ロジェ・カイヨワとは|遊びと人間・聖と俗・対角線の科学・社会学院の完全図鑑|思想図鑑 No.11

GETTA THINKERS ENCYCLOPEDIA No.11 / 16 PLAY & SACRED
Roger Caillois · 1913-1978 · FR
Cultural Body Encyclopedia · Vol.07
Roger Caillois 1913–1978

ロジェ・カイヨワ
──遊びと聖なるものを横断した対角線の科学者

フランスの思想家・社会学者・文芸批評家・哲学者・詩人。遊び、神話、聖なるもの、夢、石、ラテンアメリカ文学、擬態など多領域を横断する独自の知性で「対角線の科学」を提唱した。1937年ジョルジュ・バタイユ、ミシェル・レリスと共に社会学院を設立。1958年の主著『遊びと人間』でアゴン・アレア・ミミクリ・イリンクスの遊びの四類型を確立し、ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』を批判的に継承した。1971年アカデミー・フランセーズ会員。デュメジルは彼を「我々の時代の天才」と呼んだ。

“Les jeux disciplinent les instincts et leur imposent une existence institutionnelle.” 遊びは本能を規律づけ、それに制度的な存在を強いる。
──秩序ある文明の中への眩暈の再湧出は、
抑え込まれた本能の還流である。
FOUR PLAY TYPES · COLLÈGE DE SOCIOLOGIE · DIOGÈNE · ACADÉMIE FRANÇAISE 1971
I · OVERVIEW

三相で読み解く生涯

Three Phases of Roger Caillois

カイヨワの生涯は、「ランス→リセ→ENS→シュルレアリスム参加(前期)」「社会学院創設・聖なるものの社会学・アルゼンチン亡命・ラテンアメリカ文学発見(中期)」「UNESCO・ディオゲネス誌・遊びと人間・石の美学・アカデミー会員・遺著(後期)」という三つの時相に大別できる。各相の境界には、知の地図そのものを書き換える越境的な決断がある。

PHASE I
1913 — 1934

ランスからシュルレアリスムへ

1913年3月3日、フランス北東部ランスに誕生。少年期にパリへ移住し、エリート校リセ・ルイ=ル=グランへ。グランゼコール準備級を経て1933年、最高峰の高等師範学校(ENS)を卒業。卒業後は高等研究実習院(EPHE)でジョルジュ・デュメジル、アレクサンドル・コジェーヴ、マルセル・モースに師事。同時期1932年からアンドレ・ブルトンのシュルレアリスト集団に参加し、雑誌『ミノトール』に「カマキリ──生物学から精神分析へ」(1934)を発表。デュメジルは若きカイヨワを「我々の時代の天才」と呼んだ。

PHASE II
1934 — 1948

社会学院・聖なるもの・アルゼンチン

1934年ブルトンの教条主義に異を唱えてシュルレアリスムから離脱。1935年「擬態と伝説的精神衰弱」発表、ラカンの鏡像段階論に影響。1937年7月、ジョルジュ・バタイユ、ミシェル・レリスと共に社会学院(Collège de Sociologie)を設立──「聖なるものが活発に作動する社会的存在」の研究を掲げ、1939年解散まで隔週で公開講義を開催。1938年『神話と人間』、1939年『人間と聖なるもの』。1939年6月、ヴィクトリア・オカンポの招きでアルゼンチンへ。第二次大戦中ブエノスアイレス滞在、ボルヘスら南米作家を発見し反ナチ出版に従事。

PHASE III
1948 — 1978

UNESCO・遊び・石・アカデミー

1948年帰仏、UNESCOに勤務。1952年雑誌『ディオゲネス(Diogène)』創刊──仏・西・英三言語の学際的季刊誌(現在も刊行中)。同時期ガリマール社で叢書『南十字星(La Croix du Sud)』を編集、ボルヘス・ネルーダ・アストゥリアス・カルペンティエール等を体系的にフランスへ導入。1958年主著『遊びと人間』。1966年『石』、1970年『盤上の升目』。1971年アカデミー・フランセーズ会員選出(不死者の一員)。1973年『非対称性』。1978年『アルフェ河』でマルセル・プルースト賞・欧州連合文学賞。同年12月21日パリ近郊ル・クレムラン=ビセートルで脳出血により永眠(65歳)。1991年彼を記念する「プリ・ロジェ・カイヨワ」が創設される。

II · TIMELINE

略年譜

A Compressed Chronicle of 65 Years

誕生から永眠までの65年間を、思想史的・出版史的に重要な節目で辿る。フランスの文人としての全業績と国際的な思想史的役割を網羅。

1913
フランス・ランスで誕生(3月3日)
フランス北東部シャンパーニュ地方の古都ランス(Reims)に誕生。少年期にパリへ移住し、フランス知識人の道を歩み始める。
1920年代
パリ・リセ・ルイ=ル=グラン入学
フランス最高峰のエリート校の一つ、リセ・ルイ=ル=グランに入学。後年カイヨワは「16歳でランスを離れパリへ向かった」と回想。グランゼコール(高等専門学校)入学準備級(プレパ)で猛勉強の日々。
1933
高等師範学校(ENS)卒業/ノルマリアン
フランス最高峰の高等教育機関、エコール・ノルマル・シュペリエール(高等師範学校)を卒業。「ノルマリアン(normalien)」の称号を得る。サルトル、メルロ=ポンティ、フーコーらと並ぶ仏知識界の頂点。
1933–35
高等研究実習院(EPHE)でデュメジル・コジェーヴ・モースに師事
EPHE(École Pratique des Hautes Études)で、ジョルジュ・デュメジル(神話学・印欧比較宗教学)、アレクサンドル・コジェーヴ(ヘーゲル『精神現象学』講義)、マルセル・モース(社会人類学)の三名のもとで学ぶ。デュメジルは若きカイヨワを「我々の時代の天才(le génie de notre temps)」と評した。
1932–34
シュルレアリスム参加
アンドレ・ブルトンのシュルレアリスト集団に熱心に参加。同時期に英才たちが集っていたパリのアヴァンギャルド知識人界に深く接続。
1934
「カマキリ──生物学から精神分析へ」発表/ブルトンとの決裂
雑誌『ミノトール(Minotaure)』に「La mante religieuse: De la biologie à la psychanalyse」を発表。雌のカマキリが交尾後に雄を食べる現象を、生物学的事実と神話的・心理学的象徴の交差点として論じる傑作。同年、ブルトンの教条主義への異論からシュルレアリスム集団から離脱。
1935
「擬態と伝説的精神衰弱」
「Mimétisme et psychasthénie légendaire」を雑誌『ミノトール』に発表。昆虫の擬態を「自我が空間に溶解する」事態として論じ、ラカンの「鏡像段階論」(1936)に深い影響を与える。後の精神分析理論の重要源泉。
1937
社会学院(Collège de Sociologie)共同設立
7月、ジョルジュ・バタイユ、ミシェル・レリスと共にパリで社会学院を設立。「聖なるものが活発に作動する社会的存在のあらゆる現象」の研究を掲げる。デュルケームの集合的興奮論を起点に、シュルレアリスムの個人的無意識中心主義を超える「集合的聖の社会学」を打ち立てる。バタイユ「魔法使いの弟子」、レリス「日常生活における聖なるもの」、カイヨワ「冬の風」が創設三声明文。
1937–39
社会学院 隔週公開講義(1939年解散)
バタイユ、カイヨワ、レリス、コジェーヴ、ピエール・クロソウスキー、ジャン・ヴァール、ヴァルター・ベンヤミン、ジャン・ポーラン、ドニ・ド・ルージュモン等が登壇。20世紀フランス思想の重要な触媒となる。1939年第二次大戦勃発を機に解散。バタイユとカイヨワは聖の解釈をめぐり対立し決裂。
1938
『神話と人間(Le Mythe et l’homme)』ガリマール
最初の主著。神話を集合的イマジネーションの構造的役割として分析。後の『遊びと人間』『人間と聖なるもの』への萌芽がここに集約。1939年フランス文学アカデミー賞候補。
1939
『人間と聖なるもの(L’Homme et le sacré)』/アルゼンチン亡命
ガリマール社より2作目主著刊行。聖と俗の二元構造、祭りと禁忌、神聖な戦争などを論じた社会学的傑作。同年6月、ヴィクトリア・オカンポの招きでアルゼンチンへ渡航。第二次大戦勃発によりブエノスアイレス長期滞在に。
1939–46
アルゼンチン滞在/ボルヘス・南米作家との交流
ブエノスアイレスでホルヘ・ルイス・ボルヘス、ヴィクトリア・オカンポ、アドルフォ・ビオイ・カサーレス、シルビーナ・オカンポらラテンアメリカ文学の中核と深く交流。雑誌『南方文学(Les Lettres françaises)』を主宰し、反ナチ出版に従事。フランスのレジスタンスをラテンアメリカで支援する文学的拠点となる。
1948
フランス帰国/UNESCO勤務開始
第二次大戦終結後フランスに帰国し、UNESCO(国連教育科学文化機関)に勤務。以後、文化交流・国際的知的協力の現場で活動。多くの国を旅し、見聞を広げる。
1950
『人間と聖なるもの』増補改訂版/『マルクス主義の記述』
『人間と聖なるもの』にエロティシズム論等を加えた増補改訂版を刊行。同年『Description du Marxisme』をガリマール社から発表、マルクス主義への思想的距離を明確化。
1951
『現代社会学の四つの試み(Quatre essais de sociologie contemporaine)』
後に内藤莞爾訳『聖なるものの社会学』として弘文堂1971/ちくま学芸文庫2000で日本語化される論考集。聖なるものの社会学の決定版。
1952
雑誌『ディオゲネス(Diogène)』創刊
UNESCO支援による国際的・学際的季刊誌『ディオゲネス』をフランス語・英語・スペイン語で創刊。創刊号からカイヨワが主筆を務め、人類学・哲学・社会学・芸術論を横断する論考を掲載。世界中の知識人を結ぶ場となる。現在も刊行中。
1956
『夢の現象学(L’incertitude qui vient des rêves)』『詩法(L’Art poétique)』
夢と詩の同年刊行。夢の不確定性が現実認識をいかに揺るがすかを論じる『夢の現象学』と、詩の独自の方法論を展開する『詩法』。詩人としての側面が結晶。
1958
『遊びと人間(Les jeux et les hommes)』ガリマール
カイヨワ最大の著作にして20世紀の遊び論の決定版。1946年のエッセイから発展させ、ガリマール社より刊行。アゴン(競争)、アレア(偶然)、ミミクリ(模擬)、イリンクス(眩暈)の四類型と、パイディア/ルドゥスの連続体を提示。ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』を批判的に乗り越える。1961年Meyer Barashによる英訳『Man, Play and Games』でも世界的影響。1967年改訂増補版で「日本版への序文」「補論」追加。
1960
『メドゥーサと仲間たち(Méduse et cie)』
擬態論を発展させた著作。生物学的擬態と神話・芸術の擬態を「対角線の科学」の方法で結ぶ。中原好文訳で思索社1975、新装版1988。
1961
『物語ポンス・ピラト(Ponce-Pilate)』
幻想小説の代表作。歴史と虚構の境界を問う散文物語。金井裕訳で景文館書店から『ポンス・ピラト ほか カイヨワ幻想物語集』として2013年新訳。
1966
『石(Pierres)』ガリマール
石の鉱物学的・美学的・哲学的考察。瑪瑙・碧玉・水晶などの内部模様を「自然の幻想芸術」として読み解く独創的著作。マルグリット・ユルスナールが英訳序文を寄稿。日本では『石が書く』菅野昭正訳で新潮社1975、新版1980。カイヨワの晩年の代表作の一つ。
1970
『盤上の升目(Cases d’un échiquier)』
チェス盤の各升目に思想的考察を配する形式の論集。「対角線の科学」の方法を体現する独自の知的構築。
1971
アカデミー・フランセーズ会員選出(58歳)
フランス文人の最高栄誉、アカデミー・フランセーズの会員(不死者・les Immortels)に選出。リシュリュー創設の40議席のうちの一つ。社会学・神話学・文学批評・詩学・ラテンアメリカ文学翻訳の越境的業績が評価された。
1973
『非対称性(La Dissymétrie)』
自然と文化における非対称性を論じる。生物学的非対称(左右非対称な臓器配置)から、文化的非対称(権力構造)まで。「対角線の科学」の集大成的著作。
1974
『反対の科学/対角線の科学(La pieuvre)』
タコ(pieuvre)の象徴学を起点に、神話・自然史・文学を横断する論考集。
1978
『アルフェ河(Le fleuve Alphée)』/マルセル・プルースト賞・欧州連合文学賞
「想像的自伝」と称される晩年の傑作。古代ギリシャの神話的河アルフェイオスを起点に、人生と思考の流れを詩的散文で再構成。マルセル・プルースト賞、欧州連合文学賞を同年に受賞。カイヨワ自身による思考と人生の総括。
1978
永眠(12月21日/65歳)
12月21日、パリ郊外ル・クレムラン=ビセートルにて脳出血により永眠。65歳。最後まで書き続け、画家ベルナール・マンドヴィルとの共著も準備中だった。
1981
遺著『精神の必然性(La Nécessité d’esprit)』ガリマール
死後出版された遺稿『La Nécessité d’esprit』。1990年に英訳『The Necessity of the Mind』としてLapis Pressから刊行。
1991
プリ・ロジェ・カイヨワ(カイヨワ賞)創設
1991年、フランス文学界がカイヨワを記念して文学賞「Prix Roger Caillois」を創設。フランス文学・ラテンアメリカ文学・エッセイの三部門で毎年授与され、現在も継続。
1995
遺稿集『シュルレアリスムの縁(The Edge of Surrealism)』
クロディーヌ・フランクとカミーユ・ナイシュ編集による遺稿集。シュルレアリスム期の重要論考を集成。
2026年現在
継承──ゲーム研究・聖の社会学・対角線の科学
カイヨワは現代でも、ゲーム研究(ルドロジー)の祖の一人として、また聖の社会学の古典として参照され続けている。任天堂等のゲーム設計、教育心理学、文化人類学、現代美術批評、ラテンアメリカ文学研究で世界的に読まれ続ける。日本では『遊びと人間』が現在も講談社学術文庫の長期ロングセラー。
III · CORE

