GETTA PLANNING LLC / DA VINCI CODING
グラフィックレコーディング辞書
手が先に動く。言語は後から追いつく。
グラフィックレコーディングは、議論を要約する技術ではない。聞こえた言葉が大脳で意味に変換されるより速く、手が紙の上を走る。その手つきが場に見えることで、次の発言そのものが変わる。この辞書は、その現象を成立させる語彙を三層に分けて収めた。第一層は手が覚える描画語彙、第二層は場を読むための用語、第三層は現場で回すための実践メソッドである。
NEURAL CIRCUIT
描くことは、場に神経を一本増やすことである
グラフィックレコーディングが機能しているとき、場のなかでは五つの工程が絶えず回っている。手を動かすことは、その回路に出力と再入力を同時に足す行為にあたる。
感覚入力
発話・表情・沈黙・場の温度が同時に届く。言葉だけを聞き取ろうとすると、情報の半分を取りこぼす。
意味の圧縮
何を捨てるかが決まる工程。捨てた分だけ、残った語が強くなる。全部書こうとした瞬間に破綻する。
運動出力
判断を待たずに手が走る。小脳が先に動き、大脳は後から意味を回収する。この順序が速度を生む。
視覚再入力
描かれた線を、場の全員が同時に見る。個人の内側にあった理解が、場の共有物に変わる。
場の共振
図を見た人の次の発言が変わる。記録が原因の側に回った瞬間、それはもう記録ではない。
DECLARATION 01
グラフィックレコーディングは記録ではない。場の神経系である。
記録とは、終わったあとに残るものを指す言葉である。だが描かれた図はその場に置かれ続け、次の発言の引き金を引く。原因の側に回った時点で、それはもう記録という語では説明できない。紙は、場の外部に増設された神経系として働いている。
STRUCTURE
三層で引く。手・場・段取りの順に降りる
この辞書は上から下へ読む構成になっていない。本番前なら第三層、詰まったときは第一層、場の名前がわからないときは第二層から引く。索引は各層の冒頭に置いた。
描画語彙辞典
手が覚える語彙。読んで理解する対象ではなく、反復して身体に入れる対象である。三秒で描けない図像は現場では使えない。
84 ENTRIES
用語辞典
場を読むための語彙。いま何が起きているかに名前がつくと、対処が選べるようになる。名前のない現象には手が出せない。
72 ENTRIES
実践メソッド
本番で回すための手順。事前設計・本番・事後・詰まったときの四局面に分けた。読むためではなく、持ち込むための層である。
30 ENTRIES
COLOR GRAMMAR
三色は装飾ではない。神経信号の階層である
この辞書では色に意味を固定している。色を増やさないことが、図を読めるものに保つ唯一の条件になる。
感覚入力。受け取る側の語彙を担う。人・身体・表情・認知など、場から入ってくるものを扱う。
協調制御。つなぐ側の語彙を担う。矢印・囲み・進行・道具など、場を動かすものを扱う。
統合・進化。跳ぶ側の語彙を担う。構造・比喩・レイアウト・事後展開など、意味を作り変えるものを扱う。
INDEX / 全17カテゴリ
索引
COMPARISON
議事録との差は、精度ではなく作用にある
どちらが優れているかという話ではない。議事録は正確さで勝ち、グラフィックレコーディングは場への作用で勝つ。目的が違えば、選ぶ道具も変わる。
LAYER 01 / STROKE LEXICON
第一層 描画語彙辞典
手が覚えるための語彙を八カテゴリに分けた。図はすべて、線・円・弧・矩形・三角という五つのプリミティブの組み合わせでできている。複雑な形を覚えるのではなく、組み合わせの型を覚えるほうが速い。それぞれの項目には、何を意味するかと、描くときの一点だけを添えた。
骨格プリミティブ
BASE STROKE8 ENTRIES点DOT
存在の最小単位。ノード・人・出来事・数量の起点になる。まず点を打てば、線は勝手に生まれる。
TIP紙に触れる最初の一打。ためらうと点は歪む。手首ではなく肘から落とす。
線LINE
二点のあいだに関係が生じたことの宣言。境界にも、接続にも、時間軸にもなる。
TIP始点と終点を先に見る。目が先に着地していれば、線はまっすぐ走る。
弧ARC
直線が拒む「ゆらぎ」を担う。柔らかさ・包摂・時間の経過を運ぶ。
TIP弧は手首ではなく前腕全体で描く。関節を固めた瞬間に線は死ぬ。
円CIRCLE
内と外を分ける最小の構造。概念・人・領域を一発で切り出す。
TIP閉じ切らなくてよい。わずかな隙間が「まだ確定していない」を伝える。
角CORNER
方向の転換点。話が折れた場所、意思決定が起きた場所を示す。
TIP角は一度ペンを止める。止めた痕跡がそのまま「そこで何かが起きた」になる。
面PLANE
線が囲い、塗りが確定させる。図の中で「もう動かない」領域をつくる。
TIP面は最後に置く。先に塗ると、その上の議論が動かせなくなる。
影SHADOW
奥行きの捏造。重要度の差を、大きさを変えずにつくれる唯一の手段。
TIP光源を紙の左上に固定する。影の向きが揃うだけで一枚が一気に整う。
余白MA
描かなかった場所。次の発言が入る席であり、場に対する「まだ空いている」の合図。
TIP埋めたくなったら手を止める。余白は不足ではなく、招待である。
人と身体
BODY12 ENTRIES棒人間STICK FIGURE
主体の記号。誰かの発言・立場・行為を一秒で場に置ける、最も速い人物表現。
TIP頭を先に描く。頭の位置が決まれば、胴と手足は身体が勝手に配置する。
丸人間STAR PERSON
個人ではなく「役割」を指す人。参加者・顧客・住民など、匿名の主体に使う。
TIP顔を描かない。描いた瞬間に特定の誰かになり、抽象度が落ちる。
横顔PROFILE
視線の向きを持つ人。「その人が何を見ているか」を図の中に持ち込む。
