GETTA PLANNING LLC / DA VINCI CODING
グラフィックファシリテーション辞書
場が描かせている。その状態を扱うための語彙。
グラフィックファシリテーションは記録の技術ではない。描くことで場の進行そのものに介入する実践である。この辞書は、その介入を扱うための語彙を全260項目で収めた。基礎概念から場の設計、問いと対話、介入の技法、集団力学、認知と身体、合意形成、構造とレイアウト、記録の資産化、倫理と立場、道具と環境、現場の失敗と処方までを網羅し、最後に描画語彙40を図解つきで置いている。定義は理解のため、現場ではの一行は判断のためにある。
NEURAL CIRCUIT
ファシリテーションは、場に神経を一本増設する
グラフィックファシリテーションが機能しているとき、場のなかでは五つの工程が絶えず回っている。グラフィックレコーディングとの決定的な差は、四番目の工程を持つかどうかにある。
場から受け取る
発話・表情・沈黙・座席の配置・権力の勾配が同時に届く。言葉だけを聞いていると、半分を取りこぼす。
拾って捨てる
話者が力を込めた語ではなく、聞き手が反応した語を残す。捨てた分だけ、残った語の解像度が上がる。
手が走る
判断を待たずに線が出る。小脳が先に動き、大脳は後から意味を回収する。この順序が速度を生む。
場へ返す
描いた図を差し出し、空白を指し、ペンを渡す。記録が原因の側へ回る地点である。
場が同期する
図を見た人の次の発言が変わる。基準信号を持つ身体が複数そろうと、場そのものが一つの生き物のように動く。
DECLARATION 01
記録は場を変えない。介入だけが場を変える。
描かれた図がその場に置かれ続け、次の発言の引き金を引いたとき、それはもう記録ではない。グラフィックファシリテーションは、その一線を越える技術の総称である。越えた瞬間から、描く手は場に力を行使していることになる。
COMPARISON
レコーディングとファシリテーションを分ける一線
どちらが上位という話ではない。記録の正確さで勝つ仕事と、場への作用で勝つ仕事は、目的も倫理も別である。同じ人が日によって両方を担うことも多い。だからこそ、いまどちらをしているかの自覚がいる。
INDEX / 全16カテゴリ
索引
TERMS / 220 ENTRIES
用語
場で起きていることに名前がつくと、対処が選べるようになる。名前のない現象には手が出せない。定義は理解のため、現場ではの一行は判断のためにある。
基礎概念
FOUNDATION20 ENTRIESグラフィックファシリテーションぐらふぃっくふぁしりてーしょんGraphic Facilitation
対話の進行中に絵と文字を描き出し、その描画によって参加者の思考と場の進行そのものを支える実践。終わった後に読む記録ではなく、進行中に効く介入である。
FIELD描き手は場の外にいない。中動態で描く状態、つまり描いているのでも描かされているのでもなく場が描かせている状態に、手を置き続ける。
グラフィックレコーディングぐらふぃっくれこーでぃんぐGraphic Recording
議論の流れを時系列に沿って絵と文字で写し取り、終了後に読み返せる一枚の地図として残す技法。進行への介入よりも記録の再現性に重心がある。
FIELD全部は書けない。落とすものを先に決めておくと、拾うべき一言のほうから飛び込んでくるようになる。
ビジュアルファシリテーションびじゅあるふぁしりてーしょんVisual Facilitation
図解や写真、模型や身体の配置まで含めて視覚的手段を総動員し、合意形成と思考を進める上位概念。描画はその一手段にすぎない。
FIELD紙とペンに固執しない。付箋の並べ替えも机上の物の配置も視覚言語であり、手で動かせる形にして渡すほうが速い。
ファシリテーションふぁしりてーしょんFacilitation
集団が自力で結論に到達する過程を、内容には踏み込まずに支える働きかけ。答えを持たないことと、持たないまま場に居続けられることが職能の中心にある。
FIELD良い問いを一つ立てれば足りる。介入の総量を減らすほど場は自分で走り出し、進行役の存在感は薄くなっていく。
ファシリテーターふぁしりてーたーFacilitator
場の目的と時間と関係性を預かり、参加者の思考が進む条件を整える役割。決定の内容には権限を持たず、決定に至る過程の質に責任を負う。
FIELD自分の意見が出そうになったら問いに変換して返す。判断は場に置いたままにして、答えを持ち帰らせる。
スクライブすくらいぶScribe
場で交わされた言葉をその場で書き取る役割の総称。中世の写字生に由来する語で、進行役と描き手を分業する編成において、描く側を指して用いる。
FIELD進行と描画を分けると、どちらの精度も上がる。一人二役を美徳にせず、二人で組める予算を最初に確保する。
可視化かしかVisualization
頭の中にしかなかった事柄を目に見える形へ変換し、複数の人間が同時に同じ対象を指させる状態をつくること。理解のためではなく、共同作業の足場をつくるために行う。
FIELD見える形にした瞬間、それは個人の所有物ではなくなる。だから正確さより、指させることを優先して描く。
外化がいかExternalization
内側にある思考や感情を身体の外の媒体へ出し、自分自身が観察できる対象へ変える操作。思考を頭の中ではなく頭の外で進めるための基本手続きである。
FIELD悩んでいる人には、言わせるより先に描かせる。手が動いた分だけ言語は後から追いつき、本人が自分の考えを読み始める。
共有言語きょうゆうげんごShared Language
その場の参加者にだけ通じる語や図像が生まれ、以後の会話の土台として機能する状態。既存の専門用語を統一することとは別の現象である。
FIELD誰かが放った比喩を大きく描いて残す。二度目に別の誰かがその語を使った瞬間、それは個人の表現ではなく場のものになる。
中立性ちゅうりつせいNeutrality
特定の意見に加担せず、すべての発言を等しく扱う姿勢。無色透明であることではなく、自分の偏りを自覚したうえで扱える状態を指す。
FIELD完全な中立は存在しない。自分がどちらに傾いているかを先に開示するほうが、場の公平はかえって保たれる。
プロセスとコンテンツぷろせすとこんてんつProcess and Content
何を話しているかという内容と、どう話しているかという過程を分けて捉える枠組み。ファシリテーターは前者の是非を判断せず、後者だけを扱う。
FIELD議論が止まったら内容ではなく進め方を指摘する。この十分間で誰が何回話したかと問えば、場は自分で構造に気づく。
場ばBa
人と空間と時間と関係性が同時に立ち上がっている状態の総体。個人の集合ではなく、それ自体が固有の振る舞いを持つ一つの単位として扱う。
FIELD発言を個人の性格に帰さない。この場だったからその言葉が出たと見た瞬間、配置や順番など打てる手は一気に増える。
対話たいわDialogue
結論を出すことよりも、互いの前提を差し出し合うことを目的とする話し方。相手を変えるためではなく、自分の見方が変わる余地を開くために行う。
FIELD反論が出たら深めどきである。どちらが正しいかを問わず、なぜそう見えているのかを二人分とも描き足していく。
議論ぎろんDiscussion
複数の主張を突き合わせ、比較と検証を経て一つの結論に絞り込む話し方。前提と語の意味が共有されていることが、成立の条件になる。
FIELD噛み合わないときは前提が揃っていない。一度対話に戻し、使われている言葉の定義を紙の上で並べ直す。
熟議じゅくぎDeliberation
時間をかけて論点を吟味し、少数意見も検討に含めたうえで決定に至る合議の形式。速度を犠牲にする代わりに、決定の正統性と納得を得る。
FIELD早く出た結論ほど疑う。残っている違和感を一つ拾って描き足すと、その決定の耐久性が目に見えて変わる。
相互理解そうごりかいMutual Understanding
相手の主張だけでなく、その主張が立っている背景まで見えている状態。合意とは別の概念であり、意見が対立したままでも成立する。
FIELD分かり合えたかを基準にしない。相手の言い分を自分の言葉で描けるかを問えば、理解の解像度は一段上がる。
共創きょうそうCo-creation
立場の異なる者が関わり合い、誰か一人では到達できなかった成果を生み出していく過程。役割分担ではなく、相互作用が起きていることが条件である。
FIELD誰の案かという印を消していく。紙の上で二つの線がつながった時点で、それはもう全員の発明になっている。
越境えっきょうBoundary Crossing
所属や専門の境界を越えて他の領域に出入りし、そこで得た様式を元の場へ持ち帰る運動。生じる摩擦そのものが学習の資源になる。
FIELD場違いに見える人を一人招く。転移する文化資本が持ち込まれると、内輪の常識は説得なしにほどけていく。
暗黙知あんもくちTacit Knowledge
言語化されないまま身についている知。手順として記述することができず、実践の場を共にし、真似ることを通してしか受け渡せない。
FIELD説明を求める前にやってみせてもらう。描き取るべきは手順ではなく、本人が迷った箇所と無意識に省いた箇所である。
身体知しんたいちEmbodied Knowledge
反復によって身体に沈み込み、意識を経由せずに働く知。小脳が担う領域であり、言語による理解とはまったく別の経路で獲得される。
FIELD描き方を覚えるより先に、描く総量を増やす。大脳で考えている段階では、場の速度に手はいつまでも追いつかない。
場の設計
SPACE DESIGN22 ENTRIES場の設計ばのせっけいSpace Design
目的と人と時間と空間の関係をあらかじめ組み立て、参加者が自然にそう振る舞ってしまう条件をつくる仕事。当日の技術より前の段階で結果の大半が決まる。
FIELD進行台本を厚くするより条件を整える。中動態が起きる配置さえ組めれば、進行役はほとんど何もしなくてよい。
目的設定もくてきせっていPurpose Setting
その場を何のために開くのかを一文で定める作業。参加者全員の行動基準となり、進行に迷いが出たときの判断はすべてここへ戻って下される。
FIELD目的が二つあるなら会を二つに割る。一つに絞れないまま始めた場は、終盤で必ず二つの流れに割れる。
ゴール設定ごーるせっていGoal Setting
