ソーシャルイノベーションとは、社会課題を創造的なデザインで解き、事業や仕組みとして持続的に社会を変える実践です。本図鑑は日本の229事例を貫く19の型(原理)を抽出しました。
核心は「価値の反転」——弱さ・施し・周縁・「ないこと」といった劣位とされたものを、資源・機会・先進地・固有の価値へと転じる構造です。各型は「これまで→転換」の図と代表事例から引けます。
弱さを、資源に変える
欠落とされてきたものを、人がつながる入口に変える。
弱さや苦労を排除・克服する対象とせず、公開し分かち合うことで、かえって人がつながり事業や表現が生まれる。「強くする」のでなく「弱いまま活かす」発想の転換。
施しを、機会に変える
助けるのでなく、自ら立てる機会を手渡す。
寄付や援助で「与える」のでなく、仕事・融資・販路といった「機会」を手渡し、本人の力で立てるようにする。福祉でなくビジネスとして、誇りごと支える。
つくらず、使われ方を設計する
新しく建てるより、人のつながりと使われ方をデザインする。
公共空間やサービスを「つくる」ことより、それが「どう使われ、誰がつながるか」を設計する。完成品でなく、人の能動的なふるまいが生まれる余白をつくる。
型は、真似るためでなく、見抜くためにある。
同じ構造が、分野も時代も超えて何度も現れる。
顔の見える関係に、戻す
誰が作ったか分からない流通を、顔の見える関係に編み直す。
大量生産・匿名流通で切れた作り手と使い手の関係を、産地直送・産消提携・顔の見える電力などで結び直す。「何を」でなく「誰から」買うかを取り戻す。
成果や共感に、お金を連動させる
お金の流れを、成果や応援したい気持ちにつなぎ替える。
行政の予算消化や一律の補助でなく、達成した成果や、共感した個人の意思にお金を連動させる。資金の流れそのものを、社会を動かすデザインの対象にする。
周縁を、先進地に反転する
最も困っている場所を、最も先を行く場所に変える。
人口減・財政難の「課題先進地」を、まさにその課題ゆえの実験場として先進モデルに転じる。なりゆきの未来を変えうることを、周縁から証明する。
「ないこと」を、価値に変える
欠けているとされたものを、ここにしかない価値に転じる。
何もない山村の暗い夜空、山の葉っぱ、不便さ——「ないこと・劣っていること」とされた条件を、よそにはない固有の資源として読み替える。
見せ方を変えて、甦らせる
中身でなく、伝え方・見せ方を変えて価値を甦らせる。
対象そのものを変えるのでなく、見せ方・伝え方を設計し直すことで、衰退したもの・無名のものに新たな価値と人気を生む。デザインは「翻訳」である。
社会イノベーションの多くは、価値の反転から始まる。
弱さ・欠落・周縁・「ないこと」——劣位とされたものが、源泉になる。
使われない場を、ひらく
空き家や遊休公共空間を、まちの拠点へと開く。
空き家・遊休不動産・使われない公共空間を、規制の隙間を縫って改修し、人が集い事業が回る場へと開く。新築でなくリノベーションで、まちの価値を底上げする。
関わり続ける人を、つくる
移住でも観光でもない、地域に関わり続ける人を増やす。
定住人口(移住)か交流人口(観光)かの二択を超え、継続的に地域に関わり続ける人々を地域の力と捉える。一度きりでなく、関係そのものを資源にする。
OFFICIAL LINEブログには書ききれない一次情報を、公式LINEで直接お届け。実践トレーニング / 体験会・講習会の先行案内 / 身体と神経の研究アップデート友だち追加(無料)補助金に頼らず、小さく稼いで再投資する
補助金頼みをやめ、小さく稼いで地域に再投資する。
補助金に依存した一過性の活性化でなく、事業として小さく確実に稼ぎ、その利益を地域へ再投資して回し続ける。「稼ぐ」ことを、まちづくりの前提に据える。
恩を送り、相互扶助を組み直す
見返りでなく、次へ送る循環で支え合いを組み直す。
等価交換や私有を超え、得たものを次の挑戦者や共同体へ送る。協同組合・恩送り経営・農場の共有など、相互扶助を現代の仕組みとして組み直す。
専門を、市民に開く
専門家の領分を、市民が担える形にひらく。
技術・スキル・学びを専門家に委ねるのでなく、市民が本業の力を持ち寄り、あるいは誰もが先生にも生徒にもなれる形にひらく。担い手の裾野を広げる。
