アンチサッケード光った方を見るのは反射。光った方を見ないのは能力。フェイントにつられる選手が鍛えるべきはこちらだ。
- アンチサッケードは、光った刺激とは反対の方向へ視線を跳ばす課題です。光った方を見てしまう反射を抑え、意図した方向へ動かす前頭葉の働きを鍛えます。
- フェイントに引っかかる選手は、眼が遅いのではなく、動いたものを見てしまう反射を止められていません。
- 練習は、合図が光った側の反対に一瞬だけ出る数字を読むこと。光った側を見ると読めない設計が、抑制を強制します。
見てしまう反射を、止める
周辺で何かが光ると、眼は自動的にそちらへ跳びます。これは反射で、生存のために組み込まれています。アンチサッケード課題では、この反射を止め、光った方向と反対側へ視線を跳ばすことが求められます。反射的なサッケードに比べて潜時は50〜100ミリ秒ほど長く、健常な成人でも1〜2割は反射に負けて光った方を見てしまいます。疲労、睡眠不足、加齢でこの誤りは増えます。
この課題が測っているのは、前頭眼野と前頭前野の抑制機能です。競技でフェイントに引っかかる、相手の手の動きに眼が持っていかれる、守備で最初の動きに反応して逆を取られる。これらはすべて、動いたものを見てしまう反射を止められないことから起きています。眼の速さの問題ではなく、抑制の問題です。
練習は、合図が光った側と反対に、一瞬だけ数字を表示し、それを読み取る形で行います。光った側を見てしまうと、反対側の数字は消えていて読めません。読めたかどうかで抑制が働いたかが判定される設計です。この練習を続けると、動いたものへの反射的な視線移動が抑えられ、意図した場所を見続ける力が育ちます。
アンチサッケードトレーニングのやり方 5ステップ
固視から始める
中央の十字を見つめる。合図が出るまで視線を止めておく。止まっている眼のほうが、反射を抑えやすい。
反対側の数字を読む
端が一瞬光ったら、その反対側を見る。反対側に0.2秒だけ出る数字を読み取り答える。正答率8割を保てる表示時間で続ける。
表示を短くする
数字の表示時間を0.2秒から0.1秒へ。合図の時間も短くする。短くなるほど反射との競争が厳しくなる。
疲れた状態で行う
練習の最後、疲労した状態でこの課題を行う。試合終盤の抑制の弱さはここで出る。
対人で行う
仲間に左右どちらかへフェイントをかけてもらい、動いた側を見ずに相手の腰を見続ける。競技での抑制の使い方そのもの。
その誤りは、何のサインか
光った側を見てから戻る
読めないことが多い
合図が出る前から視線を固定する。跳んでから戻るのでは間に合わない
正解率だけ追う
表示時間を長くして満点
8割を保てる限界の時間で行う。長い表示では抑制の練習にならない
元気なときだけ練習
本番の終盤で崩れる
疲労時の練習を週に一度は入れる
見ないという能動性
光った方を見ないとき、眼は何もしていないように見えます。しかし実際には、反射を止めるという強い働きが起きています。能動的に見る、受動的に見せられる、そのどちらでもなく、動きの中で止まっているこの状態は中動態の身体に近い。フェイントに動じない選手の眼は、止まっているのではなく、止め続けています。
一本歯下駄GETTAの上でアンチサッケードを行うと、足元の揺れそのものが視線を奪う刺激になります。揺れに眼を持っていかれず、意図した場所を見続ける。競技中に起きている抑制の課題は、まさにこの形をしています。
一本歯下駄GETTA × アンチサッケード
この章の練習は、椅子に座った状態では眼と姿勢の連結が入りません。立位で、できれば一本歯下駄の上で行ってください。足裏一点の揺れが前庭系と視覚系を同時に働かせ、画面上の練習を競技の条件に近づけます。一本歯下駄GETTAは兵庫医科大学との共同研究で、動作速度15.1%の向上と反応時間0.10秒の短縮が確認されています。
ウォームアップ
一本歯下駄で立ち、正面固視30秒。揺れに眼を持っていかれない感覚をつかむ。
本練習
一本歯下駄の上でアンチサッケード課題を2分。表示時間は静止立位より長めでよい。
競技への橋渡し
一本歯下駄で立ち、相手のフェイントに対して腰の一点を見続ける。
12週統合プロトコル
| 期間 | 内容 |
|---|---|
| 第1〜2週 | 合図0.14秒・数字0.3秒。毎日3分 |
| 第3〜4週 | 数字0.2秒。疲労時の練習を週1回 |
| 第5〜8週 | 数字0.15秒。一本歯下駄で半分 |
| 第9〜12週 | 一本歯下駄で全量。対人フェイント練習 |
アンチサッケードのよくある質問
サッケードとアンチサッケードはどちらが大事ですか
役割が違います。サッケードは意図した場所へ速く正確に跳ぶ力、アンチサッケードは跳んではいけない場所へ跳ばない力です。競技では両方が同時に必要で、フェイントに弱い選手は後者から始めてください。
子どもにもできますか
できますが、反射の抑制は前頭葉の発達とともに整うため、小学生では誤反応が多くて当然です。表示時間を長め、合図を穏やかにし、遊びとして行ってください。
疲れると急にできなくなります
正常な反応です。抑制機能は疲労と睡眠不足で最初に落ちる能力の一つで、試合終盤のミスの多くはここから来ます。疲労時の練習を意図的に組み込むと、終盤の崩れが減ります。
一次資料と参照先
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター実行機能と認知機能の研究を行う機関
- 日本スポーツビジョン研究会眼球運動の測定と訓練に関する研究組織
- 視覚と眼球運動の身体科学(身体科学フロンティア図鑑)本章の科学的背景。前庭動眼反射、感覚再重み付け、クワイエットアイを扱う姉妹章
本章の数値は一般に報告されている目安であり、測定条件と個人差で変動します。眼の症状や、めまいの症状がある方は実施前に医療機関に相談してください。効果を保証するものではありません。