終了時点でどんな状態になっていれば成功かを、観察可能な形で先に言い切ること。目的が向かう方向を示すのに対し、ゴールは到達点を示す。
FIELD終わった瞬間に紙の上に何があるかで書く。合意を得るではなく、選択肢が三つ並んでいると書けば判定できる。
アジェンダあじぇんだAgenda
扱う論点とその順序を事前に並べた進行の設計図。参加者に共有された時点で、場を統制する権限は進行役の手を離れて全員に移る。
FIELD冒頭で壁に貼り出し、変更が出たら線を引いて書き直す。直した跡が見えるほど、参加者は進行に口を出しやすくなる。
タイムボックスたいむぼっくすTimeboxing
議題ごとに使う時間の上限を先に決め、内容の途中であっても区切る手法。結論の完成度より、決めきる圧力を意図的に生むために置く。
FIELD短く切って必要なら延長する。最初から長く取ると、人は残り時間の分だけ話を薄めて埋めてしまう。
グラウンドルールぐらうんどるーるGround Rules
その場で共有する振る舞いの約束事。禁止事項を並べる装置ではなく、普段は控えている行動に許可を与えるために置く点に本質がある。
FIELD三つまでに絞って壁に描く。守らせるのではなく、破られたときに参加者の誰もが指させる状態をつくる。
チェックインちぇっくいんCheck-in
開始時に一人ずつ短く声を出し、自分がこの場にいることを確認する手続き。話す内容よりも、発話したという事実そのものが機能する。
FIELD最初に声を出していない人は最後まで出さない。一言でよいから例外なく全員に順番を回し、沈黙のまま終わる席をつくらない。
チェックアウトちぇっくあうとCheck-out
終了時に各自が持ち帰るものを言葉にしてから場を閉じる手続き。決定事項の確認とは別に、体験を個人の中に定着させる役割を担う。
FIELD感想ではなく、明日やることを一人一つ言わせる。紙の余白に書き足せば、それがそのまま議事録の結語になる。
アイスブレイクあいすぶれいくIcebreaker
開始直後の緊張を解き、発言の敷居を下げるために置く短い活動。関係を温めることが目的であり、内容の生産性はここでは問わない。
FIELD五歳の身体性に戻す。立つ、動く、笑うを先に済ませてしまうと、その後の発言量は目に見えて変わる。
座席配置ざせきはいちSeating Arrangement
誰と誰が向き合い、誰が誰の背中を見ることになるかを決める配置の設計。その日の発言の分布は、この物理条件でほぼ決まってしまう。
FIELD発言してほしい人を紙の正面に置く。席順を先に変えておくと、進行中に使う言葉は半分いらなくなる。
円座えんざCircle Seating
全員が等しい距離で互いを見られるよう円形に座る形式。上座と下座が消え、発言の順番も固定されない状態が空間の側からつくられる。
FIELD机を外して椅子だけで組む。机がなくなると体が正面から向き合い、言葉より先に姿勢が話しはじめる。
立ち位置たちいちPositioning
描き手や進行役が場のどこに身を置くかという選択。紙の前に立つか横へ一歩退くかによって、参加者の視線と場の主導権は移動する。
FIELD描き終えたら一歩下がる。人が紙に近づける余白ができた瞬間、参加者は自分たちで読み解きはじめる。
壁面設計へきめんせっけいWall Design
会場の壁をどう使い、何をどの高さにどれだけ貼れるのかを事前に決める設計。その日に可視化できる情報の総量は、ここで上限が決まる。
FIELD貼れる壁の幅を先に測る。窓とホワイトボードしかない部屋なら、当日扱う情報量そのものを設計段階で削る。
キャンバス配置きゃんばすはいちCanvas Placement
描画面を場のどこに据えるかという判断。参加者全員の視野に入り、なおかつ発言者どうしの視線を遮らない位置に置くことが原則になる。
FIELD進行役の背後ではなく、参加者の輪の一部として置く。紙が席を一つ占めると、誰もその紙を無視できなくなる。
人数設計にんずうせっけいGroup Size Design
目的に対して何人を招くかを決める設計。四人までは全員が話し、八人を超えると構造的に聞き手へ回る者が生まれることを前提に組む。
FIELD多様性は確率共鳴として効く。適度な雑音が混じっているほど、弱い信号でしかなかった意見が浮かび上がる。
時間設計じかんせっけいTime Design
全体の長さと各パートへの配分、休憩の位置を決める設計。参加者の集中の持続と、発散から収束へ移る速度が、この配分によって決定づけられる。
FIELD発散に予定の倍を取り、収束は短く置く。足りなくなるのはいつも決める時間ではなく、出しきる時間である。
安全な場あんぜんなばSafe Space
何を言っても攻撃されないと参加者が身体で信じられている状態。宣言によってではなく、進行役の一貫した振る舞いの積み重ねで築かれる。
FIELD最初に出た異論をどう扱うかで全部決まる。それを一番大きく描いて残せば、場は言葉なしに安全だと理解する。
心理的安全性しんりてきあんぜんせいPsychological Safety
対人的な危険を冒しても罰されないと成員が共有している信念。仲の良さの度合いではなく、率直さがどこまで許容されるかを指す概念である。
FIELD沈黙を同意と読まない。反対を歓迎すると述べる言葉より、実際に出た反対を丁寧に描き残す行為が信念をつくる。
招待しょうたいInvitation
参加を命令ではなく誘いとして差し出す行為。来ない自由を残したまま届けることで、当日その人が持つ当事者性は決定的に変わる。
FIELD一斉送信をやめて一人ずつ理由を書く。あなたに来てほしい理由が一行あるだけで、席の埋まり方は変わる。
期待値調整きたいちちょうせいExpectation Alignment
何が起き何が起きないかを事前に伝え、参加者の想定を実際の設計に合わせておく作業。終了後の落胆は、ほぼこの工程の欠落から生じる。
FIELD衝動と探求の転倒を先に告げる。答えは出ないが問いのほうが変わると言い切れば、参加者は探求の側に立てる。
事前ヒアリングじぜんひありんぐPre-Session Interview
主催者や参加予定者に事前に話を聞き、論点と力関係と組織内の語彙を把握しておく準備。当日の描画速度は、この準備の量にそのまま比例する。
FIELD決定権を持つ人と、最も黙りそうな人の両方に会っておく。名前と口癖を先に知っていれば、初手を外さない。
会場下見かいじょうしたみSite Visit
実際の空間に立ち、壁と光と音と人の動線を身体で確認しておく準備。図面や写真の情報だけでは判別できない制約が、ここでいくつも見つかる。
FIELD一番遠い席に座って壁を見る。そこから読めない文字の大きさが、その日の描画における最小サイズになる。
問いと対話
INQUIRY22 ENTRIES問いの設計といのせっけいQuestion Design
何を訊くかではなく、答えが場のどこへ向かうかを見積もって問いの形を選ぶ作業。問いは答えの範囲を先に決める。
FIELD描き終えた紙を見てから次の問いを決める。紙の空白部分が、まだ訊かれていない問いの在りかを示している。
開かれた問いひらかれたといOpen Question
答えの範囲を限定せず、応答者が自分の言葉で内容を構成する問い。何が出てくるかを問う側が制御しない。
FIELD開いた問いを投げたら、紙の余白を大きく取ってから待つ。書ける面積が広いほど、答えは長くなる。
閉じた問いとじたといClosed Question
はい、いいえや選択肢など、限られた形式の答えを求める問い。確認と決定に効く。
FIELD発散が止まらないときに閉じた問いを一つ差し込む。開き続けることは、実は誰も助けていない。
前提を問うぜんていをとうQuestioning Assumptions
議論が暗黙に共有している出発点そのものを対象化し、それが本当に成り立つかを検討する行為。
FIELD全員が頷いた瞬間が最も危険だ。その頷きの下に何が隠れているかを、一本の線で下に引き出す。
リフレーミングりふれーみんぐReframing
同じ事実を別の枠組みに置き直し、意味と選択肢を変える技法。事実は動かさず、見え方だけを動かす。
FIELD紙の上で枠線を描き直すだけで通ることがある。言葉で説得するより、囲いの位置を変えるほうが速い。
パラフレーズぱらふれーずParaphrase
他者の発話を別の語で言い換えて返す行為。理解の照合と、話し手自身による再確認を同時に果たす。
FIELD言い換えは要約ではない。解像度を落とさずに語だけを替える。落ちた分は必ず相手が気づく。
要約返しようやくがえしSummarizing Back
複数の発話をまとめて短く返し、場が今どこにいるかを共有する行為。
FIELD要約を口で言う前に、紙の上に置く。声より図のほうが、間違っていたときに訂正されやすい。
傾聴けいちょうActive Listening
評価や助言を保留し、話し手の言葉と背後の意図を受け取り続ける態度。
FIELD聴くことは静止ではない。手が勝手に線を追い始めたとき、はじめて聴けている。中動態で聴く。
沈黙ちんもくSilence
発話が途切れた状態。思考の停止ではなく、多くの場合は言語化の直前にある。
FIELD沈黙を埋めない。ペン先を紙に触れさせたまま止めておくと、場は待たれていると知る。
間まMa / Pause
発話と発話のあいだに置かれる時間の幅。内容ではなく配置で意味を生む。
FIELD間の長さを線の長さで支える。ゆっくり引く一本が、その場の時間の単位を作り変える。
発話量はつわりょうAirtime
参加者それぞれが話した時間や回数の総量。分布が場の権力構造を映す。
FIELD紙の面積配分で偏りが見える。誰かの言葉だけで埋まった紙は、その事実自体を突きつける。
話の腰はなしのこしInterrupting the Flow
発話が展開の途中にある局面。ここで断ち切ると、まだ形になっていない思考が失われる。
FIELD腰を折るなら図で折る。言葉で遮るより、描き足しで方向を示すほうが話し手は続けられる。
論点ろんてんIssue
議論において検討の対象となっている事柄。何を話しているかの単位である。
FIELD論点は太字で四角く囲む。囲われた瞬間に、それが議題なのか感想なのかが全員に分かる。
争点そうてんPoint of Contention
見解が実際に割れている箇所。論点のうち、合意が成立していない部分に限定される。
FIELD対立の線は消さずに残す。争点を紙の中央に置くと、人ではなく問題に向き直る。