思想の核心──三本柱

Three Pillars of Caillois’s Thought

カイヨワの膨大な著作と概念は、根源において三つの命題に収斂する。「遊びを四類型で分類する」「聖と俗の社会学を打ち立てる」「対角線の科学で領域を横断する」──この三本柱は、1934年のシュルレアリスム離脱から1978年の永眠まで44年間にわたって深化された。

I

遊びを四類型で分類する

Four Types of Play

1958年『遊びと人間』の核心。アゴン(競争)、アレア(偶然)、ミミクリ(模擬)、イリンクス(眩暈)の四類型と、パイディア(自由な遊び)/ルドゥス(規則の遊び)の連続体。ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』が競争に偏ったのに対し、四つの遊びの不変の性質を提示。あらゆる遊びはこの四類型のいずれか、またはその組み合わせとして記述できるとした。世界のゲーム研究・遊び論の出発点。

II

聖と俗の社会学を打ち立てる

Sociology of the Sacred

1939年『人間と聖なるもの』で展開された立場。デュルケームの聖/俗二元論を継承しつつ、「聖/俗/遊」の三項関係に拡張。聖と遊は俗を挟んで対極に位置するとした。1937年バタイユ・レリスと社会学院を設立し「聖なるものが活発に作動する社会的存在」を研究。シュルレアリスムの個人的無意識中心主義を超え、集合的興奮・祭り・禁忌・戦争・犠牲の社会学を構築した。

III

対角線の科学で領域を横断する

Sciences Diagonales / Transversal Knowledge

カイヨワが提唱した独自の方法論。専門分化した個別科学(生物学・社会学・文学・神話学・心理学等)を縦の軸とすると、その全てを斜めに横断し共通する構造を見出す科学を「対角線の科学」と呼んだ。擬態を生物学・精神分析・神話学の交差で論じ、遊びを社会学・人類学・心理学・文学を貫いて分析する──全てが対角線の科学の実践。20世紀の越境的知性の典型。

IV · FOUR TYPES OF PLAY

遊びの四類型──ギリシャ語語源で読み解く

Agon · Alea · Mimicry · Ilinx

カイヨワの最大の貢献は、人間の遊びを四つの根源的な類型として記述したことにある。すべてギリシャ語起源の語彙が選ばれ、古代から現代までの遊びを統一的に分析できる枠組みとなった。さらに二軸(意志的/脱意志的、規則的/脱規則的)で整理することで、すべての遊びがこの四象限に位置づけられる。

四類型は同時に作動しうる

四類型は固定された箱ではなく、しばしば組み合わせとして作動する。ポーカーはアレア(カードのシャッフル)とアゴン(戦略的判断)の組み合わせ、トレーディングカードゲームはアレア+アゴン+ミミクリ、競技ダンスはイリンクス+アゴン+ミミクリ。テレビゲームはこの四要素の精密な組み合わせとして設計されている。

ἀγών

I. アゴン(競争)

Agon — Competition

勝ち負けを競う遊び。フットボール、チェス、ボクシング、かけっこ、企業の営業ランキング。「私が相手に勝ちたい」という衝動が駆動する。プレイヤーは平等な機会から出発し、勝者は単一の質(速さ、持久力、力、記憶、技術、知恵)の卓越によって決まる。スキル・労働・専門化を優先する。

alea

II. アレア(偶然)

Alea — Chance

運や偶然に身を委ねる遊び。じゃんけん、サイコロ、くじ引き、ルーレット、宝くじ、ガチャ。アゴンとは正反対に、結果は自分のコントロール外。「私が運命に委ねる」快がある。スキルを否定し、運命への屈服を強調する。アレアと自由(パイディア)は両立しない──偶然のゲームは抑制と外的事象への待機を本質とする。

mimicry

III. ミミクリ(模擬)

Mimicry — Simulation

何かになりきる遊び。ごっこ遊び、仮装、演劇、コスプレ、SNSのなりすまし、オンラインRPG。「私が別の誰かになる」ことの快がある。仮面、衣装、表情、身振りを通じて自我の境界を意図的に溶かす。子どもの戦隊ヒーローごっこから、能・歌舞伎・オペラまで。1935年カイヨワが擬態論で論じた「自我の空間への溶解」とも通底。

ἴλιγξ

IV. イリンクス(眩暈)

Ilinx — Vertigo

身体を酔わせる遊び。ブランコ、ジェットコースター、メリーゴーランド、ぐるぐる回転、スキーの滑走、バンジージャンプ、ダンス、酒。ギリシャ語で「渦巻き」。カイヨワは「voluptuous panic(快楽的パニック)」と表現。「私が眩暈に沈む」ことの快がある。強い感情(パニック、恐怖、恍惚)の経験を通じて知覚を変容させる。ルドゥスとイリンクスは両立しない──眩暈の中に構造化された規則は存在しない。

