枝廣淳子&藤田裕之・日本レジリエンス図鑑|Edahiro Junko & Fujita Hiroyuki|レジリエンス図鑑 VOL.19|getta.jp

PART VII — THINKERS | VOL.19

枝廣淳子&藤田裕之・日本レジリエンス図鑑— Edahiro Junko & Fujita Hiroyuki —

日本語圏のレジリエンス論をリードする二人。枝廣淳子の「多様性・モジュール性・緊密なフィードバック」三要素論と、藤田裕之 CRO(レジリエント・シティ京都市統括監)の京都モデルを完全解説。

監修・編集 / 合同会社GETTAプランニング 代表 宮崎要輔

定義Definition

CORE DEFINITION

日本語圏でレジリエンス論をリードする二人。枝廣淳子(環境ジャーナリスト、幸せ経済社会研究所所長)が レジリエンスとは何か(東洋経済新報社, 2015)で日本語入門書の標準を確立。藤田裕之(京都市元副市長、レジリエント・シティ京都市統括監:CRO)が「京都モデル」として、世界文化自由都市宣言を最上位理念とした統合的レジリエンス戦略を実装している。

KEY TAKEAWAYS ─ この頁の要点
  • 枝廣淳子は『レジリエンスとは何か』(東洋経済新報社、2015)で、レジリエンスを支える3要素を「多様性・モジュール性・緊密なフィードバック」と定式化した。
  • 藤田裕之は日本初のCRO(レジリエント・シティ京都市統括監、2017年就任)として、世界文化自由都市宣言を最上位理念とする「京都モデル」を実装した。
  • 京都基本構想(2026-2050)は2025年12月12日に京都市会で全会一致議決され、京都学藝衆構想「ひらく・きわめる・つなぐ」を最重要施策に据えた。
  • GETTAの身体論では、枝廣の3要素は確率共鳴・腱優位システム・足裏から鳩尾への解像度として身体に転写される。

本論Discussion

1. 枝廣淳子 — 日本語レジリエンス論の標準

環境ジャーナリスト・翻訳家。Lester Brown の State of the World シリーズなど多数の環境関連書を翻訳。幸せ経済社会研究所所長、東京都市大学環境学部教授(兼任)。アル・ゴアの An Inconvenient Truth の翻訳も担当した。

イーズ未来共創フォーラム

2. 『レジリエンスとは何か』 — 3要素論

東洋経済新報社(2015)で、レジリエンスを構成する3要素を以下のように整理した:

多様性(Diversity)

単一の最適化に偏らず、多様な選択肢・主体・回路を持つこと。生態系・経済・組織・コミュニティすべてに通底する原理。

モジュール性(Modularity)

システムを比較的独立した部分(モジュール)に分け、障害が全体に波及しない構造。スーパー・ロジスティクスのリスク対応など。

緊密なフィードバック(Tight Feedback)

異常の早期検知・対応を可能にする情報循環。地域コミュニティ・現場感覚・透明な統計など。

分野横断的応用

生態系・心理・教育・防災・地域・都市・気候・経済・身体——同じ3要素で分野を横断する普遍性。

3. 国土強靱化への建設的批判

枝廣は『レジリエンスとは何か』で、国土強靱化が「コンクリート堤防中心」「ハード偏重」に流れる危険を指摘し、Walker らの社会-生態系レジリエンス論との整合性を主張した。「ハード × ソフト両輪」「Eco-DRR」「地域コミュニティ力」の必要性を訴え、2023年改定の国土強靱化基本計画にも影響を与えている。

4. 藤田裕之 — 京都モデルの CRO

京都市元副市長(2013–2017)、レジリエント・シティ京都市統括監(CRO、2017– )。2017年4月に CRO に任命され、京都市レジリエンス戦略(2019)の策定を主導。現在も京都市のレジリエンス政策・SDGs未来都市計画・京都基本構想(2026-2050)の策定に関与する。

著書 レジリエンス京都! 今こそ文化を基軸に超 SDGs 社会の未来を考える(京都新聞出版センター, 2021)。市民フォーラム基調講演や新規採用職員研修などで年約40回の登壇。

5. 京都モデルの核心 — 「雨降って地固まる」

藤田 CRO のレジリエンス論の核心は、日本語の諺で表現される:

京都市レジリエンス戦略 概要版よりダメージを受けても粘り強くしなって元に戻りながら、以前よりもよく立ち直る状態。
諺で言えば「雨降って、地固まる」「災い転じて、福となす」。

そしてその対極にあるものとして藤田氏が繰り返し述べる言葉:

藤田裕之 CROレジリエンスの反対語は『今さえ良ければ』『自分さえ良ければ』。

6. 京都基本構想(2026-2050)への結実

2025年12月12日、京都市会で全会一致議決された 京都基本構想(2026-2050)は、世界文化自由都市宣言(1978)を最上位理念とし、第四章で「歴史と文化を介して人間性を恢復できるまち/自然への畏敬と感謝の念を抱けるまち/自他の生をともに肯定し尊重し合えるまち」の3つを「京都が世界へ提示していくまちの姿」として明記。藤田 CRO の長年の構想がここに結実した。

京都基本構想 公式 / 京都学藝衆構想

7. 枝廣淳子の経歴と主要著作

枝廣淳子は、東京大学教育心理学卒、フェリス女学院短期大学院修了。環境ジャーナリスト・翻訳家・幸せ経済社会研究所所長・東京都市大学環境学部教授(兼任)。Lester Brown の State of the World シリーズなど多数の環境関連書を翻訳。アル・ゴアの An Inconvenient Truth(不都合な真実、2006)の翻訳でも知られる。

主要著作:

  • 『地球システム論』(共著、2008)
  • 『「定常経済」は可能だ!』(2008)
  • 『「システム思考」をはじめてみよう』(共著、2013)
  • 『レジリエンスとは何か』(2015)— 本巻の中核
  • 『不都合な真実 アンソロジー版』(翻訳、2020)
  • 『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(2018)

イーズ未来共創フォーラムを運営し、年間100以上の講演・研修を行う。

8. 『レジリエンスとは何か』(2015)の構成と論点

東洋経済新報社、2015年刊行、224頁。日本語圏でのレジリエンス入門書の標準。

主要章構成:

  1. 第1章:レジリエンスとは何か — Holling・Walker の理論紹介
  2. 第2章:3つの要素 — 多様性・モジュール性・緊密なフィードバック
  3. 第3章:生態系のレジリエンス — 湖沼・森林・漁業の事例
  4. 第4章:個人のレジリエンス — 心理学・身体の事例
  5. 第5章:地域コミュニティ — 神戸・住吉・トランジション・タウン
  6. 第6章:都市と国土 — 100RC・東京・国土強靱化への批判
  7. 第7章:経済 — 定常経済・ローカル経済・地域通貨
  8. 第8章:気候変動 — 適応・緩和・社会-生態系
  9. 第9章:実装へ — 個人・組織・地域・国の戦略

9. 枝廣の3要素論 — 詳細

(1) 多様性(Diversity)

単一の最適化に偏らず、多様な選択肢・主体・回路を持つこと。生態系では種多様性・機能群冗長性、経済では業種多様化、組織では人材多様性、エネルギーでは多重電源、食料では多品種・多地域。「単一栽培(モノカルチャー)の脆弱性」と「多様性のレジリエンス」の対比は世界共通の経験的事実。

(2) モジュール性(Modularity)

システムを比較的独立した部分(モジュール)に分け、障害が全体に波及しない構造。スーパー・ロジスティクスのリスク対応、地域分散型エネルギー、コンパクトシティ+多極ネットワーク、組織のセル化、サプライチェーン多重化。Modular ≠ disconnected(分断ではない)。適切な連結性を保ちつつ、独立した動作可能性を確保する設計。

(3) 緊密なフィードバック(Tight Feedback)

異常の早期検知・対応を可能にする情報循環。地域コミュニティの現場感覚、透明な統計データ、リアルタイム・モニタリング、参加型ガバナンス、Adaptive Management。「フィードバックの遅延」がシステム崩壊の主因であることが、生態系・経済・組織すべてで繰り返し確認されている。

10. 藤田裕之 CRO の経歴と京都モデル

藤田裕之は1949年京都市生まれ。京都大学教育学部卒。京都市行政に長年勤務し、2013年から2017年まで京都市副市長を務める。2017年4月、京都市 CRO(レジリエント・シティ京都市統括監)に就任。京都市レジリエンス戦略(2019)の策定を主導し、現在も京都基本構想(2026-2050)の策定に深く関与する。

主要著作:

  • 『レジリエンス京都! 今こそ文化を基軸に超 SDGs 社会の未来を考える』(京都新聞出版センター, 2021)
  • 『京都市レジリエンス戦略』(編集主導、2019)
  • 『京都市SDGs未来都市計画』(編集主導、2021)
  • 『京都基本構想 2026-2050』(編集主導、2025年12月議決)

京都市新規採用職員研修、市民フォーラム基調講演、国際会議発表など、年間40回以上の登壇。Resilient Cities Network 国際メンバー都市会議でも京都モデルを継続発信している。