前提の食い違いぜんていのくいちがいMisaligned Premises
同じ語を使いながら異なる出発点に立っている状態。議論が噛み合わない原因の大半を占める。
FIELD噛み合わないと感じたら内容を追うのをやめ、二人の足元を並べて描く。食い違いは足元にある。
抽象度ちゅうしょうどLevel of Abstraction
議論が扱う概念の一般性の水準。高いほど広く適用でき、低いほど検証しやすい。
FIELD抽象度は紙の高さで表す。上下の位置を揃えるだけで、話が同じ層にいるかが一目で分かる。
具体化ぐたいかConcretization
抽象的な言明を、特定の場面や数値に降ろす操作。検証可能性が上がる。
FIELDいつ、誰が、どこでを訊いて、その場で人物を一人描く。人が現れると議論は嘘をつけなくなる。
一般化いっぱんかGeneralization
個別の事例から共通する構造を取り出し、他の場面にも及ぶ形に変換する操作。
FIELD事例を三つ横に並べてから、上に矢印を引く。三つ揃うまで一般化しないと決めておく。
例示れいじExemplification
主張を支える具体例を挙げる行為。理解の速度を上げ、誤解の位置を露呈させる。
FIELD例が出た瞬間に小さく絵にする。絵にできない例は、まだ本人のなかでも像を結んでいない。
語の定義合わせごのていぎあわせAligning Definitions
同一の語について各人が持つ意味を突き合わせ、当面の共通了解を作る作業。
FIELD定義は合意させず、二つ並べて描いておく。差異が見えているほうが、議論は速く進む。
原語保持げんごほじPreserving Original Wording
話し手が使った語を、要約や翻訳をせずそのまま記録すること。言い換えは意味の一部を必ず削る。
FIELD本人の語には鉤括弧をつけて残す。ハビトゥスは語彙に宿る。整えた瞬間に本人のものでなくなる。
言い淀みいいよどみHesitation
言葉が滑らかに出てこない状態。既存の語彙に収まらない何かが立ち上がっている徴候である。
FIELD淀んだ箇所こそ描き留める。手が先に動き、言語は後から追いつく。追いつく前の像が最も濃い。
介入の技法
INTERVENTION24 ENTRIES介入かいにゅうIntervention
場の進行に対して意図的に働きかけ、流れの向きや速度を変える行為。描く、置く、動くのすべてが含まれる。
FIELD介入するかどうかで迷ったら、手を止めている時間の長さを見る。止まった手が最も強い介入になる。
投げ返しなげかえしThrowing Back
受け取った発話や問いを、答えずに場へ戻す技法。決定権を場の側に残す。
FIELD問われたら紙を指す。答えを口にせず図の一点を示すと、場が自分で答えを取りに来る。
図の提示ずのていじPresenting the Visual
描いた図を明示的に場へ向け、共通の参照点として使わせる行為。視線の集約が起きる。
FIELD提示は説明ではない。無言で紙を持ち上げるだけでいい。解説を足すと図は言葉に従属する。
空白の提示くうはくのていじPresenting the Blank
紙面に意図的な余白を作り、まだ埋まっていない領域として場に見せる技法。
FIELD埋まらない箇所を指で丸く囲む。空白は失敗の跡ではなく、次の発話が入る座席である。
対比の可視化たいひのかしかVisualizing Contrast
二つ以上の要素を並置し、差異を空間配置で示す技法。優劣ではなく差の構造を見せる。
FIELD左右に置いて中央を空ける。対立ではなく並存として描くと、選ばずに済む道が見えてくる。
矛盾の指摘むじゅんのしてきPointing Out Contradiction
整合しない二つの言明を同一画面に置き、対立を場に返す介入。指摘者ではなく紙が矛盾を語る。
FIELD二つの発言を線で結び、結び目に小さな印を置く。人を責めずに済む形式が矛盾を扱いやすくする。
命名めいめいNaming
まだ名前のない現象や感覚に対して語を与え、扱える対象に変える行為。
FIELD命名は仮でいい。紙の上に置いて反応を見る。違うと言われたときに本当の名が出てくる。
ラベリングらべりんぐLabeling
図の一部に短い語を貼り付け、その領域の意味を固定する操作。読み取りの速度が上がる。
FIELDラベルは三語までにする。長い注釈を貼った図は、もう図として機能していない。
分類の提案ぶんるいのていあんProposing Categories
散在する要素に区分の枠を与え、構造の候補として場に差し出す介入。
FIELD枠線は破線で描く。実線で囲うと確定に見え、参加者が組み替えるのをためらう。
順序の提案じゅんじょのていあんProposing Sequence
要素間に前後関係を仮設し、矢印や配置で流れの候補を示す技法。
FIELD矢印は薄い色で入れる。濃く描いた順序は、検討される前に事実として通過してしまう。
時間軸への配置じかんじくへのはいちPlacing on a Timeline
発話の内容を過去、現在、未来のいずれかに割り当て、横軸上に置く技法。
FIELD今の話か昔の話かを訊いて位置を決める。時制が揃うと、噛み合わなかった議論が急に噛み合う。
発散の促進はっさんのそくしんEncouraging Divergence
選択肢の数を増やす方向に場を押す介入。評価を後回しにして量を確保する。
FIELDペンの動きを速くし、線を粗くする。描き手の速度が上がると、場の発話も勝手に速くなる。
収束の合図しゅうそくのあいずSignaling Convergence
拡がりを閉じ、選択と決定へ移る局面を場に知らせる介入。言葉より所作で伝わる。
FIELD新しい紙を出さず、既にある図に戻って線を太くする。増やすのをやめた手つきが合図になる。
話題の切り替えわだいのきりかえTopic Shift
現在の主題を終え、別の主題へ移す介入。移行の明示が場の迷子を防ぐ。
FIELD前の話題に横線を一本引いてから次を書く。区切り線があると、戻りたい人が戻れる。
割り込みわりこみCutting In
進行中の発話を中断させて場に別の情報を差し入れる介入。強度が高く、回数を制限すべき技法。
FIELD口ではなくペン先で割り込む。紙に大きな丸を描くと音が鳴り、視線が動き、発話が自然に止まる。
待つまつWaiting
働きかけを保留し、場が自ら動くのを許す積極的な不作為。何もしていないのではない。
FIELD待つあいだ、既に描いた線をなぞる。手が動き続けている限り、待機は放置に見えない。
ペンを渡すぺんをわたすHanding Over the Pen
描く権限を参加者へ移譲し、記録の主体を場の側に置き換える介入。
FIELD上手さは伝達の問題であって思考の条件ではない。下手でいいと言わずに渡すほうが、相手は描く。
立ち位置の変更たちいちのへんこうChanging Position
描き手が物理的に移動し、場の視線の集まる方向と力学を変える身体的介入。
FIELD紙の横から一歩引くと、図が話者から参加者のものになる。近さが所有を決めている。
描く速度の操作えがくそくどのそうさModulating Drawing Speed
線を引く速さを意図的に上下させ、場の呼吸とテンポを変える技法。小脳の水準で伝わる。
FIELD急いでいる場ではあえて遅く引く。速度は説得ではなく確率共鳴で伝わる。数十秒で場が同調する。
描かない選択えがかないせんたくChoosing Not to Draw
記録可能な発話をあえて図にしない判断。描かれないことも場へのメッセージとして機能する。
FIELD私的な打ち明けは描かない。ペンを置く所作が、ここは記録の外だと全員に伝える。
誇張こちょうExaggeration
要素の大きさや形を実際の比率から外して描き、注意の配分を意図的に歪める技法。
FIELD重要な語だけを三倍で書く。均等に整えた図は、正確ではあっても何も主張していない。
省略しょうりゃくOmission
発話の一部を意図的に描かず、図の情報量を絞る操作。認知負荷の制御そのものである。
FIELD全部描こうとする手を止める。捨てた情報の分だけ、残した情報の解像度が上がる。
未完成の提示みかんせいのていじPresenting the Unfinished
描きかけの状態のまま図を場に見せ、参加者の加筆を誘い込む技法。
FIELD線を途中で止めて手を離す。完成した図は鑑賞されるが、未完成の図は書き込まれる。
描き直しかきなおしRedrawing
既に描いた図を場の前で作り替え、理解の更新を可視化する介入。消すのではなく上から重ねる。
FIELD古い図を残したまま隣に描く。変わった過程が見えていると、場は次の変化も受け入れる。
集団力学
GROUP DYNAMICS22 ENTRIES集団力学しゅうだんりきがくGroup Dynamics
複数人が相互に影響しあうときに生じる力の場と、その規則性を扱う社会心理学の領域。個人の性質の総和では説明できない挙動を対象とする。
FIELD誰が何を言ったかより、誰の発言のあとに場が動いたかを線でつなぐ。矢印一本で力の流れが可視化される。
グループダイナミクスぐるーぷだいなみくすField Theory of Groups
レヴィンが定式化した、集団を場として捉える理論。個人は場の力に規定され、場が変われば同じ人物が別の振る舞いをする。
FIELD人を変えようとせず紙の位置を変える。壁に貼るか机に広げるかだけで、発言の量と質が入れ替わる。
同調圧力どうちょうあつりょくPeer Pressure
多数派の判断に合わせるよう個人に働く暗黙の強制力。アッシュの実験では明白な誤答にすら追従が生じた。
FIELD全員がうなずいた瞬間こそ空白を大きく描き残す。埋めるべき余白があると人は異論を出しやすくなる。
集団思考しゅうだんしこうGroupthink
凝集性の高い集団で批判的検討が抑制され、合意の維持が判断の質より優先される現象。ジャニスが提唱した。
FIELD結論に近づくほど描く速度を落とす。線が遅くなると場も遅くなり、見落とした前提が浮かび上がる。
少数意見しょうすういけんMinority Opinion
集団内で支持者の少ない主張。モスコヴィッシは一貫した少数派が多数派の認知を深く変えることを示した。
FIELD少数意見は小さく描かず、あえて同じ大きさで置く。紙の上では票数ではなく面積が発言権になる。
声の大きい人こえのおおきいひとDominant Speaker
