ピエール・ブルデューとは何者か|ハビトゥス・文化資本・界(champ)の全体像──日本最大級の思想図鑑|GETTA

GETTA THINKERS ENCYCLOPEDIA No.01 / 16 SOCIOLOGY
Pierre Bourdieu · 1930-2002 · FR

GETTA Thinkers Encyclopedia / No.01

Pierre Bourdieu

ピエール・ブルデュー

1 August 1930 — 23 January 2002

二十世紀フランスを代表する社会学者。
ハビトゥス文化資本界(champ)──
「身体に刻まれた社会」を理論化した、最も読まれた現代社会学者の一人。

コレージュ・ド・フランス教授 EHESS研究主幹 『ディスタンクシオン』『再生産』 1981年CNRS金メダル
SECTION ONE

ブルデューとは何者か

An Introduction to the Sociologist of Embodied Society

「社会は身体の中にある」──この一文が、ブルデューの社会学のすべてを貫いている。

ピエール・ブルデュー(Pierre Bourdieu, 1930–2002)は、二十世紀後半のフランスを代表する社会学者である。アルジェリアでの民族誌的調査から出発し、教育・芸術・文化・経済・政治・科学を横断する膨大な実証研究と理論的著作を残し、晩年にはコレージュ・ド・フランス教授・EHESS(社会科学高等研究院)研究主幹として、国際社会学の中心的存在となった。

その理論的核心は、人間の社会的実践を「個人の意志」でも「外部からの構造」でもなく、身体に刻み込まれた性向の体系(ハビトゥス)として捉え直したことにある。我々が「自由に選んでいる」と感じる趣味・身振り・話し方・進路選択の多くは、社会階層・家族環境・教育課程の中で長い時間をかけて身体化されたものであり、その身体化された性向こそが社会の不平等を再生産する装置として機能する──この洞察が、ブルデュー社会学の出発点である。

ブルデューは、マルクスの階級論、ヴェーバーの行為論、デュルケームの集合表象、モースの身体技法、メルロ=ポンティの身体現象学、レヴィ=ストロースの構造主義、ヴィトゲンシュタインの言語ゲーム論を独自に統合し、ハビトゥス(habitus)・界(champ)・資本(capital)という三つの基本概念を中心に据えた壮大な実践理論を構築した。教育社会学・文化社会学・スポーツ社会学・芸術社会学・科学社会学・メディア研究・ジェンダー研究、そして近年では身体論・パフォーマンス研究まで、その射程はあらゆる人文社会科学領域に及ぶ。

37+
著作・編著
340+
論文・寄稿
22+
主要邦訳書
71
没年齢

死後二十年以上を経た現在、ブルデューの著作はGoogle Scholarにおいて社会学者として最も引用される一人であり、Distinction(ディスタンクシオン)は国際社会学会(ISA)が選ぶ「二十世紀の最も重要な社会学書十冊」に名を連ねる。日本においても、藤原書店・みすず書房・新評論を中心に主要著作のほぼ全てが翻訳され、教育社会学・文化社会学を志す者にとって不可欠の参照点となっている。

SECTION TWO

略年譜(1930–2002)

A Life in Sociology

1930誕生

フランス南西部・ベアルン地方ダンガンで誕生

父は小作農(métayer)出身、後に郵便配達人(facteur)、晩年は村の小規模郵便局の局長(facteur-receveur)となった人物。母はPTT(郵便・電信・電話公社)の職員。家庭ではガスコーニュ系のベアルン語が話され、就学時にフランス標準語に切り替わる経験をした。地方の貧しい農民・小官吏の家から「奨学生として中央エリート校に進む」という社会的軌道が、後の階級・ハビトゥス研究の原点となる。

194817歳

ポー・リセからパリのリセ・ルイ=ル=グランへ

地方の優等生として、フランス最高峰の準備学級リセに入学。ここでの「文化資本を持たない者の異邦感」が、生涯のテーマとなる。

195120歳

高等師範学校(École Normale Supérieure / ENS)入学

サルトル、メルロ=ポンティ、アルチュセール、フーコーらを輩出したフランス最高峰の哲学エリート養成校に入学。当初は哲学を専攻し、ジョルジュ・カンギレム、ガストン・バシュラール、メルロ=ポンティの薫陶を受ける。同期にはジャック・デリダ、ルイ・マラン、エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ。

195423歳

哲学アグレガシオン取得(合格者中第7位)・ムーランのリセに赴任

1954年、哲学アグレガシオン(教授資格試験)に合格者中第7位で合格。ムーラン(中央フランス・アリエ県)のリセで哲学教員(1954-1955)を務めながら、ジョルジュ・カンギレム指導下で「情動生活の時間構造」をテーマとする哲学博士論文の準備を始める(1957年に放棄)。

1955転回

兵役でアルジェリアに派遣 ── 哲学から社会学へ

兵役のためアルジェリアに召集され、当初は懲罰的に下級任務、後にアルジェリア総督府の宣伝部門に配属。アルジェリア戦争下の植民地体制の現場に投じられる。カビリア(ベルベル人)社会の伝統と植民地経済の衝突を目撃。哲学者から社会学者・民族学者へと転回した決定的な経験。1958年に動員解除後もアルジェに残り、アルジェ大学文学部助手(1958-1960)としてフィールドワークを継続する。

195827歳

処女作『アルジェリアの社会学』刊行

アルジェリアの諸民族(カビリア人、シャウィア人、モザビット人、アラブ人)の社会構造を分析した処女作。後のハビトゥス名誉感覚研究の土台が形成される。

196029歳

アルジェリア独立戦争激化、フランスに帰国

パリ大学(ソルボンヌ)でレイモン・アロンの助手となる。アロンを介してフランス社会学界の主流に位置を得る。

196433歳

『遺産相続者たち』刊行(パスロンとの共著)