「ミミクリとイリンクスが人間にとっての永遠の誘惑であるなら、これらを集団生活から排除し、子供の楽しみや異状の振る舞いとしてだけ許しておくということは、容易にできることではあるまい」── ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』講談社学術文庫

そしてカイヨワは、これら四類型が連続体パイディア/ルドゥスの軸とも交差すると指摘した。パイディア(paidia)は規則のない自由で奔放な遊び、子どもの即興的な遊び。ルドゥス(ludus)は規則的で訓練を要する遊び、大人の競技的な遊び。「人間の文化はパイディアからルドゥスへと向かう傾向がある」が、両者の絶え間ない緊張関係こそが文化の動態を生む。

さらに重要なのは、カイヨワが文明論的射程を持っていたことである。原始的文明では仮面(ミミクリ)と眩暈(イリンクス)を伴う集団的儀礼が社会を統合する。文明が進展すると(ギリシャ・ローマ的展開)、社会の母数が増えるためルール化され、競争(アゴン)と運(アレア)に支配されることで合理化される。しかし「秩序ある文明の中への眩暈の再湧出」は常に起きる──1956年12月31日ストックホルムの群衆事件、ハロウィンの渋谷、ロックフェスティバルで…。抑え込まれた本能は還流する。

V · KEY CONCEPTS

カイヨワ独自概念24──クリックで詳細展開

Twenty-Four Concepts in Caillois’s Universe

カイヨワが造語、発展、または独自に再定式化した24の概念を、原語と典拠と共に整理する。各カードをクリックすると、詳細解説が展開される。これらは相互に絡まり合い、全体として一つの「対角線の科学」体系をなす。

CONCEPT 01

アゴン(競争)

Agon / ἀγών

カイヨワの遊びの第一類型。古代ギリシャ語ἀγών(競技・闘技)に由来する。プレイヤー間の能力の競争を本質とする遊び。フットボール、チェス、ボクシング、かけっこ、ビリヤード、テニス、剣道試合などが典型。

カイヨワの定義:「同じチャンスから出発するプレイヤーたちが、単一の質(速さ、持久力、力、記憶、技術、知恵など)を、定められた限界の内側で、外部の助力なしに発揮する」遊び。スキル・労働・専門化を優先する。

アゴンは現代社会の中核原理として制度化されている。スポーツの競技化、企業の営業競争、入試、賞レース──すべてアゴンの構造。ホイジンガが『ホモ・ルーデンス』で過度に強調した遊びの側面でもある。

出典:ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』講談社学術文庫1990
CONCEPT 02

アレア(偶然)

Alea

カイヨワの遊びの第二類型。ラテン語alea(サイコロ、運)に由来。Caesarが「Alea iacta est(賽は投げられた)」と言ったあの語。プレイヤーが運命に身を委ねる遊び。じゃんけん、サイコロ、くじ引き、ルーレット、宝くじ、ガチャ、競馬。

カイヨワの定義:「アゴンとは正反対に、アレアの遊びは偶然と運命に依存する。アレアはスキルを否定し、運命への屈服を強調する」。プレイヤーは外的事象(サイコロの目、カードの並び等)の到来を待つ。能動性は限りなくゼロに近づく。

カイヨワは「アレアと自由(パイディア)は両立しない」と指摘した──偶然のゲームは抑制と外的事象への待機を本質とするから。逆に「アレアとアゴンは深く結びつく」──アゴンが「自力本願」、アレアが「他力本願」として、文化的補完関係を成す。日本では「親ガチャ」言説の理論的源泉として再評価。

出典:ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』第一部第二章
CONCEPT 03

ミミクリ(模擬)

Mimicry

カイヨワの遊びの第三類型。英語mimicry(擬態・模倣)から。プレイヤーが「別の誰か」になる遊び。ごっこ遊び、仮装、演劇、コスプレ、能・歌舞伎、オペラ、オンラインRPG、SNSのなりすまし。

カイヨワの定義:「プレイヤーは束の間の幻想(fiction)を信じる、あるいは他者にそう信じさせようとする。その間、プレイヤーは別の人格になり、別の世界に住む」。仮面、衣装、表情、身振りが用いられる。

カイヨワにとってミミクリは特に重要だった。1935年「擬態と伝説的精神衰弱」で論じた昆虫の擬態(カマキリ、ナナフシ)は、自我の空間への溶解として精神分析的に分析され、ラカンの鏡像段階論(1936)に直接影響を与えた。子どもの仮面遊びから、原始社会の祭儀仮面、現代の演劇まで、ミミクリは人類の永遠の遊び。

出典:『遊びと人間』『ミミクリと伝説的精神衰弱』『神話と人間』
CONCEPT 04

イリンクス(眩暈)

Ilinx / ἴλιγξ

カイヨワの遊びの第四類型。古代ギリシャ語ἴλιγξ(渦巻き、めまい)に由来。身体を酔わせる遊び。ブランコ、ジェットコースター、メリーゴーランド、ぐるぐる回転、スキーの滑走、バンジージャンプ、ダンス、酒、スカイダイビング。

カイヨワの表現:「voluptuous panic(快楽的パニック)」。強い感情(パニック、恐怖、恍惚)の経験を通じて、感覚と知覚を一時的に変容させる。強い感情ほど、興奮と楽しさが強くなる。

カイヨワは「ルドゥスとイリンクスは両立しない」と指摘した──眩暈の中に構造化された規則は存在せず、規則を適用するとすればそれは眩暈をパニックに転化させないためのブレーキとしてのみ。原始社会のシャーマニックな旋舞、コリュバンテスの祭儀、ストリートダンスのスピン、フィギュアスケートのジャンプ、子どもの遊園地での絶叫マシン──全てイリンクスの現出。

要輔さんの体系では「自ら眩暈を求める遊び」として、一本歯下駄GETTAに乗ることがイリンクスの構造を持つと指摘されている。不安定を自ら選択する身体行為。

出典:『遊びと人間』第一部第二章
CONCEPT 05

パイディア(自由な遊び)

Paidia / παιδιά

カイヨワが遊びを連続体として記述するために導入した二極概念の一方。古代ギリシャ語παιδιά(子供の遊び)に由来。規則のない自由で奔放な遊び、即興的・無秩序な遊び。

パイディアは「制御されない自発的な遊び。即興、その場で規則が作られる遊び」。子どもが砂場で何の制限もなく遊ぶ、コンサートやフェスティバルで自由に表現する、即興的な戯れ──全てパイディア。

カイヨワの観察:「人間の文化はパイディアからルドゥスへと向かう傾向がある」。即興的な遊びは時間とともに規則化される。砂遊び→積み木→ボードゲーム→チェス、と。しかし規則化されたゲームも常にパイディアの圧力にさらされる──ルール変更、自由な解釈、新しいスタイル。この二極の絶え間ない緊張が文化の動態を生む。

出典:『遊びと人間』第一部第二章
CONCEPT 06

ルドゥス(規則の遊び)

Ludus

パイディアと対をなすカイヨワの二極概念。ラテン語ludus(遊び・学校)に由来。規則的で訓練を要する遊び、大人の競技的な遊び。「努力、忍耐、技術が要求され、規則が最初から定められた、設計された遊び」。

例えばチェス、囲碁、テニス、ピアノの稽古、武道の型稽古、競技プログラミング──全てルドゥス。中国の「囲碁(Go)」をカイヨワは典型例として挙げる。

ルドゥスは原初的に存在するわけではない。パイディアから派生し、規則化と専門化を経て生成する。「ゲーム研究(ludology)」の語源もここにある。後の数学的ゲーム理論、コンピュータゲーム研究、教育ゲーム論などの基盤概念。

出典:『遊びと人間』第一部第二章「喧噪から規則へ」
CONCEPT 07

聖なるもの

Le Sacré

カイヨワの社会学の中核概念。1939年『人間と聖なるもの(L’Homme et le sacré)』で展開。エミール・デュルケームの聖/俗二元論を継承しつつ、独自に発展させた。

カイヨワの聖は二重性を持つ──「聖なるものは、清浄なる聖(純粋な力)と不浄なる聖(穢れ・タブー)を同時に含む」。祝祭的興奮と禁忌、犠牲と神聖な戦争、エロスと死──全て聖の現象。

1937年バタイユ・レリスと社会学院を設立する際の中心テーマ。20世紀フランスにおいて、デュルケームの社会学的聖を継承しつつ、ニーチェ的・神秘主義的な深みを加えた独自の聖の社会学を確立。後にラカン、フーコー、ジラールらに影響。

出典:『人間と聖なるもの』ガリマール1939/1950増補改訂版
CONCEPT 08

聖/俗/遊の三項構造

Sacred / Profane / Play Triad

カイヨワがホイジンガと袂を分かった点。ホイジンガは『ホモ・ルーデンス』で「聖と遊は同じものだ」と論じたが、カイヨワは批判的に乗り越えた。

カイヨワの図式:「俗」を中央に置き、その両極に「聖」と「遊」が対立的に配置される。聖と遊は構造的特徴を共有する(日常から隔離・隔絶される、固有の時空を持つ、規則と虚構を含む)が、人間の関わり方が正反対。

「聖の領域から日常に戻るとき、人は安堵し休まる。聖は義務的・挑戦的だから。遊の領域から日常に戻るとき、人は疲れストレスを感じる。遊は自由・解放的だから」。聖/俗/遊のヒエラルキーは「義務の勾配」を表し、人がどれだけ自分の世界をコントロールできるかの度合いを示す。

出典:『遊びと人間』補論「遊びと聖なるもの」
CONCEPT 09

社会学院

Collège de Sociologie

1937年7月、ロジェ・カイヨワがジョルジュ・バタイユ、ミシェル・レリスと共にパリで設立した知的サークル。「聖なるものが活発に作動する社会的存在のあらゆる現象を研究する」ことを目的とした。