間違いや弱りを、許し合う場をつくる
間違いや弱りを排除せず、許し合える場を設計する。
効率や管理から外れる人を排除するのでなく、間違いや弱りを前提に許し合える居場所をつくる。病院でも家でもない第三の場、世代も背景も混ざる場。
EMBODIED ORGANIZATION ── 組織を、身体から
ソーシャルイノベーションは、共に揺れる身体から始まる。
関係の質は、身体の同期から生まれる。
一本の歯は、場の身体を整える最小の道具。
つくって終わり、ではない。関わり続けるなかで、人も場も育つ。
能動でも受動でもない、中動態のデザイン。
境界を、なくして混ぜる
分けられてきた領域の境界を、なくして混ぜる。
健常と障害、福祉とビジネス、農と福祉——分けられてきた領域の境界を溶かし、混ぜることで新しい価値を生む。変わるべきは個人でなく、社会の側の壁。
学びの場を、地域そのものにする
教室を出て、地域や自然そのものを学びの場にする。
教科書の正解を覚える学びから、地域・自然・暮らしの現場そのものを学びの場とする学びへ。子どもが主体的に問いを立て、地域に関わりながら育つ。
制度の狭間を、仕組みにする
既存制度の狭間に落ちる困りごとを、新しい仕組みにする。
病児保育、貧困、孤立——既存の制度では拾えない困りごとを、現場の事業として解き、さらに政策提言へと往復して新しい仕組みそのものをつくる。
物語として記録し、社会に問う
見過ごされた痛みを、物語として記録し社会に問う。
統計や報告では掬えない命の痛みや暮らしを、文学・記録・編集の力で残し、社会に問い直す。表現することが、回復であり告発でもある。
当事者・住民が、決める
決定を、行政や専門家から住民・当事者の手に戻す。
政策や計画を行政・専門家が決めて与えるのでなく、住民や当事者自身が議論し決める。決める主体が変わることで、地域は「自分ごと」として動き出す。
19の型は、誰かの天才の専売ではない。
構造が見えれば、次の一手は、あなたの現場からも打てる。
ソーシャルイノベーションをめぐる問い
定義
ソーシャルイノベーションとは、社会的課題を創造的に解く新しい事業や仕組みを生み出し、持続的に社会を変えていく革新である。
文化身体論から見たソーシャルイノベーション
本図鑑が229の実践から抽出した19の型は、単なる事例集ではなく創造の文法である。この「型(かた/パターン)」として創造を捉える方法は、太刀川英輔『進化思考』(海士の風・英治出版、第30回山本七平賞)の中核と構造的に一致する。進化思考は、生物進化と人間の創造がともに変異と適応の反復で生じると説く。「弱さを、資源に変える」「ないことを、価値に変える」「周縁を、先進地に反転する」——これらは進化思考でいう変異(逆転・欠失・変量)が、社会という環境のなかで発現し、適応によって生き残った型にほかならない。19の型は、社会変革ドメインにおける創造の型のカタログとして読める。
とりわけ「弱さを、資源に変える」という反転は、GETTAの確率共鳴と構造的に重なる。確率共鳴とは、閾値に届かない弱い信号が、適切なノイズを加えられることでかえって増幅され、検出可能になる現象である。障害・過疎・高齢・欠落といった周縁の弱い信号は、それ自体では社会に届かない。しかし当事者を主役に据えた関係性の系に置かれたとき、その弱さは社会を動かす強い信号へと増幅される。一本歯下駄が身体に入れる「ゆらぎ」が感覚を鋭敏化させる構造が、そのまま社会の次元で反復されている(物理現象そのものではなく、構造的な類比である)。
さらに、これらの型の多くは社会を外から機械的に設計するのではなく、関係性の場に身を置くうちに変化が立ち上がる中動態的な様態をとる。「当事者・住民が、決める」「顔の見える関係に、戻す」型は、能動でも受動でもない第三の態である。これはWestley『誰が世界を変えるのか』が説く、社会を複雑適応系として関係性から捉える立場と響き合う。「境界を、なくして混ぜる」「学びの場を、地域そのものにする」型は、複数の主体が共鳴してフィールドが一つの生き物になるカオス共鳴に対応し、「専門を、市民に開く」型は、制度化・専門分化以前の開かれた状態=五歳の身体性を、コミュニティの次元で再び開く試みである。社会イノベーションの型は、身体で起きることの、社会における相似形なのだ。