フランスの大学生における階級的不平等を文化資本論によって解明し、教育社会学に革命をもたらした名著。本書によってブルデューの名は国際的に知られるようになる。

196433歳

EPHE(高等研究実習院)第VI部門 研究主幹に就任

同年、EPHE第VI部門の研究主幹(directeur d’études)に就任。1975年に同第VI部門が独立してEHESS(社会科学高等研究院)となり、ブルデューはそのまま EHESS 研究主幹として終生の活動拠点とする。後にヨーロッパ社会学センターも率いる。

197039歳

『再生産(La Reproduction)』刊行

パスロンとの共著。学校教育が「文化的恣意(arbitraire culturel)」を「正統的文化」として身体化させ、階級格差を再生産する装置であることを論証した教育社会学の古典。象徴的暴力概念が登場。

197241歳

『実践理論の素描(Esquisse d’une théorie de la pratique)』

アルジェリア・カビリアでの民族誌をもとに、ハビトゥス・界・資本からなる実践理論の最初の体系的提示。レヴィ=ストロース構造主義への批判的応答として読まれる。

197544歳

学術誌『社会科学研究紀要(Actes de la recherche en sciences sociales)』創刊

ブルデュー学派の学術的拠点となる雑誌を創刊。「学者の学者性そのものを問う」反省的社会学の実践の場となる。

197948歳

『ディスタンクシオン(La Distinction)』刊行

ブルデューの代表作にして、二十世紀の社会学を代表する一冊。フランス社会の階級的趣味を実証的に分析し、「美的判断」が階級の再生産装置であることを論証した。国際社会学会「20世紀の社会学書ベスト10」第6位選出。

198049歳

『実践感覚(Le Sens pratique)』刊行

ハビトゥス論の哲学的・人類学的基盤を体系的に展開した理論的主著。「ゲームの感覚」「実践論理」概念が深化される。

198150歳

コレージュ・ド・フランス教授就任

フランス最高の知的栄誉であるコレージュ・ド・フランス社会学講座に選出。レイモン・アロン、エミール・デュルケーム以来の系譜を継ぐ。同年CNRS金メダル受賞。

198453歳

『ホモ・アカデミクス』刊行

フランス大学界そのものを社会学的研究対象とする「自己の批判的客観化」の実験。反省性(réflexivité)の概念が深化される。

198958歳

『国家貴族(La Noblesse d’État)』刊行

フランスのグランゼコール(高等教育機関)が「国家貴族」を再生産する構造を解明した大著。

199261歳

『芸術の規則』『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』刊行

フローベールを軸に文学界の発生を分析した『芸術の規則』、ロイック・ヴァカンとの共著で自身の方法論を体系化した『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』。

199362歳

『世界の悲惨(La Misère du monde)』刊行

22人の研究者と共同で、新自由主義下のフランス社会の周縁にいる人々の声を集めた大著(千頁超)。社会学者の公的役割についての転換点──以後、新自由主義批判の知識人として政治的発言を増やす。

199564歳

フランス公共部門ストライキを支持・知識人として政治介入

ジュペ政権の社会保障改革に反対する大規模ストライキを支持し、リヨン駅で演説。以後、グローバリゼーション批判運動の象徴的存在となる。

199665歳

『メディア批判』刊行

テレビメディアの構造分析。フランスで30万部を超えるベストセラーとなり、ブルデューが大衆的論争に参加する契機となる。

199766歳

『パスカル的省察』刊行

スコラ的理性の人類学的批判。哲学的伝統そのものへのブルデュー的省察を集大成した晩年の主著。

199867歳

『市場独裁主義批判』『男性支配』刊行

新自由主義批判の論集と、ジェンダー支配を象徴的暴力として分析した『男性支配』。後者はジェンダー研究に大きな影響を与える。

2002逝去

1月23日、肺癌のためパリで死去(享年71)

遺著『科学の科学と反省性』『男性支配』、死後刊行の『自己分析』など、最晩年まで著作活動を続けた。2004年に自伝的著作『自己分析(Esquisse pour une auto-analyse)』が遺稿として刊行される。

SECTION THREE

ブルデュー社会学の主要概念

Twelve Key Concepts of Bourdieuian Sociology

ブルデューの理論体系は、相互に有機的に結びついた十二の主要概念によって構成されている。これらは個別に切り離して理解することができず、つねに「ハビトゥス・界・資本」という三角形の関係において機能する。以下、各概念について簡潔な定義・代表的引用・原典出処を併記する。引用文は、ブルデュー自身の有名な定式(『実践感覚』『ディスタンクシオン』など)の邦訳ニュアンスに基づくものと、複数箇所にまたがる論述の趣旨を凝縮した意訳とを含む。一次文献の精確な逐語訳を要する場合は、出典欄に記した原典・邦訳に直接当たられたい。

CONCEPT 01

ハビトゥス

habitus

社会的・文化的環境のなかで身体化された、知覚・思考・行動の持続的な性向の体系。「構造化する構造」であると同時に「構造化された構造」。

「ハビトゥスとは、構造化する構造として機能する性向を持つ、構造化された構造である」『実践感覚』1980
CONCEPT 02

文化資本

capital culturel

経済資本に還元できない、文化的能力・知識・教養として蓄積される資本。「身体化/客体化/制度化」の三つの存在形態を持つ。

「文化資本は、身体化された状態において、ハビトゥスとして存在する」「資本の三形態」1979 / Actes vol.30
CONCEPT 03

界(場)

champ

特定の資本をめぐって闘争が行われる、相対的に自律した社会的空間。芸術界・学問界・政治界・スポーツ界など、それぞれが独自の「ゲームの規則」を持つ。

「界は、その中でプレイヤーが争うひとつのゲームである」『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』1992
CONCEPT 04