発言量と音量で場の議題を占有する参加者。悪意ではなく処理速度の速さが要因である場合が多い。
FIELDその人の言葉を要約せず、逐語のまま短く置く。書き取られた本人は満足し、次の沈黙を待てるようになる。
沈黙する人ちんもくするひとSilent Participant
発言しないが場を観察し続けている参加者。沈黙は無関心ではなく、言語化の速度が場のテンポと合っていない状態を含む。
FIELDその人の視線が止まった箇所に印をつけ、後で指差して問う。言葉より先に指が動けば発言の敷居は下がる。
役割固定やくわりこていRole Fixation
特定の人物が特定の機能に固定され、他の振る舞いが選べなくなる状態。まとめ役や反対役が慢性化する。
FIELD同じ人の発言を毎回同じ色で描かない。色を移し替えるだけで役割の輪郭はゆるむ。
権力勾配けんりょくこうばいPower Gradient
地位や資源の差によって発言のしやすさに生じる傾き。航空事故の分析で安全上の重大要因として定式化された。
FIELD上位者の発言を紙の中心に置かない。中心が空いていると、勾配の下から言葉が流れ込んでくる。
上下関係じょうげかんけいHierarchy
組織上の序列が対人関係に持ち込まれた構造。発言の順序と長さが序列を再生産する。
FIELD描き手は誰の後ろにも立たない。全員から等距離の位置に紙を置けば、序列は物理的にほどける。
心理的リアクタンスしんりてきりあくたんすPsychological Reactance
自由が脅かされたと感じたとき、その自由を回復しようとして反発する動機づけ。ブレームが理論化した。
FIELD参加を促す言葉より、描きかけの紙を置いて離れる。未完成なものは指示なしに人を動かす。
対立たいりつConflict
利害や認識の不一致が表面化した状態。課題対立は成果を高め、関係対立は成果を損なう。
FIELD対立する二案は左右に並べ、間に線を引かない。空いた中間に第三案の置き場所が生まれる。
葛藤かっとうAmbivalence
一人の内部で複数の欲求や価値が競合し、決定が保留される状態。外からは沈黙や矛盾した発言に見える。
FIELD矛盾した発言はどちらも消さずに併記する。両方が紙にあると、本人が初めて自分の葛藤を外から見る。
分断ぶんだんDivision
集団が相互に接触しない複数の塊に割れ、情報と感情の流通が止まった状態。
FIELD分断された両側に共通して出た語を一語だけ大きく描く。橋は説得ではなく共有語彙から架かる。
派閥はばつFaction
利害を共有する下位集団。内部の結束が強まるほど、外部への情報伝達は選択的になる。
FIELD座席の配置をそのまま紙に写して描き始める。誰と誰が隣にいるかが議論の中身より雄弁である。
空気くうきUnspoken Consensus
明文化されないまま行動を拘束する場の合意。山本七平は日本の意思決定を規定する要因として論じた。
FIELD空気は文字で書くと壊れる。あえて言葉にせず、線の密度や余白の広さで紙の上に置き換える。
場の温度ばのおんどTemperature of the Field
その場の情動的な活性度。高すぎれば聞く力が落ち、低すぎれば発話が起こらない。
FIELD温度は自分の手の速度で計る。手が止まりがちなら場は冷えている。まず描き手が動いて温度を上げる。
カオス共鳴かおすきょうめいChaotic Resonance
カオス的な内部ゆらぎが微弱な入力への応答を増幅する現象。外部ノイズを要さない点で確率共鳴と区別される。
FIELD場が乱れ始めたら整理しにいかない。乱れの中でこそ弱い声が拾われる。描き手は構造化を数分遅らせる。
相互模倣そうごもほうMutual Imitation
他者の動作や姿勢を無意識に写しとる傾向。同調行動の基盤であり、関係の形成と相関する。
FIELD描き手が姿勢を低くすると参加者も低くなる。身体は言語より速く伝わるので、まず自分の身体を変える。
情動伝染じょうどうでんせんEmotional Contagion
他者の表情や声の調子を介して情動が集団内に伝播する現象。意識的な共感を経由せずに生じる。
FIELD焦りは筆圧に出て、そのまま場へ移る。速く描けない時ほど深く息を吐き、線の始点をゆっくり置く。
傍観者効果ぼうかんしゃこうかBystander Effect
居合わせる人数が増えるほど個人が援助行動を起こしにくくなる現象。責任の分散が主要因である。
FIELD全体への問いは誰にも刺さらない。ペンを差し出しながら一人の名を呼ぶと、その瞬間に当事者が生まれる。
共犯者化きょうはんしゃかComplicity Building
参加者を観客の位置から降ろし、場の産出物への責任を分けもつ関係へ移す働きかけ。
FIELD描き手のペンを一度手放す。一本の線でも参加者が引いた紙は、その日から全員の紙になる。
認知と身体
COGNITION20 ENTRIESワーキングメモリわーきんぐめもりWorking Memory
情報を一時的に保持しながら操作する容量制限のあるシステム。保持できる塊はおよそ四つとされる。
FIELD四項目を超えたら描いて外に出す。紙は外部化された作業記憶であり、容量を場の外へ拡張する装置である。
認知負荷にんちふかCognitive Load
処理に要する心的資源の量。過剰になると理解も記憶も落ちる。
FIELD情報を足すより、消すほうが理解は上がる。減らす判断が最も高度な技術である。
チャンク化ちゃんくかChunking
個別の情報を意味のあるまとまりへ束ね、実質的な保持容量を増やす符号化の働き。
FIELD囲みを一本引くだけで五項目が一項目になる。線を足すのではなく、束ねるために引く。
デュアルコーディング理論でゅあるこーでぃんぐりろんDual Coding Theory
言語系と非言語的心像系という二つの独立した符号化経路を仮定するペイヴィオの理論。両方を用いると記憶保持が高まる。
FIELD同じ内容を字と絵で二重に置く。重複は無駄ではなく、二本の道から同じ場所へ入る設計である。
画像優位性効果がぞうゆういせいこうかPicture Superiority Effect
同一内容でも画像で提示された情報のほうが文字より想起されやすい現象。符号化の深さの差に由来する。
FIELD見出しを文字で飾らず、へたでも図にする。上手さは伝達の問題であって思考の条件ではない。
注意ちゅういAttention
限られた処理資源を特定の対象へ選択的に配分する機能。向けた対象以外の情報は大幅に脱落する。
FIELD注意は動くものへ向かう。止まった紙より、いま動いているペン先が最も強い誘導装置になる。
注意残余ちゅういざんよAttention Residue
前の課題への注意が次の課題に持ち越され、切り替え後も処理効率が下がる現象。リーロイが報告した。
FIELD話題を変える前に前の塊を線で閉じる。閉じる動作が見えると、参加者の注意も一緒に切り替わる。
視線しせんGaze
目の向きが示す注意の所在。他者の視線方向は自動的かつ高速に検出され、観察者の注意を誘導する。
FIELD描き終えたら顔を上げて紙を見る。描き手の視線が、参加者全員の視線を紙へ集める最短の合図になる。
共同注意きょうどうちゅういJoint Attention
二者以上が同一の対象へ注意を向けあい、向けあっていること自体を共有する状態。言語習得の基盤とされる。
FIELD対面ではなく全員を紙の同じ側に並べる。向かい合うと交渉になり、同じ方を見ると共同作業になる。
ミラーニューロンみらーにゅーろんMirror Neuron
自ら行為するときと他者の同じ行為を観察するときの双方で発火する神経細胞。マカクザル運動前野で発見された。
FIELD描く手を隠さない。描いている過程が見えると、参加者の脳内でも同じ運動が走り、理解が身体で起きる。
身体化認知しんたいかにんちEmbodied Cognition
認知が脳内の記号操作に閉じず、身体の構造と環境との相互作用に支えられているとする立場。
FIELD考えが詰まったら全員を立たせて紙の周りを歩かせる。視点が動くと、動かなかった論点が動きだす。
手続き記憶てつづききおくProcedural Memory
技能や手順に関する非宣言的記憶。大脳基底核と小脳が担い、言語化を経ずに想起され、意識的な検索を必要としない。
FIELD描き方は説明で伝わらない。十回引かせるほうが速い。手が覚えた線は場が乱れても崩れない。
運動学習うんどうがくしゅうMotor Learning
反復を通じて運動指令と感覚フィードバックの誤差が縮小し、遂行が安定していく過程。認知段階から自動化段階へ移行する。
FIELD本番前に丸と線を三十秒引く。手が自動化段階に入ってから場に臨むと、聴くための資源が残る。
小脳しょうのうCerebellum
運動の協調とタイミングを司り、身体と環境の内部モデルを保持して予測と実際の誤差を修正し続ける器官。処理は高速で意識にのぼらない。
FIELD描く速度は小脳が決める。速く描けないのは技術不足ではなく、まだ内部モデルが育っていないだけである。
大脳だいのうCerebrum
言語処理、意識的判断、抽象的推論を担う器官。逐次的な処理のため正確だが遅く、応答の即時性では小脳に及ばない。
FIELD何を描くか考えている間に場は次へ進む。判断を大脳に返す回数を減らすほど、その場に居られる時間が増える。
確率共鳴かくりつきょうめいStochastic Resonance
非線形系において適量のノイズが加わることで、閾値下の微弱な信号の検出率がかえって高まる現象。ノイズが多すぎても少なすぎても効果は消える。
FIELD手描きの揺らぎがそのノイズにあたる。線を整えすぎると、場の弱い信号が閾値を越えられなくなる。
解像度かいぞうどResolution
対象を区別できる細かさの度合い。見えていないものは描けず、描くことで初めて見えるという往復を通じて上がっていく。
FIELD描けなかった箇所が、いま解像度の足りない場所である。空白を消さずに残し、次の問いをそこから出す。
腱優位けんゆういTendon-Dominant Use
筋の収縮で関節を固めず、腱の弾性を用いて動く身体運用。エネルギー消費が小さく、疲労の蓄積が遅い。
FIELD握らず弾ませてペンを持つ。力まない線は六時間の場でも同じ太さで引け、終盤まで手が生きている。
五歳の身体性ごさいのしんたいせいFive-Year-Old Embodiment