11. 京都モデルの核心 — 諺・哲学・実装

藤田 CRO のレジリエンス論の核心は、日本語の諺で表現される:

京都市レジリエンス戦略 概要版よりダメージを受けても粘り強くしなって元に戻りながら、以前よりもよく立ち直る状態。
諺で言えば「雨降って、地固まる」「災い転じて、福となす」。

そしてその対極にあるものとして藤田氏が繰り返し述べる言葉:

藤田裕之 CROレジリエンスの反対語は『今さえ良ければ』『自分さえ良ければ』。

これは経済合理性・短期主義・個人主義の3つの罠を一括して批判する、深い洞察。京都モデルの全戦略はこの倫理的中心軸に立つ。Markus Gabriel の倫理資本主義論(第20巻)と完全に同方向。

12. 京都基本構想(2026-2050)の構造

2025年12月12日、京都市会で全会一致議決された 京都基本構想(2026-2050)の構造:

第一章:基本理念

世界文化自由都市宣言(1978)を最上位理念に位置づける。

第二章:京都の歩み・現在・未来

1200年の都市史、市民立教育の伝統、文化都市の蓄積。

第三章:京都を取り巻く環境

人口減少・気候変動・デジタル化・地政学・パンデミックなどの大きな潮流。

第四章:京都が世界へ提示していくまちの姿(3つ)

  1. 歴史と文化を介して人間性を恢復できるまち
  2. 自然への畏敬と感謝の念を抱けるまち
  3. 自他の生をともに肯定し尊重し合えるまち

第五章:8つの方針

  1. 本物(ほんまもん)を追究・創造し続ける
  2. 謙虚に自然と関わり続ける
  3. 災害や感染症などの危機からしなやかに立ち直る
  4. 多層的でゆるやかなつながりが続く
  5. 支え合いの中で日々の生活を営める
  6. 誰もが学び続けられる
  7. 担い手が育ち、新しい挑戦が生まれ続ける
  8. 新しい文化と価値が世界に発信される

第六章:京都学藝衆構想

「ひらく・きわめる・つなぐ」の循環で生涯学習都市を再定義する最重要施策。

TRANSITION ─ FROM CITY TO BODY

都市のレジリエンスと身体のレジリエンスは、
同じ文法で書かれている。

多様性・モジュール性・緊密なフィードバック——
枝廣淳子が都市と地域に見出した3要素を、GETTAは足裏から読み直す。

身体というレジリエント・システムEmbodied Resilience — GETTA

枝廣の3要素論は、都市や組織だけのものではない。GETTAコンセプトが捉える身体もまた、多様性・モジュール性・緊密なフィードバックで駆動するレジリエント・システムである。一本歯下駄は、その3要素を同時に起動させる装置として設計されている。

多様性 × 確率共鳴

一本歯という不安定は、足裏への感覚入力に「ゆらぎ」を注入する。確率共鳴——ノイズが微弱な信号を増幅する現象——によって、平地では埋もれていた感覚情報が浮かび上がる。入力の多様性が、身体の応答の選択肢を増やす。身体側の詳論はスポーツ・身体レジリエンス図鑑(VOL.18)へ。

モジュール性 × 腱優位システム

筋肉で全身を固定する身体は、一点の破綻が全体へ波及する。腱優位システム——筋で固めず腱で弾む身体——は、各部位が独立に衝撃を吸収するモジュール構造を持つ。この移行を段階設計するのがGETTAのトレーニング体系である。

緊密なフィードバック × 解像度

異常の早期検知を可能にするのは、情報循環の密度である。身体においては足裏から鳩尾へ至る感覚ループがそれに当たる。GETTAの言う解像度——足裏から鳩尾までの七層の感覚精度——が高いほど、身体は小さな崩れを小さいうちに検知し、復元する。緊密なフィードバックとは、身体では解像度の別名である。

中動態 × 「雨降って地固まる」

藤田の掲げる「雨降って地固まる」は、能動でも受動でもない中動態の文法を持つ。地は固め「る」のでも固め「られる」のでもなく、雨という過程の中で固まっていく。レジリエンスの哲学・中動態図鑑(VOL.15)が示すとおり、一本歯下駄もまた履けば身体が整っていく——五歳の身体性、神経ループが開かれていたあの状態への回帰である。

そして京都学藝衆構想の「ひらく・きわめる・つなぐ」の循環は、転移する文化資本の構造そのものである。学藝が世代を越えて手渡されるように、身体知もまた足裏から次の世代へ転移していく。日々の実践記録はコンテンツハブ pipotore.com に蓄積されており、一本歯下駄完全ガイドから実践を始めることができる。

