同じものたちが、二つに割れる
キメラ状態
同期と非同期の共存
まったく同じ性質の振動子を、対称に並べる。常識では、全員が揃うか、全員がばらけるかのどちらかのはず。ところが——一部が同期し、残りが同期しないまま共存する状態が現れる。蔵本由紀が見出した、同期科学の最前線「キメラ状態」へ。
01キメラ状態とは何か
キメラ状態(chimera state)
キメラ状態とは、まったく同一の結合振動子集団の中に、同期するグループと同期しないグループが共存する現象である。
通常、同一の振動子を対称に結合させると、全体が同期するか、全体が無秩序になるかのどちらかだと考えられていました。ところが2002年、蔵本由紀とBattogtokhは、ある条件下で同期する群と同期しない群が共存する奇妙な状態を数値的に発見しました。
のちにAbramsとStrogatzが、この一つの系に秩序と無秩序が同居する姿を、ギリシャ神話の合成獣になぞらえてキメラ状態(chimera state)と名づけました。発見は蔵本ら、命名はAbrams・Strogatz——本ページはこの固有名を正確に記します。
キメラ状態は当初は理論上の存在でしたが、その後さまざまな実験系で実現が確認されました。同一のはずの要素が自発的に二つの役割に分かれる——自己組織化の、最も逆説的で美しい姿の一つです。
02同じ群れが、同期と非同期に割れる
下図は、同一の振動子集団が、同期するクラスターと同期しないクラスターに自発的に分かれる様子を模式化したものです。どちらが同期するかは、あらかじめ決まっていません。
要素はすべて同じ。結合も対称。それでも一方は揃い、他方はばらける——常識を裏切る自己組織化。
ORDER AND CHAOS TOGETHER
秩序か、無秩序か——
ではなく、その両方が同時に。
私たちは、揃うか乱れるかの二択で物事を考えがちだ。だがキメラ状態は、同じ場に秩序と無秩序が共存しうることを示す。全きでも、無でもない。その境界に、最も豊かな振る舞いが宿る。日本の科学者・蔵本由紀が見出したこの状態は、複雑系の核心へと続いている。
03カオスの縁へ——複雑系の最前線
キメラ状態は、秩序と無秩序のあいだ、いわゆる「カオスの縁」に位置する現象として、複雑系科学の最前線で研究されています。脳の部分的な同期(半球睡眠など)との関連も議論されています。
より広い複雑系・カオスの縁の世界は、上位の自己組織化図鑑で扱っています。キメラ状態は、本図鑑の同期論から、その広大な世界への扉を開きます。
04思想体系との接続
全きでも無でもなく——境界に宿る豊かさ
完全な秩序でも完全な無秩序でもなく、その境界にこそ生きた振る舞いが宿る——これは宮崎要輔の身体観とも響き合う。固めすぎず、崩れすぎず、適度な不安定性のなかで身体は最も豊かに動く。キメラ状態は、その原理を結合振動子の数理として示す、日本発の最前線である。
05よくある質問
キメラ状態とは何ですか?
まったく同一の結合振動子集団の中で、同期するグループと同期しないグループが共存する現象です。
誰が発見したのですか?
2002年に蔵本由紀とBattogtokhが数値的に発見し、2004年にAbramsとStrogatzが「キメラ」と命名しました。
なぜ不思議なのですか?
要素も結合も対称なのに、一方が揃い他方がばらけるという、対称性が自発的に破れる逆説的な状態だからです。
実在しますか?
当初は理論上の存在でしたが、その後さまざまな実験系で実現が確認されています。
07さらに広く、深く学ぶ
08主要参考文献
- Kuramoto, Y., Battogtokh, D. (2002) “Coexistence of Coherence and Incoherence in Nonlocally Coupled Phase Oscillators,” Nonlinear Phenom. Complex Syst.
- Abrams, D. M., Strogatz, S. H. (2004) “Chimera States for Coupled Oscillators,” Phys. Rev. Lett.
監修・著:合同会社GETTAプランニング 宮崎要輔|一本歯下駄GETTAは合同会社GETTAプランニングが開発・製造・販売する登録商標製品です。