イリュージオ

illusio

ある界のゲームに「賭ける価値がある」と信じてのめり込む、身体化された投企。プレイヤーがゲームの自明性を受け入れ、その内部に没入する状態。

「イリュージオとは、ゲームに賭ける、ゲームを真剣に取り上げる事実である」『パスカル的省察』1997
CONCEPT 05

ドクサ

doxa

問われることなく当然のものとして共有されている、自明的な世界の見方。意識の手前で身体化された「考えなくてもわかること」の領域。

「ドクサは、語られないがゆえに最も強力に機能する」『実践理論の素描』1972
CONCEPT 06

象徴的暴力

violence symbolique

支配される者自身が支配の正当性を承認し、それを内面化することによって機能する、暴力としては認識されない暴力。学校教育・メディア・ジェンダー秩序の中核機制。

「象徴的暴力は、被害者の共犯のもとに行使される暴力である」『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』1992
CONCEPT 07

ディスタンクシオン

distinction

階級的卓越化=差異化。趣味・文化的選択・身体的振る舞いを通じて社会的地位を表示し、他階級と自らを区別する実践。

「趣味は分類し、分類する者を分類する」『ディスタンクシオン』1979
CONCEPT 08

ヘクシス

hexis

身体化された姿勢・所作・声・歩き方として現れる、ハビトゥスの身体的次元。「政治神話の身体化」とも呼ばれる、最も深く社会が刻まれた身体の層。

「身体的ヘクシスは、政治神話が身体化され、永続的に身振りとなったものである」『実践感覚』1980
CONCEPT 09

社会空間

espace social

経済資本量と文化資本量の二軸(および総資本量)によって構造化された、多次元的な社会の幾何学。階級間の位置関係を空間として表現する分析装置。

「社会空間は、行為者と集団とが、それらが所有する資本によって配置される諸位置の空間である」『実践理性』1994
CONCEPT 10

再生産

reproduction

学校教育・家族・文化制度を通じて、階級構造が世代を越えて再生産される機制。「平等化を装った不平等の永続化装置」としての近代教育批判。

「学校は、最も洗練された不平等の再生産装置である」『再生産』1970
CONCEPT 11

反省的社会学

sociologie réflexive

研究者自身の社会的位置・学問的位置・スコラ的バイアスを社会学の対象に含めることで、客観性を担保しようとする方法論的態度。

「社会学者は、社会学する自分自身もまた社会学しなければならない」『ホモ・アカデミクス』1984
CONCEPT 12

実践感覚

sens pratique

明示的なルールや意識的計算によらず、状況に応じて適切に振る舞うことを可能にする、身体に内蔵された「ゲームの感覚」。

「実践感覚とは、来るべきものを予期する身体の感覚である」『実践感覚』1980
DEEP DIVE — Concept 01

ハビトゥス ── 身体化された社会

habitus, the embodied social structure

ハビトゥスは、ブルデュー社会学の最も中核的な概念であり、同時に最も誤解されやすい概念でもある。一般には「習慣」と訳されがちだが、ブルデューの用法は伝統的「習慣(habitude)」とは決定的に異なる。ハビトゥスとは、特定の社会的環境のなかで、長い時間をかけて身体に刻み込まれた、知覚・評価・行動の持続的かつ移調可能な性向の体系である。

ブルデュー自身の有名な定式によれば、ハビトゥスは「構造化された構造(structures structurées)であると同時に、構造化する構造(structures structurantes)」である。つまり、ハビトゥスは社会構造によって形成された産物であると同時に、新たな実践を生み出す生成原理として作用する。これによってブルデューは、社会学を二分してきた「構造(社会決定論)」対「主体(自由意志論)」の対立を乗り越えようとした。

ハビトゥスの重要な特徴は、それが意識の手前、身体のレベルで作動するということである。我々が「自然に」感じる好み、「思わず」とってしまう姿勢、「直感的に」できる判断──そのほとんどは、家庭・学校・職場・所属集団のなかで身体化された性向の発現にすぎない。ブルデューが繰り返し強調するのは、最も自由に感じられる選択ほど、実は最も深く社会的に決定されているという、自由の逆説である。

同時にブルデューは、ハビトゥスが完全な決定論ではないことを強調する。同じ階級ハビトゥスを共有する者の間にも個人的軌道による差異があり、社会変動期にはハビトゥスと環境のズレ(hysteresis effect、慣性効果)が新たな実践を生み出す。ハビトゥスは閉じた金型ではなく、開かれた即興の文法である。

DEEP DIVE — Concept 02

文化資本の三形態

les trois états du capital culturel

1979年論文「資本の三形態(Les trois états du capital culturel)」(『社会科学研究紀要 Actes de la recherche en sciences sociales』第30号、pp.3-6)においてブルデューは、文化資本が三つの異なる存在形態をとると論じた。この論文は1986年に英訳「The Forms of Capital」として J.G. Richardson 編 *Handbook of Theory and Research for the Sociology of Education* に収録され、英語圏での文化資本論の参照点となった。三分法は教育社会学・文化社会学・スポーツ社会学の基礎をなす。

FIRST FORM
身体化された文化資本
état incorporé

心身の持続的な性向として身体化されたもの。話し方、立ち居振る舞い、文化的感受性、芸術的趣味。蓄積には時間投資が必須であり、贈与・継承ができない──ハビトゥスとほぼ同義。最も深層の文化資本。

SECOND FORM
客体化された文化資本
état objectivé

書物、絵画、楽器、文化財などの物的形態における文化資本。所有は経済資本で可能だが、適切に「使用する」には身体化された文化資本が必要となる。物としては移転できても、価値は移転できない。

THIRD FORM
制度化された文化資本
état institutionnalisé

学位・資格・証明書による国家的承認の形態。文化資本に「貨幣的等価性」を与え、労働市場で経済資本に変換可能にする制度的装置。学校制度がこの変換を独占する。

この三形態は独立しているのではなく、相互に変換される。家庭で身体化された文化資本(第一形態)が、学校という界において学業成功=学歴(第三形態)に変換され、それが労働市場で経済資本に変換される。ブルデューが「最も偽装された世襲的資本伝達」と呼んだのは、家庭環境という見えない経路を通じた、文化資本の世代間継承である。

