。この三つが、生命体としての組織を可能にする。

ティール組織を定義するのは、三つの根本的な ブレイクスルーだ。ラルーが世界中の先進的な組織を調査して見出した、共通の三つの突破口。自主経営(Self-management)全体性(Wholeness)存在目的(Evolutionary Purpose)。この三つが揃うことで、組織は、ピラミッド型の機械から、自己組織化する生命体へと変わる。

BREAKTHROUGH 1
自主経営
上司や階層による指揮命令ではなく、仲間との関係性の中で、組織を動かす。中央の制御なしに、全体が調和する自己組織化。
BREAKTHROUGH 2
全体性
職業上の仮面を脱ぎ、感情も直感も弱さも含めた、自分の全体を職場に持ち込む。人が、丸ごとの人間として働ける場。
BREAKTHROUGH 3
存在目的
組織を、経営者が目的を与える機械ではなく、それ自身が進化の方向を持つ生命体と捉える。組織が向かう先に、耳を澄ます。

三つは、一つの生命の三つの側面

この三つのブレイクスルーは、バラバラの手法ではない。それらは、組織を生命体として捉えるという、一つの世界観の、三つの側面だ。生命体は、中央の制御なしに自己組織化する(自主経営)。生命体は、部分ではなく全体として生きる(全体性)。生命体は、自ら進化の方向を持つ(存在目的)。三つは、互いに支え合い、一つが欠ければ他も成り立たない。

たとえば、自主経営は、全体性なしには機能しない。仮面をかぶったまま、恐れを抱えた人々に、自律的な判断を委ねても、うまくいかない。全体性があって、人が安心して自分を出せるからこそ、自主経営が生きる。そして、存在目的があって、組織が向かう先が共有されているからこそ、自主経営する人々が、バラバラにならずに、一つの方向へ協働できる。三つのブレイクスルーは、生命体としての組織を支える、三本の柱なのだ。次章から、この三つを、一つずつ深く掘り下げていく。

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SELF-MANAGEMENT / 自主経営

自主経営(Self-management)とは

第一のブレイクスルー、自主経営。上司はいない。階層もない。それでも、いや、だからこそ、組織は生き生きと機能する。

ティールの第一のブレイクスルーが 自主経営(Self-management)だ。上司による指揮命令ではなく、仲間との関係性の中で、組織を運営する。マネジャーはいない。組織図もない。昇進もない。指示を待つのではなく、一人ひとりが、必要な判断を自ら下し、行動する。これは、無秩序や放任ではない。中央の指令なしに、全体として調和する、自己組織化だ。

自主経営は、私たちの常識を根底から覆す。「上司がいなければ、組織は混乱する」「誰かが統制しなければ、人は怠ける」――これらは、Orange の機械的な組織観の前提だ。だが、ティール組織の実例は、この前提が誤りであることを示す。適切な仕組みさえあれば、人は、指示されなくても、自律的に、しかも高いレベルで協働できる。人体の細胞が、中央の指令なしに調和して働くように。

自主経営とは、無秩序ではない。中央の指令なしに、全体として調和する、生命体の自己組織化だ。

権力の再定義

自主経営の核心は、権力の再定義にある。従来の組織では、権力は希少な資源だ。上の者が持ち、下の者は持たない。ピラミッドの頂点に、権力が集中する。だが自主経営では、権力は希少ではない。誰もが、必要な権力を持つ。誰もが、あらゆる決定を下すことができる(ただし、助言プロセスという条件のもとで――第14章)。権力を奪い合うのではなく、誰もが十分に力を持つ。これが、自主経営を可能にする、根本的な発想の転換だ。

この権力の分散は、単なる権限委譲(Green)とは違う。Green は、ピラミッドを残したまま、上から下へ権限を「委ねる」。だが自主経営は、ピラミッドそのものを解体する。権力は、上から委譲されるのではなく、最初から 全員に分散している。本図鑑が後に論じるように、この中央の制御なき自己組織化は、文化身体論の視点では、大脳による中央集権的な制御から、小脳的な分散的協調への移行として捉えられる(第34章)。優れたアスリートの身体が、大脳の逐一の指令なしに、全体として調和して動くように、自主経営の組織は、中央の指令なしに、生命体として調和して動くのだ。

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ADVICE PROCESS / 助言プロセス

自主経営の仕組み ― 助言プロセス

上司がいないのに、なぜ組織は暴走しないのか。その鍵が、助言プロセスだ。誰もが決められる。ただし、聴いてからだ。

自主経営で最もよくある疑問が、「上司がいないなら、どうやって意思決定するのか」だ。その答えの中核が、助言プロセス(Advice Process)だ。原則はシンプルだ。誰もが、どんな決定でも下すことができる。ただし、その前に、二種類の人々に助言を求めなければならない――その決定によって影響を受ける人々と、その分野の専門知識を持つ人々に。

助言プロセスの妙は、「助言を求める」のであって「合意を得る」のではない、という点にある。全員の同意は要らない。多数決でもない。決定を下す本人が、助言を 聴いた上で、最終的に自分で決める。助言を無視することもできる(ただし、なぜ無視したかは説明できなければならない)。この仕組みによって、意思決定のスピードと、集合知の活用が、両立する。一人が素早く決めながら、影響を受ける人と専門家の知恵が、その決定に織り込まれる。

助言プロセス ― 誰もが決められる。ただし、影響を受ける人と専門家に、助言を求めてから。

なぜ、これがうまくいくのか

助言プロセスがうまくいく理由は、深い。第一に、当事者性が生まれる。自分で決めた決定には、人は責任を持つ。上から指示された決定より、はるかに真剣に取り組む。第二に、学習が起きる。助言を求める過程で、決定者は多くを学び、助言する側も組織全体を意識する。第三に、つながりが育つ。助言を求め合うことで、組織全体に、関係性のネットワークが張り巡らされる。

助言プロセスは、自主経営の組織における、いわば 神経系だ。中央の脳(経営陣)が全てを決めるのではなく、情報と判断が、組織全体のネットワークを流れる。影響を受ける人と専門家という二つの経路を通じて、決定に必要な情報が、自然に集まってくる。これは、生命体の自己組織化を、意思決定において実現する仕組みだ。本図鑑が論じる文化身体論の視点では、助言プロセスは、複数の身体が、中央の指令なしに、互いに感じ取り合いながら一つのリズムで動く――カオス共鳴(第31章)の、組織的な実装とも読める。次章では、第二のブレイクスルー、全体性へと進む。

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WHOLENESS / 全体性

全体性(Wholeness)とは

第二のブレイクスルー、全体性。私たちは職場で、仮面をかぶる。ティール組織は、その仮面を脱ぎ、丸ごとの自分で働くことを可能にする。

ティールの第二のブレイクスルーが 全体性(Wholeness)だ。私たちは、職場に行くとき、無意識のうちに 仮面をかぶる。「プロフェッショナル」という仮面。感情を抑え、弱さを隠し、直感や情熱を脇に置き、「有能で、合理的で、冷静な自分」だけを見せる。だが、この仮面は、私たちの生命力の大部分を、職場の外に置き去りにする。全体性とは、この仮面を脱ぎ、自分の全体を職場に持ち込むことだ。

全体性が回復されると、人は、感情も、直感も、創造性も、弱さも、精神性も含めた、丸ごとの人間として働けるようになる。恐れや不安を隠さずに語れる。分からないことを、分からないと言える。情熱を、情熱として表現できる。すると、驚くべきことが起きる。仮面を維持するために使われていた膨大なエネルギーが解放され、それが創造性と生命力に変わる。人が全体でいられる組織は、部分だけで働く組織より、はるかに豊かで、力強い。

全体性とは、プロフェッショナルという仮面を脱ぎ、感情も弱さも含めた丸ごとの自分で働くことだ。

恐れの組織から、信頼の組織へ

なぜ、私たちは仮面をかぶるのか。根底にあるのは、恐れだ。弱さを見せれば、つけ込まれる。感情を出せば、プロでないと思われる。本当の自分を出せば、拒絶される。従来の組織は、この恐れを土台に築かれている。だから人は、身を守るために、仮面をかぶる。全体性を実現する組織は、この恐れを、信頼へと置き換える。安心して自分を出せる場を、意図的に築く。

この「安心して自分を出せる場」は、近年、心理学者エイミー・エドモンドソンが 心理的安全性として体系化した概念と、深く重なる。だがティールの全体性は、心理的安全性を超えて、より深い。それは、単に「発言しても罰せられない」だけでなく、感情・直感・精神性・弱さを含めた、存在の全体が歓迎される、ということだ。本図鑑が後に論じるように、この「仮面を脱ぐ」ことは、文化身体論の言う ――自我の輪郭(仮面)を緩め、より大きな全体と一体化する身体――の回復と、深く通じている(第29章)。仮面とは、大脳が作り上げた自我の鎧であり、それを脱ぐことは、身体の生命力を解き放つことなのだ。

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PRACTICE / 全体性の実践

全体性の実践 ― 仮面を外す

全体性は、理念だけでは実現しない。仮面を脱げるを、具体的な実践で築く必要がある。ティール組織は、そのための工夫を凝らす。

全体性は、「ありのままでいよう」と唱えるだけでは実現しない。人が安心して仮面を脱げるようになるには、それを支える具体的な 実践が要る。ティール組織は、全体性を育むための、さまざまな工夫を凝らしている。それらは、一見些細に見えるが、組織の空気を、恐れから信頼へと、実際に変えていく。

全体性を育む実践

実践1
グラウンドルールと対話
「互いを判断しない」「弱さを見せてよい」といった、心理的に安全な場のためのグラウンドルールを、明示的に共有する。対話の時間を大切にし、業務だけでなく、人としての在り方を分かち合う。
実践2
物理空間と儀式
温かみのある空間、共に食事をする習慣、節目を祝う儀式。人が丸ごとの存在として迎えられていると感じられる、場の設計。オフィスを、機械の作業場でなく、生命が集う場にする。
実践3
内省とストーリーテリング
静けさや内省の時間を持ち、自分の内面とつながる。個人の物語(ストーリー)を語り合い、数字の背後にいる一人ひとりの人間を、見えるようにする。

これらの実践に共通するのは、人を 機能(ファンクション)としてではなく、存在(プレゼンス)として扱う、ということだ。Orange の組織は、人を「役割を果たす機能」として見る。だがティール組織は、人を、丸ごとの存在として迎える。この眼差しの転換が、場の空気を変え、人が仮面を脱ぐことを可能にする。

重要なのは、全体性が、単なる「居心地の良さ」ではない、ということだ。全体性は、組織の 力の源泉だ。人が丸ごとの存在でいられるとき、その人の持つ創造性、直感、情熱のすべてが、組織に注がれる。仮面のために封じられていた生命力が、解放される。全体性は、優しさであると同時に、組織の生命力を最大化する、実践的な知恵なのだ。本図鑑が論じるように、これは、身体が自我の鎧を脱いだとき、本来の力を発揮する――という、文化身体論の身体観と、深く響き合っている。次章では、第三のブレイクスルー、存在目的へと進む。

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PURPOSE / 存在目的

存在目的(Evolutionary Purpose)とは

第三のブレイクスルー、存在目的。組織は、経営者が目的を与える機械ではない。それ自身が、進化しようとする方向を持つ、生命体だ。

ティールの第三のブレイクスルーが 存在目的(Evolutionary Purpose)だ。これは、最も捉えにくく、最も深いブレイクスルーかもしれない。従来の組織では、目的は、経営者やオーナーが 与えるものだ。ミッション、ビジョン、戦略――これらは上から設定され、下へ伝達される。だがティール組織は、組織を それ自身の存在目的を持つ生命体として捉える。組織は、経営者の道具ではなく、自ら生き、進化しようとする、一つの生命なのだ。