シュルレアリスムの個人的無意識中心主義への反発として誕生。デュルケームの集合的興奮論、モースの贈与論を起点に、儀礼・祭儀・集団的興奮など「集合的な聖」の社会学を打ち立てた。

1937年7月『新フランス評論(NRF)』に三声明文(バタイユ「魔法使いの弟子」、レリス「日常生活における聖なるもの」、カイヨワ「冬の風」)を発表。1939年解散まで隔週で公開講義を開催。バタイユ、カイヨワ、レリス、コジェーヴ、クロソウスキー、ジャン・ヴァール、ヴァルター・ベンヤミン、ドニ・ド・ルージュモン、ジャン・ポーランらが講義・聴講。20世紀フランス思想の重要な触媒。

1939年第二次大戦勃発を機に解散。バタイユとカイヨワは聖の解釈をめぐり対立──バタイユが「無際限の侵犯と恍惚」を肯定したのに対し、カイヨワは「無秩序な衝動は社会の凝集を侵食する」として規律的秩序を重視した。

出典:Pour un Collège de Sociologie. NRF, juillet 1938/『社会学院』ガリマール1995
CONCEPT 10

対角線の科学

Sciences Diagonales

カイヨワが提唱した独自の方法論。専門分化した個別科学(生物学・社会学・文学・神話学・心理学等)を縦の軸とすると、その全てを斜めに横断し共通する構造を見出す科学を「対角線の科学」と呼んだ。

例えば擬態を、生物学(カマキリ・蛾の擬態)と精神分析(自我の溶解)と神話学(仮面儀礼)の交差として論じる方法。遊びを社会学・人類学・心理学・文学を貫いて分析する方法。石を鉱物学・美学・哲学の交差として読み解く方法──全てが対角線の科学の実践。

これは20世紀フランスの「越境的知性」の典型例の一つ。レヴィ=ストロースの構造人類学、フーコーの考古学、ドゥルーズの哲学などと並走しつつ、カイヨワは特に「分類・系統・組み合わせ」の構造を執拗に追求した。

出典:カイヨワ全著作の通底的方法論
CONCEPT 11

擬態と伝説的精神衰弱

Mimétisme et psychasthénie légendaire

1935年に雑誌『ミノトール』に発表した論文タイトル。カマキリやナナフシ、葉に擬態する蛾などの昆虫の擬態現象を、生物学的事実と精神分析の交差点で論じた。

カイヨワの中心命題:擬態は単なる生存戦略ではなく、「自我が空間に溶解する」事態である。擬態する生物は、自分の輪郭を失い、背景と一体化する──主体と客体の境界が溶ける。これは精神病理学者ピエール・ジャネが論じた「伝説的精神衰弱(legendary psychasthenia)」と同じ構造。

この論文はジャック・ラカンの「鏡像段階論」(1936)に直接的影響を与えた。ラカンの「自我の起源は他者の視線」「想像的なもの」概念は、カイヨワの擬態論なしには成立しなかった。後の精神分析・現代美術・ポストヒューマン論の重要源泉。

出典:Caillois “Mimétisme et psychasthénie légendaire” Minotaure n.7, 1935
CONCEPT 12

カマキリ──生物学から精神分析へ

La mante religieuse

1934年雑誌『ミノトール』に発表したカイヨワ最初期の傑作論文「La mante religieuse: De la biologie à la psychanalyse」。雌のカマキリが交尾後に雄を食べる現象を、生物学的事実から神話・宗教・精神分析へと接続した。

カマキリは「ファム・ファタル(運命の女)」の生物学的象徴であると同時に、「死と性」「エロスとタナトス」の神話的形象。カイヨワは生物学・人類学・精神分析・神話学の境界を一気に横断する若き才能を示した。

シュルレアリスト集団参加期の代表作。後の「対角線の科学」の方法論的萌芽。シュルレアリスムから社会学院へと向かう過渡期の思考が結晶している。

出典:Minotaure n.5, 1934
CONCEPT 13

遊びの六定義

Six Characteristics of Play

カイヨワが『遊びと人間』第一部第一章「定義」で示した遊びの6つの形式的特徴。これら6条件を全て満たす活動が遊びである。

①自由な活動(free):強制されない、義務でない。②隔離された活動(separate):日常生活と区別された固有の時間・空間で行われる。③不確定な活動(uncertain):結果が予め決まっていない、プレイヤーの主導性が関与する。④非生産的な活動(unproductive):富を生まず、経済的に始まりと同じ状態で終わる。⑤規則のある活動(governed by rules):通常の法則と振る舞いを停止し、独自の規則に従う。⑥虚構的な活動(make-believe):「実生活」とは別の想像的現実を伴う。

カイヨワは「規則」と「虚構」が「相互排他的」であると独自に指摘した:「ゲームは規則的かつ虚構的なのではない。規則的か虚構的か、どちらかである」。ルドゥス(規則)とミミクリ(虚構)は別の遊びの軸を構成する。

出典:『遊びと人間』第一部第一章「定義」
CONCEPT 14

遊びの堕落

Corruption of Play

『遊びと人間』第一部第四章のテーマ。カイヨワは現代社会で四類型それぞれが「堕落」する形態を分析した。

アゴンの堕落=暴力(ルールなき競争、純粋な権力闘争)。アレアの堕落=迷信・狂的賭博依存(運命への完全な屈服、合理性の放棄)。ミミクリの堕落=疎外(演技と現実の混同、自己同一性の喪失)。イリンクスの堕落=麻薬・アルコール依存(恒常的な眩暈状態への沈潜)。

遊びは適切な枠組みの中でこそ人間性を豊かにする。枠組みが壊れると、遊びの構造そのものが社会を蝕む。ホイジンガと同様、カイヨワも「現代社会における遊びの腐敗」を文明論的に懸念した。

出典:『遊びと人間』第一部第四章「遊びの堕落」
CONCEPT 15

仮面と眩暈

Masks and Vertigo

『遊びと人間』第二部第七章「模擬と眩暈」の主題。カイヨワは原始的・古代的社会の宗教儀礼を、ミミクリ(仮面)とイリンクス(眩暈)の組み合わせとして分析した。

仮面は身につけた者を別の存在(神霊・先祖・動物霊)に変身させる。同時に祭儀の旋舞・トランス・憑依状態が眩暈を生む。仮面と眩暈の組み合わせによって、共同体は集合的興奮(collective effervescence)を経験する。デュルケームが「聖の起源」と呼んだ事態。

原始社会では仮面と眩暈の祭儀が社会統合の中核だった。文明化とともにアゴンとアレアが優勢になるが、仮面と眩暈は「秩序ある文明の中への眩暈の再湧出」として常に回帰する──ハロウィン、カーニバル、ロックフェス、レイブパーティー…。

出典:『遊びと人間』第二部第七章
CONCEPT 16

競争と偶然の文明史

Agon-Alea Civilization

『遊びと人間』第二部第八章「競争と偶然」の主題。カイヨワは文明史を、ミミクリ+イリンクスの社会から、アゴン+アレアの社会への移行として描いた。

原始社会=ミミクリ+イリンクス(仮面と眩暈の祭儀社会)。古代ギリシャ・ローマ=アゴンの台頭(オリンピック、市民闘技)。近代資本主義社会=アゴン+アレア(競争と偶然性、株式・宝くじ)。アゴンが「自力本願」、アレアが「他力本願」として、近代の精神的補完を成す。

この文明史的考察はマックス・ヴェーバー、ルイス・マンフォード、ノルベルト・エリアスらの文明社会学と並走する独自の業績。1956年12月31日ストックホルムの群衆暴動事件をカイヨワは重要な事例として参照する──秩序ある文明の中への眩暈の再湧出。

出典:『遊びと人間』第二部第八章
CONCEPT 17

現代社会への再湧出

Recurrence in Modern Society

『遊びと人間』第二部第九章のタイトル。カイヨワが分析した、抑え込まれた本能の現代社会への還流現象。

仮面と制服(軍服・ユニフォーム)、縁日(祭り)、サーカス、空中サーカス(曲芸)、人真似し茶化す神々(コスプレ・パロディ文化)──全て、抑え込まれたミミクリとイリンクスが、現代の合理化された社会の中で別の形で回帰する事例。

カイヨワの洞察:「ミミクリとイリンクスが人間にとっての永遠の誘惑であるなら、これらを集団生活から排除し、子供の楽しみや異常な振る舞いとしてだけ許しておくということは、容易にできることではあるまい」。現代のロックコンサート、サッカーのフーリガン、SNSのなりすまし、コスプレイベント──すべてここに位置づけられる。

出典:『遊びと人間』第二部第九章
CONCEPT 18

石の美学

Aesthetics of Stones

1966年『石(Pierres)』、1970年『石の文字(L’écriture des pierres)』、1985年英訳『The Writing of Stones』で展開した晩年の独自の美学。マルグリット・ユルスナールが英訳序文を寄稿。

カイヨワは瑪瑙、碧玉、水晶、石灰岩などの内部模様・断面・結晶構造を詳細に観察し、「自然そのものの幻想芸術」として読み解いた。地質学的時間が刻んだ模様は、人間の絵画・書画と構造的に共鳴する。

「対角線の科学」の集大成的実践。地質学・鉱物学・美学・文学を横断し、人間の芸術を自然の創造の延長として捉え直す視点。日本では『石が書く』(菅野昭正訳、新潮社1975)として翻訳。日本の石の美学・盆栽石・水石伝統と思想的に響き合う。