上手い下手という評価軸が介入する前の身体状態。感覚と運動の神経ループが開き、衝動がそのまま線になる。
FIELD描く前に評価軸を降ろす。上手く描こうとした瞬間、大脳が割り込んで手は遅くなり、線から生気が抜ける。
中動態ちゅうどうたいMiddle Voice
能動でも受動でもない態。主語が行為の過程の内側にあり、行為者と行為が分離しない古代ギリシャ語などの文法範疇。
FIELD描いているのでも描かされているのでもない。場が描かせている。その状態に入れた日は、後から線を見て自分でも驚く。
FOR PRACTITIONERS語彙は独習で入る。手が勝手に動く状態への移行だけは、段階を踏まないと起きない。五段の階段は教科書側にまとめてある。
教科書を読むTEXTBOOKEMBODIED ORGANIZATION ── 組織を、身体から
場の質は、共に揺れる身体から始まる。
関係の質は、身体の同期から生まれる。
一本の歯は、場の身体を整える最小の道具。
合意と意思決定
DECISION16 ENTRIES合意形成ごういけいせいConsensus Building
複数の立場の差異を残したまま、次の一歩を共同で選び取る過程。誰かが作るのでも作らされるのでもない、中動態で成立する出来事である。
FIELD反対意見を紙の隅に追いやらない。中央に他と同じ大きさで描くと、合意は速度ではなく厚みを持ちはじめる。
コンセンサスこんせんさすConsensus
参加者の誰も決定的に反対しない状態を指す。賛成の総量ではなく反対の不在によって成立するため、熱量の低い合意になりやすい構造を持つ。
FIELD沈黙を賛成として描かない。異論の芽を小さな吹き出しで残しておくと、後で決定が崩れにくくなる。
多数決たすうけつMajority Vote
賛成の数の多寡で結論を確定する手続き。速度と正統性を同時に得られる反面、少数側の論点が記録から消える危険を常に伴う。
FIELD票を数える前に、少数意見を先に紙へ書き出す。負けた側の言葉が残っている板面が、次の実行を静かに支える。
全会一致ぜんかいいっちUnanimity
参加者全員が明示的に賛成を表明した状態を指す。強い実行力を生む反面、異論を持つ者の沈黙を賛成に数えた偽装がここに紛れ込む。
FIELD全員がうなずいた瞬間こそ描く手を止める。板面の空白を指して、まだ言えていないことを問い直す。
同意と納得どういとなっとくAgreement and Acceptance
手続き上で示された賛意と、身体の底まで受け入れた状態とを分ける対概念。同意は言語で示され、納得は小脳の側に遅れて到達する。
FIELD同意の場面では文字を、納得の場面では絵を増やす。図が腑に落ちた顔をした人の数を、その場で数えておく。
決定事項けっていじこうDecisions Made
会議の場で確定し、参加者の次の行動を拘束する内容を指す。誰が何をいつまでに実行するかの三点が埋まって初めて決定事項と呼べる。
FIELD決定事項は板面の一等地に赤い枠で囲う。会議の終わりに、その枠の中だけを声に出して読み上げる。
保留ほりゅうParking
判断材料が不足していることを理由に、決定を意図的に止めておく状態。放置と違い、再開の条件と期限が明示されている点で決定の一種である。
FIELD保留の箱を紙の右下に常設しておく。入れた項目には再開の日付を必ず書き添え、空欄のまま置かない。
先送りさきおくりDeferral
条件を示さないまま判断を後ろへ流す行為を指す。保留と形は似るが、再開の主体も期限も決まらないまま議題だけが持ち越される。
FIELD先送りと保留を同じ紙に書き分ける。先送りの欄が三つを超えた時点で、議題の設計そのものを疑う。
意思決定者いしけっていしゃDecision Maker
最終的な責任を負い、その結果を引き受ける権限を持つ人。会議の場に不在のまま議論だけが進むと、その日の合意は後から静かに覆される。
FIELD決める人の名前を紙の上端に大きく書いておく。不在なら、その空欄を全員に見える大きさで描き残す。
権限設計けんげんせっけいAuthority Design
誰がどの範囲まで決められるかを、議論の前にあらかじめ定める設計。会議の紛糾の多くは、意見の対立ではなく権限の未定義から生じる。
FIELD議論の前に決定権のある人を紙に図で示す。線が引けない関係が見えたら、そこが今日の本題である。
判断基準の合意はんだんきじゅんのごういAgreement on Criteria
結論を出す前に、何をもって良しとするかを共有しておくこと。基準が先に置かれていれば、選択肢の優劣は議論を待たずに決まりはじめる。
FIELD選択肢を描く前に、評価軸を紙の左端へ縦に並べる。軸が三本を超えると議論は必ず割れる。二本まで削る。
トレードオフとれーどおふTrade-off
一方を取れば他方を必ず失う交換の関係を指す。両立が不可能な条件のもとで何を捨てるかを決める作業こそが、意思決定の本体である。
FIELD得るものと失うものを左右に並べて描く。片側だけが埋まった紙は、まだ検討が終わっていない証拠である。
優先順位づけゆうせんじゅんいづけPrioritization
複数の課題に序列を与え、限られた資源の投入先を絞り込む作業。順位をつけるとは、下位のものを当面やらないと宣言することである。
FIELD一位を決めるより、最下位を先に指差す。紙の下段に置いた項目を消して見せると、場の空気が動く。
ドット投票どっととうひょうDot Voting
参加者がシールや点を候補に置いて選好を示す簡便な手法。集計が視覚的に一瞬で済む反面、先に貼られた点に後続の判断が引きずられる。
FIELD貼る前に十秒だけ全員の手を止めておく。同時に貼らせると、板面は多数派の形ではなく分布を映す。
反対の表明はんたいのひょうめいVoicing Dissent
議論の場で明確に異を唱える行為を指す。表明された反対は決定の質を上げる資源であり、抑圧された反対は実行段階で必ず戻ってくる。
FIELD反対者の言葉は要約せず、そのままの語で書く。丸めて書いた瞬間に、その人はその日もう口を開かない。
決めない決定きめないけっていDeciding Not to Decide
今は決めないということを、その場で明示的に選ぶこと。判断の放棄ではなく、情報が揃うまで選択肢を開いたまま保つという積極的な決定である。
FIELD決めないという判断も決定欄に書く。空白のまま散会すると、場は決まったつもりのまま別々に動き出す。
構造とレイアウト
LAYOUT18 ENTRIESキャンバスきゃんばすCanvas
描画の対象となる面の全体を指す。紙やボードの寸法という物理的制約が、記録できる情報量と構造を話し合いより先に決めてしまう。
FIELD描き出す前に紙の端まで手を往復させ、可動域を体に入れる。キャンバスは所有物ではなく、場が描かせる中動態の器である。
セクショニングせくしょにんぐSectioning
キャンバスを意味のまとまりごとに区切る操作。区切りが先にあることで、書き込まれる内容の位置が自動的に決まり、探す時間が消える。
FIELD区切り線は薄く引き、あとで動かせる余地を残す。最初から太い枠で囲うと、想定外の話題が入る場所を失う。
島構造しまこうぞうIsland Structure
情報を複数のかたまりに分けて配置し、島どうしの間を空けたまま並べる構造。関係が確定していない段階でも、記録を止めずに進められる。
FIELD島は先につなげない。線で結ぶのは話が終わってからでよく、早すぎる接続は参加者の解釈を一つに縛る。
時間軸レイアウトじかんじくれいあうとTimeline Layout
左から右、または上から下へ時間の経過に沿って情報を並べる形式。順序と因果を同時に示せるため、経緯の共有と合意の確認に強い。
FIELD軸の目盛りを先に打つ。等間隔にせず、議論が濃い時期ほど幅を広く取ると、話の密度がそのまま図になる。
放射レイアウトほうしゃれいあうとRadial Layout
中心に主題を置き、そこから枝を外へ伸ばして展開する形式。中心との距離が関連の強さを表すため、拡散する議論を受け止めやすい。
FIELD中心の語は最後まで空けておく。序盤で言葉を確定させると、その定義に全員の発想が引き寄せられる。
マトリクスまとりくすMatrix
二つの評価軸を交差させ、四つの領域に情報を配置する形式。空いた象限はそのまま、まだ検討されていない論点として可視化される。
FIELD軸のラベルは参加者に決めさせる。描き手が用意した軸は、その時点で結論の半分を先に書いたことになる。
階層表現かいそうひょうげんHierarchy Display
大きさや位置、囲みの入れ子によって情報の上下関係を示す方法。読み手は文字を読む前に、図の形と大きさだけで重要度を判断する。
FIELD階層は三段までに抑える。描き手の解像度が上がるほど段は深くなるが、読み手には同じ濃さの模様に見える。
フォーカルポイントふぉーかるぽいんとFocal Point
画面の中で、見る者の視線が最初に着地する一点。色の彩度や余白の量、線の太さの差によって作られ、図全体の読解の起点になる。
FIELD一枚に強い点は一つだけ置く。二つ作ると視線は往復し続け、結局どちらも印象に残らないまま終わる。
視線誘導しせんゆうどうVisual Flow
線や矢印、配置の連なりによって、読み手の目が動く順路を設計すること。読む順番が決まると、同じ図であっても伝わる意味が変わる。
FIELD目は意味を読む前に形の連なりを追う。矢印を足すより、要素の位置を動かすほうが小脳に速く届く。
余白設計よはくせっけいWhite Space Design
何も描かない領域を意図的に確保する設計。余白は不足ではなく、後から入る情報の置き場と、読み手が考える時間を同時に確保する。
FIELD紙の三割は最後まで空けておく。埋まった紙は完成に見えて、その先の発言を物理的に締め出してしまう。
グリッドぐりっどGrid
描画面に想定する見えない基準線の格子。要素の位置と大きさをそろえる土台となり、揃っているという印象だけで内容の信頼度が上がる。
FIELD定規は使わない。手で引いた線が数ミリ揺れていても、始点の高さと文字の下端をそろえれば整って見える。
フレーミングふれーみんぐFraming
情報の一群を線や色で囲い、外側との境界を作る操作。囲われた内容は一つの主張として扱われ、囲いの外にある情報は背景へ退く。
FIELD囲うのは合意した内容だけにする。検討中の話を囲むと、その場で決まったかのように後日読まれる。