ブルデューはさらに、これらの文化資本に加えて、四つの主要な資本形態を区別している。

CAPITAL I
経済資本
貨幣・財産・生産手段の所有として現れる物質的資本。capital économique.
CAPITAL II
文化資本
教養・知識・身体技法として現れる文化的能力の資本。三形態を持つ。capital culturel.
CAPITAL III
社会関係資本
人脈・ネットワーク・所属集団による動員可能な関係の総体。capital social.
CAPITAL IV
象徴資本
他の三資本が「正統的」と承認されることで生じる、威信・名誉・信用の資本。capital symbolique.
DEEP DIVE — Concept 03

界(champ)── 闘争の社会的トポロジー

le champ comme topologie de la lutte sociale

「界(champ)」は、ハビトゥスと並ぶブルデュー社会学の二大概念である。界とは、特定の種類の資本をめぐって、行為者たちが諸位置を争う、相対的に自律した社会的空間を指す。芸術界、学問界、政治界、宗教界、ジャーナリズム界、スポーツ界、医療界──近代社会は無数の界に分化しており、各界はそれぞれ固有のドクサ(doxa)、賭け金(enjeux)、ノモス(nomos/界の根本法則)を持つ。

各界は二重の構造を持つ。第一に、その界に固有の資本配分の構造(誰がどれだけの界特有資本を持つか)。第二に、その界に固有の正統性の構造(何が正統的とされ、何が異端とされるか)。プレイヤーは自身のハビトゥスと所有する資本量に応じてこの空間内に位置づけられ、そこで「ゲームの感覚」に導かれて闘争に参加する。

ブルデューが繰り返し強調するのは、「界の自律性」と「界の他律性」の弁証法である。芸術界は経済的論理から自律することで芸術界として成立するが、それは同時に経済界・政治界の影響を受け続ける。新自由主義下のジャーナリズム界は、視聴率という経済的論理に侵食されることで界としての自律性を失っていく──これがブルデュー晩年の『メディア批判』『市場独裁主義批判』の中心的テーマである。

DEEP DIVE — Concept 06

象徴的暴力 ── 見えない暴力の理論

la violence symbolique

象徴的暴力は、ブルデューの権力論の核心をなす概念である。象徴的暴力とは、暴力として認識されないことによってこそ機能する暴力──支配される者自身が支配の正当性を承認し、それを「自然」「当然」として身体化することで、はじめて完成する暴力である。

『再生産』(1970)でブルデューとパスロンが提示した「教育的行為(action pédagogique)」は、その典型例である。学校は、特定の階級の文化(言語、規範、振る舞い)を「正統的文化」として教え込む。これは恣意的な選択であるにもかかわらず、教育の誤認(méconnaissance)装置によって普遍的・中立的なものとして提示される。生徒たちは自らの階級的不利を「個人的能力の不足」として受け入れ、不平等の構造を自ら再生産する。

同様の論理は、ジェンダー秩序にも適用される。1998年の『男性支配(La Domination masculine)』でブルデューは、男女の役割分業が単に外的強制ではなく、女性自身の身体・知覚・欲望のレベルで内面化されていることを論じた。象徴的暴力の理論は、フェミニズム研究、ポストコロニアル研究、批判的人種研究にも深い影響を与えている。

社会学とは、自由の科学である。
ただしその自由は、自由が束縛されている諸条件を
認識することによって初めて獲得される。

— Pierre Bourdieu, Réponses, 1992

SECTION FOUR

主要著作(年代順)

A Chronological Bibliography

ブルデューの著作は、初期のアルジェリア民族誌から、教育社会学・文化社会学の体系化、晩年の新自由主義批判まで、明確な連続性と発展を持つ。以下、原著年代順に主要著作を挙げ、邦訳情報を併記する(藤原書店、みすず書房、新評論、青弓社、法政大学出版局を中心に翻訳が進んでいる)。

195827歳
Sociologie de l’Algérie

アルジェリアの社会学 (処女作)

PUF(フランス大学出版局)/邦訳:未訳

アルジェリアの諸民族集団の社会構造を分析した処女作。植民地体制下のフィールドワークから生まれ、後のハビトゥス論の出発点となる。

196433歳
Les Héritiers : Les étudiants et la culture(with J.-C. Passeron)

遺産相続者たち ── 学生と文化

Les Éditions de Minuit/邦訳:石井洋二郎・監訳『遺産相続者たち』藤原書店、1997

フランス大学生における階級的不平等を文化資本の差異として実証分析。教育の「中立的選抜」イデオロギーを根底から覆した、教育社会学の古典。

196534歳
Un art moyen : Essai sur les usages sociaux de la photographie

写真論 ── その社会的効用

Les Éditions de Minuit/邦訳:山縣熙・山縣直子訳『写真論──その社会的効用』法政大学出版局、1990

写真という「中間的芸術」を通じて、階級的趣味の構造を実証した文化社会学の先駆。

197039歳
La Reproduction(with J.-C. Passeron)