TIP鼻を一本の短い線に省略する。輪郭の凹凸を追うと途端に遅くなる。
後ろ姿BACK VIEW
読み手を主人公にする視点。「あなたがここに立っている」を無言で伝える。
TIP肩の線を水平より少し落とす。緊張が抜けて、場に受け入れられる背中になる。
群衆CROWD
個ではなく数。世論・市場・チームなど、集合的な主体を示す。
TIP三人描けば群衆になる。四人目からは情報量が増えず、時間だけが減る。
握手HANDSHAKE
合意・提携・和解。二つの主体のあいだに結節が生まれたことの記号。
TIP腕の角度を左右で対称にしない。わずかな非対称が「対等」を強くする。
指差しPOINTING
焦点の指定。図の中の一点に、場の注意を強制的に集める。
TIP指の先端に小さな点を打つ。それだけで視線が確実に着地する。
腕組みARMS CROSSED
保留・防御・懐疑。場に出た反対意見を、言葉にせずに記録できる。
TIP反対意見こそ丁寧に描く。描かれた抵抗は、議論の資産になる。
走る人RUNNING
速度・実行・移行。「もう動き始めている」状態を示す。
TIP胴を前に傾ける。傾きの角度がそのまま速度として読まれる。
座る人SITTING
滞留・観察・待機。動いていない状態を、否定せずに置く。
TIP椅子は描かない。膝の直角だけで人は座って見える。
手のひらPALM
受容と提示。差し出す/受け取るという身体の基本動作を象徴する。
TIP指を四本にする。五本描くと手が主役になり、意味が後ろに下がる。
目EYE
観察・監視・気づき。解像度の主題を扱うとき、最も強く効く記号。
TIP瞳を中心からわずかにずらす。見ている方向が生まれ、図に意志が宿る。
表情と感情
EMOTION12 ENTRIES笑顔SMILE
肯定・安心・受容。場の温度が上がった瞬間の記録。
TIP口角の弧を目の幅より広くとる。狭いと愛想笑いに見える。
困り顔TROUBLED
課題・つまずき・未解決。問題提起がなされた地点に置く。
TIP眉を描かない。口の弧を反転させるだけで困りは十分に伝わる。
驚きSURPRISE
発見・想定外・転回。議論が跳んだ瞬間を捕まえる。
TIP放射線を三本だけ足す。増やすほど驚きは安っぽくなる。
怒りANGER
強い否定・切迫・葛藤。場に走った緊張を隠さずに残す。
TIP眉だけで怒らせる。口を歪めると人格攻撃の図に見えてしまう。
無表情NEUTRAL
判断保留・沈黙・様子見。何も起きていないことを、積極的に記録する。
TIP口を完全な水平にする。少しでも傾くと感情が読まれる。
汗SWEAT
焦り・負荷・無理。実行可能性への疑問を、批判せずに置ける。
TIP人物の顔の外側に打つ。顔に重ねると汚れに見える。
涙TEAR
痛み・喪失・共感。当事者の語りを扱う場で、要約より強く残る。
TIP粒を二つに留める。三つ以上は演出になり、当事者性が薄れる。
ひらめきIDEA
着想・突破・変異。進化思考でいう変異が起きた地点の印。
TIP電球の中は空けておく。あとで参加者が書き込む余地になる。
疑問符QUESTION
未解決の問い。答えのない場所を、はっきり空席として残す。
TIP本文より一回り大きく描く。問いは埋もれた瞬間に死ぬ。
感嘆符EXCLAMATION
強調・警告・決定。一枚のなかで三つ以内に絞ると効く。
TIP縦棒を上に向かって細くする。上昇の勢いが出る。
もやもやAMBIGUITY
言語化前の感触。まだ名前のついていない違和感を、そのまま置く。
TIP輪郭を閉じない。閉じると「整理済み」に見えて、探究が止まる。
ハートHEART
愛着・動機・情熱。衝動の所在を示す。探究の手前にあるものの記号。
TIP左右の弧を非対称にする。整いすぎたハートは記号にしか見えない。
手と動作
GESTURE8 ENTRIESグッドTHUMBS UP
承認・可決・前進。合意が取れた項目にそのまま押せる。
TIP親指を胴より高く出す。同じ高さだと拳に見える。
掴むGRASP
獲得・所有・確保。抽象概念を「手にした」状態として描ける。
TIP指を三本に省略する。数より、内側に向く角度が掴みを作る。
開くOPEN
公開・共有・解放。閉じていたものが外に出た瞬間を示す。
TIP左右を離しすぎない。距離が近いほど「今まさに開いた」に見える。
書くWRITE
記録・生成・外化。グラフィックレコーディングそのものを指す自己言及の記号。
TIPペン先の線を先に描く。持ち手は後から足せば形になる。
渡すHAND OVER
移譲・引き継ぎ・転移。文化資本が人から人へ移る局面に使う。
TIP手と手の間隔をあける。空いた距離が「まだ渡っていない」を語る。
止めるSTOP
制約・禁止・保留。やらないと決めたことを、決定として残す。
TIP手のひらを正面に向ける。角度がつくと拒絶ではなく回避に見える。
拍手APPLAUSE
称賛・承認・場の高揚。チェックアウト付近の記録に効く。
TIP手のあいだに隙間を残す。接触させると挟む動作に見える。
数えるCOUNT
列挙・順序・段階。話が箇条化した瞬間に、指の本数で示す。
TIP指を紙面の上方向に立てる。横に寝かせると別の意味が生じる。
矢印と関係
ARROW14 ENTRIES直線矢印ARROW
因果・移動・帰結。グラフィックレコーディングで最も多用される関係記号。
TIP矢尻は軸より濃くする。細い矢尻は方向を主張しない。
曲線矢印CURVED ARROW
迂回・時間差・間接的影響。直結していない因果を正確に描く。
TIP弧の頂点を中央からずらす。対称な弧は装飾に見える。
双方向BIDIRECTIONAL
相互作用・対話・往復。どちらが原因か決まっていない関係に使う。
TIP軸を短くする。長い双方向は関係ではなく距離を語ってしまう。
循環CYCLE
反復・還流・自己強化。ループがある構造は、ほぼ必ずここに正体がある。
