気づけば、合っている
引き込み現象図鑑
台の上のメトロノームが、いつのまにか揃う。朝の光で眠気のリズムが整う。心臓のペースが呼吸に寄り添う。リズムがリズムに引き寄せられるこの普遍現象——引き込みを、身近な実例から横断する。
01引き込みとは何か
引き込み(entrainment)
引き込みとは、あるリズムが外部または相互のリズムに引き寄せられ、周期や位相を合わせていく同調現象である。
引き込みとは、振動するものが別のリズムに引き寄せられて同調していく現象です。強制的に合わせられるのではなく、相互作用のなかで自然と周期や位相が寄り添っていきます。
17世紀、物理学者ホイヘンスは、同じ梁に掛けた二つの振り子時計が、放っておくといつも逆相で揃うことに気づきました。彼はこれを「奇妙な共感(odd sympathy)」と呼びました。これが記録された最古の引き込み観察です。
引き込みは、結合振動子が同期へ至る入口のメカニズムでもあります。同期が「結果」なら、引き込みは「過程」。両者を分けて捉えると、自然界の同調がぐっと見通しやすくなります。
02ばらばらのリズムが、寄り添っていく
下図は、固有のテンポを持つ二つの振動子が、結合を介して互いのリズムへ引き寄せられていく様子です。やがて周期が揃い、同期に至ります。
はじめは別々の周期。相互作用がテンポを寄せ合い、やがて共通のリズムへ落ち着く。
BEFORE WILL
合わせようと思う前に、
すでに合っている。
音楽が鳴れば体が動く。隣の歩調に足が寄る。引き込みは、意志の手前ではたらく。能動でも受動でもなく、場に引き寄せられて整っていく。私たちの身体は、思考よりも先に、世界のリズムへ開かれている。
03身近な引き込み——メトロノーム・概日リズム・心拍
同じ台に並べた複数のメトロノームは、台を介して振動を伝え合い、数分で歩調を揃えます。物理の授業でおなじみのこの実験は、相互引き込みの最も手軽な実演です。
私たちの体内時計(概日リズム)は約24時間周期ですが、朝の光を浴びることで外界の昼夜へ毎日同調します。これは外部リズムによる引き込み(光同調)です。心拍と呼吸のあいだにも引き込みが見られ、生体は引き込みの網の目で出来ています。
04思想体系との接続
中動態——引き込まれる身体
引き込みは、能動でも受動でもない。「合わせる」のでも「合わせられる」のでもなく、場との関わりのなかで引き込まれる。宮崎要輔が身体について語る中動態は、まさにこの引き込みの態である。優れた選手は、意志で動くのでも反射で動かされるのでもなく、場のリズムに引き込まれて動く。
05よくある質問
引き込みとは何ですか?
リズムが外部や相互のリズムに引き寄せられて同調する現象です。メトロノームや概日リズムに見られます。
同期と引き込みはどう違いますか?
引き込みは同期へ至る過程(引き寄せ)を、同期は揃った結果の状態を指します。
ホイヘンスの発見とは何ですか?
1665年、同じ梁の二つの振り子時計が逆相で揃うのを観察し「奇妙な共感」と呼びました。最古の引き込み記録です。
概日リズムの光同調とは?
体内時計が朝の光に毎日同調し、約24時間周期を外界の昼夜に合わせる引き込みです。
07さらに広く、深く学ぶ
08主要参考文献
- Pikovsky, A., Rosenblum, M., Kurths, J. (2001) Synchronization: A Universal Concept in Nonlinear Sciences, Cambridge University Press.
- Bennett, M. et al. (2002) “Huygens’s clocks,” Proc. R. Soc. A.
監修・著:合同会社GETTAプランニング 宮崎要輔|一本歯下駄GETTAは合同会社GETTAプランニングが開発・製造・販売する登録商標製品です。