この転換は、深い。組織が自らの存在目的を持つなら、経営者やメンバーの役割は、目的を 与えることではなく、組織がどこへ向かおうとしているかに 耳を澄ますことになる。未来を予測し、計画し、コントロールするのではない。組織という生命体が、次に何になろうとしているかを、感じ取り、それに従う。ラルーはこれを、「組織を、コントロールすべき所有物としてではなく、独自の目的とエネルギーを持つ生命体として捉える」と表現する。

組織は、経営者が目的を与える機械ではない。それ自身が進化の方向を持つ生命体だ。耳を澄ます。

予測と制御から、感知と応答へ

存在目的がもたらす、最も実践的な転換は、予測と制御から、感知と応答へ、というものだ。Orange の組織は、未来を予測し、計画を立て、その通りに実行しようと制御する。だがティール組織は、未来を予測しようとしない。代わりに、今この瞬間に何が現れつつあるかを 感知し、それに 応答する。詳細な長期計画の代わりに、組織の存在目的に照らして、絶えず感じ取り、方向を微調整していく。

この「感知と応答」は、生命体の基本原理だ。生命は、環境の変化を感じ取り、それに応答しながら、自らを組織し続ける。硬直した計画に固執するのではなく、生きた現実に応答し続ける。本図鑑が後に論じるように、この「組織が向かおうとする方向を感じ取る」という営みは、シャーマーのU理論が言う プレゼンシング(出現する未来を感じ取る)や、ソース原理が言う ソースが次の一歩を感じ取ることと、深く重なっている。そしてそれは、文化身体論の言う 中動態――するでも、されるでもなく、内側から立ち上がる態――そのものなのだ(第30章)。

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LISTENING / 聴く

組織が「聴く」ということ

組織が「向かおうとする方向」を、どうやって知るのか。それは、経営会議で決めるのではない。組織全体で、聴くのだ。

存在目的を実践する上で、核心となる問いがある。組織が向かおうとする方向を、どうやって知るのか。従来の組織なら、経営陣が会議室で戦略を決める。だがティール組織では、存在目的は、決めるものではなく、聴くものだ。組織のあらゆる場所で、あらゆるメンバーが、「この組織は、次に何になろうとしているか」に、耳を澄ます。

この「聴く」という営みは、具体的な実践を伴う。存在目的について対話する場を持つ。組織が向かおうとする方向を、感じ取ったメンバーが、それを言葉にし、分かち合う。大切な問いは、「私たちは、この組織に何をさせたいか」ではなく、「この組織は、何になろうとしているか。私たちは、それにどう奉仕できるか」だ。組織を、自分たちの道具としてではなく、共に奉仕する、より大きな生命として捉える。

存在目的は、経営会議で決めるものではない。組織が何になろうとしているかを、全体で聴くものだ。

戦略は、創発する

この「聴く」という姿勢から、ティール組織の戦略観が生まれる。従来の組織では、戦略は、トップが計画的に 策定する。だがティール組織では、戦略は、組織全体の感知と応答から、創発する。誰か一人が設計するのではなく、多くのメンバーが、それぞれの場所で存在目的に耳を澄まし、応答することで、全体としての方向性が、自ずと立ち上がってくる。

これは、生命体が進化する仕方と、同じだ。進化には、設計者がいない。無数の個体が、それぞれの環境に応答することで、種全体としての方向性が創発する。ティール組織の戦略も、中央の設計者なしに、組織全体の感知と応答から創発する。本図鑑が論じるように、これは文化身体論の言う 自己組織化(第35章)――中央の設計なしに、秩序が自ら立ち上がること――の、戦略における現れだ。組織が「聴く」とは、大脳的な計画を手放し、生命体としての組織の自己組織化に、身を委ねることなのだ。次章では、この三つのブレイクスルーが、どう互いに支え合うかを見る。

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INTERRELATION / 相互関係

三つのブレイクスルーの相互関係

自主経営、全体性、存在目的。この三つは、独立した部品ではない。互いに支え合い、一つの生命を成り立たせる、分かちがたい三位一体だ。

三つのブレイクスルーは、それぞれ独立して導入できる部品ではない。それらは、互いに深く依存し合っている。一つが欠ければ、他の二つも十分には機能しない。三つは、生命体としての組織を成り立たせる、分かちがたい三位一体なのだ。この相互関係を理解することが、ティール組織を正しく捉える鍵になる。

三つの相互依存

自主経営は、全体性を必要とする。仮面をかぶり、恐れを抱えた人々に、自律的な判断を委ねても、機能しない。人が安心して自分を出せる(全体性)からこそ、自律的な判断(自主経営)に、その人の全体の知恵が注がれる。恐れの中では、人は防御的になり、自主経営は、責任のなすり合いや、萎縮に陥る。

自主経営は、存在目的を必要とする。中央の統制なしに、多くの人が自律的に動くとき、何が、彼らをバラバラにせずに、一つの方向へ向かわせるのか。それが、共有された存在目的だ。組織が向かう先が感じ取られているからこそ、自主経営する人々は、それぞれの場所で、しかし同じ方向へ、協働できる。存在目的は、自主経営の組織にとって、羅針盤の役割を果たす。

三つのブレイクスルーは、独立した部品ではない。一つが欠ければ他も成り立たない、生命の三位一体だ。

存在目的は、全体性を必要とする。組織が向かおうとする方向を感じ取るには、メンバーが、頭だけでなく、感情や直感を含めた全体で、耳を澄ます必要がある。仮面をかぶり、合理的な思考だけで働く人には、組織の存在目的という繊細な信号は、感じ取れない。全体性があって、人が直感や感受性を働かせられるからこそ、存在目的を感知できる。

このように、三つのブレイクスルーは、円環をなして支え合う。それは、生命体の諸器官が、互いに支え合って一つの生命を成り立たせるのと、同じだ。だからこそ、ティール組織への移行は、三つを同時に、統合的に進める必要がある。一つだけを取り出して導入しても、生命は宿らない。本図鑑が繰り返し論じるように、これは、身体の諸部分が、分かちがたく連動して一つの動きを生む――という、文化身体論の全体論的な身体観と、深く共鳴している。次章では、この三つのブレイクスルーが、実在の組織でどう体現されているかを見る。

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CASES / 実例

ティールの実例 ― ビュートゾルフ、モーニングスター

ティール組織は、理想論ではない。オランダのビュートゾルフ、アメリカのモーニングスター――現実に、卓越した成果をあげている。

ティール組織は、机上の理想論ではない。現実に存在し、卓越した成果をあげている。ラルーが調査した組織の中でも、とりわけ象徴的な二つの事例を見よう。これらは、ティールの三つのブレイクスルーが、現実にどう機能するかを、生き生きと示している。

ビュートゾルフ ― 在宅ケアの革命

ビュートゾルフ(Buurtzorg)は、オランダの在宅ケア組織だ。2006年、看護師のヨス・デ・ブロックが、たった4人で始めた。従来の在宅ケアは、Orange 的に効率化され、看護師は分刻みのタスクをこなす部品になっていた。ビュートゾルフは、これを覆した。10〜12人の看護師による自主経営チームが、マネジャーなしに、地域のケアを丸ごと担う。何をどうケアするかは、チームと患者が決める。

結果は、驚異的だった。ビュートゾルフは、爆発的に成長し、1万人以上の看護師を擁する組織になった。ケアの質は最高水準、患者満足度も看護師満足度も突出して高い。しかも、従来より 40%も低いコストで。本部スタッフはごくわずか。中間管理職はゼロ。自主経営、全体性、存在目的が揃ったとき、組織は、効率と人間性を、同時に、はるかに高いレベルで実現できることを、ビュートゾルフは証明した。

モーニングスター ― 契約で結ばれた自主経営

モーニングスター(Morning Star)は、アメリカ最大のトマト加工会社だ。創業者クリス・ルーファーのもと、数百人の従業員が、上司なしに働く。その要が CLOU(同僚間覚書)だ。各人が、自分がどんな責任を負い、同僚とどう協働するかを、自ら文書化し、関係する同僚と合意する。上司からの指示ではなく、同僚との 約束が、仕事を規定する。

モーニングスターでは、給与も、設備投資も、採用も、上司の承認なしに、当事者が助言プロセスを通じて決める。数千万ドルの設備投資すら、現場の判断で行われる。それでいて、業界トップの効率と品質を誇る。モーニングスターは、大規模で資本集約的な製造業でも、自主経営が機能することを示した。ティールは、小さな理想主義的な組織だけのものではない。ほかにも、フランスのFAVI、アメリカのパタゴニア、ドイツの精神科病院ハイリゲンフェルトなど、業種も国も超えて、ティールの実例は広がっている。

事例の留保
これらの事例は、ティールの可能性を示すが、すべての組織にそのまま当てはまるわけではない。事例の選択には成功例を強調する偏りもありうる(第39章の批判を参照)。重要なのは、模倣すべき型としてではなく、生命体としての組織がどう機能しうるかを示す、生きた参照として読むことだ。
NOT AN IDEAL, BUT REAL

ティールは、理想論ではない。
現実に、卓越した成果をあげている。

ビュートゾルフは、マネジャーなしの自主経営で、最高のケアの質を、従来より40%低いコストで実現した。モーニングスターは、上司なしに、業界トップの効率を誇る。

自主経営・全体性・存在目的が揃ったとき、組織は、効率と人間性を、同時に、はるかに高いレベルで実現できる。

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LINEAGE 1 / 系譜

インテグラル理論 ― ケン・ウィルバー

ティールの発達段階論は、どこから来たのか。その源流に、ケン・ウィルバーのインテグラル理論という、巨大な知の体系がある。

ティール組織の発達段階論は、ラルーの独創ではない。その背後には、ケン・ウィルバー(Ken Wilber)の インテグラル理論という、壮大な知の体系がある。ウィルバーは、東西の哲学・心理学・霊性の伝統を統合し、人間の意識と世界の発達を、包括的に描き出そうとした思想家だ。『ティール組織』の序文を、ウィルバー自身が寄せていることは、この理論的系譜を象徴している。

インテグラル理論の核心は、発達段階という視点だ。人間の意識は、乳児から成人へと、段階的に発達する。そして、その各段階は、より広い視野と、より深い複雑性を持つ。ウィルバーは、この発達を、色(あるいは高度)で表現した。ラルーの Red・Amber・Orange・Green・Teal という色分けは、このウィルバーやスパイラル・ダイナミクス(クレア・グレイブスの発達理論を発展させたもの)の系譜を、組織に適用したものだ。

ティールの発達段階論は、ケン・ウィルバーのインテグラル理論という、巨大な知の体系に根ざしている。

含んで超えるという原理

インテグラル理論から、ティールが受け継いだ最も重要な原理が、「含んで超える(transcend and include)」だ(第11章)。より後の段階は、前の段階を否定するのではなく、含みながら超える。この原理があるから、Teal は、Orange の効率も Green の人間性も捨てずに、その先へ進める。発達とは、置き換えではなく、統合と超越なのだ。

ウィルバーの理論は、ティールに、単なる経営手法を超えた、深い基盤を与えている。ティール組織は、意識の発達という、人類史的な文脈の中に位置づけられる。組織の進化は、人間の意識の進化と、不可分に結びついている。だからこそ、ティール組織を築くには、仕組みを変えるだけでなく、そこにいる人々の 意識の発達が必要になる(第11章)。この「意識の発達」を、頭の理解ではなく身体の水準で促すことに、本図鑑が論じる文化身体論と一本歯下駄GETTAの、独自の貢献がある。次章では、この意識の発達を、より具体的に扱う成人発達理論を見る。

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LINEAGE 2 / 系譜

成人発達理論 ― キーガンとクック=グロイター

大人になっても、人は成長し続ける。成人発達理論は、意識がどう段階的に深まるかを描く。ティール組織は、この発達の上に立つ。

ティール組織が「意識の発達」を前提とするなら、その意識の発達とは、具体的にどのようなものか。それを精密に描くのが 成人発達理論だ。かつて、人間の発達は、大人になれば完了すると考えられていた。だが、ロバート・キーガンやスザンヌ・クック=グロイターらの研究は、大人になっても、意識は段階的に発達し続けることを、実証的に示した。