出典:『石』ガリマール1966/『石が書く』新潮社1975
CONCEPT 19

非対称性

La Dissymétrie

1973年の著書タイトル。自然と文化における非対称性を体系的に論じる。生物学的非対称(左右非対称な臓器配置、心臓の左寄り、利き手)から、文化的非対称(権力構造、ジェンダー、社会階層)まで。

カイヨワの命題:完全な対称性は、自然にも文化にも存在しない。対称性への憧れは、非対称な現実の幻想的補償である。非対称性こそが生命と文化の動態を生む。

「対角線の科学」の集大成的著作の一つ。生物学・物理学・社会学・美学・哲学を横断する独自の構造主義的考察。20世紀フランス構造主義の縁辺に位置する独創的業績。

出典:La Dissymétrie. Gallimard 1973
CONCEPT 20

南十字星叢書(La Croix du Sud)

The Southern Cross Series

1948年帰仏後にカイヨワがガリマール社で創設・編集した叢書。フランスにラテンアメリカ文学を体系的に紹介する画期的シリーズ。

収録作家:ホルヘ・ルイス・ボルヘス(『伝奇集』『エル・アレフ』)、パブロ・ネルーダ(『大いなる歌』)、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス(『大統領閣下』)、アレホ・カルペンティエール(『失われた足跡』)、ヴィクトリア・オカンポ、シルビーナ・オカンポ、アドルフォ・ビオイ・カサーレス…。

1939年から1946年のアルゼンチン亡命中に培った人脈と読書経験が結実。後の「魔術的リアリズム」「ラテンアメリカ・ブーム」の準備をした重要な文化的事業。アストゥリアスは1967年ノーベル文学賞、ネルーダは1971年ノーベル文学賞受賞。

出典:Editions Gallimard “La Croix du Sud” series 1948-1972
CONCEPT 21

ディオゲネス(Diogène)

Diogenes Journal

1952年カイヨワがUNESCO支援を得て創刊した国際的・学際的季刊誌。フランス語・英語・スペイン語の三言語版で並行して発行。創刊号からカイヨワが主筆を務め、1978年の死まで編集に深く関与した。

誌名は古代ギリシャの哲学者ディオゲネス(樽の哲学者)から。「樽の中で世界を見る」哲学者の象徴。社会学・人類学・哲学・文学・芸術論を横断する論考を世界中の知識人から募集し、東西の知的対話を促進。

2026年現在も刊行中(International Council for Philosophy and Human Sciencesが運営)。70年以上続く国際的学術誌として、カイヨワの最も持続的な制度的遺産。

出典:Diogène, Quarterly published by UNESCO since 1952
CONCEPT 22

夢の現象学

Phenomenology of Dreams

1956年『L’incertitude qui vient des rêves(夢から来る不確定性)』、1962年『Puissances du rêve(夢の力)』、1966年共編『The Dream and Human Societies』で展開した夢の理論。

カイヨワはフロイトの夢解釈とは異なるアプローチを取った。夢は個人の無意識の象徴ではなく、夢そのものが世界経験を変容させる出来事である。夢の不確定性は、起きている世界の認識をも揺るがす。

夢を社会学的・人類学的・文学的・哲学的に多面的に分析する独自の試み。アンドレ・ブルトン的な無意識の崇拝とも、フロイト的な精神分析とも異なる「対角線の夢学」。日本では金井裕訳『夢について/夢の現象学』として思潮社から1971/1986。

出典:『L’incertitude qui vient des rêves』1956/『Puissances du rêve』1962
CONCEPT 23

偶然の遊びの重要性

The Importance of Chance Games

『遊びと人間』補論第一の主題。カイヨワは現代社会における偶然のゲーム(賭博、宝くじ、抽選、株式投機)の社会的・心理的重要性を独自に論じた。

ホイジンガはギャンブルを「純粋な遊びの自由を破壊する」と批判したが、カイヨワは反論する──ギャンブルはアレアとアゴンの混合した正統な遊びである。賭博が社会的活動と勝者の歓喜を生む限り、それは遊びの構造を保つ。

「偶然のゲームは、勤勉と倹約に基づく近代資本主義の倫理に対する、もう一つの倫理を提示する」。運命への屈服、運の到来を待つ姿勢、瞬間的な富の創出──これらは合理主義への抵抗として機能する。日本の「親ガチャ」言説、宝くじ文化、ガチャゲームの分析にも応用可能。

出典:『遊びと人間』補論第一
CONCEPT 24

幻想小説の理論

Theory of the Fantastic

カイヨワは社会学・人類学のみならず、幻想小説の重要な理論家でもあった。1958年『幻想画集(Au cœur du fantastique)』、1965年編『フランス幻想文学アンソロジー(Anthologie du fantastique)』、1966年『遊戯的小説(Anthologie de la nouvelle policière)』など。

カイヨワの定義:幻想小説とは「日常的な現実の中に、説明不可能な異質なものが侵入する」物語。これはツヴェタン・トドロフ『幻想文学序説』(1970)に直接影響を与え、現代の幻想文学理論の基礎となった。

カイヨワ自身も幻想小説『物語ポンス・ピラト(Ponce-Pilate)』(1961)を書いた。歴史と虚構の境界を問う散文物語。日本では金井裕訳で景文館書店から『ポンス・ピラト ほか カイヨワ幻想物語集』として2013年新訳。彼は理論と実作の両方で幻想文学を耕した稀有な存在。

出典:Au cœur du fantastique, 1965/Anthologie du fantastique, 1958
VI · MAJOR WORKS

代表的な著作

Books that Defined French Thought

カイヨワは生涯で30冊以上を残した。社会学・神話学・遊び論・文芸批評・幻想小説・詩学・石の美学を横断する13作品を、年代順に整理する。

1938

神話と人間

Le Mythe et l’homme Gallimard/久米博訳 せりか書房 1994

最初の主著。神話を集合的イマジネーションの構造的役割として分析。後の『遊びと人間』『人間と聖なるもの』への萌芽がここに集約。1939年フランス文学アカデミー賞候補。

1939/1950

人間と聖なるもの

L’Homme et le sacré Gallimard 1939/増補版1950

2作目主著。聖と俗の二元構造、祭りと禁忌、神聖な戦争、エロティシズムを論じた社会学的傑作。デュルケームの聖の社会学を独自に発展させ、1937年社会学院創設の理論的基盤を提供。

1951

聖なるものの社会学

Quatre essais de sociologie contemporaine 内藤莞爾訳 弘文堂 1971/ちくま学芸文庫 2000

「現代社会学の四つの試み」。聖の社会学の決定版的論考集。日本では『聖なるものの社会学』のタイトルで広く読まれている。ちくま学芸文庫版が現在も入手可能。

1956

夢の現象学

L’incertitude qui vient des rêves 金井裕訳 思潮社 1971/新版『夢の現象学』1986

夢の不確定性が現実認識をいかに揺るがすかを論じる。フロイト的夢解釈とは異なる、現象学的・社会学的アプローチ。同年に詩論『詩法(L’Art poétique)』も刊行。

1958

遊びと人間

Les jeux et les hommes Gallimard/清水幾太郎・霧生和夫訳 岩波書店 1970/多田道太郎・塚崎幹夫訳 講談社 1971/講談社学術文庫 1990

カイヨワ最大の著作。アゴン・アレア・ミミクリ・イリンクスの四類型と、パイディア/ルドゥスの連続体を提示。ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』を批判的に乗り越える。1961年Meyer Barash英訳『Man, Play and Games』も世界的影響。1967年改訂増補版で「日本版への序文」「補論」追加。

1960

メドゥーサと仲間たち

Méduse et cie 中原好文訳 思索社 1975/新装版 1988

擬態論を発展させた著作。生物学的擬態と神話・芸術の擬態を「対角線の科学」の方法で結ぶ。1935年論文「擬態と伝説的精神衰弱」の集成・発展形。

1961

物語ポンス・ピラト

Ponce-Pilate 金井裕訳 審美社 1975/景文館書店『ポンス・ピラト ほか カイヨワ幻想物語集』2013

幻想小説の代表作。歴史と虚構の境界を問う散文物語。イエスを処刑したピラトの内面を描く。社会学者・詩人としてのカイヨワが小説家として結実した稀有な作品。

1966

Pierres Gallimard/菅野昭正訳『石が書く』新潮社 1975/英訳The Writing of Stones 1985

石の鉱物学的・美学的・哲学的考察。瑪瑙・碧玉・水晶の内部模様を「自然の幻想芸術」として読み解く独創的著作。マルグリット・ユルスナールが英訳序文を寄稿。晩年の代表作。

1970

盤上の升目

Cases d’un échiquier Gallimard

チェス盤の各升目に思想的考察を配する形式の論集。「対角線の科学」の方法を体現する独自の知的構築。1971年アカデミー・フランセーズ会員選出時の代表作の一つ。

1973

非対称性

La Dissymétrie Gallimard

自然と文化における非対称性を体系的に論じる。生物学的非対称(左右非対称な臓器配置)から、文化的非対称(権力構造)まで。「対角線の科学」の集大成的著作。

1978

アルフェ河

Le fleuve Alphée Gallimard/マルセル・プルースト賞・欧州連合文学賞

「想像的自伝」と称される晩年の傑作。古代ギリシャの神話的河アルフェイオスを起点に、人生と思考の流れを詩的散文で再構成。同年の永眠の前にカイヨワ自身が思考と人生を総括した遺言的著作。

1981

精神の必然性(遺著)