TIP円を一箇所だけ薄くする。切れ目が回転方向を示す。
分岐BRANCH
選択肢・場合分け・分化。議論が二つに割れた地点を可視化する。
TIP分岐点に小さな点を打つ。決定が起きた座標として後で参照される。
収束CONVERGE
統合・合意・帰着。発散した議論が一点に落ちる局面を示す。
TIP合流点を紙の右寄りに置く。読みの流れと一致して納得が生まれる。
上昇RISE
成長・改善・増加。数値でなく傾向を語るときに使う。
TIP角度は30度に固定する。急にすると誇張として読まれる。
下降FALL
減少・劣化・撤退。悪化の記録は、赤ではなく形で示すほうが冷静に残る。
TIP上昇と同じ角度にする。対にして初めて比較として機能する。
破線矢印DASHED ARROW
仮説・予定・弱い関係。確定した因果と区別して記録する。
TIP破線の間隔を広めにとる。細かいと実線に見えて区別が消える。
太矢印BOLD ARROW
主流・本筋・強い推進力。一枚に一本だけ置くと構造が立ち上がる。
TIP太さは本文の五倍以上。中途半端な太さは事故に見える。
跳ね返りREBOUND
反発・副作用・想定外の反射。打ち手が跳ね返ってくる構造を示す。
TIP衝突点に短い縦線を足す。反射面があることが一目で伝わる。
貫通PENETRATE
突破・横断・部門をまたぐ動き。壁があったこと自体を同時に記録できる。
TIP壁の線を矢印の上に描かない。矢印を最後に重ねると貫通感が出る。
らせんSPIRAL
反復しながら深まる運動。同じ問いに戻りながら解像度が上がる過程を示す。
TIP円を少しずつ下にずらす。同心円だと停滞に見えてしまう。
点線接続WEAK LINK
関連はあるが因果ではない結びつき。安易な矢印を避けるための逃げ道。
TIP両端に点を打つ。何と何を結んだのかが後から確定できる。
囲みと強調
FRAME10 ENTRIES四角囲みBOX
確定した概念。動かさない前提・決定事項をここに入れる。
TIP角を少し丸める。完全な直角は威圧になり、書き込まれなくなる。
雲CLOUD
未確定・構想・つぶやき。四角に入れられないものの受け皿。
TIP膨らみを三つに揃える。増やすと落書きに見え、権威が落ちる。
吹き出しSPEECH BUBBLE
発言の引用。要約ではなく原語を残すための器。
TIP尻尾を発言者の方向へ向ける。誰の言葉かが線一本で確定する。
旗FLAG
宣言・目標・マイルストーン。時間軸の上に立てて到達点を示す。
TIP旗竿を紙の上端まで伸ばす。短いと目標が近すぎて見える。
リボンRIBBON
章題・見出し。セクションの入口を、本文と違う階層として立てる。
TIP文字は中央でなく左寄せ。読み出しの起点が明確になる。
下線UNDERLINE
本文中の強調。囲むより速く、囲むより弱い。連発できる唯一の強調。
TIP文字幅より少し長く引く。ぴったりだと訂正線に見える。
マーカーHIGHLIGHT
後から足せる強調。場が終わったあと、重要度が判明した箇所に入れる。
TIP文字の下半分にだけかける。全部覆うと可読性が落ちる。
爆発BURST
衝突・炎上・ブレイクスルー。強い出来事が起きた座標を示す。
TIP放射を八本で止める。増やすほど出来事は小さく見える。
星STAR
重要マーク。あとで探すための索引として機能する。
TIP一枚に五個まで。増えると索引ではなく装飾になる。
影付き囲みDROP BOX
最重要ブロック。同じ大きさのまま、階層だけを一段上げられる。
TIP影は右下に固定する。向きが混ざると一枚が濁る。
場と構造
STRUCTURE10 ENTRIESマトリクスMATRIX
二軸で場を切る。対立していた意見が、実は別軸だったと判明する装置。
TIP軸のラベルを先に書く。埋めてから軸を決めると恣意的になる。
レイヤーLAYERS
階層構造。表層の症状と深層の構造を、同じ紙の上で分ける。
TIP下の層ほど幅を広くする。基盤であることが説明なしで伝わる。
タイムラインTIMELINE
時間軸。議論が過去・現在・未来のどこの話かを強制的に分離する。
TIP現在地の点だけ大きくする。今どこにいるかが議論の温度を決める。
ツリーTREE
分解構造。大きな問いを、扱えるサイズの問いに割る。
TIP枝は二本まで。三本を超えると、それは分解ではなく列挙である。
ベン図VENN
重なりの発見。二者の共通部分を、言葉ではなく面積で示す。
TIP重なりを小さめにとる。大きいと違いのほうが消えてしまう。
ピラミッドPYRAMID
優先順位・段階構造。上に行くほど数が減る構造を一目で示す。
TIP頂点を尖らせすぎない。到達不能に見えると行動が止まる。
円グラフPIE
構成比。数字を読ませずに、量の関係だけを渡す。
TIP分割は三つまで。四つ以上は棒に置き換えたほうが速い。
天秤BALANCE
トレードオフ。どちらも正しい二案の緊張を、勝敗にせずに残す。
TIP皿を水平に描く。傾けた瞬間に、記録ではなく主張になる。
階段STAIRS
段階的移行。飛べない距離を、踏める単位に割る。
TIP段の高さを揃える。不揃いだと難易度の話にすり替わる。
ネットワークNETWORK
関係の総体。中心のない構造を、中心のないまま描ける唯一の型。
TIPノードの大きさを揃える。変えた瞬間に階層構造にすり替わる。
比喩と抽象
METAPHOR10 ENTRIES山MOUNTAIN
難所・目標・越えるべきもの。抽象的な困難に輪郭を与える。
TIP山を二つ描く。ひとつだと目標に、ふたつだと行程に見える。
川RIVER
流れ・分断・不可逆。渡れない境界としても、進む道筋としても機能する。
TIP二本の線を平行にしない。幅の変化が流速として読まれる。
橋BRIDGE
媒介・翻訳・接続。分断された二者をつなぐ打ち手そのものを表す。
TIP両岸を必ず描く。橋だけだと何を結んだのか永遠にわからない。
扉DOOR