再生産 ── 教育・社会・文化

Les Éditions de Minuit/邦訳:宮島喬訳『再生産──教育・社会・文化』藤原書店、1991

学校教育を「象徴的暴力」の装置として解明した教育社会学の決定的著作。「文化的恣意」「教育的行為」「象徴的暴力」が定式化される。

197241歳
Esquisse d’une théorie de la pratique

実践理論の素描 ── カビリア人の三つの民族学的研究

Droz/邦訳:今村仁司・港道隆訳『実践感覚 1』みすず書房(一部)/関連邦訳あり

カビリア社会の民族誌をもとに、ハビトゥス・界・資本からなる実践理論の最初の体系的提示。レヴィ=ストロース構造主義への根本的批判を含む。

197948歳
La Distinction : Critique sociale du jugement

ディスタンクシオン ── 社会的判断力批判 I・II

Les Éditions de Minuit/邦訳:石井洋二郎訳『ディスタンクシオン I・II』藤原書店、1990

フランス社会の階級的趣味を実証的に解剖した、二十世紀社会学の代表作。カントの『判断力批判』への社会学的応答。

198049歳
Le Sens pratique

実践感覚 1・2

Les Éditions de Minuit/邦訳:今村仁司・港道隆ほか訳『実践感覚 1・2』みすず書房、1988-1990

ハビトゥス論の哲学的・人類学的基盤を体系的に展開した理論的主著。「ゲームの感覚」「実践論理」概念が深化。

198049歳
Questions de sociologie

社会学の社会学

Les Éditions de Minuit/邦訳:田原音和監訳『社会学の社会学』藤原書店、1991

講演・対談・インタビュー集。ブルデュー理論への入門書として読まれる。

198251歳
Ce que parler veut dire

話すということ ── 言語的交換の経済

Fayard/邦訳:稲賀繁美訳『話すということ』藤原書店、1993

言語の使用を社会的権力の問題として分析。ヴィトゲンシュタイン的言語ゲームと階級的位置の連関を解明。

198453歳
Homo Academicus

ホモ・アカデミクス

Les Éditions de Minuit/邦訳:石崎晴己・東松秀雄訳『ホモ・アカデミクス』藤原書店、1997

フランス大学界そのものを社会学的研究対象とする「自己客観化」の実験。反省的社会学の方法論的記念碑。

198756歳
Choses dites

構造と実践 ── ブルデュー自身による解説

Les Éditions de Minuit/邦訳:石崎晴己訳『構造と実践』藤原書店、1991

講演・インタビューによる自己解説。ハビトゥス・界・資本の理論を平易に説いた、最良の入門書のひとつ。

198857歳
L’Ontologie politique de Martin Heidegger

ハイデガーの政治的存在論

Les Éditions de Minuit/邦訳:桑田禮彰訳『ハイデガーの政治的存在論』藤原書店、2000

ハイデガー哲学を哲学界における特定のハビトゥスの産物として批判的に分析。哲学の「内在的」読解と社会学的読解の融合の試み。

198958歳
La Noblesse d’État

国家貴族 ── エリート教育と支配階級の再生産

Les Éditions de Minuit/邦訳:立花英裕訳『国家貴族 I・II』藤原書店、2012

フランスのグランゼコール(高等教育機関)が「国家貴族」を再生産する構造を解明した大著。

199261歳
Les Règles de l’art

芸術の規則 I・II ── 文学界の発生と構造

Seuil/邦訳:石井洋二郎訳『芸術の規則 I・II』藤原書店、1995-1996

フローベールを軸に、十九世紀フランスにおける「自律的文学界」の発生過程を解明。芸術社会学の決定的著作。

199261歳
Réponses(with L. Wacquant)

リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待

Seuil/邦訳:水島和則訳『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』藤原書店、2007

ロイック・ヴァカンとの対話形式によるブルデュー社会学の方法論的体系化。ブルデュー入門の決定版。

199362歳
La Misère du monde(dir.)

世界の悲惨 I・II・III

Seuil/邦訳:櫻本陽一・荒井文雄監訳『世界の悲惨 I・II・III』藤原書店、2019-2020

22人の研究者と共同で、新自由主義下のフランス社会の周縁にいる人々の声を集めた大著。社会学の文学的・倫理的可能性を切り拓いた記念碑。

199463歳
Raisons pratiques

実践理性 ── 行動の理論について

Seuil/邦訳:加藤晴久ほか訳『実践理性──行動の理論について』藤原書店、2007

講演集。社会空間論、国家論、家族論、男性支配論などを含む晩年の総合的著作。

199665歳
Sur la télévision

メディア批判

Liber-Raisons d’agir/邦訳:櫻本陽一訳『メディア批判』藤原書店、2000

テレビメディアが知識界・政治界に与える構造的影響を分析。フランスで30万部を超えるベストセラーとなった社会的介入の書。

199766歳
Méditations pascaliennes

パスカル的省察

Seuil/邦訳:加藤晴久訳『パスカル的省察』藤原書店、2009

スコラ的理性への人類学的批判。哲学的伝統そのものへのブルデュー的省察を集大成した晩年の主著。

199867歳
La Domination masculine

男性支配

Seuil/邦訳:坂本さやか・坂本浩也訳『男性支配』藤原書店、2017

ジェンダー支配を象徴的暴力の典型例として分析。カビリア社会の民族誌を踏まえつつ、近代社会のジェンダー秩序を解剖する。ジェンダー研究の現代的古典。

199867歳
Contre-feux

市場独裁主義批判

Liber-Raisons d’agir/邦訳:加藤晴久訳『市場独裁主義批判』藤原書店、2000

新自由主義批判の論集。グローバリゼーションへの対抗運動の理論的拠点となった。

200170歳
Science de la science et réflexivité

科学の科学と反省性

Liber-Raisons d’agir/邦訳:加藤晴久訳『科学の科学』藤原書店、2010

コレージュ・ド・フランス最終講義。科学社会学的転回の集大成。

2004遺著
Esquisse pour une auto-analyse

自己分析

Raisons d’agir/邦訳:加藤晴久訳『自己分析』藤原書店、2011

死後刊行の自伝的著作。反省的社会学を、自分自身の社会的軌道に向けて遂行した遺著

2015遺著
Sociologie générale, Vol. 1 & 2

一般社会学 I・II ── コレージュ・ド・フランス講義録

Seuil/邦訳:刊行進行中

コレージュ・ド・フランスでの講義録。ブルデュー理論を「内側から」展開する、未公開講義の記録。

SECTION FIVE

思想的系譜 ── 影響源と継承者

Intellectual Lineage

ブルデュー社会学は、決して単独の創出ではない。マルクス、ヴェーバー、デュルケームという社会学三大祖から、メルロ=ポンティ、レヴィ=ストロース、モース、ヴィトゲンシュタイン、バシュラール、カンギレムに至る、二十世紀フランス・ヨーロッパ知性史の最良の系譜を独自に統合したものである。同時にブルデュー以降、その理論は世界中で批判的に継承・発展されている。