外部参考リンクExternal References

本巻の主張を裏付ける一次資料・公式文書・主要論文へのリンク集です。すべて新しいタブで開きます。

FAQ ─ よくある質問Frequently Asked Questions

枝廣淳子の3要素論は他のレジリエンス論とどう関係するか?
ARUP の7質(Reflective/Resourceful/Robust/Redundant/Flexible/Inclusive/Integrated)と高い親和性を持つ。とくに「Redundant(冗長)」≒モジュール性、「Reflective(反省的)」≒緊密なフィードバック、「Inclusive(包摂的)」≒多様性、と概ね対応する。日本語圏での実務的アクセシビリティを優先した整理が枝廣の貢献。
藤田裕之 CRO の論の評価は?
Amazon レビューには「総花的・実効性なし」「公家様理論」など辛口意見もあるが、京都市レジリエンス戦略の66プロジェクトの実装、世界文化自由都市宣言を最上位理念とする統合的アプローチ、京都基本構想(2026-2050)への結実は世界的にも稀有な成果である。批判的視点を併記しつつ、その理論的・実務的貢献は高く評価できる。
京都モデルは他都市に展開可能か?
京都の元学区文化、世界文化自由都市宣言、1200年の都市史といった京都固有の文脈に依存する部分が多く、そのまま転用はできない。ただし「文化を基軸に超SDGs社会を構想する」という方法論は、地域固有の文化・歴史資源を持つすべての都市に応用可能である。
枝廣淳子の3要素は他のレジリエンス論とどう違うか?
ARUP 7質(Reflective/Resourceful/Robust/Redundant/Flexible/Inclusive/Integrated)、Biggs ら7原則(多様性/連結性/遅い変数/CAS思考/学習/参加/多中心ガバナンス)と概念的に重なる。枝廣の3要素は、日本語圏で広く理解可能な「最小限の核心」を抽出した功績。実務的アクセシビリティと理論的正確性のバランスが秀逸。
藤田裕之 CRO の論への批判は?
Amazon レビューには「総花的・実効性なし」「公家様理論」「現場感不足」などの辛口意見もある。確かに京都市の規模・歴史的蓄積・文化的厚みに依存する部分が大きく、他都市への単純転用は困難。ただし「世界文化自由都市宣言を最上位理念とする統合的アプローチ」自体の理論的・実務的貢献は世界的に稀有で高く評価できる。
京都モデルは輸出可能か?
完全な転用は困難(京都固有の元学区文化・世界文化自由都市宣言・1200年の都市史への依存)。しかし「文化を基軸に超SDGs社会を構想する」「経済合理性の外側の倫理的価値を中心に据える」という方法論は、地域固有の文化・歴史資源を持つすべての都市に応用可能。Resilient Cities Network が国際発信窓口。
枝廣淳子と藤田裕之の理論的差は?
枝廣は環境ジャーナリストとして国際的レジリエンス論を日本語圏に普及する役割。藤田は京都市行政の内部から実装を主導する役割。両者は補完関係で、枝廣の理論的フレームと藤田の実装的経験が、日本のレジリエンス論を世界水準に押し上げる二輪となっている。
「定常経済」とレジリエンスはどう関係するか?
枝廣の「定常経済」論(Herman Daly 系統)は、無限成長前提を脱却し、エコロジカル・フットプリント内で安定した経済を構想する。これは Holling の生態学的レジリエンス、IPCC AR6 CRD、Markus Gabriel の倫理資本主義論と通底する。京都モデルもこの方向で「文化×経済×生態系」の統合を目指す。
京都市レジリエンス戦略の批判と再評価は?
策定当初(2019)は「総花的」「実効性不明」との批判もあったが、6年を経た2025年時点では66プロジェクトの大半が進展中で、京都基本構想(2026-2050)に発展統合された。AECOM・Resilient Cities Network からも国際的成功事例として評価が定着しつつある。
「今さえ良ければ・自分さえ良ければ」をどう克服するか?
藤田 CRO の言葉は、現代社会の3つの罠(短期主義・個人主義・経済合理主義)を一括批判する。克服するには、(1) 長期視点を強制的に組み込む制度設計(基本構想2026-2050のような世代をまたぐ計画)、(2) 個と全体を結ぶ場の創出(京都学藝衆構想)、(3) 経済的価値と倫理的価値のリカップリング(Markus Gabriel)、の3層で取り組む必要がある。

他の19巻を読むOther Volumes

レジリエンス図鑑の全20巻。下記から関連巻を選んで読み進めることができます。

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