機会・入口・転換点。まだ開いていない可能性を置いておける。
TIP少しだけ開けて描く。閉じた扉は選択肢ではなく壁になる。
鍵KEY
解決の要・突破口。議論の中で「これさえあれば」が出た瞬間に打つ。
TIP歯を二つに省略する。鍵らしさは歯の数ではなく輪の丸みで出る。
種と芽SEED
萌芽・小さな兆し。まだ成果ではないものを、価値として記録する。
TIP土の線を引く。地表があると、地下と地上の時間差が生まれる。
歯車GEAR
仕組み・機構・自動化。人の努力ではなく構造で回る部分を指す。
TIP歯を八つで止める。多いほど精密に見えて、逆に触れなくなる。
羅針盤COMPASS
指針・価値基準。何を選ぶかではなく、どちらを向くかを扱う。
TIP針を北からわずかに傾ける。完全な垂直は思考停止に見える。
灯台LIGHTHOUSE
遠くの目印・存在の宣言。ブランドやビジョンの位置づけに使う。
TIP光の線を左右非対称にする。対称だと図案になり、機能が消える。
氷山ICEBERG
顕在と潜在。見えている問題の下に、より大きな構造があることを示す。
TIP水面の線を紙の上寄りに引く。水面下の面積が、そのまま説得力になる。
DECLARATION 02
線は意味を持たない。関係が意味を作る。
一本の線をどれだけ上手く引いても、それ単独では何も伝わらない。二つの点のあいだに引かれたとき、初めて因果や対立や順序が生まれる。描画語彙の習得とは、形を覚えることではなく、関係の型を手に入れることである。だから上達は、絵の練習ではなく構造の観察から来る。
EMBODIED ORGANIZATION ── 組織を、身体から
グラフィックレコーディング辞書は、共に揺れる身体から始まる。
関係の質は、身体の同期から生まれる。
一本の歯は、場の身体を整える最小の道具。
LAYER 02 / TERM LEXICON
第二層 用語辞典
場で起きていることに名前をつけるための語彙を五カテゴリに分けた。定義だけでは現場で使えないため、各項目に「現場では」を添えている。定義は理解のため、現場ではの一行は判断のためにある。
基礎概念
FOUNDATION16 ENTRIESグラフィックレコーディングぐらふぃっくれこーでぃんぐGraphic Recording
対話や議論が進行しているその場で、話された内容を絵と文字で同時に描き出す記録手法。書き終えた図が場に置かれ続けることで、記録が同時に思考の道具になる。
FIELD議事録との決定的な差は速度ではなく作用にある。描かれた図がその場の次の発言を変えてしまう。
グラフィックファシリテーションぐらふぃっくふぁしりてーしょんGraphic Facilitation
描くことを通じて場の進行そのものに介入する手法。記録に留まらず、問いを図として投げ返し、議論の構造を組み替える。
FIELDレコーディングが受け身の記述なら、こちらは能動の設計。同じ人が両方を行き来する。
ビジュアルシンキングびじゅあるしんきんぐVisual Thinking
言語ではなく図と空間で考える思考様式。書いてから考えるのではなく、描きながら考える。
FIELD図が下手でも思考は進む。上手さは伝達の問題であって、思考の条件ではない。
スケッチノートすけっちのーとSketchnote
個人がひとりで取る、絵と文字が混ざったノート。共有を前提としない点でグラレコと区別される。
FIELD他人に見せない前提だからこそ省略が効く。自分専用の記号体系を育てる場所になる。
ハーベスティングはーべすてぃんぐHarvesting
場で生まれたものを収穫し、次に使える形にまとめる工程の総称。描画はその一部にすぎない。
FIELD描いて終わりにしない。収穫されなかった図は、翌週には誰も思い出せない。
リアルタイム記録りあるたいむきろくReal-time Capture
議論と同時進行で描き切る形式。終了と同時に成果物が完成している。
FIELD完成度は下がる。それでも、場の熱が残っているうちに全員が見られる価値が上回る。
事後グラレコじごぐられこPost-session Graphic
録音や議事録をもとに、終了後に整えて描き起こす形式。精度と構造の美しさを取れる。
FIELD場に作用しない代わりに、外部への伝達力が高い。広報物として使うならこちら。
可視化かしかVisualization
見えなかったものを見える状態にする操作。データの図示に限らず、関係・前提・感情の外化を含む。
FIELD可視化の本質は情報の圧縮ではなく、視線の共有にある。同じものを見た者だけが議論できる。
構造化こうぞうかStructuring
並列に出た情報に、階層・順序・因果といった関係を与える操作。
FIELD構造は最初から見えない。描きながら並べ替えているうちに浮かび上がる。解像度が上がるとは、この浮かび上がりが速くなることを指す。
要約圧縮ようやくあっしゅくCompression
発話を、意味を落とさずに短くする操作。グラレコの速度はここで決まる。
FIELD全部書こうとした瞬間に破綻する。捨てる勇気が、残したものの価値を上げる。
キーワード抽出きーわーどちゅうしゅつKeyword Extraction
発話のなかから、場が反応した語だけを取り出して残す操作。
FIELD話者が力を込めた語ではなく、聞き手が反応した語を拾う。場が選んだ言葉が本物である。
原語保持げんごほじVerbatim Retention
当事者が使った言葉を、言い換えずにそのまま残す原則。
FIELD噛み砕いた瞬間に、その人の思考の質感が消える。専門語や造語ほど原語で残す。
ビジュアルランゲージびじゅあるらんげーじVisual Language
描き手と場のあいだで意味が共有された図形の体系。個人の絵柄ではなく、共通の文法。
FIELD一枚のなかで同じ記号は同じ意味を持たせる。破ると図全体の信頼が落ちる。