影響源 les sources

カール・マルクス
Karl Marx (1818–1883)

「資本」概念の拡張、階級論、再生産論の出発点。ブルデューはマルクスを「経済主義」と批判しつつ、資本概念を文化・社会・象徴の領域に拡張した。

マックス・ヴェーバー
Max Weber (1864–1920)

階級・地位・党派の三軸理論、「正統性」概念、宗教社会学の方法。ブルデューの「象徴資本」「象徴的暴力」はヴェーバーの正統性論の発展。

エミール・デュルケーム
Émile Durkheim (1858–1917)

集合表象論、社会的事実の客観性、聖と俗の分類体系。ブルデューはデュルケームを通じて社会学の科学性を継承した。

マルセル・モース
Marcel Mauss (1872–1950)

「身体技法(techniques du corps)」概念は、ブルデューのハビトゥス論の直接的源流。贈与論は象徴交換の理論として継承される。

モーリス・メルロ=ポンティ
Maurice Merleau-Ponty (1908–1961)

『知覚の現象学』の身体論。「身体図式」「身体的志向性」「習慣」の現象学が、ハビトゥスの哲学的基盤となる。ENS時代のブルデューの直接の師。

クロード・レヴィ=ストロース
Claude Lévi-Strauss (1908–2009)

構造主義人類学。ブルデューはレヴィ=ストロースを批判的に乗り越えるかたちで実践理論を提出した(「構造から実践へ」)。

ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン
Ludwig Wittgenstein (1889–1951)

「言語ゲーム」「規則に従う」概念。ブルデューの「実践感覚」「ゲームの感覚」はヴィトゲンシュタイン後期哲学からの直接の継承。

ガストン・バシュラール/ジョルジュ・カンギレム
Bachelard / Canguilhem

フランス科学認識論の系譜。「認識論的切断」「障害」概念は、ブルデューの反省的社会学の根本的方法論となる。

エルヴィン・パノフスキー
Erwin Panofsky (1892–1968)

芸術史の図像学。「ハビトゥス」概念の中世スコラ哲学からの再発見は、ブルデューがパノフスキー仏訳に付した解説で示された。

継承者・関連思想家 les héritiers

ロイック・ヴァカン
Loïc Wacquant (1960– )

ブルデュー直系の弟子。シカゴのボクシングジムでの民族誌『身体・魂』(2000)は、身体化されたハビトゥスの実証研究の傑作。新自由主義下の刑罰国家論でも知られる。

ジャン=クロード・パスロン
Jean-Claude Passeron (1930– )

『遺産相続者たち』『再生産』の共著者。後にブルデューと方法論的に袂を分かつが、教育社会学への両者の貢献は不可分。

ベルナール・ライール
Bernard Lahire (1963– )

ブルデュー的ハビトゥス概念の「個人化」「複数性」の方向への発展。『複数的人間(L’homme pluriel)』(1998)でハビトゥスの内的多様性を理論化。

リュック・ボルタンスキー
Luc Boltanski (1940– )

かつてのブルデュー協力者。後に「正当化の社会学」「批判の社会学」として独自の道を歩む。

アネット・ラロー
Annette Lareau (1952– )

米国社会学。『不平等な子ども期(Unequal Childhoods)』でブルデュー的子育て階級論を米国に展開。

トニー・ベネット
Tony Bennett (1947– )

英国カルチュラル・スタディーズ。『カルチャー、階級、ディスタンクシオン』でブルデュー的方法を英国社会に応用。

ピエール・カルレス(映画監督)
Pierre Carles (1962– )

『La Sociologie est un sport de combat(社会学は格闘技だ)』(2001)でブルデュー晩年の活動を記録した。初学者向けの最良の入門ドキュメンタリー。

ディディエ・エリボン
Didier Eribon (1953– )

『ランスへの帰還』(2009)はブルデュー的階級分析を自伝として実践した世界的ベストセラー。

エドゥアール・ルイ
Édouard Louis (1992– )

フランスの作家。エリボンを介してブルデューの影響を受けた自伝的小説『エディの場合』『暴力の歴史』で世界的注目を集める。

SECTION SIX

日本におけるブルデュー受容

Reception of Bourdieu in Japan

日本におけるブルデュー受容は、1970年代後半に教育社会学領域で始まり、1990年代の藤原書店による主要著作翻訳の集中刊行によって本格化した。石井洋二郎、加藤晴久、宮島喬、立花英裕、櫻本陽一、安田尚らによる翻訳・研究が累積し、現在では教育社会学・文化社会学・スポーツ社会学・ジェンダー研究の不可欠の参照点となっている。近年は磯直樹、片岡栄美らによる実証研究が新世代の中心を担っている。

石井洋二郎

東京大学名誉教授/中部大学/フランス文学・社会学

『ディスタンクシオン I・II』『遺産相続者たち』『芸術の規則 I・II』など、ブルデュー主要著作の中心的翻訳者。日本のブルデュー受容を実質的に担う。著書『差異と欲望──ブルデュー『ディスタンクシオン』を読む』(藤原書店、1993)は決定的入門書。

加藤晴久

東京大学名誉教授/恵泉女学園大学/フランス文学・思想

『パスカル的省察』『自己分析』『市場独裁主義批判』『科学の科学』『実践理性』など、晩年ブルデューの主要著作翻訳者。藤原書店の「ブルデュー・ライブラリー」を実質的に編集。