ソーシャルイノベーションをめぐる補足Q&A
「社会を変える19の型」は、太刀川英輔の『進化思考』とどう関係しますか。
深く関係します。『進化思考』(海士の風・英治出版、第30回山本七平賞)は、創造を生物進化と同じ「変異×適応」の型として捉える方法論です。本図鑑が229の実践から19の型を抽出したことは、この「創造を型として捉える」方法を社会変革の領域で具体化したものといえます。「弱さを資源に変える」などの型は、進化思考でいう変異が社会という環境で発現し、適応によって生き残った型として読めます。
なぜ「弱さ」や「周縁」が資源・先進地に反転しうるのですか。
GETTAの確率共鳴という考え方で説明できます。確率共鳴とは、閾値に届かない弱い信号が、適切なノイズを加えられると増幅されて検出可能になる現象です。障害・過疎・高齢・欠落といった周縁の弱い信号は、それ単独では社会に届きませんが、当事者を主役に据えた関係性の系に置かれると、社会を動かす信号へ増幅されます。物理現象そのものの適用ではなく、構造的な類比としての説明です。
社会を「機械的に設計する」のではなく「関係性から立ち上げる」とは、どういうことですか。
GETTAでいう中動態的な様態です。能動(外から設計する)でも受動(ただ待つ)でもなく、関係性の場に身を置くうちに変化が立ち上がる第三の態を指します。「当事者・住民が決める」「顔の見える関係に戻す」型がこれにあたります。Frances Westley『誰が世界を変えるのか』が社会を複雑適応系として関係性から捉える立場とも一致します。
ソーシャルイノベーションの海外理論には、どのようなものがありますか。
英国のGeoff Mulgan(Young Foundation)は社会イノベーションを「機能する新しいアイデア」と定義しました。カナダのFrances Westleyらは『Getting to Maybe(邦訳:誰が世界を変えるのか)』で、複雑適応系とレジリエンスの視点から社会変化を関係性として捉えました。日本では谷本寛治が、社会的課題を事業として解き新しい社会的価値を生む革新としてSIを体系化しています。
「専門を市民に開く」「混ぜる」型は、GETTAの思想とどうつながりますか。
GETTAの五歳の身体性とカオス共鳴につながります。五歳の身体性とは、制度化・専門分化以前の開かれた状態のことです。「専門を市民に開く」「境界をなくして混ぜる」「学びの場を地域そのものにする」型は、閉じた専門領域を再び開き、複数の主体が共鳴してフィールドが一つの生き物になる状態——カオス共鳴——を社会の次元でつくり出す試みといえます。
一次資料・参考文献
- CiNii Books 書誌『進化思考』(太刀川英輔著)海士の風・英治出版(発売)、2021.4、510p、NDC141.5(思考・創造性・進化論)。19の型=創造の型論の権威的典拠。
- 国立国会図書館サーチ『進化思考』書誌初版(変異と適応)・増補改訂版2023(変異と選択)の書誌。副題変更を確認できる。
- CiNii Research「ソーシャル・イノベーション 谷本寛治」谷本寛治らによるSIの学術書誌群。『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』(NTT出版,2013)等。SI定義の日本語学術的裏付け。
- J-STAGE「ソーシャル・イノベーション」査読論文検索社会的企業・社会的課題解決に関する査読論文群。SI概念の学術的射程を確認できる一次アクセス。
- J-STAGE 解説「ゆらぎを伴うシステムでの確率共鳴とカオス共鳴」計測と制御 49(4)確率共鳴とカオス共鳴を同時に扱う査読解説。弱い信号の増幅という接続の核を裏付ける科学的典拠。
- 国立国会図書館サーチ『誰が世界を変えるのか』(Getting to Maybe 邦訳)Westley/Zimmerman/Patton著・東出顕子訳、英治出版2008。複雑適応系×SIの古典。関係性から社会を捉える立場の典拠。
RELATIONSHIP QUALITY ── 関係の質は、身体から
組織の身体を、一足から。
リーダーが先に立つ。場は模倣から変わる。
会議室に一足。