アイコノグラフィあいこのぐらふぃIconography
概念に対応する図像の体系と、その運用ルール。
FIELD自分の手が三秒で描けるものだけを採用する。三秒を超える図像は現場で使えない。
レコーダーれこーだーRecorder
描く役割を担う人。場の参加者でありながら、同時に場の外側から構造を見る二重の立場に置かれる。
FIELD議論に入りすぎると手が止まり、離れすぎると要点を外す。この往復が技能の中心にある。
ライブドローイングらいぶどろーいんぐLive Drawing
描く過程そのものを観客に見せる形式。完成品ではなく生成過程が価値になる。
FIELD描く速度が遅いほうが、かえって場の集中が上がることがある。手の遅さが呼吸をつくる。
場とファシリテーション
FIELD16 ENTRIESファシリテーターふぁしりてーたーFacilitator
場の目的達成を、内容ではなく進行の側から支える役割。
FIELDレコーダーと二人組で入ると場の解像度が跳ね上がる。一人二役は本番では破綻しやすい。
問いの設計といのせっけいQuestion Design
場に何を問うかを事前に決める作業。問いの質が、出てくる発話の質の上限を決める。
FIELD描きにくい問いは、たいてい問いが悪い。図にならない問いは場でも空転する。
発散はっさんDivergence
選択肢や視点を増やす局面。判断を保留し、量を出すことを優先する。
FIELD発散中は構造化しない。並べるだけに徹する。早すぎる整理が可能性を殺す。
収束しゅうそくConvergence
出たものを絞り、決める局面。基準を先に合意してから絞る。
FIELD収束の直前に一枚を全員で眺める時間を取る。図が判断材料として初めて機能する。
グラウンドルールぐらうんどるーるGround Rules
その場で守る約束事。安全性と発言量を担保する。
FIELD紙の隅に描いて貼り出す。口頭の約束は十分で忘れられる。
チェックインちぇっくいんCheck-in
本題の前に、参加者が一人ずつ声を出す時間。場に自分の身体を置く手続き。
FIELDここで出た言葉を必ず一枚に残す。後半で効いてくる伏線になる。
チェックアウトちぇっくあうとCheck-out
終了時に一人ずつ言葉を置いて場を閉じる時間。
FIELD描いた一枚を見ながら話してもらう。図が想起の足場になり、感想の質が変わる。
ホールドスペースほーるどすぺーすHolding Space
結論を急がず、場の緊張や沈黙をそのまま保つ態度。
FIELD沈黙のあいだ手を止めない。ゆっくり線を引き続けると、場は安心して黙っていられる。
安全な場あんぜんなばPsychological Safety
反対意見や未熟な考えを出しても罰されないという共有された感覚。
FIELD反対意見を丁寧に大きく描く。それだけで、場は反対を歓迎する空間に変わる。
合意形成ごういけいせいConsensus Building
全員が納得できる決定に至る過程。全会一致とは異なる。
FIELD決まったことを図に書き込み、全員に見せてから閉じる。誤解の九割はここで潰せる。
パーキングロットぱーきんぐろっとParking Lot
今は扱わないが捨てもしない論点を、一時的に置いておく領域。
FIELD紙の右下に固定して確保する。位置が決まっていると、逸脱を歓迎できるようになる。
サイレントタイムさいれんとたいむSilent Time
全員が黙って書く時間。声の大きい人に議論が支配されるのを防ぐ。
FIELDこの時間だけは描かない。手を止めて場を見るための貴重な余白になる。
共犯者化きょうはんしゃかCo-authorship
参加者が図に書き込み始め、記録の作者が場全体に移る現象。
FIELDペンを一本、机の上に置いておくだけで起きる。渡された瞬間、記録は共有資産になる。
場の温度ばのおんどField Temperature
参加者の関与度と情動の高まりを指す実務語。
FIELD温度は線の太さに出る。基準信号を持った身体が複数そろうと、場そのものが一つの生き物のように同期する。カオス共鳴と呼ばれる状態である。
転移てんいTransfer
ある個人の内側にあったものが、場を経由して他者へ移る現象。
FIELD図は転移の媒体である。一人の身体で起きた理解が、紙を介して他人の身体に着地する。
リフレクションりふれくしょんReflection
経験を振り返り、意味づけを更新する行為。
FIELD描いた図を翌週にもう一度出す。時間差で見た図は、その場では見えなかった構造を見せる。
構造とレイアウト
LAYOUT14 ENTRIESキャンバスきゃんばすCanvas
描画の全領域。紙・ホワイトボード・タブレット画面のいずれであれ、有限の面積として扱う。
FIELD描き始める前に四隅を軽く触る。面積の感覚が身体に入り、配分の事故が減る。
セクショニングせくしょにんぐSectioning
キャンバスを議題や時間で区切る操作。
FIELD区切りは薄く引く。濃く引くと後半で構造を変えられなくなる。
フォーカルポイントふぉーかるぽいんとFocal Point
一枚のなかで最初に目が行く一点。
FIELD一枚に一つだけ置く。二つ以上あると、視線は迷って結局どこにも着地しない。
視線誘導しせんゆうどうEye Flow
読み手の視線が動く順序を、配置と線で設計すること。
FIELD左上から右下へが基本。逆流させたいときだけ、太い矢印を一本だけ使う。
余白設計よはくせっけいWhite Space
描かない領域を意図的に確保する設計。
FIELD全体の三割は空けて始める。埋まらなかった余白は、場が到達しなかった範囲の記録になる。
階層表現かいそうひょうげんHierarchy
文字の大きさ・線の太さ・囲みの有無で重要度の差をつくること。
FIELD三段階までに抑える。四段階目からは読み手が階層を認識できなくなる。