宮島喬

お茶の水女子大学名誉教授/法政大学名誉教授/社会学

『再生産』翻訳者。日本における教育社会学的ブルデュー受容の最初の世代を代表する。著書『文化的再生産の社会学──ブルデュー理論からの展開』(藤原書店、1994)は教育社会学の必読書。

立花英裕

早稲田大学教授/フランス文学・社会学

『国家貴族 I・II』翻訳者。ブルデュー研究のフランス文学的・思想史的側面を担う。

櫻本陽一

名古屋大学教授/社会学

『世界の悲惨 I・II・III』『メディア批判』監訳者。ブルデュー晩年の社会学的介入を日本に紹介する中心的役割。

安田尚

東洋大学/教育社会学

著書『ブルデュー社会学を読む』(青木書店、1998)は、ブルデュー理論を体系的に解説した日本語による最良の概説書のひとつ。

磯直樹

慶應義塾大学/社会学

著書『認識と反省性──ピエール・ブルデューの社会学的思考』(法政大学出版局、2020)。ブルデュー理論の方法論的基盤を再構築する新世代の中心的研究者。

片岡栄美

駒澤大学/文化社会学

日本における文化資本・趣味の階層性に関する実証研究の第一人者。著書『趣味の社会学──文化・階層・ジェンダー』(青弓社、2019)。日本社会のディスタンクシオン研究を牽引。

山田鋭夫

名古屋大学名誉教授/経済学

レギュラシオン理論の系譜からブルデューの経済社会学を読み解く研究を展開。

水島和則

京都大学/社会学

『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』翻訳者。ブルデューの方法論研究。

Japanese Publishers

日本のブルデュー受容を支える主要出版社:
藤原書店(中心的役割)みすず書房(『実践感覚』)新評論法政大学出版局青弓社勁草書房

SECTION SEVEN

ブルデューを読み始めるために

A Reader’s Guide to Bourdieu

ブルデューの著作は、専門用語の濃密さと複雑な構文ゆえに、初学者には敷居が高いとされる。しかし、適切な順序で読み進めれば、その理論体系は明晰かつ強力である。以下、目的別に三つの読書経路を提示する。

I

入門ルート for beginners

  • 『社会学の社会学』Questions de sociologie / 1980
    講演・対談集。ブルデューが自分の言葉で平易に語る。
  • 石井洋二郎『差異と欲望』1993
    『ディスタンクシオン』への決定的水先案内。
  • 『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』1992
    ヴァカンとの対話による理論的体系の自己解説。
  • 映画『社会学は格闘技だ』P. Carles, 2001
    晩年ブルデュー本人の姿を捉えたドキュメンタリー。
II

主著ルート core texts

  • 『遺産相続者たち』1964
    教育社会学への最初の革命。
  • 『再生産』1970
    象徴的暴力と教育論の決定的著作。
  • 『ディスタンクシオン I・II』1979
    趣味と階級の壮大な実証分析。
  • 『実践感覚 1・2』1980
    ハビトゥス論の哲学的基盤。
  • 『ホモ・アカデミクス』1984
    反省的社会学の実践。
  • 『パスカル的省察』1997
    晩年の哲学的総括。
III

応用ルート thematic readings

  • 身体・スポーツ:
    L. Wacquant『身体・魂』2000
  • 芸術・文学:
    『芸術の規則 I・II』1992
  • ジェンダー:
    『男性支配』1998
  • 政治・新自由主義:
    『市場独裁主義批判』1998、『メディア批判』1996
  • 科学・知識社会学:
    『科学の科学』2001
  • 自伝的省察:
    『自己分析』2004
Recommended Sequence

最初の一冊に迷うなら:
『社会学の社会学』から始め、『ディスタンクシオン I』へ。
その後、関心領域に応じて応用ルートへ進む。

SECTION EIGHT

オンラインリソース

Online Resources & Archives

ブルデュー研究のための主要なオンライン・リソース、学術アーカイブ、英文・仏文の信頼できる解説サイトを以下に紹介する。研究者・学生・実践者のいずれにとっても有用な、最も評価の高い情報源を選定した。

Database / FR
Cairn.info

フランス語圏人文社会科学の最大の電子ジャーナルデータベース。ブルデューの論文・関連研究を多数収録。

cairn.info
Archive / FR
Persée

フランス国立科学研究所(CNRS)の公的学術アーカイブ。『社会科学研究紀要(Actes)』の創刊号からのバックナンバーが無料閲覧可能。

persee.fr
Institution / FR
Collège de France

ブルデューが1981–2001年に教えた講座のアーカイブ。講義録音の一部が無料公開されている。

college-de-france.fr
Institution / FR
EHESS

社会科学高等研究院。ブルデューの主要な研究拠点。後継研究の動向を追える。

ehess.fr
Database / EN
HyperBourdieu World Catalogue

オーストリア・ヨハネス・ケプラー大学が運営するブルデュー全著作・論文・インタビューのオンライン目録。最も詳細なブルデュー文献データベース。

hyperbourdieu.jku.at
Encyclopedia / EN
Stanford Encyclopedia of Philosophy

スタンフォード大学による哲学者・思想家の標準的解説。ブルデュー関連項目(社会認識論等)が査読済みで信頼性最高。

plato.stanford.edu
Database / EN
Google Scholar

“Pierre Bourdieu” 検索で50万件超。被引用ランキングで主要著作の影響力を確認できる。

scholar.google.com
Publisher / JP
藤原書店

日本のブルデュー翻訳出版の中心。「ブルデュー・ライブラリー」シリーズで主要著作のほぼ全てを刊行。

fujiwara-shoten.co.jp
Publisher / JP
みすず書房

『実践感覚 1・2』(今村仁司・港道隆訳)など、初期主要著作の邦訳刊行元。

msz.co.jp
Database / JP
CiNii Research

国立情報学研究所による日本語学術論文データベース。「ブルデュー」検索で日本語研究の全体像が把握できる。

cir.nii.ac.jp
Database / EN
JSTOR

英語圏学術誌の主要アーカイブ。ブルデュー関連の英語論文の主要収録元。

jstor.org
Reference / EN
Wikipedia (English)