ハーバードの発達心理学者 ロバート・キーガン(Robert Kegan)は、意識の発達を、「何を客体として見られるか」の拡大として捉えた。発達が進むほど、それまで自分が とらわれていたもの(主体)を、客体として眺められるようになる。たとえば、自分の感情に飲み込まれていた人が、感情を一歩引いて眺められるようになる。この「主体から客体へ」の移行が、意識の各段階を分ける。

大人になっても意識は発達し続ける。とらわれていたものを、客体として眺められるようになっていく。

自己変容型知性という段階

キーガンの理論で、ティールに対応するのが、自己変容型知性(Self-Transforming Mind)という段階だ。この段階の人は、自分の価値観やアイデンティティすら、絶対のものとせず、一歩引いて眺められる。だから、異なる視点を統合でき、絶えず自らを変容させられる。ティール組織の自主経営や存在目的の実践には、この自己変容型知性に近い意識段階が必要だとされる。クック=グロイターの自我発達理論も、同様に、ティールに対応する後期の段階を描いている。

成人発達理論は、ティール組織の実践に、重要な示唆を与える。組織をティールにするには、そこにいる人々、とりわけリーダーやソースの意識段階が、それに見合って発達している必要がある(第11章)。だが、意識の発達は、知識を学ぶだけでは起こらない。それは、より深い、存在の変容だ。本図鑑が論じる文化身体論は、この意識の発達を、身体の水準で捉え直す。大脳的な自我の支配が緩み、身体の全体性が回復すること。それが、意識の発達の、身体的な基盤なのだ。次章からは、ティールと、本図鑑がこれまで扱ってきた他の組織理論との関係を見ていく。

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LINEAGE 3 / 系譜

ソース原理とティールのブラインドスポット

ティール組織には、一つのブラインドスポットがあった。創業者=ソースの役割だ。ソース原理が、この盲点を埋める。

ティール組織の理論は、画期的だった。だが、そこには一つの重大な ブラインドスポット(盲点)があった。創業者=ソースの役割だ。ティールは「フラットで、誰もが対等で、創業者も特別ではない」という理想を掲げる。だが現実には、ティール組織がティールであり続けられるかどうかは、創業者の意識に、決定的に依存している。

ラルー自身が、これを認めている。彼は、ティール組織を実践する企業を調べるうち、その組織がティールであり続けられるかが、創業者やCEOがティールの意識を保てるかに、決定的に左右されることに気づいた。創業者が去ったり、意識を後退させたりすると、組織は、より前の段階へ逆戻りする。つまり、フラットなはずのティール組織も、実は、創業者という 特別な一人に支えられていた。この一人の役割こそ、ピーター・コーニッヒとトム・ニクソンが体系化した ソースだ。

フラットなはずのティール組織も、実は創業者=ソースという特別な一人に支えられていた。

ソース原理が補完するもの

ソース原理は、ティールのこのブラインドスポットを埋める。あらゆるイニシアチブには、最初にリスクを取り、創造の場を保持する、ただ一人のソースがいる。ティールが組織の 運営(自主経営・全体性・存在目的)を描くのに対し、ソース原理は、その組織の 創造の起源と、場を保持する役割を描く。二つは矛盾しない。健全なティール組織とは、ソースが場を明確に保持しつつ、その場の中でメンバーが自主的に動く組織なのだ。

この補完関係は、深い教訓を含む。「フラットにすれば創業者の役割は消える」というのは、幻想だった。組織構造をどれだけフラットにしても、それを始め、場を保持する一人という役割は消えない。それを「無かったこと」にすると、かえってソースの役割が地下に潜り、混乱が生じる。ティールとソース原理を統合することで、組織の 運営の面起源の面の、両方が見えてくる。この統合こそ、組織論の次の課題だ。本図鑑が論じる文化身体論は、この統合を、身体の水準で基礎づける。

関連図鑑 →ソース原理図鑑 コーニッヒとニクソンのソース原理を全42章で。ティールのブラインドスポット=創業者=ソースの役割を、創造の場から継承まで掘り下げる。
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LINEAGE 4 / 系譜

学習する組織とティール

ティール組織と学習する組織は、深く響き合う。どちらも、組織を機械から生命へと捉え直す、同じ方向を指している。

ティール組織と、ピーター・センゲの 学習する組織は、深い親和性を持つ。どちらも、組織を、制御すべき機械から、自ら学び進化する生命体へと、捉え直す。センゲの五つのディシプリン――自己マスタリー、メンタルモデル、共有ビジョン、チーム学習、システム思考――は、ティール組織が体現する能力と、多くの部分で重なっている。

とりわけ、センゲの 共有ビジョンは、ティールの 存在目的と響き合う。どちらも、組織が向かう方向を、上から与えるのではなく、メンバーの内から立ち上がるものとして捉える。また、センゲの システム思考――全体を一つの生きたシステムとして捉える目――は、ティールが組織を生命体として捉える眼差しと、深く通じている。学習する組織が「組織がどう学習するか」を描くなら、ティールは「その学習する生命体が、どんな構造を持つか」を描く。

ティールと学習する組織は、組織を機械から生命へと捉え直す、同じ方向を指している。

能力と構造

両者の違いを、あえて言えば、こうだ。学習する組織は、組織が持つべき 能力(ディシプリン)を描く。ティールは、その能力を可能にする 組織構造(自主経営・全体性・存在目的)を描く。学習する組織のシステム思考や共有ビジョンは、ティールの自主経営や存在目的という構造があってこそ、十全に発揮される。逆に、ティールの構造も、学習する組織の能力があってこそ、生命を得る。両者は、能力と構造という、二つの面から、同じ生命体としての組織を照らしている。

両者を合わせて読むと、生命体としての組織の、より立体的な像が見えてくる。センゲが描く学習の能力と、ラルーが描く進化型の構造。この二つが揃ったとき、組織は、真に学び、進化する生命体になる。本図鑑が論じる文化身体論は、この両者を、さらに身体の水準で統合する。学習も、進化も、究極的には、大脳の制御から、身体の自己組織化への移行として捉え直される。

関連図鑑 →学習する組織図鑑 センゲの五つのディシプリンを全42章で。ティールが体現する、学習し進化する組織の能力の全体像。
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LINEAGE 5 / 系譜

U理論とティール ― 意識の変容

ティールへの移行は、仕組みの変更ではない。意識の変容だ。その変容のプロセスを描くのが、シャーマーのU理論である。

ティール組織への移行は、単なる仕組みの変更ではない。それは、そこにいる人々の 意識の変容を伴う(第11章、第21章)。では、その意識の変容は、どのように起きるのか。それを精密に描くのが、オットー・シャーマーの U理論だ。U理論は、個人・組織・社会が、過去のパターンを超えて、真に新しいものを生み出すときの、意識の変容のプロセスを描く。

U理論の核心 プレゼンシング――判断を手放し、Uの谷を下って源泉につながり、出現しようとする未来を感じ取ること――は、ティールの 存在目的と、深く重なっている。組織が向かおうとする方向に耳を澄ますこと(存在目的)は、まさに、出現する未来を感じ取ること(プレゼンシング)だ。どちらも、未来を大脳で予測・制御するのではなく、身体で感じ取る、中動態の営みである。

ティールへの移行は、意識の変容だ。組織の存在目的に耳を澄ますことは、U理論のプレゼンシングと重なる。

エゴからエコへ

U理論とティールは、意識の方向性においても、深く一致する。シャーマーは、現代の根本的な転換を、エゴシステムからエコシステムへ――自己中心の意識から、全体の幸福へ開かれた意識へ――と描く。これは、ラルーが描く、Orange の自己利益の追求から、Teal の生命全体への奉仕への転換と、正確に重なっている。ティールへの発達とは、U理論の言葉で言えば、エゴシステム意識からエコシステム意識への、意識の拡張なのだ。

U理論は、ティール組織を築こうとする人に、具体的な道筋を与える。仕組みを変える前に、あるいはそれと並行して、リーダーとメンバーの意識が、Uの谷を下り、プレゼンシングを経て、変容する必要がある。この意識の変容なしに、ティールの仕組みだけを導入しても、組織は生命を得ない。本図鑑が論じるように、この意識の変容を、頭の理解ではなく身体の水準で起こすこと――それが、文化身体論と一本歯下駄GETTAの、独自の貢献だ。プレゼンシングも、ティールの意識も、究極的には、大脳の支配が緩み、身体が開いた状態なのだ。

関連図鑑 →U理論図鑑 シャーマーのU理論を全42章で。ティールへの移行が求める、意識の変容とプレゼンシングのプロセス。
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LINEAGE 6 / 系譜

ホラクラシー ― ティールの一実装

ホラクラシーは、ティールの自主経営を、精緻なルールとして実装した。だが、仕組みだけでは、生命は宿らない。

ティールの自主経営を、具体的な運営システムとして実装しようとする試みが、いくつかある。その最も有名なものが、ブライアン・ロバートソンが開発した ホラクラシー(Holacracy)だ。ホラクラシーは、権限を、役割(ロール)とサークルに、構造的に分散する。誰が誰に命令するかを、明文化された精緻なルールとプロセスで置き換える。ティールの自主経営を、いわば、詳細な憲法として制度化したものだ。

ホラクラシーは、多くの点で優れている。曖昧になりがちな自主経営に、明確な構造を与える。役割と責任がはっきりし、意思決定のプロセスが定められている。ティールを目指す組織の一部は、ホラクラシーを導入して、自主経営を実装している。だが、ホラクラシーには、しばしば指摘される限界もある。それは、仕組みが精緻すぎて、かえって官僚的になりうる、という点だ。

ホラクラシーは、ティールの自主経営を精緻なルールとして実装する。だが、仕組みだけでは生命は宿らない。

仕組みと生命

ホラクラシーの限界は、ティール理論の核心的な洞察を、逆に照らし出す。ホラクラシーは、自主経営という 構造を精緻に設計する。だが、ティールの三つのブレイクスルーのうち、ホラクラシーが扱うのは、主に自主経営だけだ。全体性存在目的――人が丸ごとの存在でいられること、組織が生命として進化の方向を持つこと――は、ルールでは作れない。仕組みは、生命の器にはなるが、生命そのものではない。

ここに、ティール組織の本質が浮かび上がる。ティールは、仕組み(自主経営の制度)だけでは実現しない。それを生かす、意識の変容と、生命の宿りが要る。ホラクラシーのような精緻な器を導入しても、そこにいる人々の意識が Orange のままで、全体性や存在目的が育っていなければ、組織は、より複雑な官僚制になるだけだ。本図鑑がソース原理の章(第23章)で論じたように、そして文化身体論が繰り返し説くように、組織には、設計できる器(仕組み)と、湧くものとしての中身(生命)の、両方が要る。ホラクラシーは器を精緻にするが、中身は、身体の水準からしか育たない。次章から、この「中身」を、文化身体論の言葉で、深く掘り下げていく。

ENTERING THE BODY THEORY

ティールとは、組織における
脱近代だ。器を壊さず、生命を取り戻す。

ここから先、ティールを、もう一つの言語で読み直す。文化身体論。中動態。身。衝動。カオス共鳴。

自主経営は中動態。全体性は身の回復。存在目的は組織の衝動を聴くこと。ティールの正体が、身体になる。

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BODY THEORY 1

進化型組織と脱近代

ここから、この図鑑は独自の領域に入る。ティール組織とは、組織における脱近代だ。器を壊さずに、中身=生命を取り戻す試みである。

ティール組織を、宮崎要輔の文化身体論の言葉で捉え直そう。その最も深い意味は、ティールが、組織における 脱近代の実践だ、ということにある。文化身体論は、近代を「器(文明)が中身(文化)を飲み込んだ状態」と捉える。そして 脱近代を「器を壊さずに、中身を取り戻すこと」と定義する。ティール組織は、まさにこれを、組織において行おうとしている。