タイトルゾーンたいとるぞーんTitle Zone
テーマと日付を置く固定領域。一枚の身元証明になる。
FIELD先に書いてしまう。後回しにすると、埋まった紙の隙間に押し込むことになる。
時間軸レイアウトじかんじくれいあうとTimeline Layout
左から右へ時間が流れる配置。進行そのものを構造にする。
FIELD議論が行きつ戻りつする場では破綻する。往復が多い場では放射型に切り替える。
放射レイアウトほうしゃれいあうとRadial Layout
中央に主題を置き、周囲に論点を配する配置。
FIELD中央を最後まで空けておく。主題は議論の後半に確定することが多い。
島構造しまこうぞうIsland Layout
独立した塊を複数つくり、あとから線で結ぶ配置。
FIELD構造が読めない場で最も安全。並べておけば、関係は後から必ず見つかる。
グリッドぐりっどGrid
不可視の格子。要素の位置を揃えるための基準線。
FIELD手描きでも意識できる。揃っているだけで、内容が同じでも信頼が上がる。
フレーミングふれーみんぐFraming
囲むことで、内側と外側の意味を分ける操作。
FIELD囲みは減らす。囲みだらけの紙は、どこも重要でない紙と同じである。
動線どうせんPath
読み手が図の上を辿る経路。
FIELD自分で一度、指でなぞってみる。指が止まる場所が、読み手のつまずく場所である。
色数制限しきすうせいげんColor Constraint
使う色を三色前後に絞る運用。色に意味を持たせるための前提条件。
FIELD色は装飾ではなく文法である。増やすほど文法は壊れ、読めない図になる。
認知と身体
COGNITION14 ENTRIESワーキングメモリわーきんぐめもりWorking Memory
短時間だけ情報を保持しながら操作する能力。容量はきわめて小さい。
FIELD描かれた図は外部化されたワーキングメモリである。紙が覚えるから、頭は考えられる。
認知負荷にんちふかCognitive Load
処理に要する心的資源の量。過剰になると理解も記憶も落ちる。
FIELD情報を足すより、消すほうが理解は上がる。減らす判断が最も高度な技術である。
デュアルコーディング理論でゅあるこーでぃんぐりろんDual Coding Theory
言語情報と視覚情報は別経路で処理され、両方使うと記憶が強まるとする理論。
FIELD絵だけでも字だけでも弱い。両方が同じ場所に置かれているときに定着する。
画像優位性効果がぞうゆういせいこうかPicture Superiority Effect
同じ内容でも、絵で提示されたほうが記憶に残りやすい現象。
FIELD会議の三日後に残るのは、決定事項ではなく、決定の横に描かれた小さな絵である。
チャンク化ちゃんくかChunking
情報をまとまりに束ね、扱える単位数に減らす操作。
FIELD囲みはチャンク化の道具である。囲んだ瞬間、七つの項目が一つの塊になる。
身体化認知しんたいかにんちEmbodied Cognition
思考は脳内だけで完結せず、身体と環境との相互作用のなかで成立するという立場。
FIELD手を動かさずに考えたことと、描きながら考えたことは、別の思考である。
手続き記憶てつづききおくProcedural Memory
言葉にできない、身体が覚えている記憶。
FIELD描画語彙は暗記ではなく反復で入る。百回描いた図像だけが、本番で手から出る。
運動学習うんどうがくしゅうMotor Learning
反復によって運動が自動化し、意識的制御を要さなくなる過程。
FIELD手首を固めず、腱で弾ませるように引く。筋肉で固定した線は三十分で死に、腱優位の線は三時間もつ。
小脳しょうのうCerebellum
運動の協調とタイミングを司る領域。予測と誤差修正を高速で回す。
FIELD考えてから描くのでは間に合わない。小脳が手を走らせ、大脳は後から意味を回収する。
大脳だいのうCerebrum
言語処理と意識的判断を担う領域。正確だが遅い。
FIELD大脳で読ませる図は疲れる。小脳に直撃する図は、見た瞬間に身体が反応する。
ミラーニューロンみらーにゅーろんMirror Neuron
他者の動作を見たときに、自分が行うときと同様に発火する神経細胞群。
FIELD描く手を見せることに意味がある。参加者の身体は、描かれる過程を一緒に走っている。
注意残余ちゅういざんよAttention Residue
前の作業に注意が残り、次の作業の質が落ちる現象。
FIELD描き残しを気にしたまま次の発話を聞くと、両方を落とす。切り捨てて前を向く。
確率共鳴かくりつきょうめいStochastic Resonance
適量のノイズが加わることで、微弱な信号がかえって検出されやすくなる現象。
FIELD手描きの揺らぎはノイズである。そのノイズが、整った図では消えてしまう意味を浮かせる。
中動態ちゅうどうたいMiddle Voice
能動でも受動でもない態。行為が主体の内側で起きている状態を指す。
FIELD描いているのでも描かされているのでもない。場が描かせている。この態が最も速い。
道具と技術
TOOL12 ENTRIES水性マーカーすいせいまーかーWater-based Marker
壁面記録の標準筆記具。裏抜けせず、匂いが弱く、屋内の長時間使用に耐える。
FIELD太字と細字を一本ずつ持つ。二本で階層が二段つくれる。
筆ペンふでぺんBrush Pen
筆圧で線幅が変わる筆記具。一本で強弱を出せる。
FIELD強弱がつく代わりに速度が落ちる。事後グラレコ向きで、本番には向かない。
模造紙もぞうしKraft Paper
壁面記録の標準用紙。安価で大判、貼り替えが容易。
FIELD縦使いは避ける。人間の視野は横に広く、横使いのほうが構造が入る。
ロール紙ろーるしRoll Paper