La Nécessité d’esprit Gallimard/英訳The Necessity of the Mind, Lapis Press 1990

死後出版された遺稿。カイヨワが構想していた哲学的体系の総合を試みた未完の大著。1990年Lapis Pressから英訳刊行。

1948–72

南十字星叢書(編集)

La Croix du Sud Editions Gallimard

カイヨワがガリマール社で編集した叢書。ボルヘス、ネルーダ、アストゥリアス、カルペンティエール、オカンポ姉妹らラテンアメリカ文学を体系的にフランスへ導入。後の「魔術的リアリズム」「ラテンアメリカ・ブーム」の準備をした重要文化事業。

VII · CONFIGURATION

思想史的布置──源泉と影響

Where Caillois Stands in Intellectual History

カイヨワは、誰から受け取ったのか。誰に手渡したのか。20世紀フランス思想史におけるカイヨワの位置を、12の源泉と12の影響先によって立体的に描出する。

SOURCES — カイヨワへ流れ込んだ12の水脈

Where Caillois drew from
  • マルセル・モース(1872-1950)EPHEでカイヨワが師事した社会人類学者。デュルケームの甥。贈与論・身体技法論・全体的社会的事実の概念がカイヨワの社会学的方法の基盤。
  • ジョルジュ・デュメジル(1898-1986)EPHEでの師。印欧比較神話学の祖。若きカイヨワを「我々の時代の天才」と評した。神話の構造分析の方法を伝授。
  • アレクサンドル・コジェーヴ(1902-1968)EPHEでヘーゲル『精神現象学』を講義。レイモン・アロン、メルロ=ポンティ、サルトル、ラカン、バタイユらと共にカイヨワも聴講。
  • アンドレ・ブルトン/シュルレアリスム1932-1934年に参加した運動。雑誌『ミノトール』に「カマキリ」「擬態と伝説的精神衰弱」を発表。1934年離脱するも深い精神的源泉となる。
  • ジョルジュ・バタイユ(1897-1962)1937年共に社会学院を設立した盟友にして思想的好敵手。1939年聖の解釈をめぐり決裂するも、相互の影響は決定的。
  • ミシェル・レリス(1901-1990)社会学院の三人目の創設者。シュルレアリスムから民族誌学へ転じた人類学者・詩人。終生の友人。
  • エミール・デュルケーム(1858-1917)聖/俗の二元論、集合的興奮、社会学的方法。カイヨワの聖の社会学の最大の源泉。
  • フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)『悲劇の誕生』のディオニュソス/アポロ。社会学院・バタイユ・カイヨワの思想的基層を成す。
  • ヨハン・ホイジンガ(1872-1945)『ホモ・ルーデンス』(1938)。カイヨワ『遊びと人間』が批判的に継承した直接の対話相手。
  • ポール・ヴァレリー(1871-1945)フランス精神性の代表者。カイヨワの散文文体・知的構築の様式に影響。アカデミー・フランセーズの先達。
  • ピエール・ジャネ(1859-1947)精神病理学者。「伝説的精神衰弱」概念がカイヨワの擬態論の理論的基盤。
  • シャルル・ボードレール/象徴主義カイヨワの詩学・幻想文学論の遠い源泉。

INFLUENCED — カイヨワから流れ出た12の支流

Where Caillois flowed into
  • ジャック・ラカン(1901-1981)カイヨワの1935年「擬態と伝説的精神衰弱」が1936年「鏡像段階論」に直接影響。「想像的なもの」概念の源泉。
  • ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899-1986)アルゼンチン亡命中に交流し、フランスへ紹介。『南十字星』叢書でフランス語訳出版。両者は終生の知的友情を結ぶ。
  • パブロ・ネルーダ/ミゲル・アンヘル・アストゥリアス/アレホ・カルペンティエールカイヨワが『南十字星』叢書でフランスへ紹介した南米作家たち。後にアストゥリアス・ネルーダはノーベル文学賞受賞。
  • ツヴェタン・トドロフ(1939-2017)『幻想文学序説』(1970)はカイヨワの幻想小説論に直接的に依拠。
  • ルネ・ジラール(1923-2015)『暴力と聖なるもの』(1972)の犠牲・暴力論はカイヨワの聖の社会学を継承・発展。
  • ヴィクトリア・オカンポ(1890-1979)アルゼンチンの作家・編集者。カイヨワを亡命招請した盟友。雑誌『SUR』を共に運営。
  • ホイジンガ批判の系統ブライアン・サットン=スミス、トーマス・ヘンリックス、Greg Costikyanら現代ゲーム研究者は、カイヨワ/ホイジンガ論争の延長線上にいる。
  • ゲーム研究(ludology)全般1990年代以降のゲームスタディーズ、ジェスパー・ユール、ゴンザロ・フラスカらは、カイヨワの四類型を出発点とする。
  • 遊び論/教育心理学全般カイヨワの四類型は世界の遊具設計、教育プログラム、子ども論、発達心理学の基本フレームワーク。
  • 多田道太郎(1924-2007)京都大学教授・遊び論の第一人者。『遊びと人間』翻訳者にして日本における最大の継承者。『複製芸術論』『身辺の日本文化』等。
  • 塚原史『人間と聖なるもの』日本語訳者(せりか書房1994)。日本のシュルレアリスム研究・カイヨワ研究の重鎮。
  • 現代美術批評/フェルミナ・カナーレス/ジョルジオ・アガンベン等カイヨワの聖/俗論、犠牲論、擬態論は20-21世紀の美術批評・哲学の重要参照点。
VIII · DOMAINS OF INFLUENCE

射程と展開──カイヨワの思想が貫通した領域

Where Caillois’s Thought Reaches

カイヨワの「対角線の科学」は、専門分化した領域を貫通する独自の射程を持つ。20世紀後半から21世紀の現在に至るまで、12の領域でカイヨワは出発点として参照され続けている。

DOMAIN 01

ゲーム研究(ルドロジー)

1990年代以降のゲームスタディーズの基礎理論。ジェスパー・ユール、ゴンザロ・フラスカ、Greg Costikyanらの著作は、カイヨワの四類型を出発点として展開。コンピュータゲーム・ボードゲーム・eスポーツの分析の基礎フレームワーク。

DOMAIN 02

教育心理学・遊び論

子どもの発達における遊びの役割の理論的基盤。幼児教育、特別支援教育、保育論で、カイヨワの四類型が「遊びの分類」のスタンダードとして参照される。日本では遊具設計の現場でも応用。

DOMAIN 03

聖の社会学・宗教社会学

デュルケームから現代へと至る聖の社会学の系譜の中核。ルネ・ジラール、ジョルジオ・アガンベン、ピエール・ノラらの著作の理論的基盤。日本の宗教学、祭祀研究、神道論にも影響。

DOMAIN 04

幻想文学理論

ツヴェタン・トドロフ『幻想文学序説』(1970)に直接的に継承。「日常への異質なものの侵入」としての幻想の定義は、現代の幻想文学・ホラー文学・SF研究の出発点。

DOMAIN 05

精神分析理論

1935年「擬態と伝説的精神衰弱」がラカンの鏡像段階論に直接影響。「想像的なもの」「自我の溶解」概念の源泉として、フランス精神分析の基層を成す。

DOMAIN 06

ラテンアメリカ文学翻訳・受容

カイヨワが『南十字星』叢書で導入したラテンアメリカ文学は、20世紀後半のフランス文学界に決定的な刺激を与えた。「魔術的リアリズム」「ラテンアメリカ・ブーム」の文化的準備を担った。

DOMAIN 07

神話学・人類学

レヴィ=ストロース構造人類学の縁辺に位置する独自の神話学。デュメジルの印欧比較神話学を継承しつつ、現代社会の神話的構造の分析へ拡張。

DOMAIN 08

身体論・舞踊論

イリンクス概念は身体運動論・舞踊論の重要参照点。コンテンポラリー・ダンス、舞踏、武道、武術における「眩暈」の哲学的位置づけ。要輔さんの文化身体論でも「能動態の遊び」として位置づけられる。

DOMAIN 09

ビデオゲーム設計理論

任天堂等のゲーム会社が公式に参照する「すべり台進化図解」(ミミクリ・イリンクス・アレア・アゴンの組み合わせ)は、ビデオゲーム設計の思想的基盤。カイヨワの四類型は実際のゲーム企画の現場で生きている。

DOMAIN 10

祭祀論・カーニバル研究

ハロウィン、カーニバル、ロックフェス、レイブパーティーなど現代社会の集合的興奮の理論的源泉。「秩序ある文明の中への眩暈の再湧出」として読み解く視点を提供。

DOMAIN 11

石・鉱物の美学/自然美術論

『石』(1966)が拓いた自然そのものの幻想芸術論。日本の盆栽石・水石伝統、地学的美学、地球史美学などの理論的源泉。マルグリット・ユルスナールが評価した独自の領域。

DOMAIN 12

遊具設計・公園設計

カイヨワの四類型は児童公園・遊具メーカーの設計思想に応用される。すべり台→象型すべり台(ミミクリ)→恐竜型回転すべり台(イリンクス)→ウォータースライダー(アレア)→競争レーン(アゴン)の進化図解は遊具設計教育の定番。

IX · QUOTES

カイヨワの言葉

Twelve Words from Caillois

カイヨワは精緻なフランス語の使い手だった。著作・論文・対談から12の言葉を選ぶ。仏語原文と日本語訳を併記。

“Les jeux disciplinent les instincts et leur imposent une existence institutionnelle.”

遊びは本能を規律づけ、それに制度的な存在を強いる。

— Les jeux et les hommes, Gallimard 1958

“Le sacré et le jeu sont deux modes opposés de transgression du profane.”