Orange の組織は、文化身体論が言う 近代そのものだ(第8章)。組織を機械として捉え、大脳的に設計・制御し、人を数字に変換し、生命を効率に従属させる。器(仕組み・制度)が、中身(生命・湧くもの)を、飲み込んでいる。ティール組織は、この Orange=近代を超えようとする。だが重要なのは、ティールが、器そのものを 破壊しないことだ。組織という形(器)を保ちつつ、そこに、失われた生命(中身)を取り戻す。

ティール組織とは、組織における脱近代だ。器を壊さずに、中身=生命を取り戻す試みである。

器を壊さず、中身を取り戻す

この「器を壊さず、中身を取り戻す」という構造は、ティール理論の「含んで超える」(第11章)と、正確に対応する。ティールは、Orange の効率や構造(器)を捨てるのではない。それを含みつつ、そこに生命(中身)を取り戻す。原始的な無秩序に戻るのではなく、Orange の達成を土台としながら、その先の生命へ進む。脱近代とは、反近代(近代の否定)ではない。近代の器を保ちつつ、飲み込まれた中身を回復することなのだ。

この視点から見ると、ティール組織の三つのブレイクスルーは、それぞれ、近代が飲み込んだ中身を取り戻す試みとして読める。自主経営は、大脳的な中央制御を手放し、生命の自己組織化を取り戻す。全体性は、職業的な仮面(近代的自我)を脱ぎ、身体の全体性を取り戻す。存在目的は、大脳的な予測・制御を手放し、中動態的な生命の方向性を取り戻す。三つのブレイクスルーは、組織における脱近代の、三つの道なのだ。次章から、この三つを、文化身体論の核心概念と、一つずつ接続していく。

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BODY THEORY 2

自主経営と中動態

自主経営とは、能動でも受動でもない。誰かが支配するのでも、誰かに支配されるのでもなく、組織が自ら組織化する。それは中動態だ。

ティールの 自主経営を、文化身体論の 中動態から捉え直そう。私たちは、組織を二つの態でしか捉えられない。能動態――「経営者が組織を動かす(支配する)」。受動態――「従業員が動かされる(支配される)」。従来の組織は、この能動-受動の枠組みで動く。誰かが支配し、誰かが支配される。だが、自主経営は、そのどちらでもない。

自主経営において、組織は、誰かに支配されるのでも、誰か一人が支配するのでもなく、自ら組織化する。動きの主体が、能動と受動の中間で、内側から立ち上がる。これが 中動態だ。中央の指令(能動)もなく、上からの統制に従う(受動)のでもなく、組織全体が、自らのうちから、秩序と方向を生み出していく。自主経営とは、組織が中動態で動く、ということなのだ。

自主経営とは、誰かが支配するのでも、支配されるのでもなく、組織が自ら組織化する。それは中動態だ。

能動態の組織観を超える

ここに、ティールが近代の組織観を超える、核心の一点がある。近代の経営は、組織を 能動態で捉える。「経営者が、組織を、設計し、動かし、制御する」。この能動態の枠組みでは、組織は、経営者の意志が働きかける対象(客体)になる。組織から、自ら生きる力が奪われ、経営者の道具になる。生命が、機械に変換される。

自主経営は、この能動態の呪縛から、組織を解き放つ。組織を、経営者が動かす客体としてではなく、自ら動く中動態の主体として捉え直す。すると、組織は、経営者の道具であることをやめ、自ら生きる生命体になる。文化身体論が言うように、生命の本質は、能動態(する)でも受動態(される)でもなく、中動態(湧く・立ち上がる・自ら組織化する)にある。自主経営とは、この生命の中動態を、組織において回復することなのだ。経営言語のほとんどが能動態であること――「戦略を実行する」「組織を動かす」――が、近代の組織から生命が消える構造そのものであり、自主経営は、その言語を、中動態へと組み替える試みなのである。

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BODY THEORY 3

全体性と身 ― 仮面を外す身体

全体性とは、職業の仮面を脱ぐことだった。文化身体論の言葉で言えば、それは、自我の輪郭を緩めたを、回復することだ。

ティールの 全体性を、文化身体論の身体概念 身(み)から捉え直そう。全体性とは、職業上の仮面を脱ぎ、感情も直感も弱さも含めた、丸ごとの自分で働くことだった(第15章)。文化身体論は、身体の核に ――自我の輪郭を緩め、環境と一体化する身体――を据える。全体性の回復とは、まさに、この身の回復にほかならない。

職業上の 仮面とは、何か。それは、文化身体論の視点では、大脳が作り上げた自我の鎧だ。「有能で、合理的で、冷静なプロフェッショナル」という仮面は、大脳が、他者からの評価を計算し、身を守るために構築したものだ。この仮面は、自我の輪郭を固く閉ざし、身体の全体性を、職場の外に締め出す。仮面をかぶるとは、身を、大脳的な自我の鎧の中に、閉じ込めることなのだ。

職業の仮面とは、大脳が作った自我の鎧だ。全体性とは、その鎧を脱ぎ、身を回復することである。

仮面を脱ぐと、生命力が解放される

全体性が回復されると――身の鎧が緩むと――なぜ、生命力が解放されるのか。文化身体論は、こう説明する。自我の鎧(仮面)を維持するには、膨大なエネルギーが要る。他者の評価を絶えず計算し、弱さを隠し、感情を抑える。このエネルギーが、身体の生命力を、枯渇させる。仮面を脱ぎ、身の鎧が緩むと、そのエネルギーが解放され、創造性と生命力に変わる。

さらに深く言えば、身の鎧が緩むと、人は、自分の輪郭を超えて、より大きな全体――同僚、組織、場――と一体化できるようになる。仮面をかぶった個人は、孤立した点として、互いに競争し、防御し合う。だが、身が開かれた人々は、互いに感じ取り合い、一つの場に共鳴する。全体性は、個人の充実であると同時に、組織が一つの生命体として結びつくための、身体的な条件なのだ。全体性なしに自主経営が機能しないのは(第19章)、身が閉ざされた個人は、互いに共鳴できず、生命体としての自己組織化が起きないからである。仮面を脱ぐことは、身を開き、組織を一つの生命へと結ぶ、その入口なのだ。

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BODY THEORY 4

存在目的と衝動 ― 組織が湧く

組織が向かう方向は、誰かが決めるのではない。組織自身から湧いてくる。存在目的とは、組織の鳩尾から湧く衝動を、聴くことだ。

ティールの 存在目的を、文化身体論の 衝動から捉え直そう。存在目的とは、組織が向かおうとする方向を、上から与えるのではなく、組織自身から立ち上がるものとして聴くことだった(第17章、第18章)。文化身体論の中心概念 衝動と探求の転倒は、この存在目的の、深い基盤を照らし出す。衝動とは、計画以前の、鳩尾から湧き上がる動き。探求とは、その後に来る、言語化と計画。本来は、衝動が先、探求が後だ。

存在目的とは、組織の水準における 衝動だ。組織が「次に何になろうとしているか」――それは、経営陣が大脳で計画(探求)するものではない。組織という生命体の、いわば鳩尾から 湧いてくるものだ。メンバーの仕事は、この湧いてくる方向(衝動)を、感じ取り、聴くことだ。存在目的に耳を澄ますとは、組織の鳩尾から湧く衝動を、大脳の計画で上書きせずに、聴き取ることなのである。

存在目的とは、組織の鳩尾から湧く衝動だ。それを、大脳の計画で上書きせずに、聴き取ること。

計画から始まる組織に、生命はない

ここに、ティールが近代の戦略観を超える、核心がある。近代の組織は、探求(計画)を先に立てる。まず綿密な戦略を策定し、それを実行する。だが、大脳で計画された戦略には、しばしば生命がない。それは、組織が本当に向かおうとしている方向(衝動)とは、ずれている。近代の戦略とは、組織の鳩尾から湧く衝動を、大脳の探求(計画)へと変換する装置なのだ。

存在目的は、この順序を、生命の自然な順序へと戻す。衝動が先、探求が後。組織の鳩尾から湧いてくる方向(衝動)を、まず聴く。そして、それを言葉にし、形にしていく(探求)。ティールの戦略が「創発する」(第18章)のは、それが、大脳の計画からではなく、組織の衝動から立ち上がるからだ。本図鑑が論じるように、これは、シャーマーのU理論のプレゼンシング(第25章)や、ソース原理のソースが次の一歩を感じ取ること(第23章)と、同じ構造だ。組織の存在目的とは、組織という生命の鳩尾から湧く衝動であり、それを聴くことが、ティールの戦略の核心なのだ。

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BODY THEORY 5

生命体としての組織とカオス共鳴

生命体としての組織は、比喩ではない。中央の制御なしに、複数の身体が一つのリズムで動く。それは、文化身体論の言うカオス共鳴だ。

ティールが組織を 生命体として捉えること――そして自主経営における自己組織化――を、文化身体論の カオス共鳴から捉え直そう。文化身体論は、複数の身体が中央の指令なしに一つのリズムへ引き込まれる現象を、物理学の 蔵本モデルで捉える。互いに弱く結合した振動子の集団は、臨界点を超えると、いっせいに同じリズムへ同期する。蛍が同時に明滅するように。これを エントレインメント(引き込み)という。

ティール組織の自主経営とは、この蔵本モデルの同期を、組織において実現したものだ。中央の指揮官(大脳)がいなくても、メンバーが互いに感じ取り合い、共通の存在目的というリズムに引き込まれることで、組織全体が、一つの生き物のように、調和して動く。人体の細胞が、中央の指令なしに調和して働くのと、同じだ。自主経営が「無秩序にならない」のは、メンバーが、目に見えないリズム(存在目的)に、カオス共鳴しているからなのである。

自主経営の自己組織化とは、複数の身体が中央の指令なしに一つのリズムへ引き込まれる、カオス共鳴だ。

結合の強さと、組織の生命

蔵本モデルにおいて、同期が起きるかを決めるのは 結合の強さだ。結合が弱ければバラバラ、臨界点を超えると一斉に同期する。ティール組織の言葉なら、この結合の強さこそ、メンバー間の つながりの質だ。全体性(第29章)によって、メンバーが仮面を脱ぎ、身を開いて互いに感じ取り合えるとき、結合が強まり、カオス共鳴が起きる。仮面をかぶった個人は、互いに共鳴できず、組織は同期しない。

ここから、ティールの三つのブレイクスルーの相互依存(第19章)が、身体の水準で説明できる。全体性が、メンバー間の結合を強め(身を開く)、存在目的が、共通のリズムを与え(引き込む先)、その結果、自主経営のカオス共鳴(自己組織化)が起きる。三つは、蔵本モデルの同期を成り立たせる、三つの条件なのだ。生命体としての組織とは、比喩ではない。それは、複数の身体が、身を開き、共通のリズムに引き込まれ、一つの生き物のように同期する――カオス共鳴の、組織的な実現なのである。

関連図鑑 →複雑系図鑑 蔵本モデル・同期現象・カオス共鳴。ティールの生命体としての組織=複数の身体が一つのリズムへ引き込まれる自己組織化の科学。
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BODY THEORY 6

Orange段階と秀才の構造的欠陥

なぜ、Orangeは限界に達したのか。文化身体論は、その根に秀才の構造的欠陥を見る。大脳で組織を設計する者の、宿命的な盲点だ。

Orange(達成型)の限界(第8章)を、文化身体論の 秀才の構造的欠陥から捉え直そう。秀才とは、人間が作った理論・ルール・システムを学び、それを大脳で操作しようとする者だ。Orange の組織は、まさに秀才が設計する。優秀な経営者・コンサルタント・アナリストが、大脳で組織という機械を設計し、最適化する。実力主義(メリトクラシー)とは、この秀才を選抜し、頂点に立てる仕組みだ。