動線どうせんCirculation Path
描き手が紙の前で移動する経路と、参加者が図に近づく経路の総称。描き手の背中が図を隠す時間の長さが、場の参加度を左右する。
FIELD描き終えたら半歩下がって横に立つ。紙の正面を空けた瞬間に、参加者は自分から指をさして話し始める。
色数制限いろかずせいげんLimited Palette
本番で使う色を三色から四色までに絞る規律。色数が増えるほど一色あたりの意味は薄まり、色分けそのものが情報として機能しなくなる。
FIELD黒で書き、赤は決定にだけ使う。三色目を出す前に、その色が何を意味するかを口に出して宣言する。
文字サイズ設計もじさいずせっけいType Scale
見出し、小見出し、本文の三段階で文字の大きさを決める設計。段階の差が明確なほど、離れた位置からでも構造が瞬時に読み取れる。
FIELD最後列の参加者が読める大きさを基準にする。本文は指二本分、見出しは手のひら一つ分を目安に取る。
タイトルゾーンたいとるぞーんTitle Zone
紙の上部にあらかじめ確保する主題と日付の記載領域。ここが埋まっているだけで、後日その一枚が何の記録なのかを探さずに判別できる。
FIELDタイトルは開始時に書かず、終了の五分前に置く。その日の場で最も強く出た言葉を、要約せずそのまま使う。
凡例はんれいLegend
図の中で使った色や記号が何を指すかを示す一覧。描き手の頭の中にある約束事を外に出し、参加者が図を自力で読めるようにする。
FIELD凡例は隅に小さく、開始前に書く。途中で色の意味を変えたときは、変えた事実を消さずに二本目の線を足す。
継ぎ足しつぎたしExtension
描画中に紙やボードを足して面を広げる行為。事前の計画が破れたことの表明ではなく、場の発話量が想定を超えた証拠として機能する。
FIELD紙は必ず一枚多く持つ。足りなくなってから足すのではなく、埋まる前に貼ると場の熱が途切れない。
記録と資産化
HARVEST14 ENTRIESハーベスティングはーべすてぃんぐHarvesting
場に出たものを収穫し、次の行動に使える形へ変える一連の作業。描くことと同じ重みで設計されなければ、記録は使われないまま死ぬ。
FIELD描き終わりを仕事の終点にしない。撤収前の五分で、板面の要点を三つだけ別紙に手で写しておく。
リアルタイム記録りあるたいむきろくReal-time Recording
発言が起きているその場で同時に描き進める記録法。遅れは避けられないが、遅れそのものが場に考える間を与える装置として働く。
FIELD聞いてから描くのでは常に遅い。手が先に動き、言語が後から追いつく順序をペンの側に覚え込ませる。
事後グラレコじごぐられこPost-session Graphic Recording
会議の終了後に、録音や記憶をもとに構成し直して描く方法。構成の精度は上がるが、その場の熱が抜け落ちた静かな図になりやすい。
FIELD事後に描き直すなら、迷った線をあえて残す。整いすぎた図は、読み手の思考をその場で止めてしまう。
撮影さつえいPhotographing
描いた紙を画像として固定し、場の外へ持ち出せる形に変える行為。照明と垂直の角度で撮るだけで、後の共有と検索の可否が決まる基礎作業である。
FIELD撮るのは撤収前ではなく、区切りごとに一枚ずつ。全景と部分の二種を撮り、後で切り出せる余白を残す。
アーカイブあーかいぶArchive
描かれた記録を保管し、後から誰でも取り出せる状態に置く仕組み。保存しただけでは資産にならず、取り出しの設計が価値を決める。
FIELD保存先を決めてから描き始める。ファイル名に日付と案件名と枚数を入れるだけで、半年後の紙が生き返る。
索引づけさくいんづけIndexing
記録に見出しと分類を与え、必要な一枚へ到達できるようにする作業。索引の解像度が低い画像群は、保存されていても二度と取り出されない。
FIELD描いている最中に見出しを打つ。紙の上端へ議題名を書いておくと、それがそのまま索引語になる。
議事録との併用ぎじろくとのへいようUse with Minutes
文字の議事録と図の記録を並走させる運用。前者は検索と証跡を担い後者は関係と流れを担うため、どちらも他方の代わりにはならない。
FIELD議事録係と描き手を隣に座らせる。決定の文言だけは同じ言葉に揃え、板面と文書の食い違いを潰す。
共有のタイミングきょうゆうのたいみんぐTiming of Sharing
記録をいつ、誰に、どの形で渡すかという時間の判断。熱が残る当日と、行動が始まる直前とでは、同じ一枚でも読まれ方も効き方も変わる。
FIELD当日中に写真を一枚だけ送っておく。全部を整えて一週間後に送る資料より、粗い一枚のほうが場を動かす。
再提示さいていじRe-presentation
一度描いた記録を後日の場へ持ち込み、もう一度そのまま見せること。時間を置いた再会は、当時は見えなかった構造を浮かび上がらせる。
FIELD前回の紙を最初に貼り直してから始める。続きの線を同じ紙に足すと、議論は一から繰り返されない。
更新履歴こうしんりれきVersion History
記録がいつ、何をもとに、誰の手で書き換えられたかの経過。履歴が残らない図は、いつのまにか誰かの解釈だけが正史として残る。
FIELD修正は上書きせず、日付を添えて横に足す。消した跡が見えている紙のほうが、あとで強く信用される。
二次利用にじりようSecondary Use
描いた記録を、それが生まれた場の外へ持ち出して使うこと。報告書や広報へ流れた図は、描かれた文脈を失ったまま独り歩きしはじめる。
FIELD転載の可否を描いた当日に確認する。図から人名と社名を外した版を一枚作っておくと、後の判断が速い。
清書せいしょFair Copy
走り描きを整え、他者が一人でも読める形へ作り直す工程。読みやすさは確実に上がるが、線の勢いに宿っていた場の温度は同時に失われる。
FIELD清書するかどうかは、読む相手が誰かで決める。上手さは伝達の問題であって、思考の条件ではない。
デジタル化でじたるかDigitization
紙の記録を画像やデータへ変換し、複製と検索を可能にする処理。同時に、原寸の大きさと紙の手触りという情報がそこで確実に落ちる。
FIELD画面で見る前提なら、文字を紙の段階で二割大きく書く。縮小して読めない図は、送った時点で読まれない。
引き継ぎひきつぎHandover
記録と文脈をまとめて次の担い手へ渡す行為。図だけを渡しても伝わらず、なぜその形に描いたかの判断まで含めて渡す必要がある。
FIELD引き継ぐ相手には、完成図ではなく描きかけの紙を見せる。描く手順そのものが、転移する文化資本になる。
倫理と立場
ETHICS14 ENTRIES中立と公正ちゅうりつとこうせいNeutrality and Fairness
立場を持たないことと、扱いを偏らせないことの区別。描く手は必ず選んでいるため、中立は達成される状態ではなく点検し続ける姿勢である。
FIELD中立を名乗る前に、今日どの発言を大きく描いたかを数える。偏りは意図ではなく紙面の面積に出る。
誘導ゆうどうSteering
描き手の選択が、議論の流れを特定の方向へ押し動かすこと。場が描かせているという中動態の実感は、この誘導の責任を免除しない。
FIELD矢印を引く前に一秒止まる。因果の矢印はほとんどが描き手の推測であり、紙に出た瞬間に事実として扱われる。
恣意しいArbitrariness
根拠を示せない選択が、そのまま記録に混ざり込むこと。何を書き、何を落としたかを説明できない箇所は、そのまま描き手の私意である。
FIELD落とした発言を三つ挙げられるようにしておく。挙げられない日は、その板面が自分の趣味で作られている。
匿名化とくめいかAnonymization
発言者の特定につながる情報を、記録の側から外す処理。名前を消すだけでは足りず、役職や語り口からも人は容易に割り出される。
FIELD小さな組織では役職名も個人名である。人数の少ない場では、発言を人から切り離して束ねて描く。
記録の同意きろくのどういConsent to Record
描かれ写され共有されることへの、参加者の事前の承諾。冒頭の一言だけで済ませた同意は、外部への公開の段階では効力を持たない。
FIELD撮る前に紙を掲げて、これを共有してよいかと問う。断られたら、その一枚だけを黙って裏返して伏せる。
守秘しゅひConfidentiality
場で知り得た内容を、その場の外へ持ち出さない義務。図は文字より記憶に残るため、断片の一枚が契約違反になる危険は文書より高い。
FIELD板面に社名と数字を書く前に一拍おく。外部へ出す一枚は、無関係な第三者の目で必ず見直してから渡す。
発言の帰属はつげんのきぞくAttribution of Statements
どの言葉が誰のものかを、記録の上で示すか伏せるかの判断。帰属を明示すれば責任が伴い、伏せれば発言は場のものとして扱われる。
FIELD名前を書くかは本人に決めさせる。役職の高い人の発言だけに名を添える癖が、板面の力関係をそのまま固定する。
誤記のリスクごきのりすくRisk of Misrecording
聞き違いや要約の圧縮によって、話された内容と違うものが残る危険。図は断定的に見えるため、誤りが訂正されないまま外へ流通していく。
FIELD迷った語には仮の印をつけたまま描く。会議の終わりにその印だけを読み上げ、本人に直接直させる。
描かない権利かかないけんりRight Not to Draw
記録しないという選択を、描き手の側が権利として持つこと。涙や告白や身体の話は、紙に残った瞬間に語った本人を縛る道具へ変わる。
FIELD描かない判断は場に見せる。ペンを置き、両手を膝に戻す動作が、いま記録していないことを全員に伝える。
当事者性とうじしゃせいPositionality
描き手自身がその問題のどこに位置しているかという事実。外から来た者という自己像は、身についたハビトゥスの偏りをきれいに隠してしまう。
FIELD自分がどの席に近いかを最初に自覚する。発注者の隣に立って描くだけで、線は自然にその側へ寄る。
代弁の危険だいべんのきけんDanger of Speaking for Others
言えずにいる人の思いを描き手が言語化して差し出す行為に伴う危険。善意でなされた要約ほど、本人から語り直す機会を静かに奪い去る。
FIELD代わりに言葉にする前に、絵だけを描いて本人へ渡す。名づけは描き手ではなく当事者の手に残す。