連続して伸ばせる大判紙。長時間の場で紙を継ぎ足せる。
FIELD継ぎ目が時間の区切りになる。区切りをどこに置くかが構成の判断になる。
ホワイトボードほわいとぼーどWhiteboard
消せることを前提とした描画面。試行錯誤に強い。
FIELD消せる安心が、思い切った線を可能にする。ただし消えたものは記録に残らない。
タブレットたぶれっとTablet
デジタル描画端末。移動・複製・拡大縮小が自在。
FIELD無限キャンバスは自由だが、有限の紙のような構成の緊張が生まれにくい。
レイヤーれいやーLayer
デジタル描画で、要素を層に分けて管理する機能。
FIELD線と色を分ける。あとから色だけ差し替えられ、修正が壊れない。
投影とうえいProjection
描いている画面をその場でスクリーンに映すこと。
FIELD参加者は描かれる過程を共有できる。完成品を見せるより、生成中のほうが場は動く。
書き味かきあじPen Feel
筆記具と描画面の摩擦が生む感触。速度と線質を決める。
FIELD摩擦が少なすぎると線が滑る。わずかな抵抗があるほうが、手は正確になる。
写真記録しゃしんきろくPhoto Capture
完成した一枚を撮影して保存する工程。
FIELD斜めから撮らない。台形に歪んだ図は、共有された瞬間に権威を失う。
アーカイブ化あーかいぶかArchiving
描かれた記録を検索可能な形で保管する工程。
FIELD日付とテーマを画像の中に描いておく。ファイル名は必ず失われる。
デジタル清書でじたるせいしょDigital Refinement
本番の一枚をもとに、後日整えて再構成する工程。
FIELD整えすぎない。歪みを全部取ると、その場にいた人の記憶と一致しなくなる。
FOR ORGANIZATIONS語彙を覚えるところまでは独習でいける。手が勝手に動く状態へ移す工程だけは、身体をともなう場でしか渡せない。合同会社GETTAプランニングの身体知研修は、そこを扱っている。
研修を見るTRAININGDECLARATION 03
うまく描くな。速く描け。
上手さは伝達の問題であって、思考の条件ではない。手が止まっている一秒のあいだに、場は次の話題へ移っている。整いすぎた線より、揺らいだ線のほうが読まれることがある。適量のノイズが微弱な信号を浮かび上がらせる確率共鳴という現象は、紙の上でも起きている。
LAYER 03 / FIELD METHOD
第三層 実践メソッド
本番で回すための手順を、事前設計・本番・事後・詰まったときの四局面に分けた。各項目は要旨一行と、実行できる粒度まで割った三手で構成している。読むためではなく、持ち込むための層である。
事前設計
BEFORE8 ENTRIES問いを先に描くDRAW THE QUESTION FIRST
当日の中心の問いを、前日に一度自分で図にしてみる。図にならない問いは、場でも空転する。
- 問いを一行で書き出す
- その一行を図に置き換えてみる
- 置き換えられなければ問いを書き直す
語彙の下見をするSCOUT THE VOCABULARY
その領域で頻出する固有名詞・専門語を事前に拾い、描画語彙を割り当てておく。
- 資料から名詞を二十語抜く
- 三秒で描ける図像を各語に割り当てる
- 手が覚えるまで三回ずつ描く
キャンバスを分割するPARTITION THE CANVAS
議題の数だけ薄く区画を切っておく。区画があると、時間配分が身体に入る。
- 議題数で縦に割る
- 右下をパーキングロットに確保する
- 上端にタイトルゾーンを取る
三色を決めるFIX THREE COLORS
本番で使う色を三色に固定し、それぞれに意味を割り当ててから会場に入る。
- 感覚入力・協調制御・統合の三層に色を割る
- 本番では割り当てを変えない
- 四色目が欲しくなったら情報を削る
立ち位置を決めるCHOOSE YOUR POSITION
描く場所は、参加者の視界に入りつつ、視線を奪いすぎない位置に置く。
- 発言者と紙が同時に見える角度を探す
- 背中を参加者に向けない
- 利き手側に余白を確保する
役割を分けるSPLIT THE ROLES
進行と描画を一人で兼ねない。兼ねた瞬間、どちらの精度も落ちる。
- ファシリテーターと組む
- 介入する合図を事前に決める
- 描き手が発言してよい範囲を握る
記録の使い道を握るAGREE ON THE USE
描いた一枚が誰にどう使われるかを、依頼者と先に合意しておく。
- 社内共有か対外公開かを確認する
- 固有名詞を残すか匿名化するかを決める
- 撮影と公開の可否を全員に告げる
五歳の手を取り戻すRECOVER THE FIVE-YEAR-OLD HAND
上手く描こうとする回路を、始まる前に一度切っておく。
- 利き手でない側で三分描く
- 評価語を口に出さないと決める
- 最初の一枚は必ず捨てる前提で描く
本番
DURING10 ENTRIES先に手を出すHAND BEFORE MIND
理解してから描くのではなく、描きながら理解する。衝動が先、探究は後にくる。
- 聞こえた語をそのまま置く
- 意味づけは後から線でつなぐ
- 分からないまま置く勇気を持つ
原語で残すKEEP THE ORIGINAL WORDS
当事者が使った語を言い換えない。噛み砕いた瞬間に、その人の思考の質感が消える。
- 造語・専門語は括弧で囲って残す
- 要約は原語の下に小さく添える
- 自分の語彙に翻訳しない
反応した語を拾うCATCH WHAT THE ROOM CATCHES
話者が力を込めた語ではなく、聞き手が反応した語を残す。場が選んだ言葉が本物である。
- うなずきが起きた瞬間の語を書く
- 笑いが起きた語を必ず残す
- 沈黙が落ちた語を最も大きく書く
三割空けて進むLEAVE THIRTY PERCENT
常に三割の余白を残したまま進める。埋め切った紙には、次の発言が入れない。