だが、秀才の設計には、構造的な欠陥がある。人間が作ったシステムを大脳で操作するうちに、生命の本質が抜け落ちる。秀才は、組織を、要素に分解し、役割に分割し、数字で管理する。この大脳的な操作の中で、組織の生命――鳩尾から湧く衝動、身の全体性、中動態の自己組織化――が、こぼれ落ちる。秀才が優秀であればあるほど、精密に設計すればするほど、組織から生命が失われていく。これが、Orange が成功の頂点で生命を失う、構造的な理由だ。

Orangeの限界の根には、秀才の構造的欠陥がある。大脳で組織を設計するほど、生命が抜け落ちる。

大脳の設計を超えて

ティール組織は、この秀才の構造的欠陥を、超えようとする。ティールは、組織を、大脳で 設計する対象としてではなく、身体で 感じ取り、自己組織化に委ねる生命体として捉える。自主経営は、中央の大脳的制御を手放す。存在目的は、大脳の計画を、身体の感受に置き換える。全体性は、大脳が作った仮面を脱ぐ。ティールの三つのブレイクスルーは、いずれも、大脳の設計から、身体の生命への移行なのだ。

ここに、深い逆説がある。秀才は、「もっと精密に設計すれば、組織はうまくいく」と考える。だが、精密な設計こそが、生命を殺す。ティールは、逆に、設計を手放すことで、生命を取り戻す。これは、優れたアスリートが、個々の筋肉を大脳で統制するのをやめ、身体の自己組織化に委ねると、かえって全体の動きが生き生きとするのと、同じ原理だ。組織も、大脳の設計を手放し、生命の自己組織化に委ねたとき、はじめて、真に生きる。ティールとは、秀才の大脳的な設計主義を超えて、組織を、身体の生命へと明け渡す、その勇気なのである。

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BODY THEORY 7

ティールと転移する文化資本

ティール組織の文化や存在目的は、命令では伝わらない。人から人へ、転移する。それは、文化身体論の言う転移する文化資本だ。

ティール組織の文化や存在目的が、どう組織全体に広がるかを、文化身体論の 転移する文化資本から捉え直そう。文化身体論は、ブルデューの文化資本論を批判的に拡張する。ブルデューの文化資本は、個人のなかに 蓄積される。だが宮崎要輔の 転移する文化資本は、人から人へ 転移する。一人の鳩尾に宿った何かが、別の鳩尾へ、命令や制度を介さずに、伝播する。

ティール組織の存在目的や全体性の文化は、まさにこの 転移によって広がる。存在目的は、マニュアルで伝達できない。全体性の文化は、規則で強制できない。それらは、それを体現する人から、それに触れる人へと、転移していく。ソース(第23章)が保持する場に、メンバーが共鳴し、その存在目的が、一人ひとりの鳩尾へと転移する。ティール組織の文化とは、蓄積され伝達される情報ではなく、身体から身体へ転移する、生きた文化なのだ。

ティールの存在目的や文化は、命令では伝わらない。身体から身体へ、転移する文化資本として広がる。

蓄積する組織と、転移する組織

ここに、Orange の組織と Teal の組織の、深い違いがある。Orange の組織は、蓄積の論理で動く。知識をマニュアルに蓄積し、価値を数字に蓄積し、それを伝達・管理する。文化資本は、個人や組織に蓄積される資産だ。だが、蓄積には天井がある。マニュアルは、生きた知恵の抜け殻になる。数字は、生命を映さない。

Teal の組織は、転移の論理で動く。存在目的も、全体性の文化も、蓄積され伝達されるのではなく、身体から身体へ転移し、そのつど生き直される。転移には、天井がない。それは、伝達されるたびに、新しい身体の中で、新たに生きられる。本図鑑がソース原理の章(第23章)で論じた継承も、この転移だった。ティール組織が生命を保ち続けられるのは、その文化が、蓄積された資産としてではなく、転移する生きた力として、絶えず身体から身体へと受け渡されていくからなのだ。組織を生命として保つとは、文化を、蓄積から転移へと、転換することなのである。

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BODY THEORY 8

発達段階と大脳/小脳

階層による中央制御か、分散による自己組織化か。この組織構造の対比は、身体における大脳と小脳の対比と、正確に重なる。

組織の発達段階を、文化身体論の 大脳と小脳の対比から捉え直そう。文化身体論は、身体の制御を、二つのシステムで捉える。大脳――意識的に、逐一、身体を統制するシステム。小脳――無意識に、全体を協調させるシステム。優れた動きは、大脳の逐一の制御から、小脳の全体的な協調へ、制御が移行したときに生まれる。この対比が、組織の発達段階に、そのまま対応する。

Orange の組織は、大脳的だ。中央(経営陣=組織の大脳)が、逐一、組織を統制する。目標を設定し、計画を立て、指示を出し、成果を管理する。すべてが、中央の意識的な制御を通る。これは、大脳が身体の各部を逐一統制しようとするのと、同じだ。だが、大脳による中央集権的制御には、限界がある。中央の処理能力がボトルネックになり、複雑で素早い協調ができない。

Orangeの中央制御は大脳的、Tealの自主経営は小脳的。優れた組織は、大脳から小脳へ制御が移る。

小脳的な組織へ

Teal の組織――とりわけ自主経営――は、小脳的だ。中央の逐一の制御なしに、各部が、互いに協調しながら、全体として調和して動く。これは、熟練したアスリートの身体が、大脳の逐一の指令なしに、小脳の働きで、全体として滑らかに動くのと、同じだ。自主経営とは、組織の制御を、中央集権的な大脳から、分散的な小脳へと、移行させることなのだ。

この対比は、なぜ Teal が Orange より高い成果をあげうるかを、説明する。大脳による逐一の制御は、遅く、硬く、中央がボトルネックになる。小脳による分散的な協調は、速く、しなやかで、複雑な状況に、全体として即座に応答できる。ビュートゾルフ(第20章)が、従来型より高い質と低いコストを両立できたのは、組織の制御が、大脳的な中央管理から、小脳的な分散協調へと移行したからだ。そして、この移行を、個人の身体の水準で促すのが、一本歯下駄GETTAだ(第38章)。大脳の統制を手放し、小脳的な身体の協調を起動する――その身体の変容が、組織を小脳的なティールへと変える、その基盤になる。

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BODY THEORY 9

自己組織化と生命論

ティール組織の秩序は、誰かが設計したのではない。自ら立ち上がる。それは、文化身体論が生命の核心に見る、自己組織化だ。

ティール組織の自主経営と存在目的を、文化身体論が重視する 自己組織化の原理から、総合的に捉え直そう。自己組織化とは、中央の設計者なしに、秩序が自ら立ち上がる現象だ。散逸構造、シナジェティクス、生命の発生――自然界の秩序の多くは、誰かが設計したのではなく、自己組織化によって生まれた。ティール組織は、この自己組織化を、組織において実現する。

Orange の組織は、秩序を 設計する。組織図を描き、プロセスを定め、中央が統制することで、秩序を作り出し、維持する。だが Teal の組織は、秩序を 自己組織化させる。中央が設計するのではなく、メンバーが、存在目的というリズムのもとで、互いに応答し合うことで、秩序が自ずと立ち上がる。ビュートゾルフの、無数の自主経営チームが織りなす全体の秩序は、誰かが設計したのではなく、自己組織化によって創発したものだ。

ティール組織の秩序は、中央が設計するのではなく、メンバーの応答から自ら立ち上がる。自己組織化だ。

庭師としてのリーダー

自己組織化する組織において、リーダーやソースの役割は、庭師に似る。庭師は、花を「咲かせる」ことはできない。できるのは、花が咲く土壌を整え、水をやり、日を当てることだけだ。花は、自ら咲く。ティール組織のリーダーも、組織を力ずくで動かすのではなく、組織が自ら組織化する場(土壌)を保持する。組織は、その場の中で、自ら秩序を生み出す。

ここに、本図鑑が繰り返し論じてきた 制御のパラドクスが、組織のレベルで現れる。中央が、組織を精密に制御しようとするほど、組織は受動的になり、自己組織化が死ぬ。中央が制御を手放し、場を保持することに徹するほど、組織は自ら生きはじめる。これは、身体が、大脳の統制を手放し、自己組織化に委ねると、かえって生き生きと動くのと、同じ原理だ。ティール組織とは、組織の秩序を、設計から自己組織化へ、大脳から生命へと明け渡す、その転換なのである。そして、この転換の身体的な基盤――大脳の統制を手放し、身体の自己組織化を信頼すること――を育てるのが、一本歯下駄GETTAなのだ。

関連図鑑 →自己組織化図鑑 散逸構造・シナジェティクスから組織まで。ティールの自主経営=中央の設計なしに秩序が自ら立ち上がる、自己組織化の原理。
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BODY THEORY 10 / 統合

ティールと天才七文

ティールとは、結局、何なのか。文化身体論の天才七文が、その最も深い定義を与える。ティールとは、組織が生命らしくある、その状態だ。

第5部の締めくくりに、ティール組織を、文化身体論の 天才七文と接続しよう。天才七文の第一文は、こう始まる。「天才とは、生命が生命らしくあろうと務めた時に立ち現れる現象である」。ここで言う天才は、特別な個人の属性(名詞)ではなく、生命が生命らしくある、その状態(動詞・現象)だ。そしてティール組織とは、この意味での天才が、組織の水準で立ち現れた姿にほかならない。

ティール組織とは、組織が、大脳的な制御や近代的な機械化に覆われず、生命らしく在ろうと務めている、その状態だ。自主経営(自ら組織化する)、全体性(丸ごとの生命でいる)、存在目的(自ら進化の方向を持つ)――これらはすべて、組織が、機械であることをやめ、生命が生命らしくある状態へ向かう、その現象だ。ティールとは、組織における、天才という現象なのである。

ティール組織とは、組織が生命らしくあろうと務めるとき立ち現れる、天才という現象だ。

信頼できる仲間の中で

天才七文の第三文は、こう続く。「天才という現象は、信頼できる仲間の中にいる時に、最も長く持続する。信頼とは、互いのズレを愛する力である」。ティール組織も、まさにこれを体現する。全体性(第29章)によって、メンバーが互いに仮面を脱ぎ、ズレ(それぞれの個性・弱さ・違い)を愛し合える、信頼の場。その場でこそ、組織が生命らしくある状態(ティール=天才という現象)が、最も長く持続する。

そして天才七文の第七文は、こう結ばれる。「故に誰もが天才という現象になれる。この七文は、あなたへの呼びかけである」。ティール組織も同じだ。ティールは、選ばれた特別な組織だけがなれるものではない。組織が、生命らしく在ろうと務めるとき――大脳の制御を手放し、身を開き、存在目的に耳を澄ますとき――どんな組織も、ティールという現象になれる。ティール組織とは、序列の頂点にある特別な組織ではなく、あらゆる組織が、生命へと向かう、その呼びかけなのだ。次章から、この呼びかけを、どう現実の実践へと着地させるかを、見ていく。

ORGANIZATION AS A BODY

組織を、機械から生命へ。
それは、身体を大脳の統制から解き放つことと、同じだ。

ティールが求める意識の変容は、頭では起きない。組織の重心は、リーダーの意識を超えられない。だから変容は、リーダー自身の、身体の水準から始まる。

大脳の統制を手放し、身を開き、生命の自己組織化を信頼する。それが、組織を生命へと甦らせる、基盤になる。

37
IMPLEMENTATION / 実装

ティール組織のつくり方

理論から、実践へ。ティール組織は、どうすれば築けるのか。答えは、仕組みの導入ではない。意識と身体の変容から始まる。

ティール組織を、どう築くか。最もよくある誤解は、「ティールの仕組み(自主経営の制度、助言プロセスなど)を導入すれば、組織がティールになる」というものだ。だが、これは違う。仕組みは、生命の器にすぎない。器を導入しても、そこにいる人々の意識が Orange のままなら、組織はティールにならない(第11章、第26章)。ティール組織は、仕組みの導入ではなく、意識と身体の変容から始まる。