聖と遊は、俗を超え出る二つの正反対の様式である。

— L’Homme et le sacré, Gallimard 1939

“Mimicry and ilinx are eternal temptations of the human.”

ミミクリとイリンクスは人間にとっての永遠の誘惑である。

— Man, Play and Games(『遊びと人間』)

“Le jeu est un gaspillage pur.”

遊びとは、純粋な浪費である──時間、エネルギー、創意、技、しばしば金銭の浪費。

— Les jeux et les hommes 序論

“L’être humain ne joue pas contre des objets : il joue contre des règles.”

人間は対象に対して遊ぶのではない。規則に対して遊ぶのだ。

— Les jeux et les hommes 第一部

“Le mimétisme est une dépersonnalisation par assimilation à l’espace.”

擬態とは、空間との同化による脱人格化である。

— Mimétisme et psychasthénie légendaire, Minotaure n.7, 1935

“La civilisation est un effort pour soumettre le hasard.”

文明とは、偶然を従属させようとする努力である。

— Les jeux et les hommes 補論

“La pierre est le poème géologique de la planète.”

石は、地球の地質学的な詩である。

— Pierres, Gallimard 1966

“Une science qui se croise transversalement avec d’autres.”

他の諸科学を斜めに横断する科学──それが対角線の科学である。

— カイヨワ全著作の通底的方法論

“Le rêve est l’incertitude qui vient ébranler la certitude du jour.”

夢とは、昼の確実性を揺るがしに来る不確定性である。

— L’incertitude qui vient des rêves, 1956

“Le sacré est ce qu’on ne peut approcher sans mourir.”

聖なるものとは、死なずには近づけないものである。

— L’Homme et le sacré 第一章

“Pour un Collège de Sociologie : étudier l’existence sociale dans toutes celles de ses manifestations où se fait jour la présence active du sacré.”

社会学院のために──聖なるものが活発に作動する社会的存在のあらゆる現象を研究する。

— 社会学院創設声明 NRF 1938年7月

X · READING ROUTES

カイヨワへの読書ルート──5段階

Five Levels of Reading Caillois

カイヨワの著作は、文体は明晰で散文的だが概念密度が高く、初学者を時に困らせる。だが入口を選べば、誰もが読み解ける。難易度順に5段階で配置した。

STEP 01 — ENTRY

『遊びと人間』講談社学術文庫

多田道太郎・塚崎幹夫訳。1990年講談社学術文庫化以来のロングセラー。アゴン・アレア・ミミクリ・イリンクスの四類型と、パイディア/ルドゥスの連続体──カイヨワの最も有名な概念群がここに集中している。日本のカイヨワ受容の出発点。389ページ。

STEP 02 — SACRED

『聖なるものの社会学』ちくま学芸文庫

内藤莞爾訳。原著『現代社会学の四つの試み』(1951)の日本語版。聖/俗の二元構造、祭りと禁忌、祝祭、神聖な戦争──カイヨワの社会学的傑作。社会学院の理論的核心がここにある。デュルケーム、バタイユと併読すると効果倍増。

STEP 03 — STONES

『石が書く』菅野昭正訳 新潮社

原著『Pierres』(1966)。石の鉱物学・美学・哲学を「対角線の科学」の方法で結ぶカイヨワ晩年の傑作。学術的でありながら詩的散文として読める稀有な書物。マルグリット・ユルスナールが英訳序文を寄せた。日本の盆栽石・水石伝統と思想的に響き合う。

STEP 04 — MYTHS

『神話と人間』久米博訳 せりか書房

原著1938年。カイヨワ最初の主著。神話を集合的イマジネーションの構造的役割として分析。後のすべての著作の萌芽がここに集約。シュルレアリスム期から社会学院期への過渡的傑作。1994年日本語訳。

STEP 05 — ULTIMATE

『アルフェ河』Le fleuve Alphée(仏語原典)

1978年・カイヨワ永眠の年に刊行された最後の傑作。「想像的自伝」と称される詩的散文。マルセル・プルースト賞・欧州連合文学賞同年受賞。カイヨワの全思考と人生が結晶した遺言的著作。日本語訳未刊行のため、フランス語で読むのが王道。Gallimard版。

XI · RESOURCES

参考文献・公式資料・アーカイブ

References, Archives, and Online Sources

学術的にカイヨワを参照する場合の一次資料・百科事典・公式アーカイブ・主要著作・関連論文・出版社サイトを多層的に整理する。カイヨワ研究のハブとして機能するリンク集。

百科事典・人名辞典

公式アーカイブ・国際資料

  • Diogenes Journal(公式)journals.sagepub.com/home/dio カイヨワが1952年創刊した学際的季刊誌(現在も刊行中)
  • Internet Archive『Les jeux et les hommes』1967年版archive.org/details/lesjeuxetleshomm0000cail 仏語原典フルテキスト
  • Sensate Journal「An Introduction to Caillois’ Stones & Other Texts」sensatejournal.com 英語圏での質の高いカイヨワ論
  • Museum of Play「Caillois’s Man, Play, and Games: An Appreciation」museumofplay.org(PDF) Thomas Henricks による包括的なカイヨワ論
  • Prix Roger Caillois(カイヨワ賞)1991年創設のフランス文学賞。フランス文学・ラテンアメリカ文学・エッセイの三部門

主要著作リンク(出版社)

  • 『遊びと人間』講談社学術文庫kodansha.co.jp/book/products/0000150521
  • 講談社学術文庫『遊びと人間』NDLndlsearch.ndl.go.jp 国立国会図書館書誌
  • 『神話と人間』せりか書房ISBN 4796701850/紀伊國屋書店
  • 『聖なるものの社会学』ちくま学芸文庫2000年版/内藤莞爾訳
  • UI Press “Man, Play and Games”press.uillinois.edu Meyer Barash英訳の出版社ページ
  • Editions Gallimard(カイヨワ全著作の本国出版社)ガリマール社カイヨワ全著作リスト

関連書籍・後継研究

  • ヨハン・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』1938年。カイヨワ『遊びと人間』が批判的に継承した直接の対話相手。中央公論新社/高橋英夫訳が定本。
  • ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分』『エロティシズム』カイヨワと社会学院を共同設立した盟友の主著。聖と消尽の理論。
  • ミシェル・レリス『成熟の年齢』『日常生活における聖なるもの』社会学院第三の創設者の自伝・論考。
  • ツヴェタン・トドロフ『幻想文学序説』1970年。カイヨワの幻想小説論を理論化した重要著作。
  • ルネ・ジラール『暴力と聖なるもの』1972年。カイヨワの聖の社会学を犠牲・暴力論として継承。
  • Denis Hollier『社会学院(Le Collège de Sociologie)』Gallimard 1995。社会学院の決定版資料集。

学術論文・解説記事

  • Thomas Henricks「Caillois’s Man, Play, and Games: An Appreciation」American Journal of Play/museumofplay.org(PDF) 半世紀後の包括的再評価
  • 「Roger Caillois dans les impasses du Collège de Sociologie」shs.hal.science(PDF) 社会学院でのバタイユとの対立を扱う論文
  • 「Roger Caillois and E-Sports: On the Problems of Treating Play as a Job」現代のeスポーツとカイヨワ論の接続論文
  • 「Making Sense of Play in Video Games: Ludus, Paidia, and Possibility Spaces」カイヨワの遊び論をビデオゲーム分析に応用
  • 「The Ambiguity of the Sacred: Revisiting Roger Caillois’s L’Homme et le sacré」カイヨワの聖の社会学の現代的再考
  • 「The Genealogy of Sacred Society: From Durkheim to Collège de Sociologie」聖の社会学の系譜
  • カイヨワ研究のCollège de Sociologie資料rchsc.fah.um.edu.mo(PDF)

書誌・読書ガイド

  • 紀伊國屋書店『遊びと人間』kinokuniya.co.jp 各書のレビュー・書誌情報
  • BOOK☆WALKER『遊びと人間』電子書籍bookwalker.jp
  • 版元ドットコム『遊びと人間』hanmoto.com 出版業界の公式書誌
  • Goodreads “Editions of Man, Play and Games”世界中の各国語版の網羅的リスト
  • HMV&BOOKS『神話と人間』hmv.co.jp

関連思想家・参照体系

  • エミール・デュルケーム(1858-1917)聖/俗の二元論、集合的興奮。カイヨワの社会学的方法の最大源泉
  • マルセル・モース(1872-1950)EPHE時代の師。贈与論・身体技法。カイヨワへの直接的影響
  • ジョルジュ・デュメジル(1898-1986)EPHE時代の師。印欧比較神話学。カイヨワを「天才」と評した
  • ジョルジュ・バタイユ(1897-1962)社会学院共同設立者。聖の解釈をめぐり対立するも相互影響
  • ミシェル・レリス(1901-1990)社会学院第三の創設者。終生の友人
  • ヨハン・ホイジンガ(1872-1945)『ホモ・ルーデンス』(1938)。直接的論敵にして対話相手
  • ジャック・ラカン(1901-1981)カイヨワ擬態論の継承者・発展者
  • ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899-1986)アルゼンチン亡命中の盟友・終生の友人

同時代・並走する思想動向

  • シュルレアリスム集団(1920s-30s)カイヨワ初期の所属。ブルトン・ダリ・エルンストらと並走
  • 社会学院(Collège de Sociologie)1937-39バタイユ・レリスとの共同事業
  • UNESCO・国際的人文学(1948-)戦後の国際的知的協力の現場
  • 『ディオゲネス』誌の国際的知識人ネットワーク世界中の知識人を結ぶ場
  • 『南十字星』叢書のラテンアメリカ文学翻訳事業ガリマール社における大規模文化導入
  • アカデミー・フランセーズ(1971-)フランス文人の最高栄誉
  • レヴィ=ストロース構造人類学カイヨワと並走する20世紀フランスの構造主義思想
  • 1990年代以降のゲーム研究(Ludology)ジェスパー・ユール、ゴンザロ・フラスカらが直接継承
XII · FAQ