- 区画の端は使わない
- 後半用に下段を空けておく
- 余った余白は場の到達範囲の記録として残す
反対意見を大きく描くDRAW THE OBJECTION LARGER
抵抗こそ丁寧に、大きく残す。描かれた反対は、場の資産になる。
- 否定的な発言に囲みをつける
- 発言者を特定しない
- 隣に問いの記号を添える
構造は後から入れるSTRUCTURE COMES LATER
前半は並べるだけに徹する。早すぎる構造化が、出てくるはずの可能性を殺す。
- 前半は島構造で置く
- 中盤で島どうしを線で結ぶ
- 終盤に軸を一本だけ引く
線を止めないKEEP THE PEN MOVING
沈黙のあいだも手を動かし続ける。動き続ける手が、場に「まだ続いていい」を伝える。
- 装飾ではなく区切り線を引く
- 既出の語をなぞって太くする
- 急いで新情報を足さない
ペンを渡すHAND OVER THE PEN
参加者に一本渡す。渡した瞬間、記録は共有資産に変わる。
- 机の上にペンを置いておく
- 書き込んでよい領域を明示する
- 書かれた線は消さない
一度立ち止まって全体を見るSTEP BACK
二十分に一度、三歩下がって一枚全体を見る。近づいたままでは構造が見えない。
- 区画の偏りを確認する
- 空白が偏っていたら配置を変える
- フォーカルポイントが二つ以上ないか確かめる
決定を書き込んで閉じるWRITE THE DECISION
決まったことを図の上に書き、全員に見せてから場を閉じる。誤解の大半はここで潰せる。
- 決定事項に旗を立てる
- 担当と期限を添える
- 読み上げて異議がないか確かめる
事後
AFTER5 ENTRIES熱があるうちに配るSHARE WHILE WARM
終了から二十四時間以内に共有する。熱が引いた図は、ただの画像になる。
- 正面から撮影する
- 日付とテーマを画像内に描いておく
- 当日中に共有する
翌週にもう一度出すRESURFACE NEXT WEEK
時間差で見た図は、その場では見えなかった構造を見せる。
- 次回の冒頭で前回の一枚を映す
- 変わった点を上書きで描き足す
- 更新履歴として層を残す
索引をつけるINDEX IT
図の中の重要点に番号を振り、テキストの索引と対応させる。検索可能になった記録だけが生き残る。
- 星印を五つまで打つ
- 各印に短い見出しをつける
- 見出しをテキストで別途保存する
清書しすぎないDO NOT OVER-POLISH
歪みを全部取ると、その場にいた人の記憶と一致しなくなる。
- 構造だけ整える
- 手描きの揺らぎは残す
- 追記した箇所は色を変える
次の問いを立てるSET THE NEXT QUESTION
一枚の余白に、次に扱うべき問いを書いて終える。記録を次の場の入口にする。
- 未解決の疑問符を数える
- 最も大きい問いを一つ選ぶ
- 余白に大きく書いて締める
詰まったとき
RECOVERY7 ENTRIES追いつけないFALLING BEHIND
全部を書こうとしているときに起きる。捨てる判断が遅れているだけで、速度の問題ではない。
- 名詞だけ拾って動詞を捨てる
- 一分間なにも書かずに聞く
- 話が一巡してからまとめて置く
構造が見えないNO STRUCTURE VISIBLE
見えないのではなく、まだ生成されていない。急いで型に入れると議論を壊す。
- 島構造に切り替える
- 並べたまま前半を終える
- 共通語が三回出るまで待つ
紙が埋まったCANVAS FULL
余白配分の失敗。埋めた自分を責めず、次の面をすぐ用意する。
- 新しい面を隣に貼る
- 前の面から矢印でつなぐ
- 以降は文字を一段小さくする
何を描けばいいか分からないBLANK
抽象度が高すぎる発話が続いている合図。具体に降ろす手を打つ。
- 直前の一語だけを大きく書く
- その語の周りに空の枠を三つ置く
- 場に具体例を求める
場が冷えているTHE ROOM IS COLD
描いた図が場に作用していない状態。記録から介入へ切り替える。
- 一枚を全員に見せる
- 空白の枠を提示して埋めてもらう
- 問いを図として投げ返す
特定の人に偏っているONE VOICE DOMINATES
紙の上の偏りは、場の偏りの正確な写しである。
- 発言量の偏りを図として見せる
- サイレントタイムを提案する
- 少数意見に囲みを与える
うまく描けないIT LOOKS BAD
上手さは伝達の問題であって、思考の条件ではない。手が止まることのほうが損失は大きい。
- 三秒で描ける形に落とす
- 描き直さず横に描き足す
- 揺らぎを消さずに次へ進む
THE POINT
手が先に動く。言語は後から追いつく。
描いているのでも、描かされているのでもない。場が描かせている。この態にいるとき、記録の速度は思考の速度を超える。衝動が先にあり、探究は後から来る。グラフィックレコーディングは、その順序を身体で確かめられる数少ない実践である。上手い下手が入り込む前の、五歳の手を取り戻す作業でもある。
GETTA PLANNING LLC
身体から入る学びを、組織に
合同会社GETTAプランニングは、身体知研修とインストラクター認定を通じて、言語より先に身体が動く状態を組織に実装している。グラフィックレコーディングは、その入口のひとつである。
EXPLORE
この辞書の外側にある体系
本辞書は合同会社GETTAプランニングが編集した。記載は現場運用にもとづく実務的な定義であり、学術的な標準用語集ではない。項目の追加・改訂は継続的におこなう。引用の際は出典としてページのURLを明記されたい。
RELATIONSHIP QUALITY ── 関係の質は、身体から
組織の身体を、一足から。
リーダーが先に立つ。場は模倣から変わる。
会議室に一足。