ティールへの三つの道

道1
リーダー/ソースの意識から始める
組織の重心は、リーダーやソースの意識段階を超えられない(第11章)。だから、まず、リーダー自身の意識が、Tealへと発達する必要がある。これは知識の習得ではなく、存在の変容だ。
道2
全体性の場を、先に育てる
自主経営の仕組みを入れる前に、人が仮面を脱げる、信頼の場(全体性)を育てる。恐れの組織に自主経営を導入しても、機能しない。まず、身を開ける場をつくる。
道3
存在目的に、耳を澄ます
組織が向かおうとする方向(存在目的)を、経営陣で決めるのでなく、組織全体で聴く。この「聴く」文化が、自主経営する人々を、一つの方向へ束ねる羅針盤になる。

この三つに共通するのは、ティールが、外側の仕組みからではなく、内側の変容から始まる、ということだ。仕組みは、内側の変容が起きた後で、それを支える器として、自然に形づくられていく。順序を逆にして、仕組みを先に導入すると、中身のない器だけが残り、組織はかえって混乱する。ティールへの道は、大脳的な制度設計ではなく、意識と身体の、生きた変容の道なのだ。

そして、この意識と身体の変容は、頭で「ティールとは何か」を理解するだけでは、起きない。それは、より深い、存在の水準の変容だ。本図鑑が繰り返し論じてきたように、大脳の制御を手放し、身を開き、生命の自己組織化を信頼する――この身体の変容が、ティールへの意識の発達の、基盤になる。次章では、この身体の変容を促す、具体的な装置を見る。

38
GETTA / 身体からの組織変革

ティールとGETTA ― 身体から始める組織変革

意識の変容は、頭では起きない。身体から起きる。一本歯下駄GETTAは、ティールへの意識を、身体の水準で育てる装置になりうる。

ティール組織が、意識と身体の変容から始まるなら(第37章)、その変容を、どう促すか。合同会社GETTAプランニングが開発した一本歯下駄GETTAは、ティールへの意識を、頭の理解ではなく 身体の水準で育てる装置になりうる。ここに、文化身体論と一本歯下駄の、ティール組織論への独自の貢献がある。

一本歯下駄GETTAの原理は明快だ。不安定な一点の上に立つことで、大脳の計画的制御を無効化し、身体の自律的な応答――小脳-腹ループ――を起動する。大脳が「こう立て」と命令する制御を手放した瞬間、足裏から鳩尾までの深層の環が回り始める。これは、ティールの三つのブレイクスルーが求める、意識の変容と、正確に対応する身体の変容だ。

ティールの身体を育てる三つの働き

働き1
大脳の統制を手放す(→自主経営)
一本歯下駄に立つと、大脳で身体を統制することが不可能になる。統制を手放し、身体の自己組織化に委ねる感覚が育つ。これは、自主経営が求める、中央制御から自己組織化への移行(第34章)の、身体的な基盤だ。
働き2
自我の壁を緩める(→全体性)
慣れた身体の構えが通用しない状況で、自我の壁が緩む。環境と一体化する身が育つ。これは、全体性が求める、仮面(自我の鎧)を脱ぐこと(第29章)の、身体的な入口になる。
働き3
鳩尾を起動する(→存在目的)
不安定の上でバランスを取ろうとすると、身体の中心=鳩尾が働き始める。鳩尾で感じ取る身体が育つ。これは、存在目的が求める、組織の衝動を聴く力(第30章)の、身体的な基盤になる。

強調したいのは、一本歯下駄が 万能薬ではないことだ。一本歯下駄に立てばティール組織が作れる、という話ではない。装置は、ティールへの意識の変容を支える、身体の基盤を育てるにすぎない。だが、頭で「ティールとは何か」を理解するだけでは、意識は変容しない。組織の重心が、リーダーの意識を超えられない(第11章)以上、リーダー自身の、身体からの変容が要る。

ここに、深い符合がある。ティール組織が「大脳の制御から、生命の自己組織化へ」という転換であるなら、一本歯下駄GETTAは、その同じ転換を、個人の身体において起こす装置だ。組織を機械から生命へ捉え直すことと、身体を大脳の統制から解き放つことは、同じ一つの運動の、異なる現れなのだ。理論としてのティール組織と、装置としての一本歯下駄は、組織と身体という二つの水準で、同じ脱近代――生命の回復――を、行っている。

39
CRITIQUE 1 / 批判

ティール組織への批判 ― 理想論という指摘

ティール組織を神格化してはならない。その最も鋭い批判――理想論、再現性、選択の偏りに、正面から向き合う。

ティール組織は、魅力的な理論だ。だが、鋭い批判もある。誠実な知の地図は、理論の輝きだけでなく、その影も描かねばならない。ティール組織への代表的な批判を、正面から検討する。理論の影を見据えることが、理論を正しく使う条件だ。

批判1:理想論であり、再現が難しい

最もよくある批判が、「ティール組織は理想論であり、特殊な条件でしか成り立たない」というものだ。ビュートゾルフやモーニングスターは、特定の創業者、特定の業種、特定の文化的文脈で成功した。それを、一般の組織がそのまま模倣できるのか。ティールの実例は、再現可能な方法論というより、特殊な条件が揃った幸運な事例ではないか。この批判には、真剣に向き合う必要がある。ティールは、どこでも通用する処方箋ではない。

批判2:事例選択の偏り

第二に、「成功したティール組織だけが取り上げられ、失敗した事例は語られない」という、選択バイアスの批判がある。実際、ラルーが取り上げた組織の中にも、その後、困難に直面したり、より前の段階へ逆戻りしたりしたものがある。ティールの仕組みを導入したが、うまくいかなかった組織も、数多く存在するはずだ。成功例だけを見て「ティールは優れている」と結論するのは、危うい。

批判3:権力とブラインドスポット

第三に、本図鑑が繰り返し論じてきた 創業者=ソースのブラインドスポット(第23章、第40章)がある。ティールは、フラットで対等な理想を掲げるが、実際には創業者の意識に強く依存し、権力の不平等を「無かったこと」にしがちだ。「フラットである」という建前が、かえって、見えない権力構造を温存する危険もある。また、自主経営が、実際には一部の声の大きいメンバーの支配に転じることもある。

誠実な留保
ティール組織は「これを導入すれば必ずうまくいく」という処方箋ではなく、組織が生命体としてどう機能しうるかを示す、生きた参照だ。模倣すべき型としてではなく、自組織の文脈で、どこまで、どのように生命を取り戻せるかを問う、探究の出発点として読むのが適切だ。理論の影を見据えてこそ、理論は正しく使える。
ティールは、どこでも通用する処方箋ではない。理論の影を見据えることが、正しく使う条件だ。
40
CRITIQUE 2 / ブラインドスポット

ブラインドスポット再訪 ― 創業者とソース

ティール最大の課題、ブラインドスポットを、もう一度見つめる。フラットな組織を支える、たった一人=ソースを、どう組織論に組み込むか。

ティール組織への批判の中でも、最も本質的なのが、創業者=ソースのブラインドスポットだ(第23章)。この課題を、実装の観点から、もう一度深く見つめよう。ティールは、フラットで、誰もが対等で、創業者も特別ではない、と説く。だが、ラルー自身が認めるように、ティール組織がティールであり続けられるかは、創業者=ソースの意識に、決定的に依存している。この矛盾を、どう扱うか。

ソース原理(第23章)が示す答えは、明快だ。創業者=ソースの役割を、「無かったこと」にするのではなく、正直に認める。ソースは、組織を支配する権力者ではない。だが、最初にリスクを取り、創造の場を保持する、消せない起源だ。ティール組織を健全に運営するには、この役割を隠すのではなく、明確に認め、その上で、ソースが場を保持しつつ、メンバーが自主的に動く構造を築く。フラットさと、ソースの役割は、矛盾しない。

ソースの役割を「無かったこと」にせず、正直に認めること。それが、健全なティール組織の前提だ。

継承という最大の課題

ソースのブラインドスポットが、最も深刻な形で現れるのが、継承だ。ティール組織を築いた創業者=ソースが、いつか去る。そのとき、ティールであり続けられるか。ソースの役割が「無かったこと」にされていると、継承は設計されず、ソースが去った後、組織は場の中心を失い、より前の段階へ逆戻りする。ティール組織の持続可能性は、この継承を、どう設計するかにかかっている。

本図鑑がソース原理の章で論じたように、継承は、肩書きの移譲では完成しない。それには、内側の受け渡し――出ていくソースが手放し、新しいソースが引き受けること――が要る。そして、それは、蓄積された地位の移譲ではなく、鳩尾から鳩尾への、転移する文化資本の営みだ(第33章)。ティール組織を、創業者を超えて持続させるには、この転移としての継承を、意識的に設計する必要がある。ティールのブラインドスポットを埋めることは、組織を、一人の創業者の生命から、世代を超えて受け継がれる生命へと、育てることなのだ。この課題こそ、ティール組織論の、次のフロンティアである。

41
CRITIQUE 3 / 測定

測定と評価の問題

ティール組織の成果は、どう測るのか。ここに、ティールが近代の測定パラダイムと衝突する、最後の論点がある。

ティール組織の成果は、どう測るのか。生命体としての組織が、健やかに生きているか。自主経営が機能しているか。全体性が育っているか。存在目的が生きているか。これらを、数値で測れるのか。近代の経営は「測定できないものは管理できない」と考え、あらゆるものを数値化しようとする。だが、ティールの生命は、数値化できるのか。

ティールの答えは、微妙だ。一方で、ティール組織は、しばしば従来型より優れた 数値――利益、成長、離職率、顧客満足――を示す(ビュートゾルフの40%コスト削減など)。だが他方で、ティールの本質――組織の生命、全体性の質、存在目的の深さ――は、数値には還元できない。それは、その組織に身を置いたとき、生命が流れているかを、身体で感じ取るしかない。数値は、生命の結果を部分的に映すが、生命そのものではない。

ティールの本質=組織の生命は、数値には還元できない。身を置いたとき、身体が感じ取るしかない。

測定が、生命を殺すとき

ここに、近代の測定パラダイムの、深い危険がある。ティールの生命を数値に還元し、それを目標にすると、生命そのものが失われる。「全体性スコア」を作り、それを目標にすると、人々はスコアを上げる振る舞いを始め、本当の全体性はむしろ濁る(グッドハートの法則)。組織の生命を、数値管理の対象にした瞬間、それは生命でなくなる。測定しようとすることが、測定対象を破壊する。

では、ティール組織は、成果とどう向き合うのか。数値を無視するのではない。だが、数値を目的にするのではなく、生命が流れているかを、身体で感じ取ることを、根本に置く。数値は、生命の健やかさの、部分的な現れとして参照する。だが、最終的な判断は、組織に生命が流れているかという、身体的な感受に委ねる。本図鑑が繰り返し論じてきたように、生命にかかわる最も重要なもの――組織の生命、関係の質、存在目的――は、量に変換すると失われる。ティール組織は、この測定できないものを、測定しようとするのではなく、身体で感じ取り、守り続ける。それが、生命体としての組織を保つ、最も本質的な営みなのだ。

42
EPILOGUE / 終章

ティールという思想 ― 組織を生命へ

全42章を貫いてきたのは、一つの確信だった。組織は、機械ではない。一つの生命である。ティールとは、組織を生命へと甦らせる、思想の名だ。

フレデリック・ラルーが世界中の組織を訪ね歩いて見出したティール組織は、一見、新しい経営手法に見える。自主経営、全体性、存在目的。だが、この図鑑が辿ってきたように、その奥には、近代という時代そのものへの、深い応答が潜んでいた。