よくある質問

Frequently Asked Questions

カイヨワの生涯・思想・概念について、実際に問われることの多い12の質問に答える。Schema.org FAQPageに連動済み。

ロジェ・カイヨワとは誰ですか?
ロジェ・カイヨワ(1913-1978)は、フランスの思想家・社会学者・文芸批評家・哲学者・詩人。遊び、神話、聖なるもの、夢、石、ラテンアメリカ文学など多領域を横断する独自の知性で「対角線の科学」を提唱。1937年ジョルジュ・バタイユ、ミシェル・レリスと共に社会学院(Collège de Sociologie)を設立。1958年の主著『遊びと人間』で遊びの四類型を確立した。1952年雑誌『ディオゲネス』をUNESCO支援で創刊、ボルヘス・ネルーダ・アストゥリアスら南米作家をフランスに紹介。1971年アカデミー・フランセーズ会員。デュメジルは彼を「我々の時代の天才」と呼んだ。
遊びの四類型とは何ですか?
カイヨワが1958年『遊びと人間(Les jeux et les hommes)』で確立した遊びの分類。アゴン(競争/フットボール、チェス、かけっこ等)、アレア(偶然/じゃんけん、サイコロ、くじ引き等)、ミミクリ(模擬/ごっこ遊び、仮装、演劇等)、イリンクス(眩暈/ブランコ、ジェットコースター、ぐるぐる回転等)の4つ。さらに二軸(意志的/脱意志的、規則的/脱規則的)で整理し、すべての遊びをこの四象限に位置づけた。
アゴン・アレア・ミミクリ・イリンクスの語源は?
すべてギリシャ語起源。アゴン(agōn)=競技・闘技。アレア(alea)=ラテン語でサイコロ・運。ミミクリ(mimicry)=英語経由の擬態・模倣。イリンクス(ilinx)=ギリシャ語で「渦巻き」「眩暈」。カイヨワは古代ギリシャ・ローマの語彙を意図的に選び、遊びを文化人類学的・歴史的射程の中で扱った。
パイディアとルドゥスとは何ですか?
カイヨワが遊びを連続体として記述するために導入した二極概念。パイディア(paidia)は規則のない自由で奔放な遊び、子どもの即興的な遊び。ルドゥス(ludus)は規則的で訓練を要する遊び、大人の競技的な遊び。カイヨワは「人間の文化はパイディアからルドゥスへと向かう傾向がある」と指摘しつつ、両者の絶え間ない緊張関係が文化の動態を生むとした。
カイヨワとホイジンガはどう違うのですか?
オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガは1938年『ホモ・ルーデンス』で「文化は遊びから生まれる」と主張した。カイヨワはこれを批判的に継承しつつ、ホイジンガが競争(アゴン)的側面に偏り、運(アレア)・模擬(ミミクリ)・眩暈(イリンクス)を取りこぼしたと指摘した。さらにホイジンガが聖と遊びを同一視したのに対し、カイヨワは「聖/俗/遊」の三項関係を提示。聖と遊は俗を挟んで対極に位置するとした。
社会学院(Collège de Sociologie)とは何ですか?
1937年7月、カイヨワがジョルジュ・バタイユ、ミシェル・レリスと共にパリで設立した知的サークル。「聖なるものが活発に作動する社会的存在のあらゆる現象を研究する」ことを目的とし、シュルレアリスムの個人的無意識中心主義を超えて、儀礼・祭儀・集団的興奮など「集合的な聖」の社会学を打ち立てた。1939年解散まで隔週で公開講義を開催。バタイユ、レリス、コジェーヴ、クロソウスキー、ジャン・ヴァール、ベンヤミンらが講義・聴講。20世紀フランス思想の重要な触媒となった。
対角線の科学(sciences diagonales)とは何ですか?
カイヨワが提唱した独自の方法論。専門分化した個別科学(生物学・社会学・文学・神話学・心理学等)を縦の軸とすると、その全てを斜めに横断し共通する構造を見出す科学を「対角線の科学」と呼んだ。擬態を生物学(カマキリ・蛾の擬態)と精神分析(自我の溶解)と神話学(仮面)の交差として論じる方法、遊びを社会学・人類学・心理学・文学を貫いて分析する方法──全てが対角線の科学の実践である。
カイヨワとシュルレアリスムの関係は?
1932年から1934年まで、カイヨワはアンドレ・ブルトンのシュルレアリスト集団に参加した。1934年に発表した「カマキリ──生物学から精神分析へ」は雑誌『ミノトール』掲載のシュルレアリスム的傑作。しかし1934年、ブルトンの教条主義への異論から離脱。シュルレアリスムが個人の幻想に閉じることへの不満が、後に社会学院の集合的聖への関心となる。
カイヨワとボルヘスの関係は?
1939年カイヨワはアルゼンチン作家ヴィクトリア・オカンポの招きで渡亜、第二次大戦中はブエノスアイレス滞在。そこでホルヘ・ルイス・ボルヘスと交流し、彼の作品をフランス語訳でヨーロッパに紹介した。戦後はガリマール社で『南十字星(La Croix du Sud)』叢書を編集し、ボルヘス、ネルーダ、アストゥリアス、カルペンティエール、オカンポらラテンアメリカ文学を体系的にフランスへ導入した第一人者となった。
カイヨワの主要な著作は何ですか?
主著は『神話と人間(Le Mythe et l’homme)』(1938)、『人間と聖なるもの(L’Homme et le sacré)』(1939/拡大版1950)、『遊びと人間(Les jeux et les hommes)』(1958)、『メドゥーサと仲間たち(Méduse et cie)』(1960)、『石(Pierres)』(1966)、『盤上の升目(Cases d’un échiquier)』(1970)、『非対称性(La Dissymétrie)』(1973)、『アルフェ河(Le fleuve Alphée)』(1978、自伝的随想)など。1935年の論文「擬態と伝説的精神衰弱」もラカンに影響した古典。
カイヨワは日本でどのように受容されましたか?
日本では『遊びと人間』が二度翻訳されました。清水幾太郎・霧生和夫訳(岩波書店、1970)と多田道太郎・塚崎幹夫訳(講談社、1971/講談社学術文庫1990)。多田道太郎は京大教授・遊び論の第一人者。『神話と人間』は久米博訳でせりか書房から1994年。『聖なるものの社会学(社会学現代)』は内藤莞爾訳で弘文堂1971/ちくま学芸文庫2000。日本の遊び論・社会学・身体論・教育学に深い影響を与えた。
カイヨワはなぜアカデミー・フランセーズに選出されたのですか?
1971年、58歳でアカデミー・フランセーズの会員(不死者・les Immortels)に選出された。社会学・神話学・文学批評・詩学・ラテンアメリカ文学翻訳といった多領域での卓越した業績、UNESCO『ディオゲネス』誌主宰者としての国際的貢献、独自の散文文体(『石』のような物質的詩学)が評価された。フランス文人の最高栄誉である。1991年彼の名を冠した「プリ・ロジェ・カイヨワ」が創設されている。

本ページは、ロジェ・カイヨワ(1913-1978)の生涯、思想、独自概念、影響、日本受容を、文化身体論の視点から再構成した完全ガイドである。

1913年フランス・ランスに生まれ、リセ・ルイ=ル=グラン、高等師範学校、高等研究実習院でデュメジル・コジェーヴ・モースに師事。シュルレアリスムを経て社会学院を設立し、聖の社会学を打ち立てた。第二次大戦中はアルゼンチン亡命、ボルヘスら南米作家をフランスに紹介。戦後はUNESCO・ディオゲネス誌・南十字星叢書を主宰し、1958年『遊びと人間』で遊びの四類型を確立。1971年アカデミー・フランセーズ会員。1978年永眠──65年間、対角線の科学を生き切った。

アゴン、アレア、ミミクリ、イリンクス、パイディア、ルドゥス、聖と俗、社会学院、対角線の科学、擬態、石、夢──これらの概念は、20世紀フランス思想の最高峰として、ゲーム研究、聖の社会学、幻想文学理論、精神分析、ラテンアメリカ文学翻訳、現代美術批評に決定的な影響を与えた。

カイヨワが残したのは30冊余の著作ではない。「他の諸科学を斜めに横断する科学」という、知の地図そのものを書き換える方法そのものである。デュメジルが彼を「我々の時代の天才」と呼んだのは、この越境的知性ゆえだった。

SHARED EDITORIAL PHILOSOPHY

本シリーズが共有する一つの問い

〈身体〉が、文化が、学びが、遊びが、近代の枠組みのなかでどのように分節され、どこで歪められ、いかに再び動詞化されうるのか。
GETTA Thinkers Encyclopedia は、この一つの問いを16の星座から照らす編集方針で構成されています。

EDITOR / AUTHOR
宮﨑 要輔(みやざき ようすけ)
合同会社GETTAプランニング 代表
文化身体論研究者
PUBLISHER
合同会社GETTAプランニング
和歌山県和歌山市本町
getta.jp
ROOT WORK
DA VINCI CODING
天才を動詞にする実装哲学
論考を読む
DEVICE
一本歯下駄 GETTA
中動態を実装する装置
完全ガイド
© 2026 合同会社GETTAプランニング ─ GETTA Thinkers Encyclopedia / 編集責任:宮﨑 要輔