権力への加担けんりょくへのかたんComplicity with Power
描く行為が結果として強い側を利すること。会議で決まったという体裁を図が与え、反対の痕跡を消した記録が、後の根拠として使われる。
FIELD権力者の言葉を大きく描かない。同じ太さ同じ高さで全員を並べるだけで、板面は権力の再生産を止める。
場からの撤退ばからのてったいWithdrawal from the Field
描くことが加害に転じると判断した時に、記録を止めて場を降りる選択。続けることが常に誠実だという前提そのものが成り立たない。
FIELD降りる基準を契約の前に紙に書いておく。その場で判断すると、手はほぼ必ず描き続ける側に倒れる。
報酬と独立性ほうしゅうとどくりつせいFees and Independence
誰から金を受け取るかが、何を描けて何を描けないかを規定する関係。発注者に都合の悪い線を引けない立場は、その時点で記録者ではない。
FIELD契約時に、描いたものを直させない条項を一行入れる。その一行が、当日のペンの自由を担保する。
道具と環境
TOOLS12 ENTRIES水性マーカーすいせいまーかーWater-based Marker
発色が強く臭気の少ない、水に溶ける染料を用いた太字のペン。線幅が一定に保たれるため、離れた位置からの可読性が安定し、大人数の場に向く。
FIELDキャップは開けたまま手に持つ。開け閉めに使う一秒が積もると、発言と線のあいだに遅れが生まれる。
筆ペンふでぺんBrush Pen
筆圧によって線幅が連続的に変わる携帯用の筆。同じ一本で細い線と太い線を出せるため、強弱の表現を持ち替えなしで描き分けられる。
FIELD指先で握らず、腕ごと動かして引く。腱優位で持つと線に速度が乗り、迷いが線幅の揺れとして残らない。
模造紙もぞうしPoster Paper
縦横がおよそ一メートル前後の大判の紙。一枚が一つの議題という単位を作り、貼り替えによって場面の切り替えを物理的に示せる。
FIELD床に広げて上から描く時間を作る。五歳の身体性に戻ると線が大きくなり、壁の前では出ない構図が出る。
ロール紙ろーるしRoll Paper
巻いた状態で供給される、切れ目のない連続した紙。切る長さを描き手が決められるため、議論の量に合わせて面の大きさを後から調整できる。
FIELD巻き癖は下端を先に留めて殺す。紙が丸まるたびに手を止めると、場のリズムは描き手の都合で切れる。
ホワイトボードほわいとぼーどWhiteboard
書いた内容を消して繰り返し使える表面を持つ板。消せるという性質が試し書きを許す一方で、記録として残らない前提を場に与える。
FIELD消す前に必ず写真を撮る。消した瞬間に議論の履歴は消滅し、同じ論点が三十分後に最初から始まる。
養生テープようじょうてーぷPainter’s Tape
手で切れて糊が残りにくい貼り付け用のテープ。紙を壁に留める道具であると同時に、貼る位置を変えて構造を組み替える道具になる。
FIELD会場に入ったら壁の材質を先に触る。剥がれる壁と剥がせない壁の判断が、その日の会場の使い方を決める。
イーゼルいーぜるEasel
描画面を任意の高さと角度で立てて支える脚付きの台。高さと角度が描き手の姿勢を決め、姿勢が線の伸びと持久力をそのまま規定する。
FIELD面の中心を自分のみぞおちの高さに合わせる。腕だけで届く範囲に収まると、身体知が線の判断を引き受ける。
タブレットたぶれっとTablet
画面上で描画と編集を同時に行う電子機器。取り消しと拡大縮小が自由な反面、線が確定しないまま何度でも書き直せる状態が生まれる。
FIELD取り消し機能を封じて一度きりで描く。消せる環境ほど手が止まり、迷いが場の待ち時間に変換される。
投影とうえいProjection
描画面をプロジェクターで拡大して映すこと。手元の小さな動きが会場全体の共有物になり、遠い席の参加者も同じ図を同時に見る。
FIELD投影する前に画面の端を確認する。映る範囲の外に描いた線は、その場では存在しないものとして扱われる。
照明しょうめいLighting
描画面に当たる光の量と方向、および影の落ち方。光量が足りない場所では色の差が消え、色分けで示したはずの区別が読み手に届かなくなる。
FIELD自分の影が紙に落ちない側に立つ。影の位置は照明で決まり、立ち位置の選択は開始前の数秒で終わる。
可聴性かちょうせいAudibility
描き手の位置から発言がどれだけ明瞭に聞こえるかの度合い。聞こえていない語は描けないため、可聴性は描画の精度を直接決める。
FIELD描く位置より、声が届く位置を先に選ぶ。聞き取れない時は聞き返すのではなく、二歩近づいて描き続ける。
可視性かしせいVisibility
描かれた図が参加者からどれだけ見えているかの度合い。距離と角度と光量で決まり、描き手の位置からの見えとは常に一致しない。
FIELD開始前に最も遠い席に座って紙を見る。そこから読めない文字は、その日の最後まで一度も読まれない。
現場の失敗と処方
FAILURE16 ENTRIES追いつけないおいつけないFalling Behind
発話の速度に描画が追随できず、記録が遅れ続ける状態。原因は手の速さではなく、何を描くかを言語で選んでから描こうとする順序の逆転にある。
FIELD選ぶのをやめ、聞こえた語をそのまま置く。手を先に動かして小脳に任せると、言語は後から追いついてくる。
構造が見えないこうぞうがみえないNo Visible Structure
語は多数記録されているのに、関係が読み取れない状態。個々の発言を漏らさず書くことを優先し、配置の決定を後回しにした結果である。
FIELD新しい語を足す手を止め、既に書いた語を二本の線で結ぶ。関係を一本引くだけで構造は立ち上がる。
紙が埋まったかみがうまったOut of Space
描画面に空きがなくなり、新しい発言を書く場所を失った状態。情報の取捨選択をせず、届いた語をすべて同じ大きさで置いた帰結である。
FIELD埋まった紙は隣に移し、新しい面を継ぎ足す。既に書いた文字を消して詰めると、参加者は発言が捨てられたと受け取る。
何を描けばいいか分からないなにをかけばいいかわからないNothing to Draw
話は進んでいるのに手が止まり、白いままの面だけが残る状態。描くべき正解を先に見つけようとして、衝動と探求の転倒が起きている。
FIELDいま最後に耳に入った名詞を一つ書く。意味を判定せず先に置くと、次に描くものは場が指定してくる。
場が冷えているばがひえているCold Room
発言が途切れ、参加者の視線が下を向いたままの状態。正解を出さねばならないという圧が上がり、未完成な発話の閾値を超えられずにいる。
FIELD意味のない線や図形を紙の端に描き足す。確率共鳴と同じで、雑音を足したほうが弱い声は表に出る。
一人が独占するひとりがどくせんするOne Voice Dominating
特定の参加者の発言だけが記録面の大半を占める状態。描き手が声の大きさを情報量と取り違え、紙の面積配分が発話量に追随している。
FIELDその人の発言を要約して一行に縮め、空いた面積に他の人の短い一言を大きく書く。面積が発言権を作り直す。
話が堂々巡りするはなしがどうどうめぐりするGoing in Circles
同じ論点に何度も戻り、議論が前に進まない状態。既に到達した地点が視界から消え、参加者は記憶だけで現在地を確かめるほかなくなる。
FIELD同じ語が三度出たら、その語を丸で囲んで指す。文字を指し示すだけで、議論は次の未踏の点へ移る。
抽象論に終始するちゅうしょうろんにしゅうしするStuck in Abstraction
語が大きいまま具体の水準に降りてこない状態。名詞だけを拾って書く記録が、誰が何をするかという主語と動詞の欠落を隠している。
FIELD抽象語の横に人の絵を一つ描き、吹き出しを空けておく。誰が言うのかを空白で問うと、話は自然に具体へ降りる。
反発を受けたはんぱつをうけたPushback
描いた図や語に対して、参加者から異議が出る状態。描き手の解釈が入った要約が、発言者本人の言葉として読まれたときに起きる。
FIELDその場で消さず、本人の言い直しを横に並べて書く。二つ並べて残すと、その違いが議題そのものに変わる。
誤記を指摘されたごきをしてきされたCalled Out for an Error
書いた文字や図の誤りを参加者に指摘される状態。誤りは避けられない事象であり、問題は訂正に要する時間で場の流れが切れることにある。
FIELD消さずに横線を一本引き、正しい語を隣に書く。訂正の跡が残る紙は、参加者に修正してよい場だと伝える。
時間が足りないじかんがたりないRunning Out of Time
予定の終了時刻までに記録と整理が追いつかない状態。全ての発言を等価に扱う方針が、終盤の要約に必要な余力を先に使い切っている。
FIELD残り十分で描くのをやめ、既にある図に丸を三つ付ける。書き足すより、選び出すほうが持ち帰れる。
結論が出ないけつろんがでないNo Conclusion
時間内に合意が形成されない状態。議論の目的が決定なのか発散なのかを冒頭で確認せず、両者を同じ面で扱ったことに原因がある。
FIELD決まったことと決まらなかったことを二つの枠に分けて書く。未決を明示した図は、それ自体が次回の議題になる。
依頼と現場がずれているいらいとげんばがずれているBrief Mismatch
主催者から聞いた目的と、実際に場で起きていることが一致しない状態。依頼時の想定は主催者の期待であり、参加者の関心とは別物である。
FIELD現場で起きている方を描く。依頼書に合わせて描いた図は、その日の参加者の誰にも読まれずに終わる。
描いた図が使われないえがいたずがつかわれないUnused Output
描き上げた記録が会議後に参照されない状態。作成が終着点として設計され、誰がいつどの場面で見るかを決めないまま解散している。
FIELD解散前に図の前で三分の振り返りを入れる。一度でも全員で読んだ図は、次の会議に持ち込まれる確率が変わる。
自分が疲弊するじぶんがひへいするBurnout
一回の場で消耗し切り、次に向かう力が残らない状態。場のすべてを受け止めて記録するという構えが、描き手を情報の唯一の通路にする。
FIELD描く前にペンを一本参加者に渡す。書き込む人が二人になった時点で、通路は分岐し負荷は半分になる。
上手く描けないうまくかけないCannot Draw Well