近代――Orange の段階――は、組織を 機械として捉えてきた。外から設計し、中央から制御し、人を部品(リソース)として扱い、生命を数字に変換する。この機械のパラダイムは、空前の繁栄をもたらすと同時に、組織の内側から、生命を奪ってきた。燃え尽き、意味の喪失、際限のない成長への強迫、そして地球環境の破壊。機械としての組織は、成功の頂点で、生命を失う。

ティール組織が指し示すのは、その逆の方向だ。組織を、制御すべき機械としてではなく、自ら進化する生命体として捉え直す。中央の制御を手放し(自主経営)、仮面を脱ぎ(全体性)、組織自身の進化の方向に耳を澄ます(存在目的)。これは、単なる経営手法ではない。組織を、機械から生命へと甦らせる、世界観の転換だ。本図鑑が文化身体論の言葉で論じてきたように、それは、器(文明)を壊さずに、中身(生命)を取り戻す――組織における 脱近代の実践なのである。

組織は、機械ではない。一つの生命である。ティールとは、組織を生命へと甦らせる、思想の名だ。

組織を、生命へ

この図鑑が、世界の組織論と文化身体論の交点で明らかにしてきたのは、ティール組織が、単なる「フラットな組織」ではない、ということだった。ティールとは、組織における 中動態(自ら組織化する)であり、の回復(仮面を脱ぐ)であり、組織の 衝動を聴くこと(存在目的)であり、カオス共鳴(生命体としての同期)であり、脱近代(生命の回復)であった。つまり、ティール組織とは、組織が、大脳の機械的制御を手放し、生命が生命らしくあろうと務める、その現象なのだ。

そして、ティールが求める意識と身体の変容は、頭の理解からは起きない。組織の重心が、リーダーの意識を超えられない以上、変容は、リーダー自身の、身体の水準から始まる。大脳の統制を手放し、身を開き、生命の自己組織化を信頼すること。この身体の変容が、組織を生命へと甦らせる、その基盤になる。一本歯下駄GETTAが、個人の身体において起こそうとするのは、まさにこの変容だ。組織を機械から生命へ捉え直すことと、身体を大脳の統制から解き放つことは、同じ一つの脱近代の、二つの現れなのである。

だから、ティール組織の最も深いメッセージは、経営論を超えて、生き方そのものに向かう。あなたの組織は、機械として、生命を数字に変換し続けるのか。それとも、生命体として、自ら進化しようとするのか。そして、あなた自身は、大脳の統制のもとで、仮面をかぶって生きるのか。それとも、身を開き、鳩尾の衝動に従い、生命らしく生きるのか。ティール組織とは、序列の頂点にある特別な組織の名ではない。あらゆる組織が、あらゆる人が、生命へと向かうという、呼びかけなのだ。組織を、生命へ。それが、ティールという思想の、核心である。

― ティール組織図鑑・了 ―

FAQ / よくある質問

ティール組織 ― よくある質問

ティール組織とは何ですか?

ティール組織(Teal Organization)とは、フレデリック・ラルーが著書『ティール組織(Reinventing Organizations)』で提唱した、組織の新しい発達段階です。上司も、階層も、詳細な予算も、業績目標も持たず、組織を制御すべき機械ではなく一つの生命体として捉えます。それでいて、従来型の組織をはるかに上回る成果と、働く人の充実を両立します。ティールを定義するのは、自主経営(上司なしの自己組織化)、全体性(丸ごとの自分で働く)、存在目的(組織自身の進化の方向に耳を澄ます)という三つのブレイクスルーです。ティールは、これまでの発達段階(Red・Amber・Orange・Green)を否定するのではなく、含んで超える、組織の次の進化形です。

フレデリック・ラルーとは誰ですか?

フレデリック・ラルー(Frederic Laloux)は、ベルギー出身の元マッキンゼーのアソシエイト・パートナーで、『ティール組織(Reinventing Organizations)』(2014)の著者です。彼は、既存の組織のあり方への深い違和感から、まったく新しい原理で運営されながら卓越した成果をあげている組織を、世界中に探し歩きました。オランダの在宅ケア組織ビュートゾルフ、アメリカのトマト加工会社モーニングスターなど12の組織を詳細に調査し、そこに組織の次の発達段階=ティールを見出しました。重要なのは、彼が『こうすべきだ』という処方箋を示したのではなく、すでに存在する組織を観察し記述した点です。本の序文は、インテグラル理論のケン・ウィルバーが寄せています。

組織の発達段階(色)とは何ですか?

ラルーは、人類の組織を意識の発達段階に対応する色で描きました。Red(衝動型)は力による支配、恐怖で統率する狼の群れ。Amber(順応型)は規則と階層、役割が固定された軍隊や教会。Orange(達成型)は成果と競争、機械の隠喩で捉えられる近代企業。Green(多元型)は価値観と文化、家族のように人を大切にする組織。そしてTeal(進化型)は、一つの生命体として自ら進化する組織です。重要なのは、これが人間の優劣ではなく、対応できる複雑性の違いを示すこと、そして後の段階が前の段階を『含んで超える』ことです。この色分けは、ケン・ウィルバーのインテグラル理論やスパイラル・ダイナミクスの系譜に基づいています。

三つのブレイクスルーとは何ですか?

ティール組織を定義する三つの根本的な突破口です。第一に自主経営(Self-management)――上司や階層による指揮命令ではなく、仲間との関係性の中で、中央の制御なしに全体が調和する自己組織化。第二に全体性(Wholeness)――職業上の仮面を脱ぎ、感情も直感も弱さも含めた自分の全体を職場に持ち込むこと。第三に存在目的(Evolutionary Purpose)――組織を、経営者が目的を与える機械ではなく、それ自身が進化の方向を持つ生命体として捉え、その方向に耳を澄ますこと。この三つはバラバラの手法ではなく、組織を生命体として捉えるという一つの世界観の三つの側面で、互いに支え合い、一つが欠ければ他も成り立ちません。

自主経営(セルフマネジメント)はどう機能しますか?

自主経営は、上司による指揮命令ではなく、仲間との関係性の中で組織を運営する仕組みです。マネジャーも組織図も昇進もなく、一人ひとりが必要な判断を自ら下します。無秩序ではなく、中央の指令なしに全体が調和する自己組織化です。その核心が『助言プロセス(Advice Process)』です。原則はシンプルで、誰もがどんな決定も下せますが、その前に、その決定によって影響を受ける人々と、その分野の専門知識を持つ人々に、助言を求めなければなりません。助言を求めるのであって合意を得るのではなく、決定者が助言を聴いた上で自分で決めます。これにより、意思決定のスピードと集合知の活用が両立し、当事者性・学習・つながりが生まれます。

全体性(ホールネス)とは何ですか?

全体性(Wholeness)とは、職業上の仮面を脱ぎ、感情・直感・弱さ・精神性を含めた自分の全体を職場に持ち込むことです。私たちは職場で無意識に『有能で合理的で冷静なプロフェッショナル』という仮面をかぶり、生命力の大部分を職場の外に置き去りにします。全体性を実現する組織は、この仮面の根にある恐れを信頼へと置き換え、安心して自分を出せる場を意図的に築きます。すると、仮面の維持に使われていた膨大なエネルギーが解放され、創造性と生命力に変わります。近年エイミー・エドモンドソンが体系化した心理的安全性と重なりますが、全体性はそれを超えて、感情・直感・精神性を含む存在の全体が歓迎されることを意味します。

存在目的(進化する目的)とは何ですか?

存在目的(Evolutionary Purpose)とは、組織を、経営者が目的を与える機械ではなく、それ自身が進化しようとする方向を持つ生命体として捉えることです。従来の組織では、目的(ミッション・ビジョン・戦略)は経営者が上から設定し伝達します。だがティール組織では、メンバーの役割は目的を与えることではなく、組織がどこへ向かおうとしているかに耳を澄ますことになります。未来を予測・計画・制御するのではなく、今この瞬間に何が現れつつあるかを感知し応答する――この転換により、戦略は中央が策定するものではなく、組織全体の感知と応答から創発します。これは、シャーマーのU理論のプレゼンシングと深く重なります。

ティール組織の実例はありますか?

はい、ティールは理想論ではなく現実に存在します。最も象徴的なのがオランダの在宅ケア組織ビュートゾルフです。2006年に看護師のヨス・デ・ブロックが4人で始め、10〜12人の自主経営チームがマネジャーなしに地域のケアを担う仕組みで、1万人以上の看護師を擁する組織に成長。ケアの質・患者満足度・看護師満足度が突出して高く、しかも従来より約40%低いコストを実現しました。もう一つがアメリカ最大のトマト加工会社モーニングスターで、CLOU(同僚間覚書)を通じて数百人が上司なしに働き、業界トップの効率を誇ります。ほかにフランスのFAVI、パタゴニアなど、業種も国も超えて実例が広がっています。ただし事例選択には成功例を強調する偏りもありうる点に注意が必要です。

ティール組織とホラクラシーの違いは?

ホラクラシー(Holacracy)は、ブライアン・ロバートソンが開発した、権限を役割(ロール)とサークルに構造的に分散する組織運営システムで、ティールの自主経営を精緻なルールとして実装したものです。両者は同じではありません。ティールは、自主経営・全体性・存在目的という三つのブレイクスルーからなる、組織を生命体として捉える世界観全体を指します。ホラクラシーが扱うのは主に自主経営という構造だけで、全体性(丸ごとの自分で働く)や存在目的(組織の生命の方向を聴く)はルールでは作れません。ホラクラシーは精緻な器を提供しますが、仕組みだけでは生命は宿りません。そこにいる人々の意識がOrangeのままだと、ホラクラシーはより複雑な官僚制になる危険もあります。

ティール組織への批判は何ですか?

主に三つです。第一に『理想論であり、特殊な条件でしか成り立たない』という批判。ビュートゾルフなどは特定の創業者・業種・文化的文脈で成功しており、一般の組織がそのまま模倣できるのか、という指摘です。第二に『成功したティール組織だけが取り上げられ、失敗事例が語られない』という選択バイアスの批判。実際、その後困難に直面したり前の段階へ逆戻りした組織もあります。第三に、創業者=ソースのブラインドスポット――ティールはフラットで対等な理想を掲げるが、実際には創業者の意識に強く依存し、権力の不平等を『無かったこと』にしがちで、自主経営が一部の声の大きいメンバーの支配に転じることもある、という批判です。ティールは処方箋ではなく、自組織の文脈で生命をどう取り戻すかを問う探究の出発点として読むのが適切です。

ティール組織はどうすれば作れますか?

最もよくある誤解は『ティールの仕組みを導入すれば組織がティールになる』ですが、これは違います。仕組みは生命の器にすぎず、そこにいる人々、とりわけリーダーやソースの意識がOrangeのままでは組織はティールになりません。組織の重心は、リーダーの意識段階を超えられないからです。だからティールは、仕組みの導入ではなく意識と身体の変容から始まります。三つの道があります。(1)リーダー/ソース自身の意識がTealへと発達すること(知識の習得でなく存在の変容)。(2)自主経営の仕組みを入れる前に、人が仮面を脱げる信頼の場(全体性)を育てること。(3)組織が向かおうとする方向(存在目的)を、経営陣でなく組織全体で聴く文化を育てること。順序を逆にして仕組みを先に導入すると、中身のない器だけが残り、かえって混乱します。

文化身体論とティール組織はどう関係しますか?