英語版Wikipediaの「Pierre Bourdieu」項目は他言語版と比較して最も詳細で、参考文献リストも充実している。

en.wikipedia.org/wiki/Pierre_Bourdieu

SECTION NINE — Critical Inheritance

ブルデューへの批判的継承
──「転移する文化資本」という第四形態

A Critical Inheritance of Bourdieu / from the GETTA research line

ブルデュー社会学の偉大さは、それが今日もなお批判的継承の対象であり続けることに表れている。本節では、合同会社GETTAプランニング代表・宮﨑要輔(追手門学院大学大学院修了、社会学修士/文化身体論)が二十年以上の現場実践と理論研究を経て到達した、ブルデュー文化資本論への根本的な批判的継承の試みを提示する。これは藤原書店版『ディスタンクシオン』『再生産』を読み込み続けた一人の社会学者・現場実践者が、園庭・道場・リング・スポーツの現場において発見した、「転移する文化資本」という第四の形態の理論である。

ブルデュー自身が1986年論文で提示した文化資本の三形態(身体化・客体化・制度化)は、いずれも「蓄積」という共通の論理に貫かれている。蓄えられるもの。所有されるもの。持つ者と持たざる者を分けるもの。この共通項こそが、ブルデュー社会学が「不平等の再生産」を強力に説明できた理由である。しかし同時に、それは文化資本が持ちうる別の存在様態を、構造的に視野の外に置いてしまった。

BOURDIEU / 蓄積する文化資本

既存の三形態

家庭・学校・教育課程のなかで時間をかけて蓄積される。所有者に帰属する。世襲的に継承される。学歴・資格として制度化される。階級格差を再生産する。

蓄積 → 所有 → 再生産 → 不平等
MIYAZAKI / 転移する文化資本

第四の形態(提起)

身体から身体へ、媒体を通じて転移する。所有することができない。共振する場所のなかでのみ立ち現れる。蓄積ではなく持続として、空間化された時間ではなく純粋持続として作動する。

湧出 → 転移 → 共振 → 場所の生成

園庭で走る五歳児の身体には、まだ社会化されきっていない衝動の回路が残っている。一人の子どもの走りが他の子の走りを呼び、笑いが笑いを呼び、空間全体が共振する。母親はこの空間に居合わせるだけで、何かを身体に持ち帰る。それは母親が「蓄積」したのではない。場に参与した時間の痕跡が、母親の身体に浸透したのである。これは所有の論理では記述できない。蓄積の論理では捉えられない。ブルデューの三形態の文法では、ここで起きていることは社会学的に不可視となる。

宮﨑要輔がジュニアアスリート、Jリーガー、プロ野球選手、世界タイトルマッチに挑むボクサー、海外で活躍するフットボーラーらと現場で二十年以上向き合うなかで一貫して目撃してきたのは、最も卓越した身体性が、しばしば「蓄積された文化資本」では説明できない仕方で立ち現れるという事実だった。練習量でも家庭環境でも経歴でもない、ある身体から別の身体へ「移っていく」何か。久田哲也(ボクサー)、高橋遥人(プロ野球選手)、田中陽子(フットボーラー)、原大智(ブンデスリーガでプレーするフットボーラー)──それぞれの卓越性のただなかに、宮﨑が見続けてきたのはこの「転移する」回路だった。

ベルクソンの純粋持続、大森荘蔵の立ち現れ、メルロ=ポンティの身体図式、モースの身体技法、そしてドゥルーズが『フランシス・ベーコン──感覚の論理学』で論じた「衝動が他者へと転移する」キャンバスの構造──これらの哲学的・人類学的系譜を踏まえつつ、宮﨑は次の理論的提起に至った。蓄積する文化資本(ブルデュー)に対して、転移する文化資本という第四の形態が存在する。それはブルデューの三形態に並列されるのではない。三形態が成立する以前の、より古層に属する文化資本の原型である。

ブルデュー社会学が記述した文化資本の構造は、近代における文化資本の形態である。
転移する文化資本は、近代がそれを「蓄積する文化資本」へと変換する以前に、
すべての人間の身体に開かれていた回路である。
──ブルデューを最も深く読んだ者だけが、ブルデューを越える地点に到達する。

GETTA Thinkers Encyclopedia

本ページは、合同会社GETTAプランニング(GETTA Planning LLC, 代表・宮﨑要輔)が運営する、文化身体論および現代社会理論の研究系譜に基づく思想図鑑シリーズ第一弾です。続巻として、モーリス・メルロ=ポンティ、マルセル・モース、アンリ・ベルクソン、大森荘蔵、市川浩、西田幾多郎、生田久美子、矢田部英正、齋藤孝らの図鑑ページを順次公開予定です。

SHARED EDITORIAL PHILOSOPHY

本シリーズが共有する一つの問い

〈身体〉が、文化が、学びが、遊びが、近代の枠組みのなかでどのように分節され、どこで歪められ、いかに再び動詞化されうるのか。
GETTA Thinkers Encyclopedia は、この一つの問いを16の星座から照らす編集方針で構成されています。

EDITOR / AUTHOR
宮﨑 要輔(みやざき ようすけ)
合同会社GETTAプランニング 代表
文化身体論研究者
PUBLISHER
合同会社GETTAプランニング
和歌山県和歌山市本町
getta.jp
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天才を動詞にする実装哲学
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© 2026 合同会社GETTAプランニング ─ GETTA Thinkers Encyclopedia / 編集責任:宮﨑 要輔