線や絵の見た目に納得できず、手が縮こまる状態。上手さは伝達の問題であって思考の条件ではなく、判断の基準を取り違えている。
FIELD丸と四角と線の三種類だけで一枚を描き切る。絵の巧拙を捨てた瞬間に、読み手へ届く速度は上がる。
DECLARATION 02
線は意味を持たない。関係が意味を作る。
一本の線をどれだけ上手く引いても、それ単独では何も伝わらない。二つの点のあいだに引かれたとき、初めて因果や対立や順序が生まれる。だから因果の矢印を引く前に、一秒だけ止まる。その矢印はほとんどが描き手の推測であり、紙に出た瞬間に事実として読まれてしまう。
STROKE / 40 ENTRIES
描画語彙
ファシリテーションで実際に効く図像を四十に絞った。図はすべて、線・円・弧・矩形・三角という五つのプリミティブの組み合わせでできている。各項目には、何を可視化するかと、その図をいつ場へ出すかを添えた。
人と感情を置く
PEOPLE AND FEELING12 ENTRIES棒人間STICK FIGURE
主体を一秒で場に置く。誰の話なのかが確定していない議論に、主語を差し込む。
MOVE主語が消えた議論で使う。抽象語の横に一体描き、この人は誰かと問えば話は具体へ降りる。
群衆CROWD
個人ではなく集合を指す。顧客・住民・現場など、その場にいない主体を代表させる。
MOVEその場にいない人の利害を扱うときに描く。三体で足りる。増やすほど当事者性は薄まる。
握手HANDSHAKE
合意・提携・和解が成立した地点を示す。関係が結ばれた瞬間の座標になる。
MOVE合意を宣言する前に描いて見せる。図が先に出ると、参加者は自分で確認しにくる。
腕組みARMS CROSSED
保留・防御・懐疑を、批判せずに記録する記号。反対の存在そのものを可視化する。
MOVE反対意見が出たら真っ先に描く。丁寧に描かれた抵抗は、その場の安全性の証拠になる。
目EYE
誰が何を見ているかを扱う。視点の違いが対立の正体である場面に効く。
MOVE同じ事実を二人が別々に見ているとき、目を二つ描いて線を対象へ引く。争点が視点差に変わる。
笑顔SMILE
場の温度が上がった瞬間を残す。笑いが起きた語は、場が選んだ語である。
MOVE笑いが起きた直後に打つ。あとで見返すと、その日の本当の核心がどこにあったかが分かる。
困り顔TROUBLED
課題提起があった地点を示す。未解決であることを、責めずに置く。
MOVE解決策を描く前に困り顔を置く。問題を先に可視化しないと、議論は解決策の比較に飛ぶ。
驚きSURPRISE
想定外が起きた地点。議論が跳んだ瞬間を捕まえる。
MOVE誰かの発言で場が静まったら描く。静寂は驚きの徴候であり、そこに転回点がある。
無表情NEUTRAL
判断保留・沈黙・様子見。何も起きていないことを積極的に記録する。
MOVE全員がうなずいた場面であえて置く。同意と無関心は、その場では区別がつかない。
ひらめきIDEA
着想が生まれた地点。進化思考でいう変異が起きた座標を示す。
MOVE電球の中は空けたまま出す。空いていると、参加者が自分の言葉を書き込みにくる。
疑問符QUESTION
未解決の問い。答えのない場所を、はっきり空席として残す。
MOVE本文より一回り大きく描く。問いは埋もれた瞬間に死ぬ。紙の上で最も大きい記号にしてよい。
もやもやAMBIGUITY
まだ名前のついていない違和感。言語化の直前にある感触を、そのまま置く。
MOVE言い淀んだ発言に添える。輪郭を閉じないことで、まだ探究の途中だと場に伝わる。
関係を引く
RELATION12 ENTRIES直線矢印ARROW
因果・移動・帰結。最も強く、最も誤用されやすい関係記号である。
MOVE引く前に一秒止まる。因果の矢印はほとんどが描き手の推測であり、出た瞬間に事実として読まれる。
曲線矢印CURVED ARROW
迂回・時間差・間接的影響。直結していない因果を正確に描く。
MOVEすぐには効かない打ち手に使う。直線で描くと、参加者は即効性を期待してしまう。
双方向BIDIRECTIONAL
相互作用・対話・往復。どちらが原因か決まっていない関係を示す。
MOVE対立している二者に引く。原因を決めない図が、責任の押し付け合いを止める。
循環CYCLE
反復・還流・自己強化。同じ問題が繰り返し起きる構造の正体を示す。
MOVE話が三度戻ったら描く。堂々巡りではなくループだと示した瞬間、議論は構造の話に移る。
分岐BRANCH
選択肢・場合分け。議論が二つに割れた地点を可視化する。
MOVE分岐点に点を打つ。決定が起きた座標として、後の振り返りで必ず参照される。
収束CONVERGE
統合・合意・帰着。発散した議論が一点に落ちる局面を示す。
MOVE合流点を紙の右寄りに置く。読みの流れと一致すると、納得が図の側から生まれる。
上昇RISE
成長・改善・増加。数値ではなく傾向を語るときに使う。
MOVE角度を三十度に固定する。急にすると誇張として読まれ、根拠を問われる。
下降FALL
減少・劣化・撤退。悪化の記録は、色ではなく形で示すほうが冷静に残る。
MOVE上昇と必ず同じ角度で引く。対にして初めて比較として機能する。
破線矢印DASHED ARROW
仮説・予定・弱い関係。確定した因果と区別して記録する。
MOVE推測を描くときは必ず破線にする。実線で描いた推測は、翌週には事実として引用される。
跳ね返りREBOUND
反発・副作用・想定外の反射。打ち手が返ってくる構造を示す。
MOVE施策案が出たら隣に描いて問う。誰に跳ね返るかという問いが、実行可能性を一段上げる。
貫通PENETRATE
突破・横断・部門をまたぐ動き。壁があったこと自体も同時に記録できる。
MOVE組織の話で使う。壁を先に描いてから矢印を重ねると、障害の所在が図に残る。
点線接続WEAK LINK
関連はあるが因果ではない結びつき。安易な矢印を避けるための逃げ道。
MOVE関係がありそうだが説明できないときに引く。断定を避けた線は、後から確かめられる。
強調と囲み
EMPHASIS8 ENTRIES四角囲みBOX
確定した概念。動かさない前提や決定事項を入れる器である。
MOVE囲うのは合意した内容だけにする。検討中の話を囲むと、決まったこととして後日読まれる。
雲CLOUD
未確定・構想・つぶやき。四角に入れられないものの受け皿になる。
MOVE誰かの独り言を残すときに使う。雲に入れておけば、確定していないことが形で伝わる。
吹き出しSPEECH BUBBLE
発言の引用。要約ではなく原語をそのまま残すための器。
MOVE尻尾を発言者の方向へ向ける。誰の言葉かが線一本で確定し、帰属をめぐる争いが消える。
旗FLAG
宣言・目標・マイルストーン。時間軸の上に立てて到達点を示す。
MOVE決定事項に立てる。旗の下に担当と期限を書けば、その一箇所だけで議事録が成立する。
マーカーHIGHLIGHT
後から足せる強調。重要度が判明した箇所に、事後的に重ねられる。
MOVEその場では引かず、終盤にまとめて引く。何が重要だったかは、たいてい終わってから決まる。
星STAR
重要マーク。あとで探すための索引として機能する。
MOVE一枚に五個までにする。増えた瞬間に索引ではなく装飾になり、探せなくなる。
下線UNDERLINE
本文中の強調。囲むより速く、囲むより弱い。連発できる唯一の強調である。
MOVE囲みを増やしたくなったら下線に置き換える。囲みだらけの紙は、どこも重要でない紙と同じである。
爆発BURST
衝突・炎上・突破。強い出来事が起きた座標を示す。
MOVE対立が表面化した地点に置く。隠さず描くほうが、その後の議論は落ち着く。
場の構造
FIELD STRUCTURE8 ENTRIESマトリクスMATRIX
二軸で場を切る。対立していた意見が別軸だったと判明する装置である。
MOVE軸のラベルは参加者に決めさせる。描き手が用意した軸は、結論の半分を先に書いたことになる。
タイムラインTIMELINE
時間軸。議論が過去・現在・未来のどこの話かを強制的に分離する。
MOVE噛み合わないときにまず引く。時制が揃うだけで、対立の半分は消えることがある。
ベン図VENN
重なりの発見。二者の共通部分を、言葉ではなく面積で示す。
MOVE対立する二案に描く。共通部分が思ったより大きいと分かった瞬間、場の緊張がほどける。
天秤BALANCE
トレードオフ。どちらも正しい二案の緊張を、勝敗にせずに残す。
MOVE皿を水平に描く。傾けた瞬間に、それは記録ではなく描き手の主張になる。
ツリーTREE
分解構造。大きな問いを、扱えるサイズの問いに割る。
MOVE枝は二本までにする。三本を超えたら、それは分解ではなく列挙である。
ピラミッドPYRAMID
優先順位・段階構造。上に行くほど数が減る構造を一目で示す。
MOVE最下段から埋めさせる。頂点から議論すると、根拠のない理想論だけが残る。
ネットワークNETWORK
関係の総体。中心のない構造を、中心のないまま描ける唯一の型である。
MOVEノードの大きさを揃える。変えた瞬間に階層構造にすり替わり、力関係を固定してしまう。
レイヤーLAYERS
階層構造。表層の症状と深層の構造を、同じ紙の上で分ける。
MOVE下の層ほど幅を広くする。基盤であることが説明なしに伝わり、話が深いほうへ降りる。
THE POINT
描いているのでも、描かされているのでもない。場が描かせている。
この態に入れたとき、記録の速度は思考の速度を超える。衝動が先にあり、探究は後から来る。そして場の全員が同じ紙を見ながら同じ問いに向かうとき、場そのものが一つの生き物のように同期する。カオス共鳴と呼ばれる状態である。
GETTA PLANNING LLC
身体から入る学びを、組織に
合同会社GETTAプランニングは、身体知研修とインストラクター認定を通じて、言語より先に身体が動く状態を組織に実装している。グラフィックファシリテーションは、その入口のひとつである。
EXPLORE
この辞書の外側にある体系
本辞書は合同会社GETTAプランニングが編集した。記載は現場運用にもとづく実務的な定義であり、学術的な標準用語集ではない。項目の追加・改訂は継続的におこなう。引用の際は出典としてページのURLを明記されたい。
RELATIONSHIP QUALITY ── 関係の質は、身体から
組織の身体を、一足から。
リーダーが先に立つ。場は模倣から変わる。
会議室に一足。