宮崎要輔の文化身体論は、ティール組織を組織における『脱近代』(器を壊さずに中身=生命を取り戻すこと)として捉え直します。Orange段階は近代(大脳が世界を支配し生命を数字に変換する)そのものであり、ティールはそれを含んで超えます。自主経営は中動態(誰かが支配するのでも支配されるのでもなく、組織が自ら組織化する)、全体性は身の回復(大脳が作った自我の鎧=仮面を脱ぐ)、存在目的は組織の鳩尾から湧く衝動を聴くこと、生命体としての組織は複数の身体のカオス共鳴(蔵本モデルの同期)として捉えられます。Orangeの限界の根には秀才の構造的欠陥(大脳で設計するほど生命が抜け落ちる)があり、ティールへの意識の変容は、頭の理解でなく身体の水準から起きます。一本歯下駄GETTAは、大脳の統制を手放し身を開く、その身体の変容を育てる装置になりえます。

RELATED ENCYCLOPEDIA ・ 関連図鑑

知識創造理論図鑑 ― 野中郁次郎×文化身体論

知識ビジョンが場から立ち上がり、組織が進化する。ティールの自主経営・全体性・進化する目的と響き合う、知が生まれる組織の理論へ。

野中郁次郎×文化身体論の知識創造理論図鑑
RELATED ENCYCLOPEDIA ・ SENSEMAKING
組織を機械から生命へ。その転回を、意味生成という側面から描いた理論がある。行為が環境を立ち上げ、意味は身体から立ち上がる。
センスメイキング(ワイク)を読む
カール・ワイク|イナクトメント・組織化・立ち現れ|全42章
ティール組織図鑑 — Teal Organization × 文化身体論
フレデリック・ラルーのティール組織を、世界の組織論と文化身体論の交点まで掘り下げた知の地図。
GETTA THEORY ARCHIVE  |  合同会社GETTAプランニング  |  getta.jp

定義

ティール組織とは、組織を機械ではなく生命体と捉え、自主経営・全体性・存在目的の三つを柱に自ら進化する、フレデリック・ラルーの組織モデルである。

文化身体論から見たティール組織

ラルーが組織を機械ではなく生命体(living system)として捉え直したとき、経営の言語は静かに文法を変えた。機械は外から設計され、指令によって動く。だが生命体は、中央の指令がなくとも、要素どうしの相互作用のなかから自ら秩序を立ち上げる。ラルーが自主経営(self-management)と呼んだこの様態は、科学の言葉でいえば自己組織化である。上司が制御するのでも、規則が縛るのでもなく、それでいて無秩序に散らばるのでもない——秩序が内側から立ち現れる。これは能動でも受動でもない中動態の構造そのものだ。GETTAの一本歯下駄を履いた身体が、バランスを意志で「制御する」のでも外力に「崩される」のでもなく、絶えず微細に応答しながら態勢を立ち上げつづける——その様態と、自主経営する組織は同じ文法を共有している。

この組織像は思いつきの比喩ではない。自ら秩序を形づくる系という発想は、I. プリゴジンの散逸構造——非平衡の開放系にエネルギーが流れ込むとき、渦のような秩序が自発的に生成する現象——に始まる自己組織化と複雑系の科学に、系譜的に裏打ちされている。組織を生命へ、とは、外から積み上げる設計思想から、内から湧く創発への移行にほかならない。ラルーが並べた発達段階の色(Red・Amber・Orange・Green・Teal)もまた、ケン・ウィルバーのインテグラル理論、その背景にあるクレア・グレイブスのスパイラル・ダイナミクスという意識の発達段階論の継承である。色は装飾ではなく、複雑性の階層を示す文法なのだ。

三つの柱のうち全体性(wholeness)は、とりわけ身体論的な主題である。近代の組織は、人に職業上の仮面をかぶせ、感情や直観や身体を入口に置いてこさせた。全体性とは、その分割をやめ、身体を丸ごと職場に持ち込むことである。頭だけで働く人間から、身体ごと在る人間へ。ここでGETTAの確率共鳴が接続する。確率共鳴とは、適度なノイズがかえって微弱な信号の検出を高める現象である。仮面を外し、弱さや違和感という「揺らぎ」を場に持ち込むことは、組織にとって除去すべき雑音ではなく、感受を鋭敏化させる生産的なノイズとして働く。複数の身体がそれぞれの基準信号を保ちながら同じ場で共振するとき、組織は一つの生きた全体としてふるまいはじめる——GETTAがカオス共鳴と呼ぶ、フィールドが一つの生き物になる位相である。

そして最も深い符合は存在目的(evolutionary purpose)にある。ティール組織は、未来を予測し計画で統制するのではなく、組織が今どこへ進もうとしているのかに耳を澄まし、感知して応答する。戦略は立案される前に、まず場から立ち現れる。これはGETTAの「身体が先、言語が後」と同型である。言葉による計画が身体的な感受に先立つのではない。まず身体が——組織という集合的な身体が——場を感じ取り、方向は後から言語化される。五歳の身体性、すなわち神経のループが開いて世界と直に接続していたあの状態を、ラルーは組織と社会の水準で描き直した。ティール組織図鑑とは、組織を再び生命へと開くための、身体論の地図なのである。

ティール組織をめぐる補足Q&A

ティール組織の「自主経営」は、科学でいう自己組織化と同じものですか。

構造として同型です。自己組織化とは、外部からの制御なしに、要素どうしの相互作用のなかから自発的に秩序が形成される現象を指します。ティール組織の自主経営(self-management)も、中央の指令や固定した階層に頼らず、助言プロセスなどを通じて秩序が内側から立ち上がります。ラルーが組織を生命体と呼ぶのは、この自己組織化する性質を捉えた表現です。

発達段階の色(Red・Amber・Orange・Green・Teal)は、ラルーの独創ですか。

独創ではなく継承です。この色による発達段階の枠組みは、ケン・ウィルバーのインテグラル理論、およびその背景にあるクレア・グレイブスのスパイラル・ダイナミクス(spiral dynamics)に由来します。ラルーはこれを組織の進化に適用しました。各段階は優劣ではなく複雑性の階層を示し、上位は下位を『含んで超える』という関係にあります。

組織を「生命体」と呼ぶのは、単なる比喩ではないのですか。

比喩を超えた学術的背景があります。自ら秩序を形づくる系という発想は、I. プリゴジンの散逸構造(1977年ノーベル化学賞)に始まる自己組織化・複雑系の科学と系譜的につながります。非平衡の開放系では、エネルギーの流れのなかで秩序が自発的に生成します。ティール組織の『生命体としての組織』は、この科学的な組織像を経営の言語へ翻訳したものと読めます。

「全体性」は、なぜ身体論と関係するのですか。

全体性(wholeness)とは、職業上の仮面を外し、感情・直観・身体を含めた人間の全体を職場に持ち込むことです。近代の組織は頭だけで働く人間を前提とし、身体を入口に置いてこさせました。全体性はその分割をやめ、身体ごと在ることを回復します。GETTAが説く『身体を分割しない』という主題と、全体性は正面から重なります。

GETTAの「カオス共鳴」は、ティール組織のどこに対応しますか。

全体性が実現した場に対応します。カオス共鳴とは、基準信号を持つ身体が複数集まり、フィールドが一つの生き物のようにふるまう位相です。ティール組織では、仮面を外した個々の身体が、それぞれの中心を保ちながら同じ場で共振します。弱さや違和感という揺らぎは、除去すべき雑音ではなく、確率共鳴のように感受を鋭敏化させる生産的なノイズとして働きます。

ティール組織の日本語版の書誌を正確に教えてください。

原著は Frederic Laloux『Reinventing Organizations』で、2014年に Nelson Parker(ブリュッセル)から刊行され、序文はケン・ウィルバーです。日本語版は『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年1月)で、訳は鈴木立哉、解説は嘉村賢州です。解説者の嘉村賢州は、日本におけるティール組織理解の中心的な紹介者でもあります。

一次資料・参考文献

  • CiNii Research「『ティール組織』から考える組織 ― ティール組織は、目指してはいけない!?」(嘉村賢州, 場とつながりラボhome’s vi 代表理事/東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授)日本語版『ティール組織』の解説を執筆した嘉村賢州による論考の書誌レコード。全国の学術情報を束ねるCiNii Researchの一次書誌。『ティールは目指す到達点ではなく、存在目的を探求しつづけるプロセスである』という論点は、本図鑑が説く自己組織化・中動態(能動でも受動でもない様態)としてのティール理解を、当の紹介者自身の言葉で裏づける。存在目的への感知と応答=身体が先、言語が後、の構造を組織論の側から根拠づける。
  • J-STAGE「さまざまな自己組織化とその工学的応用」(山口智彦, 表面技術 62巻2号, 2011, DOI 10.4139/sfj.62.74)自己組織化を『複数の要素(個)からなるシステムが時間とともに何らかの意味で自発的に秩序化する過程』と定義する査読誌の総説論文。DOIによって恒久的に同定される一次学術資料である。ティール組織の自主経営(self-management)、すなわち中央の制御なしに秩序が組織の内側から立ち上がるという組織像の、科学的な裏づけとなる。組織を生命体と呼ぶことが単なる比喩を超えて、プリゴジンの散逸構造に始まる自己組織化・複雑系の科学に系譜的に接続することを示す典拠であり、GETTAの『自己組織化』『カオス共鳴』の語をも、経営でも身体でもない中立的な学術定義の側から支える。
  • CiNii Research「さまざまな自己組織化とその工学的応用」書誌(表面技術 62(2), 2011)上記の自己組織化総説を、国内の学術情報を横断的に束ねるCiNii Research側から同定する書誌レコード。J-STAGE本文およびDOIに加えて、公的な学術データベースからも同一論文にたどり着けることを保証する二重の典拠である。自己組織化とは外部からの制御なしに要素どうしの相互作用から秩序が創発する現象である、という定義を担保し、ティール組織の自主経営が単なる放任でも統制でもない第三の様態であること、そしてそれがGETTAの『自己組織化』『カオス共鳴(フィールドが一つの生き物になる)』と構造を共有することを、学術的に根拠づける。
  • コトバンク「自己組織化(じこそしきか)」(日本大百科全書ほか)自己組織化を『構成要素が自ら集まって特定の秩序構造を形成する現象』とする、日本大百科全書ほかに基づく権威的な事典項目。ティール組織の自主経営(self-management)、および組織が中央の指令や固定した階層に頼らずに秩序を立ち上げる生命体的な性質を、標準的で中立的な学術定義の側から裏づける。GETTAの『自己組織化』および『中動態(能動でも受動でもなく、内側から立ち現れる態)』の概念を、経営学にも身体論にも偏らない共通の語義として確定させる基盤となり、本図鑑の接続論の土台を提供する。
  • コトバンク「散逸構造(さんいつこうぞう)」(I. プリゴジン, 1977年ノーベル化学賞)非平衡の開放系において自己組織化によって形成される巨視的な秩序=散逸構造(dissipative structure)を解説する権威的な事典項目。ベルギーの物理化学者I. プリゴジンが提唱し、1977年にノーベル化学賞を受賞した理論の定義を示す。散逸構造とは、外部からエネルギーが流れ込む開放系においてのみ維持される渦のような動的秩序であり、『生命体としての組織』が単なる比喩ではなく、エネルギーの流れのなかで秩序が自発的に生成するという科学的な組織像に接続することの典拠となる。ティール組織の、計画ではなく感知と応答から戦略が創発するという発想の理論的背景をなす。
  • コトバンク「態(たい)」――能動態・受動態・中動態(middle voice)の文法範疇ティール組織の自主経営(制御するのでも制御されるのでもなく、秩序が場から立ち現れる)を裏づける文法概念、中動態(middle voice)を含む『態』の権威的な事典項目。中動態とは、古典ギリシア語などに見られ、動作が主語の外へ向かうのでも外から加わるのでもなく、主語の内部で立ち現れる態を指す。この定義が、能動態の組織観(トップが指令し、部下がそれに従う)を超えるティールの様態を精確に説明し、同時にGETTAの中動態(履けば身体の態勢が立ち現れる、鍛えるのでも鍛えられるのでもない)とティール組織が同じ文法を共有することを、言語学の側から根拠づける。
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